風雲児  烈風伝
     ・ありがとう日高川 南釣具店 最終釣行

2008年 12月8日  和歌山県御坊市・日高川河口域
半月ほど前、何気なく眺めていたテレビの釣り番組でキャスターが発した「南釣具店が来月・12月12日をもって店を閉じる」という言葉に私は耳を疑い、そして狼狽しました。

和歌山県御坊市にあるこの店は、日高川最下流の河川内で「カセ釣り」をさせてくれる唯一無二の店。
ダンゴを使ったチヌ釣りも盛んですが、南釣具といえば特に有名なのが、活きエビ断続的に撒き続けて釣るエビ撒き釣り!
日高川の河口は非常に魚種が多いのが特徴で、汽水に息づく魚たちは言うに及ばず、ヒラスズキやコショウダイ、コロダイやアイゴ、ハモなどといった魚達までも河川内で釣ることができ、メッキ、ハネ・スズキ、チヌ、キビレ、キス・・・と多彩なメインターゲットで年間を通して賑わっていました。

私もこの釣りに魅せられた者の一人。
高校生の頃には電車を乗り継いで行き始め、関東に「留学」していた大学時代など、埼玉のアパートから兵庫の実家に帰省する際には東京発姫路行きの夜行バスを尻目に和歌山行きの方に乗り込んで、ここで釣りを楽しんでから電車で実家に向かうのが恒例のルートでした。

この南釣具店での何が掛かるか分からないエビ撒き釣りは私の釣りの原点の一つなのです。

そんな日高川も磯釣りを始めてからというものすっかり足が遠のいてしまっていましたが、こうなったからにはもう一度行かずには終われません。
実に10年ぶりの挑戦です。

予約を入れた時に状況を聞いてみた所、メッキはどうやら今年はハズレ年で良い釣果が聞かれない代わりに、なかなか良いサイズの、しかも相当に旨いアジが釣れているということでしたが・・・


          北野さんの親船に曳かれて出発!
辺りが急速に明るくなっていく6時半、店舗で乗船手続きをして料金を払います。
そして土手を下ったところにある船着場で船頭の北野さんに「メッキ狙い」と対象魚を告げて、ズラッと並んだ定員2名の小船(カセ)に道具を積み込んだら、アンカーロープを親船に引かれて出発です。

ポイントまで来たら合図と同時にカセの後ろのアンカーを投入するのですが、その合図は岸を離れて十数秒後でした。
ロープがピンと張ると同時に母船が前のアンカーを投入。
川の流れと垂直に固定されたこのポイントは、岸から投げれば届く距離。ですが紛れも無くメッキの好ポイントです。さあ、岸からはできない釣りを始めるとしますか。

パラパラとシラサエビを数匹ずつ絶え間なく撒きながら並行して仕掛けの準備をし、竿に尻手ロープを結んだら順次投入していきます。
今回用意した竿は3本。
1本は8.6フィートのシーバスロッドでブッコミ釣り。メインである2本は小さい船でも取り回しがしやすい4,5mの古い波止竿で、道糸2号にハリス1.5号を1m、チヌ針1号を結び、サルカンの上に状況に合わせたガン玉を一つ打っただけのシンプルな仕掛け。
これを竿受けに掛け、竿先数メートルの流れの中で止めて、撒き餌に群がる魚達を迎え撃ちます。


本日のファーストヒットは3本の竿が出揃った直後。一番最初に投入した捨て竿扱いのブッコミの竿でした。
獲物はクロホシフエダイの幼魚10cm。最近汽水ではこればっかり釣っているような気がします。
続いてメインの波止竿が軽く引き込まれ、真鯛の幼魚が上がってきました。

やがて絶え間なく撒き続ける撒き餌が本格的に効きはじめました。
流れに逆らいつつも流されていくシラサエビに鋭く反応する魚達。表層を高速遊泳する15cm程のイケカツオの群れです。
この魚はカツオという名前が付きますが、実態は「ハリアジ」という地方名を持つアジ科の魚。
それが2本の竿に次々ヒットするのですが、ヌルが凄く、針状の背ビレが痛く、身が非常に薄くてこのサイズだと食べる所が無いという魚なのでかなり邪魔です。

              イケカツオ
ここでの釣りは投入時にリールから繰り出す糸の量で棚を決めます。
イケカツオにしばらく手を焼いた後、狙いを深めに取って、撒き餌とのタイミングを計って流れの脇から潜行させていく作戦を取りました。
これである程度イケカツオをかわせるようになり、竿が大きなアタリを表現するようになりました。
待望のメッキです!悪いと言うてたけど居りますやん。サイズは何か小さいけど。

シーズン最終盤のこんな時期にも関わらずなかなか20cmに届きませんが、それでもメッキ、魚体のサイズを越えた気持ちのいい引きをガンガン味合わせてくれます。
          キイヒラアジ
メッキというのはいわゆるヒラアジ類の幼〜若魚ですから、よく見ると色々と種類が混じっているんです。
メインはやはりギンガメアジ。それに丸っこいロウニンアジ。オニヒラアジや胸鰭の黄色いカスミアジなんかもたまに混じってきました。
そして一際強い引きにちょっと戸惑わせられたのが23cmのキイヒラアジ(紀伊平アジ?)。初めて見る魚に喜びも大きい私はご存知ゲテモノ五目釣り師です^^

気が付けばイケカツオのアタリも姿も随分と少なくなっていました。
その代わりやってきたのがアジの群れ。
最初は15cmほどのマルアジの子でしたが、すぐに種類はマアジに変わり、18cmくらいまでのサイズが連発します。
釣れてくる割合もメッキ1に対してアジ3くらいにたちまち急上昇。
このマアジ、大き目のやつはクーラーに納め、小ぶりなのはリリースしていましたが、いっそこれを切り身にして使ったら何かいいもの当たるかも!?
すぐに捌いてメインロッドの針に刺して投入。目論見は1分もしないうちに当たりました。
前アタリを見送って、ググッと大きく押さえ込まれたのを見逃さずアワセ!
アジの切り身を頬張って水面上に姿を現したのは・・・・ 切り身にする前のアジと同じサイズのアジでした(ガクッ!)

昼前になると流れが変わって撒き餌も仕掛けもドンドン手前に流れてくるようになりました。
この釣り場はこういうときの対処がカンタン。釣り人も竿もくるっと回れ右をするだけでOKです(笑)
上流向きの正面には天田橋(あまだばし)の橋脚、船べりから身を乗り出して川を覗くと、真下に捨て石が見えます。
そして撒き餌を追うマアジの姿。

メッキはほとんど忘れてしまった頃に来る程度ですが、マアジは相変わらずの釣れっぷり。
しかもサイズが一回り大きくなり、20cmを越えるサイズが高確率で混じるようになってきました。
体重は軽いものの、豪快な底への突進に「おおっと〜っと!」とついつい声が漏れてしまいます。
2本の波止竿が替わりばんこに水中に突っ込むので、昼食のパンを齧る暇も、お茶を口に含む暇もありません。
船上で暇そうにしている物といえば、アジの片身を付けてブッ込んでいる捨て竿のシーバスロッドのみでした。

このブッコミ、エサをいっそ活きアジに替えてしてしまおう。
アジの尾鰭と片方の胸鰭をカットして針に掛けて投げ直している、そんな時でした、船上にガタガタと大きな音がしたのは。

振り返ると、竿掛けに掛けられたメインの波止竿がバットの部分から水面下に突き刺さっています。
そして竿尻が大きく跳ね回り、船板を踏み鳴らしているではありませんか。
付けてて良かった尻手ロープ!
ルアーロッドを放り出してやり取りに入りますが、メッキのように引きは強いのに魚は軽いなんてことはありません。重量感のある抵抗にドラグがズルズルと滑ります。
右へ左へ数回締めこんで、獲物は水面下を横滑りするようにゆっくり浮いてきました。
なんだこりゃ?茶色い。平たい。おおっ!これはヒラメじゃないですか〜!
慎重にタモ入れしてフィニッシュ。
船板の上で大暴れして竿やら針外しやらを弾き飛ばす42cmの天然寒ビラメ、勿論〆て血抜きしてクーラーへ直行です。
一晩寝かせて熟成させて、明日は刺身だ!皮・肝・胃袋の湯引きだ!アラの潮汁だ!!と一人ニヤける船の上。

ヒラメが暴れた後もアジは引き続き釣れ続けています。(メッキは25cmのギンガメアジを最後に20枚を超えた所ですっかり止まっていますが)
こうも次々釣れている状況では、そのアジのアタリが遠のいた瞬間はいやが上にも緊張し、ワクワクするものです。
結局は何も起こらないままアジの群れが戻ってくるばかりだったんですが。

3時前に再び流れが下流を向いたので私や竿も反転、その直後!
相変わらず動きの無いまますっかり忘れ去られていたシーバスロッド、ヒレの一部をカットして動きを弱めたアジを泳がせていた呑ませ仕掛けの道糸が突然、沖に向けて猛スピードで走りだしました。
緩々のドラグは唸りを上げて糸を吐き出し、竿がズルズルと動きます。船の金具に繋いだ尻手ロープが張り詰めます。
伸びていく道糸の先の水中から、大きく川面を波立たせて、激しい水音と共に黒いものが一直線、鋭角に飛び上がりました。

黒いものはドンドン加速して大空へ!高らかな羽音を響かせて!?
・・・ウ?? そうなんです。 潜水していた鵜が針に掛けて泳がせていたアジを捕らえたのです。
やめろ!やめてくれ!! 辺りを構わず思わず叫んだ言葉が通じたのか、すぐに針が外れてくれてやっと安心。
これまで私はカモメ、チドリ、鴨、果てはタナゴ釣りの外道で口掛かりしたギンヤンマなど空を飛ぶものも狙わずして色々針に掛けてしまいましたが、こればっかりは本当にビックリしてヘナヘナと力が抜けてしまいました。

しかし今は脱力している時ではない!最終の4時半まで1時間半、気を取り直し、悔いを残さないよう完全燃焼だ!
実はそこからが凄かった。

マアジは更にサイズアップ。掛かってくるのはほとんどが元気一杯の25cm近いやつになりました。
1号の波止竿が竿尻が浮く勢いでズドン!と突き刺さり、締め込みをいなしてアジを船上に放り上げると、その針を外す間もなくもう片方の竿がズドン!
その竿にアワセだけ入れておいて、船上のアジを針から振り落とし、エビを針に刺して投入すると同時にやり取りを再開して掛かったアジを放り上げます。
その針を外す間もなくもう片方の竿がズドン!
片方の竿にアワセを入れた瞬間にもう一本にアタリがあり、両手に竿を持ってアワセを入れるなんてこともザラでした。

もう止まりません。
まるで紀州雑賀の鉄砲傭兵軍団の間断ない射撃を浴び続けるようなマアジの嵐です。
そういえばメッキはどこへ行った?スズキ一族はどこに居る?
最早そんなことはどうでもよく、私はこの刺身に良し干物に良しアタリも引きも快感この上ないアジの嵐に完全に酔っておりました。
体が休まる暇なんてありません。二本の竿が休まる暇なんてありません。アジを一々クーラーにしまう暇なんてありません。
ついに4時半、最後の一本の竿を片付ける瞬間までこの嵐は続いたのです。

フラフラに疲れました。でも本当に楽しくて仕方のない釣りでした。
何でこんな素晴らしい釣り場を忘れていたんだろう。
磯ばかりではなくこちらにもたまには足を伸ばしていればよかったのに。


最後の竿を片付けると親船がすぐに迎えに来てくれました。
なんせ船着場からポイントまで十数秒ですからねえ。

 神戸ナンバーの常連さんのヒラメ。エビでヒット!
川岸でクーラーの中でアジに埋まった42cmのヒラメを掘り出してみせて「やりました!」と船頭の北野さんに言っていたのですが、もっと下流に入っておられた神戸ナンバーの常連さんのカセの中を見てビックリ仰天。
船底に薄く水を張って、クーラーに入るわけもないでっかいヒラメを泳がせているではありませんか!
さらにクーラーの中には30cm近いキスやら、立派なキビレやら、25cmクラスのメッキが何枚も。
最後の最後にこの釣り場の底力を改めて知らされることになりました。

そして別れの時間。
北野さんの「また来てくださいね と言えたらええんやけど・・・」という言葉が寂しかったです。
店を閉じられるのはスタッフの皆が老齢に耐えられなくなったという、どうすることもできない、仕方のないこととはいえ、
魚種豊富な河口でのカセ釣りという、ここにしか無い釣りを楽しめる場所、それに何よりも大好きな釣り場が無くなってしまうのがこれほど悲しいことだったとは。

しかしこの場所で繰り広げられた釣りとスタッフの皆の笑顔は幾千の釣り人の心から消えることはありません。
南釣具の皆さん、北野さん、お疲れさまでした。いつまでも元気にお過ごしくださいませ。
そして、心より、ありがとうございました。
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