風雲児  烈風伝
   ・時化男、再び思い知る。 風の島の底力を!

2009 3月20〜21日  高知県沖の島
・風が見える島・沖の島。白岩廻り宮の下。
この春の3連休の沖の島は石鯛真っ盛りでした。
一方、グレの方は、尾長はともかく口太が産卵中で連日ほとんど釣果の無い状況です。
躊躇はしたのですがそれでも19日、仕事が終わって一息付いたら早めの出発。

日付が変われば瀬戸中央道が1000円に、その次の週からは高速道路の大部分が1000円になりはするのですが、そうなると爆発的に車が増え、ETCを付けていて土日が休みの人だけが受けられる恩恵と引き換えに全国で事故と渋滞の嵐が吹き荒れるでしょうし、釣り場も人で溢れてしまうかもしれません。
のんびり行くなら今しかないかも!ってことで、まだ車も疎らな高速を須崎東IC目指して走りました。
ま、わたしゃ天下り団体にセットアップ料なる上納金を払ってないからETCは動きませんしね(それ以前に機械自体持ってませんがなっ!)

大豊辺りから遭遇した雨は宿毛・片島港に停泊する金子渡船に乗り込んだ時には既に上がっていました。
となると、代わってやって来るのは北西の風。
大阪から来られたという底物師のKさんと船内で談笑しているうちに到着した本日の磯割り・白岩エリアの沖では予定通り、その風が不気味に吹き荒れつつあったのです。
              宮の下の眼前の弘瀬集落。

低気圧の残したうねりを避けながら、岬の南向き、ヒナダン、クド・・・と、足場の高い所を選んで次々と着けていく金子渡船。
弘瀬港の目の前の「宮の下(白玉バエ)」ではKさんと私の名前が呼ばれ、Kさんは沖向きに、私は弘瀬港向きにそれぞれ渡礁しました。

右側(小島側)から風が吹き続けていますが暴風釣り師・風雲児にとっては取るに足らぬもの。
荷物を飛ばされないようにだけ注意して準備を進めていきます。
今回の磯は見るからに口太場、1,5号の竿に1.7号ハリスでいいかな・・・
その口太もとにかく食ってないという情報だったので、何の期待もせずにとりあえず2ヒロのウキ下でG2を投入。

数投後には反応が出始め、ヒットが次々と続きます。
・・・ウミスズメ(角の生えたハコフグ)の。
ハリス切れも引っ切り無しです。
・・・キタマクラに食われて。

右からの遅い潮に乗せて船着きと「小島」との間の水道からウキを流し込んでくると、足元の小さなサラシの吸い込みでジワジワ〜っとウキが加速しました。
小気味よい引きをみせて浮いてきた尻尾の白い魚、口太グレ!
27cmですがこれは嬉しいクリーンヒット。時期的にこれが唯一のグレになってもおかしくないので〆てクーラーへ。

段々風が強くなってきました。
横からの風に加えて背後の切り立った白岩廻り特有の、上下方向の風が吹き降ろし吹き上がり、回収中のウキがまるでスーパーボールが弾むかの如く大きく上下左右に踊り狂っては竿に絡みつき、イライラを募らせていきます。
さらにポイントにウスバハギの団体が到着したこともあって、なかなかに難儀な釣りを強いられることに。

そのウスバを1枚掛けた直後、目の前の弘瀬港から姿を現した早めの弁当船で、同じ宮の下の沖向きで真正面の風に苦しまれていたKさんが替わってこられました。
この磯、底物に使えそうな所は船着きくらい。私は奥に移動して釣りますが、左へ流れていた潮が反転したのも悪いのか結果は出ず、気分転換を兼ねて早弁です。

      ヘダイ(平鯛) 47cm
あれこれ飛ばされながら弁当を平らげ、腹も膨れた所で釣り場に戻ってみると再び潮が反転してました。
15mほど沖にウキを入れて撒き餌の集中砲火で囲んでみると、ウキがジワジワと!
少し待ってアワセを入れるとかなりの重量感に竿が大きく弧を描きました。
闇雲に突進するわけでもなく、ゴゴッ、ゴゴッとその場で頭を振るばかりの感じですが、魚は全然浮いてきません。
それでも大きく竿を曲げ、膝を曲げてしばらく締め上げていると敵はすっかり観念して水面に姿を現しました。
「あっ?マダイ!・・・いや違う、ヘダイや!」 47cmの良型に笑顔がこぼれます。

一方、船着きのKさんの方はすでに竿を畳んでおられました。
釣り座の5mばかり横では、風の姿がくっきりと見えているのです。小島との水道を細かく白い水しぶきが爆音を響かせながら彼方へと飛び去っていきます。
アタリも取れずにKさんは11時ごろ、珍しくこんな時間に見回りにやってきた渡船に飛び乗って宮の下を離れていかれました。

船長の磯替わりの誘いを蹴ってKさんと入れ替わりに船着きに戻った、朝のグレと先ほどのヘダイに気をよくしている風雲児。
思えばこの時、姫島へと向かったあの船に乗り込んでいれば・・・。(Kさんは結局、姫島に着く前に船酔いでリタイヤだったそうですが)

再び一人になった宮の下は、想像を絶する修羅場になりました。
風は更なるクレッシェンド。跳ね飛んだ海水の竜巻の群れが海面を浜まで滑っていきます。
吹き降ろした風が海面にぶち当たって青黒い風波を生み出し、四方八方に巨大なマグロの群れが全速力で獲物を追うかのごとく駆け抜けていきます。
ウキはまあ流せるのですが回収ができません。
空中で予測不能に大きく跳ね回るウキを取ろうと竿を風上に倒そうとしても、まるでキバンドウ(ヒブダイ)でも掛かったかのごとく大きく竿が曲がり、そして動きません。
何度も何度も風にのされそうになりながら仕掛けを回収して再び投入してもサシエは一瞬でエサトリの餌食、そしてまた風のキバンドウとのやり取りです。
1時間半ほどの間にいったい何十匹の風のキバンドウと戦ったことでしょう。
腕はあっという間にパンパン、仕事帰りに夜通し走ってきた疲れも重なってフラフラ、竿もこのままでは風とウキと糸の力で折れてしまうことでしょう。
12時、納竿まで3時間を残して風雲児、KO。 魚は居るし、波の心配も全く無いのにも関わらず。
風に対する耐久力には絶対の自信を持っていた百戦錬磨の爆風釣り師が、まさかここで風に膝を屈するなんて・・・。

その夜は弘瀬の金子旅館で一泊。
12人の釣り師が上物・底物の垣根を越えた熱い釣りの話で、初めて会ったとは思えないほど大いに盛り上がり、期待通りの美味しい料理と、女将さんの人柄とを合わせた楽しい一夜で心も体もリフレッシュして、明日の姫島での釣りに備えたのです。

・一転ベタ凪ぎ、三ノ瀬スクモ
翌日は一転して風が治まっていました。
宿毛から底物師1名だけを乗せてきた渡船は一直線に姫島へ。
カメとマサバエに上物師、名礁・一等席や南のハエには勿論底物師。
私は45cmクラスの尾長やシマアジが釣れていたという情報をキャッチしていた高バエへの渡礁を望んでいましたが、船長は「三ノ瀬が空いているから行きますか?」
はい。「三ノ瀬」という言葉の魅力にあっさり負けました。

姫島から三ノ瀬へと向かう船の中でハッと気付いたとおり、船が着いたのはやっぱり三ノ瀬スクモ。
ま、連休ですし、割り込みですし、三ノ瀬の番号付きやトンギリなんかが空いているわけ無いですよね。今日の尾長の可能性は消えたな・・・。

三ノ瀬スクモという磯は尾長が出ない代わりに口太やイサギの釣り場としては本当に素晴らしいフィールド。
しかしながら口太が産休でほとんど釣れていない状況でのここはどうなんだろう?と、私はあまり期待もせずに勝手知ったるこの磯の左手足元のポイントへと、船長のアドバイスどおり2号のハリスを張ったウキ下2ヒロG2のパイロット仕掛けを投入したのです。

その1投目は6時45分ごろだったでしょうか。
すぐにウキがジワッと沈っていきます。あれっ?何か調整を間違えたかな?と引き上げてみるとエサがない。
すかさず2投目。
ウキを乗せた左への緩やかな潮と磯際の小さなサラシが出会った時、またウキがゆっくり海中深く引き込まれていきます。
今度はじっくり待ってからアワセ!竿にグッと爽快な重量感が伝わります。
余裕を持って船着きにまで竿で引き回し、タモに納めてフィニッシュ。40cm手前の口太グレだ!
エサトリが沸く前、朝一番が勝負だとは思っていましたが、それでも本命のいきなりの登場は想像もしていませんでしたよ。

それから2投目、再び磯際でウキが入り、35cmほどのグレをタモに納めました。
居ますやん!居ますやん!撃沈の予感がまさかの展開。

撒き餌の量をセーブして食わせすぎないよう注意しながら攻め続けていると、程なくまたまたヒット。
たっぷり抱卵しているのでいつものような突進はないものの、その重量感を生かして抵抗してくる40cm弱の口太。
入れ食いじゃないか〜!!

勢いに乗っての試行錯誤で少し沖を狙ってみますがこれはダメ。アタリが出ずにエサが無いことがあるのでウキ下を浅くしてみてもグレは来ず。
どうやら磯の壁のオーバーハングにでも潜んで大きくは動かない様子です。

   ソウシハギ。 食べないのが吉!
それなら徹底的に際狙い!と思い定めた一投でまたしてもアタリ。
しかし上がってきたのはミギマキで、お約束のアタリ停止タイムになりましたがそれも僅かな時間のこと。
ハコフグ、シラコダイ、カゴカキダイ、シテンヤッコなどが奪い合っている竿2本ほど先の撒き餌へ、今まで動いていなかったグレが磯際から行きつ戻りつしているのが見えたので、その通り道に仕掛けを滑り込ませて33cmを追加。

その後は赤ブダイやら、キツやら、色々と。
薩摩硫黄島では苦しめられたソウシハギ(シガテラ毒魚)なんかも、なぜか鵜来島の柴田渡船が三ノ瀬エリアに乗客を降ろしているその間に、ろくに引きもせずにタモの中に納まっては、再び海へと投げ込まれていきました。

予想通り、味も最高だった40cmのイサギ。
こんな時期なのに大きな真子を
持っていました。
初めて食べた生肝の旨さにもビックリ!
釣り座から左へ、緩やかな本命潮が流れ続けています。
8時45分、その潮に乗せて先ほどからよく当たっている左のシモリに流し込んでいくと、またしてもウキがスルスルと吸い込まれました。
アワセを入れると同時に襲い来る、今日の抱卵グレとは全く違うシャープで力強い突っ込み!
竿が大きく曲がり、明らかに緩め過ぎなれどグレでは全くビクともしなかったリールのドラグが勢いよく糸を吐き出します。
慌ててドラグノブを締め直し、根から引き離してからゆっくり浮かせましたが、上がってきた魚の姿を見たら私は途端に慎重になってしまいました。
上がってきたのは、体型を一目見ただけで生唾が沸いてくるかのような40cmの見事なイサギでしたもん♪

直後、30cm後半の5枚目のグレを追加しますが、イサギの前ではすっかり霞んで見えてしまって・・・(笑)

その後は潮が引いたのが原因なのか、本日2枚目のミギマキ以降エサトリ以外のアタリは遠のき、磯にゆっくりした時間が流れます。
11時16分にこの日最長寸となった40cmの口太を追加した他は、シモリの沖でコッパグレと、磯際でウツボを掛けたくらいのもの。
そんな状況で迎えた3月21日正午ごろ、遂に本日の「その時」がやってきたのです!

突発的に合わせる撒き餌の量を増やして、磯際とシモリの間の溝にできた小さなサラシを攻めていた時、シモリの駆け上がりと重なっている白泡の切れ目でスパッ!とウキが消しこみました。
アワセ! ・・・しかし感じた重みは僅か一瞬でした。
残念、外れたか。 回収した針にボイルを刺そうとしてビックリ。
速攻グレX7号が、見事にクシャッと潰されています。

すぐに針を結びなおして同じ所に仕掛けを送り込むと、馴染むが早いか、水煙を立ててウキが稲妻のような速さで真下に消えました。
同時に恐るべきパワーに襲われる体と竿。魚は磯際へ一直線に突っ込んでいきます。
膝を曲げ、必死に竿にしがみつく私。限界までバットを曲げられてミシミシと音を立てるツインパワー2号。
ダメだ・・・折れる・・・
先ほど締めこんでしまったドラグは動いてはくれません。必死で握りこんでいる指はどうしてもレバーブレーキから離れてくれません。
やられる!!
最悪の結末が頭をよぎった刹那、左手が反射的に動いてくれました。 ベールオープン!
瞬間的に魚の動きが止まりました。が、次の瞬間、方向をシモリに転じて再び、フルパワーの突進!
しかしこちらも竿と体と心を立て直しています。万全の体勢でその突進を受けて立ちます。
火花を散らす力と意地!

それでもどうすることもできませんでした。
2号と2.5号の直結部分、トリプルサージャンスノット(松田結び)が飛びました。
石鯛だったんでしょうね。いいサイズの。沖の島は大型が連日上がっている状況でしたし。

昼を回ると南風が吹き始めました。
前日とは全く比べ物にならないけど、ドンドン釣りづらくなっていきました。
船長によるとこの磯は潮が上がってくるとさらに面白い釣りができるとの話でしたが、南風が吹き始めると同時に水温が一気に下がったのか、エサトリすら見えない状況になってしまいました。
止めは潮に乗ってやってきた巨大な海亀。
すぐ沖で顔を上げ、両手をパシャパシャと振られてはどうしようもありません。
午後からは釣果の無いまま2時半過ぎに迎えの船へ。

スクモを離れた船は三ノ瀬4番とトンギリにホースヘッドを押し付けて、姫島から替わってきた上物師を回収。
おいおい!今日は3連休の中日だというのに三ノ瀬はここまで空いていたのか・・・
未だに一度も乗ったことの無い三ノ瀬の番号付きとトンギリ。撒き餌に乱舞するという尾長の姿をこの目で見るという夢と合わせて本当に叶わないものですねえ・・・。なんて言いながらも本日の釣果と磯には大満足です。
「沖の島案内」の情報には載りませんでしたが、この時期にも関わらずのグレ6尾という釣果は沖の島海域でもどうやら竿頭だったような感じです。
いったい何の間違いなんでしょう(笑)

ちなみにトンギリでは尾長に一発やられたそうです。
また姫島のカメではヘダイをタモ入れしたところ、サメに網ごと食いちぎられ、タモの柄でやり取りさせられて海に引きずり込まれそうになったんだとか・・・。
沖の島恐るべし。

釣り人たちでごった返す片島の港で、宿や磯で楽しく過ごさせてもらった方々や、船長、釣行を知ってわざわざ会いに来てくださった「だいきち」さんに再会を誓い、やがて走り始めた帰路。
私にはその車窓の風景に、いくばくかの時間の後、再び島へと向かう自分の姿が重なって見えていたのです。
    三ノ瀬スクモの船着き。  背後はイワツバメの飛び交う三ノ瀬本島。
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