風雲児  烈風伝
・獲物はチヌのち達人の技!?
              ノッコミ最盛期 in 家島諸島

2007年 5月15日  兵庫県家島諸島・西島
異常なまでの暖冬の影響か、水温が10度を切ることのなかった今シーズン。瀬戸内のチヌ釣りは独特なムラはあったものの概ね好調に推移していました。
播州の沖に横に長く連なる家島諸島(いえしま。地元では「えじま」と呼びます)でも随分と早い時期から釣れていましたが、本土沿岸のノッコミ収束後に訪れる本来の最盛期を迎えてヒートアップ!

相生湾でのチヌ釣りの最中に沖合いから流れてきた油の帯に囲まれてしまうという散々な目に遭って以来、完全にやる気を失って投げ出していた私も、35〜46cmを17枚も仕留められた「たくぼん」さんがこのサイトの掲示板に書き込んで下さったのを見るとさすがに居ても立ってもいられなくなり、気づけばのりくら渡船に乗り込んでいました。


早朝4時、たつの市岩見港を出発。
垂れ込める雲の間にほんのりと朝の訪れを予感させる空の下、墨色の海面を白く切り裂いて進む渡船はフルスロットル。
酔いしれるはずの風は長袖シャツ、ジーパンにフローティングベスト、10%の降水確率の天気予報を見て昼間の暑さ対策を優先した出で立ちには少々肌寒く、しかも痛かった。・・・えっ?痛かった?
薄暗い中、体にバチバチと水玉が当たってくるのです。
渡船が巻き上げた飛沫かなと思ったのですが、そうではなく、なんと天から落ちてきた大粒の雨粒・・・。
家島本島・真浦の波止に最初のお客さんを降ろし、本島をぐるっと半周、坊勢(ぼうぜ)島、そして西島へと到着するまでに勢いを増して合羽を持ってこなかった私の体を濡らし続けます。
しかし幸いなことに釣り場に着いた時にはその雨は上がっていました。


船長に場所も分からず「たくぼんさんが上がっていた場所」としか告げていなかった私が上がったのは西島の北東の湾の中。
山際の砂利浜から10m有るか無しかの波止が3本伸びている「オーゴ(足部南)」と呼ばれる場所の真ん中でした。
足元の水深は一ヒロくらい。沖に向かってダラダラダラダラと傾斜の続き、ガラ藻の姿すら見えません。

家島のポイントに着いて私がいつも最初にすること。それは腰にぶら下げた昔ながらの渦巻き蚊取り線香に火を付けることなんです。
この家島諸島は島にもよりますが非常に蚊の多い場所で、東磯のクラ掛島などでは渡船から飛び降りた途端に黒い霞のような群れが一斉に迎えに来るほど。

その蚊は、日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破したあの東郷平八郎の名を冠した「トウゴウヤブカ」という種類で、潮溜まりの濃縮された海水でも平気で育ち、ジーパンなどお構い無しに吸血し、傷口は熱を持って1週間近く強烈な痒みをもたらします。私は以前準備なくクラ掛島に渡って全身120箇所腫れ上がったことがあります。
なのに・・・先ほどの雨で湿った線香に火がつきません。
ま、いいか。衣服にはあらかじめムヒの薬用虫除けスプレーを内外からしっかり振りかけているし、実はこのポイント、かなり蚊の数の少ないポイントだったし(笑)


さて、ようやく釣りを始めることとしますか。
久しぶりに手にする弱腰竿・制覇1.5号で道糸2号、ハリス1.5号、チヌ針3号。G5のウキで適当にウキ下決めて、あらかじめ撒き餌の集中砲火をしておいた所へエイヤと投入。

家島名物の凶暴なオセンは時期的にまだほとんど暴れていません。クサフグがまばらに居るようですがこちらも頻繁には餌を取りません。
6時頃。太陽は薄雲へと出たり入ったり。光量不足であまり役に立たない偏光グラスと、時折さざ波立つ海面に移りこむ対岸の景色が相まって、しばらく目を離していたウキがどこにあるのかサッパリ分からない・・・。目を凝らして探してもやはり見当たらない・・・。ゴソゴソしていたのでラインテンションはずっと緩みまくり。
もしや?と思って聞くつもりで竿を立ててみると、穂先はグイッと弧を描き、さらにグン、グンと頭を振る感覚が伝わってきます。よしっ!
型もそうは大きくもなく、見る限り障害物も皆無。感触を楽しみながらやり取りして、その最中に釣れたポイント付近に撒き餌。そしてタモに納めた銀ピカ腹ボテのノッコミチヌは36cm。すぐにストリンガーをセットして足元にドボン。すかさず同じポイントに仕掛けを投入!

やり取り中の撒き餌は食いを続かせるなんて言いますが、それ以降サッパリでした。
遠近変えてみたり、ウキを変えてスルスルにしてみたり、一転重い仕掛けにしてみたりなんてしましたが、時折フグにハリスを噛まれる程度と言う有様。そのうち気力減退。
昨年秋以来、目も当てられないくらいの絶不調を続けていることもあって、晴れ上がった空の下、一人ブツブツ言いながらボーっとした投げやりな釣りをしてしまっていました。
雨の後のせいなのか、湾の奥から段々風が吹き付けるようにもなってきました。


9時頃になると渡船が近づいてきました。二番船が釣り人たちを運んできたのです。
隣の波止にそのうちの一人が上陸。20mほど沖を狙って釣りを開始されましたがウキは動かず、30分ほどしてこちらに向かって「エサトリもおらんなあ〜」とこちらに声をかけてこられたので、私も「一時居ったフグも消えましたわ〜」と返事。

しかしその直後、隣の方の竿が大きく曲がりました。間違いなく本命です。ありゃ、居てるやん。
こちらも気合を入れなおして20mほど沖を集中攻撃。潮も随分上がってきたのでウキ下を3ヒロほどに設定し、正面に撒き餌。
相手はチヌですし、その左方向に入れた仕掛けが風で滑る上潮に押されて撒き餌と交差するようにして攻めてみました。
すると狙い過たず連発!38cmと39cm。
引きはそう強くないですが、ゆらりと浮いてきた銀色の精悍な魚体が水中でヒラを打ったときのカッコよさ!チヌ釣りの醍醐味ここに極まれり!!
やはり腹はボテボテで産卵寸前です。そのうち一枚は雄で、針を外していると波止のそこここに白い染みが。

針外れのバラシが一つあったところでとりあえず食いが止んでしまいました。そしてまたフグが活動再開。
しかし群れは小さくてもチヌはこのポイントを通り道にしています。
再びウキが波をくぐってゆっくり吸い込まれて行ったのは11時45分くらいだったでしょうか。
でも軽い・・・。スルスル寄ってきます。むむっ30cmありませんがなっ。

この日の迎えは午後1時か夕方6時か。体の調子は見違えるように良くなったとは言え、連続14時間の釣りは毒になるかと思って1時の方で頼んでいたもので残り時間はあと僅か。
ウキと時計を交互に見ながら投入を繰り返しているとまた来たっ!いや、今度は実を言うと「来てた」だったんですけどね。
サイズはまたまた39cm。やり取りを楽しんで無事にストリンガーに吊るし、さあそろそろ片付けに入らなければと思う間もなく渡船がやってくるではありませんか。慌てて竿を畳み、魚をクーラーへ。

時合いの最中の撤収は残念ですが、自分でこの時間で頼んでしまったのだから仕方がない。
最初の1枚だけでアタリが止まっている隣の方も道具を担いでこちらに移動してきています。後は任せましたぞっ!

それにしても今日の迎えは早すぎる!まだ12時10分やでぇ!と思ったのですが、これには理由がありました。
ちょうどこの日、この家島諸島ではG杯チヌの全国大会が開催されており、船長が決勝戦を今から見に行こう!と言うのです。
特に帰りを急ぐ事もありませんでしたし、そんな決勝戦が間近で見られる機会なんて願っても巡ってきませんし、もちろん快諾しましたよ。

坊勢・矢ノ島・黒島などを横目に見ながら水道を押し渡れば眼前に迫ってきた決戦の舞台、家島本島、中村の磯。
漁師の中村さんという方が網を入れる権利を持っているというこの磯は、今にも沈みそうなほどの人の山ができていました。
ポイントの後ろ、小高い所にピラミッド状に役員や全国から集ったものの惜しくも敗れ去った人たちが鈴なり。三脚・手持ち、何台ものカメラも回り続けています。
それを背景に並んで竿を出す二人の釣り人。船長の話によるとどちらも中国地区の人だそうです。


すでに磯の沖合いに連結して停泊している2隻の渡船の最後尾にロープを結びつけ、腰をすえての観戦スタート。
おっと、際を狙っていた手前の方の竿が曲がりました。続けて沖を狙っていた奥の方の竿も弧を描きました。いきなりのダブルヒットです!
タモに収まった魚はすぐに検量され、役員の手によって磯の裏側に運ばれていきます。再放流しているのでしょうか。
あっ!手前の方が(帰宅後、この方が石丸敏文さんという名であることを知りました)また掛けました。さらにその後もう一枚!連発です。

船長の「この磯はこれから潮が変わって食うで!」と言うとおり、ハーフタイムを迎えての釣り場交替の後も連発、連発!
今度は奥側に入った石丸さんの勢いは止まりません!釣るわ釣るわ、最初の1枚からパタリとアタリの止まっている対戦相手を尻目に合計7枚!
細かい所まではさすがに見えませんが、それでも参考になりますねえ。例えばこの状況でウキに被せるべき撒き餌の量とか。先ほどまで私がやってた方法ではあまりに少なすぎたかもしれない・・・

真ん中の船がお客さんを迎えに行く時間をもって渡船の3連結は解かれ、私が座乗している渡船も試合の終了を待たずに家島の海を後にすることになりましたが、その後も結果が覆ることはなく6060gと540gという大差で石丸さんが念願の全国制覇を果たされたそうです。

それにしてもほんの少しの挙動をも逃さず見つめ続けるあれだけの人々の眼とカメラの真っ只中にあって、自分の釣りを完璧にやり切ることのできるトーナメンターの力は並大抵のものではありませんね。
普通の人間ならばあんな状況では魚を釣るどころか、針を結ぶことも立っていることすらできないかもしれませんよ。

今回はトーナメントにはほとんど興味のない私にとっても得がたい経験に彩られた釣行になりました。
全国のトーナメンターの皆さん、それぞれに頑張ってくださいね!そして優勝された石丸さん、おめでとうございました。
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