日本の貴重な魚たち |
日本には様々な魚が生息しています。それはこの国が、変化に富んだ素晴らしい自然に恵まれているからに他なりません。
しかし、それらは儚く壊れやすいガラス細工でもあります。
環境の急変の影響をもろに被ったミナミトミヨのように、すでに消えてしまった魚もいます。そして今まさに消えてしまおうとする魚たちもいます。
先日、希少種の保護増殖センターを内包する、滋賀県の琵琶湖博物館を訪れた折に会うことのできた、風前の灯火の魚たちを紹介してみます。
ページタイトルは「日本の貴重な魚たち」としていますが、何も絶滅危惧種だから大事、天然記念物だから大切にしなければならないというものではありません。何の変哲もない普通種だってどれも大事な地球の仲間たちなのですから。
しかしながら、絶妙のバランスが作り出した特殊な世界を生活の場としていることが多い「絶滅危惧種」というものは、今まさに「危機に瀕している環境」の代弁者なのです。
つまり、彼らを知れば、この日本からどのような世界が失われているのか?ということを知ることができるのです。
※このページは2008年ごろに作成したものです。(一部改訂)
現在、種の保存法の内容は一部改正されており、規制対象となる種も大幅に増えています。(魚類については2020年時点で7種。今後もさらに増え続けると思われます。)くれぐれもお気を付けください。
イタセンパラ | コイ目コイ科タナゴ亜科 | |||
国指定 天然記念物 | 分布:琵琶湖を除く淀川水系 濃尾平野・富山平野の一部 | |||
種の保存法 国内希少野生動植物種 | 体長:最大で15cmに達する | |||
体高が高く、迫力のある大型のタナゴ類。腹ビレと尻ビレの前縁の白がよく目立ちます。 画像は2月に撮影した「普段着」の装いですが、繁殖期に当たる秋になるとオスは赤紫色に輝くようになり、腹の辺りは黒く、背ビレと尻ビレには真珠色の帯が現れます。 この魚は、河川敷の開発、水質悪化など、人の活動の影響を非常に受けやすい、川の中下流域のワンドに住むことから、各地で激減。琵琶湖の内湖や、現在は埋め立てられた巨椋池では戦前に絶滅。現在、濃尾平野や富山平野のごく限られた場所で辛うじて生き残っている状態です。その他、淀川のワンドにも現存していますが、密漁や外来肉食魚による食害は言うに及ばず、最近では外来の浮き草、ウォーターレタスの爆発的な繁殖も大きな脅威となっているようです。 なお、イタセンパラに限らず、タナゴ類の全ての種は、産卵管を二枚貝の中に差し込んで産卵するという、特殊な繁殖を行うため、淡水の二枚貝が居ない場所では繁殖できません。 しかし、その二枚貝が各地で著しく減少し、それがタナゴ類の減少をも引き起こすことになっています。 |
ミヤコタナゴ | コイ目コイ科タナゴ亜科 | ||
国指定 天然記念物 | 分布:千葉県のごく一部など。 | ||
種の保存法 国内希少野生動植物種 | 体長:6〜8cm | ||
普段から尻ビレと腹ビレのオレンジと黒の帯、胸ビレと尾ビレとその付け根もまたオレンジに染まる非常に印象的なタナゴですが、これが4〜7月の繁殖期になると背側に青紫色、胸腹部に朱色、背ビレに白色が加わり、さらに惚れ惚れするような姿になります(ただし婚姻色は産地によって差が大きく、それほど出ない所もあるらしい) メスは地味ですが(画像の一番上の個体がメス)繁殖期には産卵管が長く伸びます。 東京都の小石川植物園の池で初めて発見されたことから「ミヤコタナゴ」と名づけられたように、かつては茨城県を除く関東地方全域に分布していました。 しかし、本種の生息地である湧き水のある水路や池が都市化の波に消え、ほとんどの県で絶滅。現在では純粋に野生のものは、千葉県・栃木県(?)の一部に僅かに残るのみとなってしまいました。 関東各地の水産試験場や研究機関で、増殖が行われていますが、生息できる環境が戻らない限りこの魚に平穏は訪れません。 |
アユモドキ | コイ目ドジョウ科 | |||
国指定 天然記念物 | 分布:岡山県内の数河川 淀川水系 | |||
種の保存法 国内希少野生動植物種 | 体長:大物は20cmに達する | |||
普段は岩陰などで休んでいますが、活動時のその動きは結構素早く、水底でヒラを打つ動きなどはまさに鮎。天然記念物指定前は鮎の友釣りのオトリに使われたと言いますし、食用としても喜ばれていたそうです。 岡山県や京都府などの一部で用水路などで生活していますが、田んぼに水が入ると集団で移動して産卵し、稚魚は豊富なプランクトンを食べて成長します。そのため改修によって生活の場と産卵場との行き来が妨げられた事が、数を減らす大きな要因になっているようです。 ちなみに水槽での繁殖は難しく、琵琶湖博物館では、雄雌両方にホルモン剤を使うとの事。 |
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(岡山県の用水路にて) | ||||
(4cmほどの幼魚。 岡山県の用水路にて) |
ネコギギ | ナマズ目ギギ科 | |
国指定 天然記念物 | 分布:三重県五十鈴川から愛知県豊川まで | |
体長:12cmほど | ||
伊勢湾・三河湾に注ぎ込む河川の上・中流に住むギギの仲間で、尾びれの後縁は浅くくぼみ、体が太短くずんぐりとしているのが特徴で、その丸みを帯びた顔つきが何となく猫に似ているとされてこの名が付けられたようです。 昼間は浮き石や大きな岩の間、水際の植物の根や茎の間などに潜み、夜になると流れの緩やかな平瀬に泳ぎ出て、エビや水生昆虫を食べます。 河川改修で淵や瀬といった変化や隠れ家が失われたり、ダムや堰堤による移動の制限、水質の悪化などにより大きく数を減らしている模様です。 |
カゼトゲタナゴ山陽個体群 (スイゲンゼニタナゴ) |
コイ目コイ科タナゴ亜科 | |
種の保存法 国内希少野生動植物種 | 分布:山陽地方。兵庫県千種川から広島県芦田川までの地域。 | |
体長:4〜5cm | ||
日本で最も小型のタナゴで、韓国の「水原」という場所で確認された種と同じものだということで、この名が付けられました。しかしながら、実際、朝鮮半島や中国のものと本当に同種であるかどうかは疑問符が付く・・・ということでしたが、研究の進展により九州北部に生息しているカゼトゲタナゴと同種ということになりました。 分類こそ変わったものの、カゼトゲタナゴ山陽個体群はスイゲンゼニタナゴとして種の保存法の指定を外れておらず、捕獲・飼育・販売等は引き続き禁止されています。(外国産スイゲンゼニタナゴの国内での飼育・販売も違法) 流れの緩やかな用水路や小川といった環境の消失、産卵する二枚貝の減少に加え、成長しても消えない背びれの黒い菱形の斑紋と、透明感のある体にスカイブルーの縦帯が輝くという魅力的な姿が災いして、観賞魚業者や悪質なマニアによる乱獲を受けて急激に数を減らし、危機的な状況になってしまいました。 なお、兵庫県千種川水系は分布の東限とされていますが長らく確認されておらず、すでに絶滅してしまったのかもしれません。 |
国指定 天然記念物 (文化財保護法) |
文化庁は記念物(歴史上または学術上価値の高い遺跡、芸術上または鑑賞上価値の高い名勝地、学術上価値の高い動植物、地質、鉱物などの文化財)のうち、重要なものを「史跡」,「名勝」,「天然記念物」に指定し、これらの保護を図っています。 史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければなりません。 史跡名勝天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処されます。 |
種の保存法 (絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律) |
天然記念物が文化庁の管轄であるのに対し、こちらは環境省の管轄。罰金はこちらの方がはるかに重いです。 この法律は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ることにより良好な自然環境を保全するためのもので、指定された種に対して許可のない捕獲、採取、殺傷又は損傷、譲渡し若しくは譲受け又は引渡し若しくは引取り、輸出入、販売又は頒布をする目的での陳列は禁止、つまり釣ることも、捕ることも、売買も、登録無しの所持も禁止されており、違反者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。 なお、指定種の卵や種子、標本、剥製、加工品にもこの法律は適用されます。 |
これらの魚たちと、それを育む環境・生態系が蘇り、 健全に保たれて、釣り人として熱く勝負できる。 そんな日がいつか来ますように。 |
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