風雲児  烈風伝
 ・ビッグサイズを夢見て。 〜橘浦のかかり釣り〜

2012年 9月28日  高知県橘浦
・釣行計画は急展開
 平成24年5月21日、日本中が金環日食に沸いた日、私は新たな釣りを知りました。
 高知県大月町の西海岸にある小集落・橘浦から出船し、湾内の小割り(養殖イケス)から伸びたロープに船を固定して釣る、橘屋の「かかり釣り」です。

 マダイ、青物、グレ、イサギ、シマアジ等のビッグサイズでイケスが埋め尽くされるという噂に胸を高鳴らせて挑んだその日の私の釣果は、42cmまでのマダイ4枚と、同サイズのカンパチというもの。
 いい釣りをしているのですが、それでも期待が高かっただけに、心から納得できるような釣果とは言い難く、船から下りたときにはもう、再戦の計画を練っておりました。

 ここの船の借り賃は1艘12,000円なので、一人で行くには辛いけど、3〜4人で行けば非常にリーズナブル。
 ということで、これまでイイダコ釣り等でお世話になっている岡山の船釣り師・ボロ船222号さんに声を掛けたところ、「仕事が落ち着く秋に連れてって〜!あと2人メンバーを揃えるわ〜!」とトントン拍子に釣行が決定。
 6月には船の予約、8月には宿の予約を入れて、定期的に釣果や仕掛けなどの情報を船長から収集しながら、準備を進めていきました。
 釣行日がゆっくりと、着実に近づいてきます。
 
 釣行5日前。日本列島に、2つの脅威が迫っていました。
 相変わらず自分たちと官僚と大会社の上層部等以外に国民なんて居ないと考えているとしか思えない愚かな議員連中とか、強盗のような連中とか、劣等感をプライドと取り違えてしまった哀れな連中とかに蚕食されるこの国に襲い掛かろうとする、2つの台風です。

 西に17号、東に18号。特に17号は最大瞬間風速85m、一時は900hpaを切ろうかというまでに発達した猛烈な台風で、28日に先島諸島、29日に沖縄本島を経て、30日には土佐沖に達しようとしているのですから、29日の釣行は退路のことを考えるまでもなく、中止にするしかありませんでした。

 でも、28日の金曜日ならやれるかも!
 釣り場は北向きに開いた湾の中なので、南のうねりであれば4mだろうが5mだろうがベタ凪のままです。その分、北系の風には非常に弱いのですが、東の18号は予想外に発達しなかったため、その心配も不要のようです。
 しかも、私はその日に、たまたま夏季休暇を取っていましたし、さらに、一艘しかない橘屋の船を予約しているのは香川のタマメさんとその友人Sさんという、「天の与うるを取らざれば反って其の咎(とが)を受く」という状況です。
 「私も混ぜてくださ〜い!」「もちろんOK!」というやり取りで、当初の予定より一日早く出撃となりました!(ボロさん!次回の釣行のために情報を収集してくるからね〜!)

 その道中で聞いていた野球中継では、ルーキーの伊藤隼太選手がプロ初打点・初本塁打となる満塁ホームランをかっ飛ばし、低迷する阪神が珍しく大勝。我々にもあんな胸のすくような一発が出ればいいのですが。
 
・出港!
 さて、無事橘浦へ到着です。
 橘屋の営業時間は日の出から午後4時ごろまでならいつでもOKとのことですので、6時ごろ、船長の操縦で出港しました。

 ピリリと澄み渡る朝の空気の中、海はあくまでも穏やかで、桜色に縁取られた水平線に、薄紫色の宿毛の山々や鵜来島、姫島などが静かにその身を浸している ― そんな橘浦湾の湾口、水深40mの場所が今回のポイントです。
 船長は手早く、父親所有の養殖筏から伸びたロープにフックを引っ掛けて船を固定し、別の船で港へ帰っていきました。「子どもを送ってからまた来ます」という言葉を残して。
 
猛烈な台風接近中。この日の高知県西部の
波高は、4mうねりを伴う。
でも、橘浦には関係なし。
 さあ、夢満載のこのフィールド何を狙おうか。
 釣行日現在、ネット上にある橘屋の情報は私の釣行記オンリー。ですので、釣果情報などはお膝元の釣り仲間からのルートを除けば、船長に聞かねば手に入りません。
 その船長の話によると、9月初頭は4〜5kgのハマチや3kgクラスのカンパチが爆釣!ということでしたが、最近はパラパラとしか出なくなり、代わりにマダイの80cmクラスが上がっているということです。
 それでもタマメさんとSさんは青物にこだわり、私は大マダイにこだわってみることにします。それぞれが自由に楽しめるのがこの釣り場の魅力ですから♪

 マダイ釣りには全国各地に無数の釣法がありますが、私が選択したのはテンビンズボ。関東の船釣り師が言うところの「コマセマダイ」釣法です。関東に留学していた時にやった記憶はすっかり薄れてしまいましたが、新たに本を読んで勉強してきたので、凡そのところは合っているはず・・・。

 HX剣崎30−270という古い竿とデジタナ小船をライトラーク(船べりの構造上、本来の縦取り付けができないので、横付けに組み直し、製材業者でもらってきた端材を副えて固定しています)にセット。PE4号にテンビン+3mmクッションゴム、ラークカゴL寸にオモリ40号、ハリスは8号を4ヒロ取って、マダイバリ10〜12号の一本針仕掛け。撒き餌はオキアミ生と赤アミ、サシエはオキアミの生とボイル、スーパーで買ったロールイカ、冷凍剥きエビを用意していますが、やはり最初はオキアミで様子を見てみることにします。

・時合いは船長とともに
 事前に船長から聞いていたマダイのタナは30mくらいと言うことでしたので、水深33mくらいまで落としてからしゃくり上げて狙ってみると、2投目からサシエが取られ始めました。
 それからというもの、ボイルだろうが、イカだろうが、ムキエビだろうが、手にも竿にも僅かな感触すら伝わらないままに消え去っていくばかり。そんな状況が約2時間続きました。

 船長曰く、アジなどのエサトリが多い状況においてのマダイの特効餌は、浜の石の下にいるような小さなカニなんだそうです。
 8時過ぎ、待望の特効餌を入れたバケツと、竿を手にした船長が船に飛び移ってきました。
 今日のエサトリはどう考えてもアジでは無いという事に不安を覚えつつ、早速ハリに刺して投入してみると・・・やっぱり、戻ってくるのはよくて甲羅の一部だけですか・・・。

ファーストヒットはタマメさん。
獲物は73cmのハマチ(メジロ)!
船長も負けじと連続ヒット!
 生きアジを泳がせて青物を狙っているタマメさんとSさんの方も、アタリは全く出ていませんでした。
 タマメさんはここまで、中通しオモリを使った仕掛けを用いていたのですが、船長のアドバイスを受けて三又サルカンを使った捨てオモリ仕掛けに交換。
 
 「きたっ!」
 この日、初めてのアタリはタマメさんが手にしました。・・・が、これはアワセのタイミングを誤って掛けられず。
 
 その数投後、タマメさんのロッドに再びアタリ!タイミング修正は完璧で、今度はジギングロッドがバットから捻じ曲げられました。本日初の魚、それも青物です!その強烈な引きを満喫する時間は充分!何せ40mの海底近くから引き上げてくるのだから。タマメさんもしんどいしんどいと言いながらも、思い切り楽しんでます!
 8時23分、船長が差し出す手ダモの中に、水面に浮上してきた魚が収められました。後で計測して73cm、本命魚の一角・ハマチ(メジロ)です。船上に最高の笑顔が輝きます。

 さあ、チャンスだ!
 数分後、次はSさんの竿が曲がりましたが、無念にもハリスがハリから抜けてしまってサヨウナラ。
 8時52分には、タマメさんがイギス(オオモンハタ)を仕留めました。サイズは40cmくらいですが、特に熱望していた魚とのことで大喜びです。
 
 船に乗り移ってきて以降、一緒に釣りを続けている船長も負けてはいません。軽いオモリの仕掛けを使ってカニを落とし込み、43cmのヘダイやイラ、小ぶりとはいえ本命のマダイなどを次々ゲットされています。

・沈黙の釣り師が一匹
 盛り上がる船中でただ一人、蚊帳の外に置かれている男がいました。
 開始から4時間半も経っているのにも関わらず、未だ一匹のエサトリすら針に掛けられていない状況、剰え、それらのアタリ一つ感じることすら未経験という深刻な事態に、一人沈み込むしかない風雲児です。
 サシエにカニを使うことで急激に甘くなるハリは頻繁に交換、仕掛けも二本針に交換するなどして攻めてみるのですが、竿先は小さな波にただ、お辞儀を延々と繰り返すばかり。

 上から攻めてもダメだし、狙いのタナで直止めしてもダメ。今度は久々に下からも攻めてみるか・・・。
 10時44分。その時の私は海底まで仕掛けを落とし、大きく竿をしゃくり上げていました。
 竿はオモリとカゴの重みで大きくしなり、オキアミと赤アミが海底付近に振り出されていきます。するとそのしなりが復元せず、逆に海中に突き刺さっていくではありませんか!私は一旦飲み込んだ息を慌てて吐き出し、「きたっ!」という声に変換しました。

 魚は何度も強烈に突っ込み、竿を船べりに張り付かせんばかりのプレッシャーをかけられてきますが、そこは船釣りでのやり取りです。難易度は磯釣りの比ではありませんし、フカセタックルなどとは頑丈さも桁違い。私は無理をせずあしらって、着実にラインを巻き取っていきます。
 格闘しばし、タマメさんが出してくれた手ダモでフィニッシュ!
 こうして、多数のキビナゴと1尾のアジを胃の中に収めながら、ついつい反射的にボイルオキアミを食ってしまった不運な
開始4時間半にして私にも初のアタリが。
60cmのカンパチにホッと一息。
場所柄、脂が乗りすぎではありましたが、
刺身にヅケ丼、アラの塩焼き、潮汁。
胃や腸はスルメ風味のホイル焼きに〜♪
60cmのカンパチが、終焉までの4時間あまりを船の活け間の中で過ごすことになってしまいました。

 その後しばらく私の竿にアタリが出続けました。ボイルでも、生でも、ムキエビでも、ロールイカでも、コツコツ、コツコツと小さく、しかし明確なアタリが、海底近くから伝わってくるのです。
 しかしながら、これがなかなか掛かりません。何度か目にようやく竿が引き込まれたものの、リールのハンドルを数回回す間にフックアウト。
 直後、餌をカニに変えて投入すると、やっとのことでフッキング。しかし、引きが強かったのは最初の一瞬だけで、後はスルスルと上がってきてしまいます。
 ロッドをホルダーに預けて、テンビンを掴み、ハリスを手繰り寄せます。魚の姿が水面下に姿を現したとき、タモを手にして駆け寄ってきたタマメさんが、「後は自分で掬うてよ」と言い残して釣り座へと去っていきました。
 ベラ科の魚・イラ(テス)、これが私を散々からかっていたようです。そして、これを釣り上げた後は、元通りアタリなど一切なくなってしまいました。

 タマメさん、Sさんの泳がせ釣りにも反応は全くなく、気分を変えてジグやタイラバを投入してみても状況は同じ。
 軽い仕掛けの船長も、水面直下でコロダイを一度バラシた以外にヒットは無く、11時半ごろ、ポイントの移動を決定しました。

・後半戦は湾内で
 後半戦のポイントは、前回と同じ湾内の小割りの横、水深約25mの場所。
 「ここのマダイは浅いタナに居るだろう。」自らの言葉を再開直後に証明してくれたのは船長でした。いきなり40cmオーバーのマダイが船内で踊ったのです。
 船長はこれで一安心したのか、しばらくすると船を呼び、乗り移って港へ帰っていきました。

 タマメさんは何と、開始直後に昼食を作り始めました。
 食材は、釣行前日に船長のお父さんが釣ってきて、そのまま活け間で泳いでいたアオリイカ。船長に言って1杯貰い受け、たちまち透明な活け造りにしてしまったのです。いや〜、磯では面倒でなかなか出来ない贅沢ですなあ〜。

 私の竿はまたしばらく、アタリを出さないエサトリに翻弄されるのみでしたが、13時前後に20cm後半のイギス(オオモンハタ)とガシラを相次いでキビナゴ餌でゲット。この調子でマダイも釣れてくれれば・・・と、撒き餌カゴのしゃくり上げにも力が篭ります。

待ち焦がれた本命がようやく登場。
この釣り場にテンビンズボは合っ
ていないのかな?
 そして13時半前、餌を振り出し、ロッドホルダーに預けたばかりの竿が、前触れ無しに海に突き刺さりました。
 「これはマダイですね。」根拠のない私の確信は、すぐに形となって現れました。タモに収まったのは紛れも無いマダイ。サイズは目標の80cm・・・より40cmも小さい40cmでしたが。

 この後はハリス8号の仕掛け中央を噛み切られた以外に目立った動きは無く、タマメさん、Sさんにもまた動きは無し。時間だけが流れていきます。そして当初からの予定通り、15時をもって納竿としました。

 マダイが3つ、ハマチが1つ、カンパチが1つ、イギスが2つにヘダイが1つ。これが今回の、船長を含む4人の釣果でした。
 獲らぬ狸のなんとやら。予定していた釣果とはえらく違うものになりましたが、そんな贅沢は言いません。満塁ホームランをかっ飛ばしての大勝にも憧れるけど、釣りにおいてはそれはそれで味気の無いものですからねえ。
 Sさんがバラシのみで終わってしまったのが残念ではありますが、釣りなんて心から楽しんだ者こそが真の勝利者。
 また行きましょう!気楽な船上で語り合いながら竿を出し、大物を夢見ることができるこの釣りに!

利用業者 橘屋
時間(目安) 5:00〜16:00(5月〜9月)
6:00〜16:00(10月〜4月)
料金 1隻(4人まで)12000円
駐車場 無料
宿/仮眠所 無し
*データは釣行日のものです。
間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

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