風雲児  烈風伝
爆風亭風雲児の南西の旅! 〜名鹿熱中釣行記〜

2008年 2月10〜11日  高知県四万十市 名鹿
ようこそのお運び、誠にありがとうございます。今回は少々変わった釣行記でございます。

「春に三日の晴れ無し」「三寒四温」などと言いますように、引っ切り無しに太平洋側を通っていく低気圧の仕業で天気も気温も猫の目のように変わるのが春の天気ですが、今シーズンは何故か1月2月にこんな気圧配置になりまして、天気図は春、気温は厳冬、さしずめ「三寒四極寒」とでも申しましょうか、雪の日と風の日が目まぐるしく入れ替わると言うような具合でございます。

待ちに待った三連休の初日もやっぱり、播磨南西部は朝から雪が降り続きまして辺りは真っ白だったのでございますが、出発を迷いに迷った末に、ええい途中で通行止めになったらその時よ!と車を走らせる男が一人。
この大雪を呼び寄せた張本人?ご存知・風雲児でございます。

雪は山を越えて岡山に入るとたちまち雨となって一安心も束の間、車体が右へ左へ揺さぶられる風の瀬戸大橋を越え、現代の「四国の辻」を南に折れれば最大の難関の四国山地。
ここも意外と雪は少なく、無事に突破すると安全運転6時間足らずで目的の港、四万十川の河口の少し西、名鹿(なしし)に到着でございます。
この男、この時期に「御荘に行きた〜い」などと時化男のくせに無茶を言っておったのですが、そんなもん時化男の釣行日に北西の風が吹かないわけがございません。
誰もが想像したとおり!案の定!当然!船が出ないということで、風裏になるこの場所に逃げてきたのでございます。
寝袋に包まって一夜を過ごしまして、明けて10日は6時40分、北西風を避けてやってきた釣り人たちを満載した勝丸渡船に乗り込んで港を離れたのでございます。

それから僅か数分で磯に上がるや、真っ先に正月に手に入れた磯に打ち込むタイプのパイプの竿立てを釣り座の後ろに打ち込み、次に長年の相棒のタモ網をセットして、そして竿を取り出し、ゴソゴソゴソゴソおもむろに仕掛けを作りはじめたのでございます。

釣り人の背後に置かれた竿立てとタモ網、これらがただ黙ってそこにあると思っていたら、それは大きな間違いなのでございます。

タモ「おはようさん。今朝はまたよく冷え込んで寒いなあ。まあ晴天やから温くはなるやろけど。」
竿立「おはようございます。寒〜〜〜ぅ 早く温かくなってもらわないと困ります。私、こう見えても冷え性でしてねえ、
   さっきから体がジンジンジンジンと。」

タモ「こう見てもそう見ても、あんた、アルミ製やがな・・・ ところで今回のは港からえらい近い磯やな〜。すぐそこに
   港のテトラが見えとるやないかいな。」

竿立「クマサクという磯だそうですよ。こんな場所ですけど、釣れる時はなかなかデカイのが出るそうです。」
タモ「ほぉ〜。でもあんまりの近さに乗りたがらん人も居るやろな。今朝なんか満潮で潮が結構ヒタヒタやから、
   ワシなんか流されてしまわんか心配でたまらんし。 おっ仕掛けが出来たようやな。」

竿立「竿はオレガ一徹1.5号、道糸は2,5号。ハリスは2号に速攻X7号の針、ウキはG2からいくようですね。」
タモ「先端にはまだ行けんし、釣り座は港(北)向きの中央でやるんやな。撒き餌に寄るのはハコフグ1匹・・・か。」

まずは足元から竿一本先までを探ってみることにいたしましたが、エサトリもほぼ見えない状況ですございます、ウキ下はいきなり一本。
何投かして様子を伺っておりますと―

タモ「おっ!いきなりウキが入った!まだ5投くらいしかしてないのに。
  えらい竿が曲がってるな!」

竿立「いい型!でも意外にすんなりといなされてますね。
   いや、ご主人が落ち着いてるのか。
   おかしい!この人、魚来たらいつも焦りまくりなのに・・・」

タモ「久しぶりにワシの出番やな。今年に入ってからまだウキ1つしか
  掬ってないからなあ。」

竿立「浮いてきた魚、ピンクですね。テス(イラの地方名)ですか。」
タモ「テスやな。45cm。」
竿立「きっと誰かに書かれてたんでしょうなあ。あのノートに。
   『風雲児 名鹿クマサクにて10日7時30分、悶絶することなく
   あっさりと釣り上げる』って。」

タモ「ノート?何のノート?」
竿立「テスノート。」
タモ「・・・・。」
竿立「あっ!アホな事を言ってる間にまた掛けてるじゃないですか!
  今度のはえらい引きですね!」

タモ「竿が見事なまでに曲がり切ってるやないか。足元の根の張り出し、
   危ないでぇ!気ィ付けやぁ〜」

竿立「何とか一段かわして、浮いてきた!今度は黄色だ。50cmオーバーのキバンドウ(ヒブダイ)ですね。
   あっ、また足元にえらいスピードで突っ込んだ!竿が悲鳴上げてる!耐えろ!こらえろ!」

タモ・竿立「あ〜〜〜〜っ!最後の最後でハリスが飛んだ・・・・。」

根ズレで切られたのを機にハリスを2.5号に上げまして、G3 G5と打っていたガン球にさらにG5を追加、竿先で沈みを調整しながら棚を探っていく仕掛けに替えてさらに釣り続けて参りましたが、暫くすると海の様子が明らかに変わってきたのでございます。

竿立「何か物凄くいい感じになってきましたね。食い上がってはきませんが、撒き餌に魚が下の方でいい反応をし始め
   ましたね!デカイやつの群れも乱舞を始めたじゃないですか!グレではないけど。」

タモ「ほんま、ええ感じやな。デカイやつの正体、きっとおなじみのアレやろけどな。
   ほら!言うてたら食ったやないかいな!よぉ引いてる。右へ左へスピード全開で走り回ったと思ったら、
   ふと思い出したように力を緩め、次の瞬間我に返ったようにまた走り回るこの引きは―」

(スルスル〜 ザバッ!)
竿立「タモ入れ、お見事。銀ピカの綺麗な外洋のボラ、70cm近いやつですね。」
タモ「今日はワシ、珍しく忙しいな・・・おっ!続け様に竿先が押さえ込まれたがなっ!
   今度のはえらくコンコン叩いてるなあ。」

竿立「予想通りサンノジですけど、そう大きくは無いですね。そういえばここ、名鹿はとにかくサンノジの
   多い所だそうですね。」

タモ「そうそう。前回、一昨年の9月に来た時も45cmくらいのサンノジとキツが次から次へと来て、ご主人、
   ヒイヒイ言わされてたで。 しかもその時は船頭に頼んだはずの弁当を忘れられててな、
   空きっ腹にこんな強烈な引きはたまら〜ん、もうあか〜〜んって最後は磯の上にへたりこんでたわ。」

竿立「噂をすれば弁当船が港から出てきましたよ。さて今回は忘れられてないかな?」

さすがに今回は満員御礼ですし磯から降りる時に注文を聞いてくれましたので、この渡船区での初めての弁当を無事手にすることができたのでございます。
折角の弁当、温かいうちに食べてしまおうと、竿を竿立てに預けて平らな所にどっかと腰を下した風雲児でありました。

タモ「ご主人、あっちに行ってしもたから、ここからじゃ弁当がどんなのか分からんなあ。前回忘れられてた弁当だけに
   やっぱり気になるなあ。あっちに置かれてる水汲みバケツにちょっと尋ねてみよか。  お〜〜い!水汲み!
   ご主人の弁当どんな感じなんや!?」

水汲「え?私ですか〜?何でございます?えっ、弁当? えっとね〜、四角です。」
タモ「・・・四角??」
水汲「はい。薄いトレーで出来てて、ご飯とおかず入れる窪みが3箇所あって、透明の蓋が付いてます。
   あれ、下手に置いたら風ですぐに飛ばされて困る。」

タモ「古典落語にありがちなボケ、せんでもよろしい!中身やがな!中身!」
水汲「ああ、おかずね。卵焼きがあって、コロッケがあって、漬物が入ってて、あ、焼き魚も一切れ入ってますね。
   何か長細い魚をぶつ切りにしたやつで・・・なんでしょ、ダツの塩焼きかな?」

タモ「サンマやろ!サンマ!どこぞの世界にダツの塩焼きなんか入れた弁当を持ってくる渡船屋があるんや!!」
竿立「何かごく普通の弁当ですね・・・。チェッ!」
タモ「あんたまで・・・。いったい何を期待してたんや・・・」

弁当なんてものは普通が一番結構なものでございます。凪ぎの日の磯の上で食べる弁当は格別に美味しい物。
しっかり腹も膨れたところで潮が引いて随分と広くなった釣り座に取って返しまして、磯際から竿3本先くらいまでを攻め続けておったのですが、弁当の後も状況はバッチリだったのでございます。暫くは。

竿立「しかしよく竿が曲がりますね〜。引っ切り無しじゃないですか!」
タモ「やっぱりサンノジや磯ベラが多いけど、ガシラなんかも来てたしな。強烈な締め込みでのバラシもあったし、
   惜しかったのがあの針外れ。あの引きはきっとグレに違いないと思ったのに。」

竿立「G2沈め釣りが大当たりですね。 しかしこの人、やたら好きですよねえ。沈め釣りと相武紗季と茹でたオクラに
   鰹節をかけたやつ。」

タモ「何年か前には『磯際の探り(ズボ)釣りと池脇千鶴とおでんのスジ肉が堪らん』って言ってたけどな」
竿立「沈め釣り、確かにウキがジワジワと沈んでいく時のワクワク感はたまらないものがありますね」
タモ「ボケーっと適当に釣っていても『考えて釣ってます〜』みたいな顔できるしな。でも、沈めにアホみたいに
   こだわりすぎて、いっつも自滅してるけど。」


竿立
「おっと、海の様子がまた変わってきましたね。なんか潮が逆向いた
   と思ったら今度は当て潮で・・・
   それでも竿先に小さなアタリが来てますね。 それ!アワセ!!
   また乗りましたね。」

タモ「何か今度のは型の割には全然引いてないような・・・
   あちゃ〜、えらいもん釣ってしまってる。」

竿立「ジエンドフィッシュ。タカノハダイ。これが釣れてしまったという事は
   時合いも終了ですかな。」

タモ「いや、待て、次の一投、いきなりアタリが出たで!
   引きは強いけどコンコンとまた竿先叩いて・・・
   また35cm級のサンノジやな。それでもタカノハ釣った直後に他の魚を上げたの
   初めて見たような。」

竿立「珍しいことじゃないのかもしれないけど・・・・こんなこともあるんですね。」

しかしそれも束の間の夢でして、言い伝えと言うものは結構当たるものでございます。
あのサンノジを最後にアタリが忽然と消えてしまったのであります。

タモ「何か急に悪ぅなってしもたなあ。やっぱりタカノハはジエンドフィッシュなんかいな。」
竿立「でもご主人、さっきから色々と打開策を探ってるみたいですよ。今日は本当におかしい。いつも不貞腐れて
   諦めるのが関の山なのに。」

タモ「棚を変えて、オモリを変えて、お次は思い切ってゼロスルスルを試して、あかんと思ったら、今度は3Bの段シズ
   できっちり張って釣る算段なんかいな。」

竿立「足場も替えてしまいましたね。ず〜っと横の方に移動して、斜めに投げて、横流れの潮を釣る要領で当て潮を
    釣るつもりですね。 こんなあの人、初めて見ましたよ。気色悪ぅ〜。凪ぎでおかしくなってしまったのか、
    もしや南海地震の前触れですかね?」

タモ「おおっ、小さな潮目みたいになってる所でスーッと気持ちよく
   ウキが入ったやないか!型は大きく無さそうやけど小気味の
   ええ引き方してる!おっ!グレや!」

竿立「やりました!居たんですね〜。33cmとは言え、これは嬉しい
   1枚ですね!」


時間はすでに1時前。迎えの船が来る3時まで、この3Bの仕掛けがバッチリと合ってくれたのでございます。
潮が更に引いたので入ることのできるようになった最先端のポイントでこそ再びのタカノハダイしか釣れなかったのですが、元居た中央部北向きのポイントでは色々な魚が飽きさせる間もなく当たってきてくれまして、美味しそうなカワハギをクーラーに入れたり、アワセと同時に凄いスピードで足元に突撃してきた魚のバラシなんぞもあったりして、時間までとにかく存分に楽しんだのでございました。

タモ「今日は楽しかったなあ〜」
竿立「クーラーに入るような魚こそ少なかったですけど、これだけ引っ切り無しに竿が曲がってたら楽しくて
   仕方ないですね。」

タモ「何よりご主人、一瞬も集中力を切らすことなく徹底的に熱中してたという、磯釣りにおいての最高の時間を
   過ごせてたやろね。確かにいつもと違って変で、気色悪かったけど。 そういえばクーラーで思い出したけど、
   最初に釣ったテス、しっかりキープしてるな。クーラー覗いた人、唖然としてたで!あんなの持って帰る人、
   そんなには居らんのと違う?」

竿立「あっ、でも、『2月11日夕方、霜降り造り(湯引き)にする。皮無しの普通の刺身じゃ味わえない旨味があり、
   家族全員絶賛しながら食す。』とノートに書いてありますが・・・」

タモ「テスノートはもうええっちゅうねん!」

竿立「グレは結局あの1枚だけでしたけど、船長はよく釣ったと言ってくれてましたね。」
タモ「四万十川の川水の影響なんか、この名鹿全体絶不調やったもんな。ボウズが大半、港のすぐ北側の『ナナマ』
   の3枚が最高みたいで、取材に来てた月刊釣り情報の記者の人、困ってたで。」

竿立「ご主人、案の定舞い上がってしまって、『楽しくて仕方が無い!明日もやる!弁当船までやらせてくれ!』
    なんて言ってますよ。大丈夫でしょうか?」

タモ「まあ今日はこれから宿に泊まって、体を休めて帰ること、最初から決まってたからなあ。
   弁当船までとはもったいないけど、心臓のことと、最近の激務のことを考えたら仕方ないな」


竿立「で、これから泊まる宿とは?」
タモ「今回も四万十を渡って、少し東に行った所にある海沿いの所やろ。」
竿立「ああ、この人が四万十川で昼釣りする時なんかに重宝してる宿だそうですね。」
タモ「そう。宿の主人や他の利用者にとってもこの人の宿泊は重宝してるそうやで。ビーチのすぐ近くでメインの
   お客さんがサーファーみたいやから、素晴らしい波が出る!嬉しい!って喜ばれるんだそうな。」

竿立「へぇ〜。渡船屋や大概の釣り人にはいつもいつも迷惑がられてるのにねえ。」

その夜はいつものように「ペンションひらの」(素泊まり3500円)に泊まりまして、翌日は予定通りに午前中だけながら、再び名鹿の磯で竿を出したのでございますが―

タモ「今日はあかんかったな〜。」
竿立「サッパリでした。うねりが出てクマサクは水没。で、クマサクから100m位しか離れていない隣のハゲバエに
   上がったけど全然でしたね。」

タモ「この磯、昨日も全然釣れてなかったもんな。潮の高さとうねりで良さそうな釣り座には行けんかったし、
   こう気温の低い午前中は大きなサラシだらけのところはやっぱりアカンのかな。」

竿立「タカベは走り回ってたけど、グレは動いてなかったのか、気配も感じませんでしたね。」
タモ「そんな中でもご主人は徹底的に攻め続けてたな。壁スレスレからシモリ周り、サラシから沖の潮目。
   仕掛けも1号で深場を直撃してみたり、あえて浅棚を試してみたり。」

竿立「手を変え品を変え、とにかく必死で釣ろうとしていましたね。下手は下手なりに。」
タモ「こら!そんなにハッキリ言うたらアカン!でもホンマに集中してた。また諦めて独り言でボヤキまくるか、
   食い意地で目が眩んで目の前のタカベでも狙い出すかと思とったけど」

竿立「タカベの旬は夏ですからね。それに小さかったし。
   ともかくご主人、今日の釣りも満足やったみたいですね。やれるだけのことをやった上でのボーズだから
   悔いはない!って。」

タモ「今回は雪に挫けずに来て大正解やったみたいやね。四国の人から見たらなんちゅう釣りやったんや!なんて
   言われそうやけど、瀬戸内じゃこんな釣り、絶対に出来んし。」

竿立「グレ釣り師にあらず、ゲテモノ五目釣り師だ!と公言してるけど今回は一応グレも出ましたしね。」


タモ「それにしても今回もまたえらい長い釣行記になってしもたな。対話形式は行数を食うとはいえ、大丈夫かいな?」
竿立「この人の釣行記はいつもいつも、内容は薄いくせに余計な描写ばかり入れるから無駄に長くなってるけど、
   今回も酷い。こんなに伸ばしたの、いったいどうしてなんですか!?」

タモ「へぇ、今回の語り手は磯のタモ網。長ぁ〜〜く伸ばしてナンボでございます。」
ハゲバエから北向きを見る。
一番右が初日に上がった
クマサク。
名鹿の港の本当にすぐ近く。


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