風雲児の
おさかな
 魚は食べてみないとわからない!!好奇心旺盛なその性格のために
「えっ?こんなの食べるん??」というような魚でもとりあえず
食べてしまう私。
 そのチヌ並みの悪食生活でこれまで出会った旨いもの、不味いものを
少しだけ紹介します。

・グレの隠し味(グレの干物)  ・一発屋??コガネスズメダイ(コガネスズメダイ)  ・最悪の鍋(磯魚のキムチ鍋)  ・仕事が楽しくなる季節(サツキマス)  ・熱帯魚の味(コバルトスズメ、クマノミetc) ・赤は絶品、青は不評。黄色は??(ヘラヤガラ)  ・川の嫌われ者を食す(コウライニゴイ)  ・なぜか地域限定の夏の味(キュウセン)  ・意外と旨いうるさい外道〜渓流編〜(アブラハヤ・タカハヤ)   ・これはもう、謎の生物・・・(ムラサキダコ)  ・化けの皮、剥がすべからず(イラ)  ・姿も味も異色のカワハギ(モンガラカワハギ)  ・グロテスクだが、やはり小判だ(コバンザメ) ・度肝を抜いた肝の味(ヨコスジイシモチ)

・グレの隠し味

 一般的にはかなりマイナーだが、釣り人にとってはこれ以上ない好敵手、メジナ(グレ)。釣り人はその食味のよさも当然ながら知っています。
 刺身、塩焼き、煮付けはもちろん蒸し物、しゃぶしゃぶ、グレ鍋など様々な料理を楽しむことができますが、中でも白眉は干物でしょう!さっと炙って口に運ぶと夜風の力を借りてギュッと濃縮された旨みが堪能できます。
 でも、少し大きいサイズを干物にするとき頭や中骨などを捨ててしまっていませんか?
 私が思うに、これが一番旨いのです!骨にこびりついた身、頬回りの肉、目玉のゼラチン、そして脳。これらをこそげ落し、しゃぶりついてください。
 寒い時期は刺身で残ったアラは片っ端から干し網に放り込むのが一番。中型グレは頭をつけたままの二枚おろし(身をおろした後、頭を割る)にして干すのがいいですね。

・一発屋??コガネスズメダイ

 宇和海などで温かい時期に釣りをしていて鮮やかな黄色いスズメダイに囲まれて苦労したことはありませんか?
 居るとなると大量にいる困った餌取り、それがコガネスズメダイです。

 あまりに鮮やかなのでクーラーに放り込む人などそう居るものではないでしょうが、4月の沖の島で初めて釣った私は迷わず持って帰りました。
 スズメダイ(オセン)が旨いのは結構知られてますし、以前沖縄にタナゴ針を持ち込んで釣り上げたルリスズメ(コバルトスズメ)の背越しもいい味だったので、期待いっぱいで煮付けにしましたが、口に入れて「むむっ!」と唸ってしまいました。脂をみなぎらせた癖のない白身が舌の上でたちまち蕩けていくのです。

 それ以来この魚が釣れるたび小躍りしてクーラーに入れていましたが、あんまり旨くないのです。
淡白な白身は健在なのですが、あの脂が全然ありません。
 時期があるのか産地の違いがあるのか分かりませんが最初の1尾が偶然のホームランだったのでしょうか?

 あれからミツボシクロスズメ、アマミスズメなど様々なスズメダイを食べているのですが、いまだにホームランは出ていません。

・最悪の鍋

 初めて自分達の運転で瀬戸大橋を越えて出かけたのは高知県池の浦という渡船区でした。
 本格的に磯釣りを始めたばかりの私にとって、外海で釣れる魚全てが珍しく、釣れる魚全てをクーラーに入れるようにと同行した従弟にも命じて釣りつづけました。
 結果はグレなど全く釣れず、クーラーの中身はニザダイ(サンノジ)、タカノハダイイスズミニセカンランハギなど、図鑑には「磯臭い」と紹介されている魚ばかり。
 さすがに車にクーラーを積み込むときに一瞬迷いましたが、私たちには「磯臭い」というのがどんなものかまだわからなかったし、興味もあったので、ろくに血抜きもしていないその魚たちを海を越えて持って帰りました。

 その夜だったか次の夜だったか、「高知産磯魚のキムチ鍋」が我が家の食卓に並びました。
 少々臭くてもキムチで臭いを消してしまえば大丈夫だろうという考えは甘すぎたようです。やつらの臭いの前にはキムチなど敵じゃなかった・・・

・仕事が楽しくなる季節

 私は昔、某・ローカル食品スーパーに勤めていました。朝は4時過ぎに起き、5時には車に乗って地方市場に行って、競りで落とした魚を店舗に運び、それから夜の7時までその魚たちを捌いたり売ったりしていたのですが、さすがに朝は辛かったです。それでも岸壁に横付けされた漁師の船から、家島や周辺の海から獲られてきたばかりの魚介類が競り台に次々上り、それを一瞬にして競り落としていくのはいつでもたまらないものです。
 特にワクワクするのは4〜6月頃。惚れ惚れするような家島の天然鯛に混じって、あの魚が競り台の上を跳ね回る季節だから。

 その魚の名はサツキマス。渓流の女王アマゴが海に降り、大きく成長してこの時期川に再び帰っくるのです。
 競り落とされたサツキマスは店舗に着いてもめったに売り場に並ぶことなくその大半は風雲児宅へ。職権濫用です。はい。
 もともと絶品で知られる渓流魚アマゴに豊かな瀬戸内海で蓄えた脂が加わったこの魚の味たるや、まさに卒倒するほど!シンプルな塩焼きももちろん絶品ですが、お勧めは何といってもルイベです。

 皮をひいて短冊にしたものを一旦凍らせ、自然解凍で包丁が入るようになったら切って並べていきます。遡上前の海水域の魚なら刺身でもいいのですが、川に入ったものだったら寄生虫の心配が出てくるのでこの食べ方が安心です。アイヌの方々の知恵には感謝!
 醤油を少しつけて口に入れるとそれはまさにトロ。極上の脂が蕩け、噛めば旨みが染み出してきますよ。

 本当は市場で買ったりしないで自分で釣ったのを食べたいんですけどね・・・。と思いながら遡上の時期はひたすら川に通ったのですが、ようやく手にしたときには6年が過ぎていました。

・熱帯魚の味

 青い空、澄み切った水。南国のサンゴの海は色とりどりの熱帯魚達で彩られています。
 普通の人ならその熱帯魚を見て、「綺麗だな」とか「家の水槽で飼ってみたいな」と思うのでしょうが、そこは悪食家のこと、「食べたらどんな味がするのだろうか」となぜか考えてしまいます。
 実際いろんなのを食べてきましたよ。さすがの沖縄の市場にも並んでないような魚たちを(笑)

 まずはルリスズメ。これはアクアリストの間では、淡水のネオンテトラと並ぶ飼育の入門魚「コバルトスズメ」として愛されている魚で、その名の通り鮮やかなコバルトブルーの数センチの小魚です。
 沖縄、宜野湾の港で釣り上げたこの魚、骨をつけたままの薄切り、いわゆる背越しにしてみたところ、癖のない白身から噛むほどに澄み切った旨みが湧き上がってきて、美味でした。



クマノミ
チョウチョウウオ
オニハタタテダイ
シテンヤッコ

 同じスズメダイの仲間ですが、イソギンチャクとの共生でよく知られるクマノミ。(共生ではなくクマノミがイソギンチャクを一方的に利用しているとも言われますが・・・)この魚を釣ったときはワクワクしましたよ。
 でも、癖はないものの記憶に残るほどの味ではありませんでした。

 次にチョウチョウウオの仲間。この仲間は実に脂が乗ってます。
 シラコダイ・チョウチョウウオ。それにキンチャクダイも煮付けや塩焼きにして食べてみましたが、かなりいけますよ。縁側はとくにお勧めです。煮付けにしたときにはヒレの先側をくわえて、ぜひとも縁側にしゃぶりついてみてくださいね!
 塩焼きの場合の難点は焼いたときに出る妙な臭い。実際食べてみるとほとんど気にならないのですがあれはいったい何なんでしょうね?

 この系統で一番感激したのがオニハタタテダイ。エンゼルフィッシュのような体型と黄・白・黒三色の鮮やかなストライプで観賞魚として人気のあるハタタテダイの中でも一番大きくなる種で、鵜来島で釣ったこれは30cm近くありました。
 持ち帰り包丁を入れていくと脂の乗りが良くわかります。とりあえず片身を刺身にしましたが旨い!心配した癖も磯臭さもなく、上質の旨さがあります。
 さらに感動したのが煮付け。身に蓄えた脂とゼラチン質が絶妙のバランスで絡み合って、いままで食べた煮つけでも間違いなく5本の指、いや、3本の指に入るでしょう。
 翌日、熱帯魚店までハタタテダイを買いに行こうかと本気で考えましたよ。食べるために。
 ただ、コガネスズメの例でもあるようにもしかしたら当たり外れがあるかもしれませんね。なにしろまだ1尾しか食べてないので・・・。

 オニハタタテダイを釣り上げた直後に、シテンヤッコもヒットしました。
 目の覚めるようなレモンイエローに尻ビレ後縁のワンポイントが印象的なヤッコダイですが、細かな硬い鱗がびっしりついています。鱗引きをかけるとまるで霰のように黄色い鱗があたりに舞い落ちます。
 なんとか刺身にしてとりあえず口に運んでみましたが、こちらは磯臭く、とても食べられたものではありませんでした。

・赤は絶品、青は不評。黄色は??

 黒潮洗う海域を本拠とするグレ釣り師たちを悩ませる「信号機軍団」ブダイの仲間の話ではありません。
 ただでさえ細長い体に不恰好なほどに長いスポイトのような口が付き、おまけに尾びれの先までが長く長く糸を引いているケッタイなやつら、ヤガラの話です。

 この仲間のうちでアカヤガラは刺身に良し、吸い物に良しの高級食材として懐石料理に用いられ、またアオヤガラはアカヤガラに比べて大きく味は劣ると概ね不評ではありますが、好んで食べられている方もおられるようです。
 あと一つ、黄色いヤガラこと、ヘラヤガラは前記2種とは科レベルで異なる魚ではありますが、磯や波止で釣られている方にとってはこちらのほうがはるかに身近な魚ではないでしょうか。

 撒き餌につられた小魚を狙いに磯際にまでやってきたり、イカ釣りの餌木を猛追してくる姿がよく見られるこの魚ですが、不思議なほど味の評価が聞かれません。料理の本や釣りの本にも何も書かれていませんし、釣ったやつを持って帰って食べたという話も全くといっていいほど聞きません。
 これは自分の舌で確かめるしかない!で、室戸岬漁港でカマスの仕掛けに飛びついたのを貰ってきました。

 料理方法は吸い物。鱗をとり、頭(ヤガラの頭を干し、煎じて飲むと腎臓に効くとか効かないとか・・・)を落として何も考えずに適当にぶつ切りにし、鍋の中に放り込みました。
 待つこと暫し、お椀にうつして口をつけると、これが結構旨いんです。実にいいダシが出ているんです。
 そして白く輝く身をつまみ上げてパクリ。〇★◇×■!!なんじゃこの骨!?
 縦(頭から尻尾)方向に小骨がびっしり走っていて食べられるところが全然ありません。これじゃ誰も食べないのも当たり前の話ですがな。
 ただ癖もなくいいダシが楽しめるので、ハモなんかのように骨切りの手間をかけたならあるいは・・・

・川の嫌われ者を食す。

 夏の風物詩といえば川に身を浸しての鮎の友釣り。魚の習性を熟知した日本人にしか生み出せなかったこの釣りは、世界に誇るべき文化の一つだと断言できます。
 オトリの鮎に掛け針と期待を背負わせて、ここぞと思うポイントへ!待つほどもなくガツーン!!
 これが野鮎なら会心の笑みを浮かべるところでしょうが、さにあらず。招かれざる客たちがオトリを頂こうと大きな口を開けて襲い掛かってくることも多いものです。

 我が家の隣町を流れる揖保川は巨鮎で有名ですが、ニゴイやウグイなど外道も多いところだとも言われているようです。
 2005年のシーズンは特に山崎付近で大きなニゴイの襲撃が激しく、鮎師は仕掛けを切られたり、せっかくのオトリを失ったり、とにかく泣かされてばかりということでした。
 そこで、鮎は全くやらないのですが、サツキマス狙いなどでルアーはよく投げている私に鮎師からこのニゴイをどうにかしてくれとの依頼が入りました。
 私も暇だったので喜んで行ってみたのですが、激流の中から50〜70cmのニゴイがガンガン当たり、ヒットと同時に一気に流れを激走する様子に熱くなってしまいました。ちなみにニゴイは2種類に別れ、この地域に生息するのは
コウライニゴイということになっているようです。

 さて、釣ったものをどうするか・・・。多分これは食べられないだろうと思っていたら、それが意外と食べられているようで、さまざまな人から料理法を教えていただくことができました。

 これは試してみるしかありません。初回は試食する前にカラスに食われてしまうというアクシデントがありましたが、二度目の釣行の際に60cmクラスを持ち帰ってきました。
大きなウロコを取り、苦玉を潰さないように気をつけて水洗いし、三枚におろすと薄桃色の綺麗な身です。
 話の通り小骨が多いのでシャリシャリと骨切りをして塩コショウをし、小麦粉をふってフライパンへ。そう、まずはムニエルで試してみます。
 釣ったものをすぐに調理したにもかかわらず意外にも泥臭さが感じられず他の臭みも気になりません。身自体は柔らかめなのですが、調理法が合っているのかちょうどいい感じです。
 しかし・・・、主張してくる味が全然ありません。なのでとにかく物足りないですね。やはり中華風のから揚げとか、鯉こく風とか、濃い味の煮つけだとか、しっかりと味をつける料理がベストだと思います。

 そうそう、ボラのへそ、ヒラメの縁側のようにこの魚には隠された珍味があるんです。それは特に印象的なあの唇。スッパリ切り落として一緒にムニエルにしましたが、ゼラチンたっぶりプルプルの食感。これは結構、癖になりそうです。

・なぜか地域限定夏の味

 メスからオスへと性転換したり、夜が来ると規則正しく砂に潜って眠ったりといったユニークな習性と、熱帯魚のようなド派手な色彩を持つ代表的なベラ、キュウセン。ベロコ、ギゾ、ギザミ等々様々な地方名を持ち、夏目漱石の「坊ちゃん」にゴルキとして登場するのもこの魚だそうです。播州ではオスを「青ベラ」、メスを「赤ベラ」。見たままです。はい。

キュウセンのメス(赤ベラ)

 「こんな毒々しく不味そうな魚、誰が食べるんだ?」と首を傾げる方も多いことでしょう。しかし我々、瀬戸内周辺の人間に言わせると「あんな旨い魚、何で食べんのや?」となります。
 こちらでは夏が来ると釣具屋にはベラの専用仕掛けが並べられ、明石などの船釣りではこの魚を本命とした乗合船も出漁します。またスーパーや魚屋でも堂々と店頭に並び、シロギスなどよりも高値で売られています。

 あの派手な皮の下には純白の身が隠されています。味は実に上品。骨が硬いものの身離れもよく食べやすいのも嬉しいところ。
 刺身や煮付けもいいのですが、身に水気が多いので昆布締めにしたり、焼いたり油で炒った物を煮付けると身も引き締まり、身が持つ旨みがはっきりと感じられるようになって一石二鳥です。
 また天ぷらの種としても抜群ですし、一旦揚げたものを三杯酢に漬け込む南蛮漬けなど、これを食べないと夏が来たような気がしないほど。
 ただ、どれもこれも結構手間のかかる料理ばかりですよね。この魚、実に鱗が取りにくい魚なので厄介だし・・・。そう思われるなら、白焼きにしてみましょう。調理法は単純明快!鱗も取らず塩も振らず、はらわたと鰓だけ取って焼くだけ!そして焼き立て熱々の身を山葵醤油につけながら食べてみてください。この文章が納得できるはずです。ああ、鱗も食べられますよ。

 瀬戸内産のものには及ばないかも知れませんが、キュウセンを、特に旬の夏のものを捨ててしまうのは惜しいですよ。また磯ベラと呼ばれるササノハベラ類もまた旨いです。特に対馬などでは非常に珍重されるとか。
 私も磯釣り師。飲み込まれた針がどうやっても取れず、ついつい磯に叩きつけたくなる気持ちは分かりますけどね(笑)

・意外と旨いうるさい外道〜渓流編〜

 渓流釣りにも外道は付き物です。本流・里川なんかで釣っているとカワムツウグイといったコイ科の魚が針に掛かります。が、本命のアマゴやヤマメがほとんど釣れなかったからといって持って帰って食べてみてもやはりイメージどおり。
 カワムツは江戸時代の書物にも「味は下の下なり」と書かれる通りどうしても泥臭さが鼻につきますし、臭いの少ない解禁初期のウグイにしても小骨の多さを考えずに身だけを味わっても食べられないことはないけど「旨いなあ〜」とはちょっと言い難く思えます。私にとっては。信州などでは珍重されているのですが・・・

 さらに上流に行くとアブラハヤタカハヤというコイ科では最も上流に住む魚が、流れの弱い場所に仕掛けが入った時に煩いくらい掛かってきます。

タカハヤ

 アブラハヤは福井・岡山以北、タカハヤは福井・静岡以西に生息しますが、混生する地域ではタカハヤのほうがより上流に棲みます。しかし一般にはあまり区別せず共にクソバエ等と呼ばれて侮蔑されています。普通7〜8cm、特大でも15cmの魚ですし、ヌメリが強くずんぐりして見栄えもよくないのでそれもまあ納得ですね。
 ところがこの魚、意外にもかなり味がよく、それに関してはカワムツなどと同類として扱ってはいけません。塩で滑りを取って、はらわただけ出して天ぷらにするとこれがいくらでも食べられてしまいます。(一口で終わってしまうがな!なんて突っ込みは無しよ^^)年間を通して川魚、特にコイ科の臭みとは無縁!試しにホイル焼きにすると小さくても身に味があるのがはっきりしますよ。

 とにかく貪欲な魚ですし、ドヨンとした淀みや淵を狙えば誰でもいくらでも釣ることができるのですが、この魚だけを狙って渓流に行こうという気にはさすがに・・・。知る人ぞ知る意外と旨いうるさい外道。そんな評価から脱却する日は永遠に来ることはないでしょう。きっと。

・これはもう、謎の生物・・・

 タコというと誰もが岩礁に吸盤で張り付いて、息を潜めている姿を想像します。しかしタコが居るのは海底ばかりではないのです。
 日本海に住むムラサキダコは海面近くを一生漂流しながら過ごす変わり種。その姿かたちも奇妙の一言に尽きます。
 背側は濃い赤紫。腹側は銀白色。胴の形も独特。しかし何よりも目を引くのはその足に張り巡らされたとてつもなく大きな外套幕です。広げると1mを越えるというその幕は敵に襲われたときに広げて敵の目を眩ましたり、さらに危機が迫ったときには切り離して自分のダミーとし、その隙に逃れるんだとか・・・。
 ちなみに60cmとか90cmになるというのは雌だけの話で、雄は3cmまでにしか成長しないんだそうな。色々と謎の多い奇妙なタコです。

 このタコを真夏の鳥取砂丘の波打ち際で見かけたときにはさすがに触るのを躊躇いましたよ。それほどの奇妙な姿。
 逃げる様子もないので海に入って捕まえてみると、大量の墨と切り離されて海藻のようになった大量の外套膜で海の中はえらいことになってしまいました。改めて躊躇したけど、好奇心には勝てずクーラーへ・・・。

 さて、家へ持って帰ってもやはり見れば見るほど不気味。とりあえず内臓を切り取るのですが、マダコとは比べ物にならないほどの墨・墨・墨!これはタコを通り越してコウイカと同じようなレベルです。目玉も小さく見えていても取り出してみれば実にデカイ!タコと言うよりアオリイカのような目玉でした。
 これを塩もみして、沸騰した鍋に足からゆっくり入れていきます。お湯は一瞬にして真っ黒。タコの体もくるくると丸まってまさに謎の生物としか言えないようになってしまいました。

 とりあえず足を一本切ってそのまま口に運んでみました。ヒヤヒヤ物でしたが、幕も足もアンモニア臭とか変な風味はなくてちゃんとタコの味がしました。ただ、足の弾力は弱くて物足りない感じ。それよりも「塩辛っ!!」
 見ると足が中空になっています。その中に海水を蓄えていたのか物凄く塩辛いのです。心筋症で塩分制限がかかっている私には毒ですね。
 味自体は酷いことはないのですが、旨い!とはとても言えないし、私がこれから日本海で見かけたとしてもきっとノータッチで釣りを続けるのではないでしょうかねえ。

・化けの皮、剥がすべからず

 四国や九州の磯では上物でも底物でもおなじみのド派手なやつと言えばブダイや大型のベラの一族をおいて他には無いでしょう。赤(ブダイ)・青(アオブダイ)・黄色(ヒブダイ♀)・緑(ヒブダイ♂他)、そしてピンク。今回はピンクこと、ベラ科の魚、イラのお話です。

 パステルピンクの体とパステルイエローのヒレに輝くライトブルーを散りばめ、何と言っても体を斜めに横切る黒いバンドがトレードマーク。
よくよく見ると実に綺麗なのですが、それをはるかに超えて不気味なこの魚は、「ハトポッポ」と呼ばれたり、同じ系統のテンスという魚とひっくるめられてに「テス」と呼ばれたりしますが、本などにはテンスは旨いがイラは磯臭くて不味いと書かれてあったり、不味くて鍋が腐るという意味の地方名がある地域もあるそうです。

 そんな予備知識が無くても、あまりの派手さゆえに捨てられることの多いこの魚を私が初めて食べたのは高知の久通で行われたネット仲間との宴会の席でした。メンバーの一人が面白がってキープしたものの皆に敬遠され流しに横たわったままだったのを捌き、皮をひいて刺身にし、また、それをシャブシャブにして試食してました。
 「不味くはない。けど、特に美味しいというほどの物でもない。」これがその場に居た勇気ある数人の試食人の一致した感想でした。柔らかくて水気の多い典型的なベラの身で、心配した磯臭さは無いもののあまり旨味は感じられません。
 しかし、私はこの魚にとある予感を感じていたのです。

 その次の四国遠征、今度は私に釣れました。(実はこの時初めて釣ったんです)
 しっかりと血抜きして持ち帰り、翌日に片身をおろして皮の上から熱湯を注いで薄く切った「湯引き」に。
 予感的中!まさかここまで化けるとは!これがあの物足りない刺身と同じ魚だとは俄かには信じられないほどに口の中に旨味が広がります。
 一日半寝かせたことで旨味が熟成されたのもあるでしょうが、やはりこの系統の魚は皮と身の間に特に旨味が集中しているようです。ブダイ類をイラブチャーとして殊の外珍重する沖縄の方々の言葉を借りるまでもなく「この魚も皮を取れば価値が無い」と言い切れます。

 残りの片身の煮付けもかなり旨かったですが湯引きには少し敵わず。煮付けるなら頭ですね。分厚い皮は一面コラーゲン。脂と相まってプルプルトロトロという食感。魚を食べている感じがしませんけどね。

 頭は普通の魚のように割るのは非常に難しいので、エラも取らずに丸ごと甘辛く濃い目に煮付けてどうぞ。ただこのアラ炊きは好き嫌いがかなり分かれるでしょうけど。

 季節があるのかもしれませんが、とりあえず冬場は捨てるにはちょっと惜しい魚だと思います。確かに食欲をそそるような顔付きと色では無いですし、下ごしらえも面倒ですけど、ぜひ一度、湯引きをお試しあれ。

・姿も味も異色のカワハギ

 このモンガラカワハギという魚は、よく図案化されていたりするため、かなりポピュラーな部類に入るのではないでしょうか。

 しかし、いくらよく知っているはずの色と模様であっても、これを実際に釣り上げて手に取れば、派手さ奇抜さに度肝を抜かれること間違いなしでしょう。
 トレードマークの水玉模様はもちろん、鋭い歯とオレンジ色の口吻、背中の派手な網目模様、尾柄部に並んだ突起群、眼の下と尾鰭に施されたパステルピンクからパールホワイトを経て青緑色に至るグラデーションというカラーリングには私も驚愕せずにはいられませんでした。

 普通は「飼おう」とは思っても「食べよう」とは思えないこの魚(31cm)を、鹿児島県三島村の硫黄島から持って帰ってきました。

 ただ、web魚図鑑には「日本では食用としていない。シガテラ毒をもつともいわれている。」との記述がありますし、この仲間のクロモンガラはパリトキシンの報告例があるのだとも。
その一方で、硫黄島の隣の屋久島では、「この魚を食べる習慣がある」という記述を見つけることができましたし、実際に食べている記事も見られましたので、とりあえず内臓には手を出さず、身のいいところだけを試食してみることにしました。

 モンガラカワハギ類は鎧のような分厚い皮に包まれており、一般的なカワハギのように簡単に剥いでしまうわけにはいきません。
 こんな時こそ頼りになるのが調理バサミ。
 その刃先を第一背ビレ(角)の収納スペース等に突っ込んで切れ目を作り、指先でそれを広げていくようにして皮を剥げばOKです。
 姿を現した身はとてもカワハギとは思えないほどの分厚さ。薄造りにしてみると、真っ赤な血合いが鮮やかな、ピンクがかった身で、まるでコイの刺身のような色合いです。

 恐る恐る口に運んでみました。
 この魚の引きの強さと、以前に食べたことのあるムラサメモンガラやツマジロモンガラといった魚の記憶から、相当筋肉質な食感を想像していたのですが、釣ってから3日経っているせいか「モッチリとした白身魚」といった感触が伝わってきました。(釣りたての食感は全く別物なのではないでしょうか)
 味のほうはほんのりした甘みと、少しの癖が感じられましたが、癖といっても嫌な感じの物ではなく、立派な風味として成り立つ性質のもの。
 脂肪分が目立たない所を除くとあまり「カワハギ」という感じのしない刺身ですが、これはこれで、なかなかのものではありませんか!

※今回は何も起こりませんでしたが、この手の魚には多くの危険が潜む可能性があります。
私はこの魚をより深く知るため試食してみましたが、読者の方にそれを推奨しようとするものではありません。
食用の際はくれぐれも自己責任でお願いします。当記事を元にして発生した事故、損害については当方は一切責任を負いません。

シガテラ毒 藻類の一種が持つ毒素が濃縮されたもので、症状は消化器症状の他、温度感覚の異常(ドライアイスセンセーション)や、循環器障害等が場合によっては半年から数年続くという。
パリトキシン 屈指の強さを持つ生物毒で、症状は筋肉の溶解など。アオブダイやハコフグ類等に起因する中毒で多数の死亡者が出ている。

・グロテスクだが、やはり小判だ

 大型のサメやエイ、ウミガメなどに頭の吸盤で張り付きエサのおこぼれを頂戴するコバンザメの姿をテレビでも水族館でも見たことがないという人は少ないかと思いますし、「コバンザメ商法」「コバンザメ走法」といった言葉も耳にすることでしょう。ただし、この魚は大型魚に吸着しているばかりではなく単独遊泳することも多いそうで、磯のフカセ釣りの仕掛けに掛ってくるということも時折起こります。

 鹿児島県の硫黄島で35cmほどのものが釣れたので、同行の「かまちゃん」が釣っていた50cmオーバーのものと合わせてクーラーに収め、兵庫県まで持ち帰りました。
 かまちゃんを初め、多くの釣り師が奇異な顔で見つめていましたが、ネット上には旨いという記事がありますし(味がないという記述も多いけど)、何より硫黄島へ渡す「黒潮丸」の船長も旨い!と言っています。これは期待大です。

 さて、調理開始です。まずは、頭の吸盤をシンクやまな板に吸い付かせて、強力な吸着力を楽しみます(笑)(ちなみにこの吸盤は漢方薬の原料として高値で取引されているんだとか。)
 その後、金ダワシを使って強烈なぬめりをしっかりと落としてから三枚におろし、刺身(糸造り)と、アラの塩焼きにしてみました。なお、皮が分厚いので、おろす際には手を切らぬよう要注意です。その反面皮を引くのは非常に楽ですが。

 よく間違われますが、コバンザメはサメの仲間ではありません。硬骨魚綱スズキ目コバンザメ科の魚であり、軟骨魚綱のサメ類とは大違いなのです。従って、多くの人が思い浮かべがちなアンモニア臭などありません。それどころか臭みなどない、いい身が味わえます。

 刺身は、青物の刺身を思わせるようなトロリとした滑らかな舌触り。適度な歯ごたえ。前述のように臭みは無く、口に広がる旨みは普通の魚の刺身の味とはかなり違った感じ。でも、どこかで味わったことのあるこの旨さ・・・なんだったっけ、これは・・・。
 私がしばらく考えてから思い浮かべた味は、やはり刺身そのものではなく、魚の生肝の味でした。それも飛び切り上質な魚の肝の味。と言っても、カワハギの肝のようにこってりしたものではなく、キリリと引き締まった端麗な肝・・・。そうだ、これはメバルの生肝の味のようだ!と、私は気付いたのでした。(ちなみに、コバンザメ自体の生肝は癖が強く、旨いとはとても言い難いものでした)
 そして、この刺身は醤油(我が家では龍野のカネヰ醤油の「うまみ」を使用)との相性が最高で、お互いを見事に引き立てています。
 親は、醤油と合わさった味を「スルメを噛んで噛んで、最後に口の中に広がっているあの味のようだ」と評していました。

 では、アラの塩焼きの方も。
 「火を通すとこんなに甘みが強調されるのか・・・。」感想はこの一言に尽きますね。
 他の魚では味わったことの無いような、強くも優しい甘み。例えるならばカニとかエビと言ったようなあんな感じ。ですが肉質はしっかりと「魚」でパサつくこともありません。吸盤の下には割としっかり身が付いており、これは特に美味かった。

 このようにコバンザメの味は他の魚とはかなり違った感じがしましたが、小判のようにキラリと輝く、かなり旨い魚であることが分かりました。
 もちろん個体差もあるでしょうが、結論としては、見た目のグロテスクさにひるんで折角釣れたものを捨ててしまうにはあまりにも惜しい魚だということが言えると思います。

・度肝を抜いた肝の味

 身もいいけど、やはり肝の旨さに止めを刺すという魚は色々あります。
 カワハギやアンコウの肝の味と評価は言わずもがなだし、マトウダイの肝も素晴らしい。意外なところではアイゴの新鮮な生肝はそのイメージとは違って臭いもなくて美味しいし、メバル、カサゴ、マゴチなんてのは小さいけど後口がたまりません。
 一方、グレなどのように身は旨くても肝は不味いという魚も多いですし、イシナギのように肝を食べればビタミンA過剰摂取で病院送り確定というような非常に危険なものもあるので注意が必要です。

 さて、今回の食材は愛媛県御荘湾のイカダで釣れた12cmのヨコスジイシモチ。アカジャコとか金魚などと呼ばれて嫌われるネンブツダイや、播磨灘でネブトやイシモチと呼ばれて食材として珍重されるテンジクダイなどが属する同じテンジクダイ科の魚です。

 テンジクダイ科の魚は頭部に大きな耳石を持っているのでまず頭を取り除きました。それから内臓を除去していると体の割には立派な肝臓が出てきました。これはちょっと捨ててしまうのはもったいないかも・・・。
 そう思った私はその肝をサッと洗って口の中に入れ、不味かったらすぐに吐き出すつもりで噛んでみました。
 すると、口の中に一瞬驚くほど鮮烈な旨みが広がり、それがスッと消えていくと同時に得も言われぬ上品な甘みが浮かび上がてきます。それは爽快な後味として尾を引きます。
 これまでに食べた肝の中では間違いなく最高の味!驚かされたというより、本当に感動してしまいましたよ。

 身の方はマアジと一緒にカラッと揚げて南蛮漬けにして味わいました。
 ネット上での食味評価は散々なこの魚ですが、ごくごく普通に味わえましたよ。まあ骨が硬いのでアジのように丸ごとバリバリというわけにはいきませんけどね。

 返す返すも肝の旨さには度肝を抜かれてしまいましたよ。こうなったら他のテンジクダイ科の魚の肝も試してみずにはいられませんなあ。



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