風雲児  烈風伝
  ・崖の上のボス!
  第12回ウハウハトレトレ釣行会 & 居残り竜串単独行

2008年 11月30日〜12月1日  愛媛県中泊、 高知県竜串
今日はやけに風が強いな。
この地響きのような音、海の上の潮の竜巻、これじゃまるで台風の暴風じゃないか。
3日前までは今日はこれ以上ない穏やかな日和になるはずだったんだが・・・。
こんな調子じゃ名礁ノコギリもコケも上がることすらできないだろうが、それは俺達にとっては実に喜ばしいことなんだ。
なんせ「鹿島」という港から程近いこの島に人が次々集まってくるんだからな。
それにしても酷い風だ。

中泊の鹿島で俺は無数の仲間たちと暮らしている。
この島は昔は宇和島の殿様の狩場として厚く守られてきたし、国民宿舎が完全営業していた頃からは人間どもが「餌付け」と称して食い物をうやうやしく献上してくれる。
だが、やつらは気まぐれな人間だ。待つよりも奪え!
そう、島にやって来る人間どもを脅して、いびって、力ずくで荷物を奪うのが一番手っ取り早いって話だ。
ここは俺たちの楽園なんだからな。
そう、俺は猿だ!

今、俺が居るのは鹿島の南岸の中ほどにある無名磯の背後の崖の上。
普段はめったに釣り人の来る場所じゃないんだが、こんな日は特別だ。
釣り座は狭いし、根が張り出して大変そうだが、三方を切り立った崖に取り囲まれたワンドだから暴風なんて関係ないからな。
まあ切り立った崖とは言ってみても階段のような足場がそこらじゅうにあるから、俺たちのように自由自在というわけにはいかないが、人間でもある程度までは登ってこれるんじゃないだろうか。
ほらみろ!沖磯から舞い戻ってきたながはま渡船から、二人の人間が渡礁してきたぞ!

海に向かって左側に入った人間、ベストの背中に「てぼ@高知」と書いてあるようだ。
もう一人のボケーっとした間抜け面は風雲児と呼ばれているな。そうか、こいつが悪天組合の風雲児か。
ここからも見える鵜来島に住んでいるイノシシの知り合いが何年か前に「港で時化男の親玉のクーラーを開けて、食糧やら訳の分からん熱帯魚を食い散らかしてやった」と自慢げに話していたが、きっとこいつのことだな。
この釣り場の少し左側にも別の釣り人が居るんだが、この間抜け面のほうが余程仕事が楽そうだ。今日はこいつをイビることに決めたぞ!

2人の話を聞いているとどうやら今日はウハウハトレトレ釣行会、いわゆるウハトレってやつらしい。
何でも、インターネットとかいうやつで知り合った仲間たちが一斉に集まって親睦を深める釣行会だそうで、6年前に始まって今回で12回目なんだとか。
ま、俺の知ったことじゃないんだが。

二人が釣りを始めてもう30分ほど経っただろうか。
まだエサトリすら釣れてはいないが、それでも釣り人にとっては形ができ、一番釣りに集中しているのがこの時間帯。
渡ってきてすぐとは違って、ちらちらと背後を警戒することも忘れているようだ。
今こそ最高の時合だ!

俺は勝手知った崖を音も無くスルスルと下りていったが、どちらも案の定俺に気付いちゃいない。この荷物全部より取り見取りだ。
俺は釣り道具には興味は無いが、食糧を奪うためなら何でもするぜ。
リュックだとか磯バッグだとかクーラーの中に隠しておいても無駄だぞ。バックルを外したりチャックを開けるなんて朝飯前だ。
もっとも、そんなことはこの島の猿なら誰でもできるといっても過言じゃないだろうから自慢にもならないんだがな。
しかし今日はそんな面倒な事をしなくてもいいようだ。

俺は風雲児の釣り座のすぐ後ろの岩の隙間に置いてあるビニール袋を掴むと、素早くその場を後にしたんだ。
鈍い風雲児もガサッという音には反応して振り向いたが、その時にはもう俺はヤツの頭上5mの位置だ。
さらに上のテラスまで登ってビニール袋を開けてみると、中身は予備の集魚剤だった。

おっ、風雲児が竿を置いて岩を登ってこちらに向かってきたぞ。やる気か!コイツ!!
ヤツが一歩足を踏み出すと、俺は4歩5歩、ズイ!ズイ!ズイ!!と岩を下って迫ってやった。
自慢の鋭い牙と、体中にみなぎった圧倒的な闘志を剥き出しにしてキィ!とでも一声上げると大概の人間は後ずさる。
ほら、この風雲児ってやつもたちまち恐怖の色を浮かべて尻尾を巻いて退散していきやがった。実に情けないヤツだ。
おっと、人間には尻尾は無かったか。

俺たちは人間なんて怖いとは思ってもいないしな。
普通の人間は猿なんて滅多に見かけることはないはずだから俺たちがどんな攻撃をするか予測もできないが、俺たちはその全く逆だ。
それにこんな岩場で俺たちとまともに勝負して人間が勝てるはずがないし、この磯には人間が使えるような手ごろな石や棒切れなんて無い。
もし竿やタモ網で殴りかかっても牛若丸と弁慶の勝負のようなもの。岩にぶつけて折って泣くだけさ。
まあそれでもごく稀に殴られることもあるし、渡船によっては銀玉鉄砲やパチンコなんかを貸し出したりしているが、そんな時は仲間に一声かけてみんなで崖の上から石をドンドン落としてやればいい。

邪魔者を退けた俺は、袋をひっくり返して投げ捨ると、ポリポリと集魚剤を食べ始めた。
チヌパワーG2にグレパンとはグレ釣りでは少々変わった配合だが、押し麦やパン粉に青海苔の風味が利いていい感じだ。
うん、こじゃんと旨いキィー

諦めて釣り座に戻るも、チラチラとこちらを見る風雲児だが、ヤツが振り向くたびに俺はテラスの上から睨みつけ、一歩でも近付くと進み出て威嚇して追い返してやったさ。他愛も無い。

さて、集魚剤を摘まみながら悠然と釣りの見物でもしてやるか。
俺は猿だが商売相手が磯釣り師だからフカセ釣りには詳しいぜ。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」ってやつだ。
おっと、風雲児の隣のてぼ@高知さんが大きく竿を曲げたぞ。
突っ込みを難なくかわして34cmの口太を仕留めたぞ。ここにも魚は居たんだな。

2ヒロではサシエが無くなり、2ヒロ半なら半々だそうだ。
見る影も無くテンションの下がってしまった風雲児も0号にG5を打ってシブシブにしたウキで探っていくが、スパッと入ったウキにアワセを入れたら何やら妙な引き方だ。
20cmほどのカワハギだが、腹に針が掛かっているとは魚も不憫だな。

それから二人には何のアタリもなし。餌をバリバリ食っているのは俺だけだ。
可愛そうに風雲児なんて右隣に良さそうなポイントがあるのに移動さえできない。右隣にはほとんど一日、俺が居座っていたからだ。

見ろ、あの姿を!気力も集中力も無くしてボーっとして、磯際のウキを操作するより交換したハリスをゴミポケットにしまう方に気を取られているじゃないか、足場の悪い釣り座で。
弱り目に祟り目、そんな時に物凄い引きがヤツを襲ったもんだから爆笑ものだ。
足を滑らせ、見事に体勢を崩してどうすることもできず、やっと足場を確保した時には魚もハリスもウキも何もかもを失っていたぞ。

集魚剤、随分食べたがそろそろ箸休めが欲しいな。
都合よくてぼ@高知さんがビニール袋をクーラーにくくりつけてくれてるから、今度はあれを奪ってやろう。

「コラ〜〜〜!!」
気付いたてぼさんは大声を上げたが、獲物を手に入れてから怒号を発しても手遅れだぜ〜
では、また見せびらかしながら味わってやるとするか。
・・・ん、なんだこりゃ、食糧かと思ったらゴミ入れじゃないか。こんなの返してやるぜ〜。ほらよっ!
俺はゴミを二人の頭上からポイポイと投げ捨ててやった。
パラパラと落ちてくるゴミを見て怒りを込み上げさせる二人。キキキ!愉快だ!

さあ、いよいよお楽しみの弁当船の時間だ!
今日は暴風だし、各渡船の客も多いからこの二人が他の磯へ逃げ出すこともないぞ。
よし、渡船が来た!弁当を受け取って・・・すぐに食べてしまうのか。しかも崖の方を向いて二人固まって。
むう、これじゃさすがに奪えないな。迂回して反対から襲うにも場所が悪い。
正面から近付いて飛び掛っていったら簡単に蹴散らせそうなやつらなんだが、こいつらの仲間たちの好意に免じてやめておいてあろう。
朝の集魚剤がまだまだ残っているしな。

そうなんだ。こいつらのネット仲間というのはいい人が多いんだ。
今年5月のサタンフェスタではグレ次郎さんが弁当をくれた。
弁当から一瞬目を離してお茶を飲んだのは「君に上げる」という意味だったんだろう?ありがたく頂いたぜ。
それに今回のウハトレの幹事は西釣会のヒコさんが務めているそうだが、その西釣会のメンバー達にも集魚剤やら弁当をもらった上に楽しく遊ばせてもらったな。
特にヒコさんにはチューブ入りの練りからしを一本丸々降りかけた弁当を頂いたことがあったが、あれは旨かった!
本人は仕返しのつもりだったようだが。(西釣会HP,爆笑軍団その16、西釣会VSさる 死闘編参照)

陽がポカポカ照ってきて眠くなってきたぜ。釣りを見ていても全然釣れないしな。
後半は風雲児が一度、アタリも無いのに大きく竿を曲げただけだ。
重たくてタモを磯へ持ち上げるのがしんどそうだった45センチはあるイシガキフグのスレ掛りだ。
あれは毒が無いそうだから味噌汁、沖縄で言うアバサー汁にしたら旨いらしいが、魚は頭からバリバリ食うのが信条の俺には興味の無い魚だな。

ウトウトしてたらもう2時か。やつらの撤収の時間だ。
てぼさんはグレを釣っているが、撃沈の風雲児なんぞは疲れ果てた顔をして渡船に乗り込んでいきやがった。
他のメンバーもさえない顔をしているな。

後で友達のカラスに結果を聞いたら、今回のウハトレには19人も参加していたのに釣れたグレは2枚だけ。
高知の親方さんが40,5cmで優勝で、あのてぼ@高知さんが2位だったそうじゃないか。
このごろ沖磯では60クラスの尾長、地磯ではデカイ口太が食っていたのにな。
懇親会とは言えウハトレとは余程釣れないもののようだ。
翌日は打って変わってベタ凪ぎの穏やかな日和だ。
時化男の親玉が帰ったんだから当然と思いたいところだが、仲のいいカモメの話だとヤツはこの日も四国で釣りをしていたそうだ。
ここから1時間半足らず走った所にある土佐清水の竜串というところで竿を出していたんだと。
奇岩が連なる「見残し」という観光地があって、観光船やグラスボートが行きかう所なんだが、あそこはなかなか堅調な中グレ釣り場なんだ。

午前中はその竜串でも最近40cmクラスが出ているという港のすぐ近くの「大バエ」でオヤビッチャの餌食になり、
昼に下げ潮になってからは磯が低くて滅多に上がることのできない1級磯、ここで釣れなければお手上げだと船長に言わしめる「カジ」に替わったそうだが、沖ではメーターオーバーのハマダツを筆頭に大小様々なダツ、手前では数に物を言わせて水面を割って飛び出してくるブルーのアイゴとムロアジに苛められ、尾長と口太の27cmをそれぞれ一枚ずつ釣るのがやっとという体たらくだ。

ただブルーのアイゴ、標準和名ではセダカハナアイゴというそうだが、あれは流れの中を張って流したら次々とヒットして、27〜30cmというサイズながら強烈なパワーで走り回ってなかなか浮いてこなくて結構楽しめた上に、味は普通のアイゴとそんなに変わらなかったそうだ。
ヤツめ、調子に乗り過ぎてあの毒針にでも刺されていたら面白かったのにな。

この日は周辺の磯でも沖での船釣りでもサッパリ釣れていないという酷い潮ではあったそうだ。
風雲児があのエリアに行くと必ず潮が逆になるという話だが、俺は一日釣りを見ていたから分かるさ、例え最高の潮が流れていても、あんな下手なヤツにグレなんぞが釣れるはずがないってことがな。

まあ、そうしょげずにまた来てくれよ。
その時は旨い食い物をドッサリ持ってくるのをくれぐれも忘れるなよ!
午前中上がっていた大バエ。
            山の上に下川口のホテル?が見えます。
竜串随一の名礁・カジ。
       磯が良くても、上がった人が悪けりゃ・・・

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