・ついに白銀が川面に舞った!
            憧れの魚、サツキマス!

2006年 5月13日 兵庫県揖保川下流

神奈川県酒匂川より西の本州の太平洋側、四国、九州の一部に生息するアマゴ。
もちろん渓流を代表する魚なんですが、その中の一部は銀毛化、つまり小判型の斑紋(パーマーク)を銀色の体に着替えて川を下り海に出ます。そこで川に比べてあまりにも豊富な餌を飽食し、30〜40cm、時には50cmにまで急激に成長。
そして4月から6月頃になると本来の棲家、渓流域を目指して川を遡ってくるのです。
秋の繁殖期にはその巨体を活かして優先的に遺伝子を残し、それと引き換えに生涯を閉じます。
産卵後も何年も生き続けるアマゴとは対照的に。

それがサツキマス。

銀毛化しやすい養殖アマゴの放流で増えていると言ってもその数はやはり圧倒的に少ない上に、遡上する魚なので一箇所に留まる時間は短く出会うことは容易ではありません。
また習性もよく分かっておらず、川に入れば一切餌を摂らず、目の前でヒラを打つルアーなどに海にいたときの本能で思わず反射的に飛びついてしまうだけという人と、川に入ってからも稚鮎などを追い回し、ルアーにも積極的に食らい付いてくるという人、そんなことですら百出する議論が収まる見通しは今の所なさそうです。
サツキマス、モドリ、シラメ、本流アマゴ、擬似銀毛、そしてそれらのどっちつかず・・・様々な生活、様々な形態の「アマゴ」という種(亜種とも)が一つの川に混生し、混乱に拍車をかけている・・・というかあまりに細分化しても仕方がないような・・・

ちなみによく混同されるサクラマスは北日本・北陸・山陰・瀬戸内海側を除く北部九州に分布するヤマメが海に下ったもので、サツキマスより大きくなり、遡上の時期も早め。その名の通り桜の頃がピークとなります。
また琵琶湖周辺にはまた違ったビワマスが分布しており、これらの「サケ目サケ科サケ属サクラマス群」の3亜種は日本列島誕生以来、気の遠くなるような時間を経てゆっくりゆっくり分化している最中なのです。
そんな営みも本来の分布域など完全に無視した利益最優先の放流事業によって一瞬にしてぶち壊されてしまいましたが。
(毎年、解禁日に放流物のアマゴを釣ってはしゃいでいるような僕には言う資格は無いのですが・・・)


さて、サツキマスですが、長良川などにしか居ないと思い込んでいたこの魚が、実は地元を流れる揖保川や千種川にも遡ってくるということを知ったとき、長い戦いが始まったのでした。
昔から地元の仲間たちに口を揃えて「芸術的な運の悪さ」と言われる僕がこんな確率の悪い魚を容易く釣れるはずがないことはよく分かっています。運の悪さは人よりより多く行くことでカバーするしかない!必ず10年以内に釣ってやる!
ちょうどその頃職場が姫路の網干にあり、ポイントはちょうどその通り道。出勤前にウエーダーを履いて川に入り、仕事が終われば白衣をまたウエーダーに着替えて川に・・・という生活を2ヶ月続けました。
そしてその年は55連敗。翌年もそれに近い連敗。
職場が変わり、また、市場に行かねばならないようなことになってからはさすがにそんな勢いでは通うことはできなくなったものの、それでも撃沈は留まる所を知りませんでした。2003年には一度だけ掛けたものの魚に飛ばれた瞬間に針外れ。2005年には小さくパーマークも残っているサツキマスのような魚を仕留めて大喜びしたものの、その正体は前年の台風によって下流まで流されてきた擬似銀毛(シユウドスモルト)と言われるアマゴだったことが判明しガッカリ。
200連敗近くはしていたでしょう。
普通の人ならこれだけ行けば釣れているはずなんですけどね。バス釣りを中心にやっている周りの人たちもこの魚を知らないままに川でサバが釣れたなどと言って一人、また一人と釣ってくるのに膨大な時間と莫大な数のルアーを川に沈めた僕だけはこんな有様。


6回目のこの春は低水温が長引いたこともあって、思い切りスロースタートでした。というより今シーズンはとにかくチヌが釣りたくてそちらの方にばかり通っていました。4月20日にサクラマス狙いで行った岸田川で多くのルアーを失って同時に戦意も失ったのも長く尾を引いてました。
そんな13日の朝、イエローソルトウオータークラブの吉田会長から携帯にメールが入りました。去年に続き、今年もサツキマスを釣ったぞと。しかもその前日から周りで釣りをしている人にも何本も当たっているとのこと。
こんなチャンスを逃すわけにはいきません。病気で朝の釣行はできるだけ避けねばならないし、この夕方に賭けよう!

揖保川の潮止めの下流にはすでに人が入っています。イエローを代表する達人の姿もあります。
でもこのポイントは広いので大丈夫。合羽を着込んで昨夜から降り続く小雨の中を河原へ。
純淡水域はかなり水が増えていたので心配したけど、濁り具合はまさに笹濁り。しかも一斉に遡上している5cmほどの鮎の跳ねる姿もあります。
とりあえずルアーはアスリートのフローティング9cm、かつてオイカワカラーだった銀色のやつを選択してトゥイッチを入れながらの早巻きで攻めてみます。
とりあえず4投。おっ!少し下流の岸沿いには特に鮎がいっぱい溜まっているな。
すかさず移動してそこで本日の5投目。足元近くまで引いてくるとゴン!!!

きたっ!!
銀色の魚が頭を振っています。ロッドにグリグリという感触が伝わってきます。
3m先、しかも水面直下なので見間違うはずもありません。サツキや!
ルアーはバッチリ掛かっています。竿を立てると魚が水面に出たので、反撃に転じる暇もなく一気に空中に飛ばしました。

草の上で勢いよく跳ね回る銀色の魚体。精悍な顔つき、銀の中にちりばめられた小さな朱点、ヒレの先端の鮮やかな黒、鱗の下に見える緑かがった地色。
やっとこの魚に出会えました。32cmのサツキマスです。
喜びの中、小雨を気にせず写真撮影(それ以来カメラの調子が・・・)。そしてこんな美味しい魚は滅多にないですし、もちろんキープ。
感無量です。喜びの感情よりもホッとしたと言う思いの方が強かったです。

しかもその日のヒットはこれ一回きりでは有りませんでした。
間を置かずさらに2度もゴン!と。
しかし残念ながらどちらもヒット直後にルアーが外れてしまい、姿を水面直下に見せただけで流れの中に帰っていってしまいました。そして時合?は一瞬で終わってしまいましたが、まさか連発するなんて。こんな時もあるものなんですね。その連発した時間はまさに干潮が過ぎて潮が動き始めた瞬間でした。


キープした魚なんですが、ルイベと迷った末、塩焼きにして上質の脂を堪能しました。これまでの思いを噛み締めながら。
次は是非ともサイズアップを狙いたいですね。でも次に釣れるの、また6年後だったりして(笑)

次は何年後?なんて言っていたら
2日後(15日)に35cm
が釣れました。
上の魚とは明らかに違う
鱗の剥げ易さ。これはこの魚が
川に入ってまだ日が浅いことを
示しているそうな。

参考文献:釣りが一時的に下手になる本(荒賀忠一先生著)
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