風雲児  烈風伝
 ・ターゲットはコッパグレ!? 干物を求め、彷徨う旅路

2012年 12月8日  高知県 藻津 → 周防形
・宿毛湾・藻津へ
 刺すような寒風が激しく吹き抜けていく季節、それは私のような素人にも極上の干物を作ることができる季節でもあります。

 干物とはただの保存食ではなく、魚介類をより美味しく味わうための調理法。
 上物師のメインターゲットであるグレという魚は非常に干物向きの魚であり、干物こそが20〜40cmくらいのグレを最も美味しく味わう方法であると私は固く信じています。
 私が作るその干物を心待ちにしてくれている人たち ― 職場の仲間たちの期待とに応え日々の感謝を表すためにも、何よりも自分自身が大好物を味わうためにも、私は今回、「23〜32cmくらいのグレが数釣れる場所」を第一条件に釣り場を選択することになりました。そこに「リーズナブルかつ、磯の上で長時間楽しめる場所」という条件を加味した結果、全国屈指のグレの宝庫・宇和海ではなく高知県の釣り場の方に足が向いてしまっておりました。
 宿毛市の藻津(むくづ)の磯は、宿毛湾という高知県では例外的にグレの魚影の濃いエリアにある渡船区です。ここなら干物向きのサイズのグレがまとまった数だけ確保できることでしょう。

 この日は日本海に進んでくる低気圧が急激に発達し荒れてくる予報でした。しかしながら、仕事の関係で釣行が可能な日はこの日しかありませんでしたし、ダメ元で電話してみたフィッシング和竜の久保船長から「風裏なら行けるのではないか?」という回答をもらっていたので前夜、兵庫を出発したのです。

 11時ごろに通過した瀬戸大橋は風速3mでした。国道56号線を西進している間も風は穏やかでした。
 しかし、藻津の港に車を停めて、寝袋に潜り込んだ頃から西風が起こって捲(まく)りはじめ、早朝には船も車も大揺れとなっていました。
  6時半ごろ、2人組のイカダ釣り師を乗せた吉村フィッシングの船が港を離れた後も私はまだ岸壁の車の中。「明るくなるまで待って、様子を見てみよう」という船長からの電話で待機しているのです。

 まどろみの中、船のエンジン音が近づいてきます。

 「ありゃっ、戻ってきた・・・。」

 港に入ってきた吉村フィッシングの船の音に眼を開けると先ほどのイカダ釣り師二人が乗っているのが見えました。
 話を聞くと「イカダまでたどり着けずに帰ってきた。近くに住んでいるので、今日はこのまま帰る。」とのことで、そそくさと港を後にされました。
 
 7時前、すっかり明るくなった港の防波堤の外に白いものが見えています。それは大藤島(おとうしま)との狭い水道に押し寄せては、高らかに跳ね上がっては防波堤に降り注ぐ風波の姿でした。
 高知海上保安部のテレホンサービスによると「土佐沖の島灯台では、西北西の風14m」ですから、風自体はごくごく普通の状況。ですが、風向のいたずら、湾奥の藻津エリアでも船長たちの予測を超えるほどに吹き荒れるとは・・・。

 この状況では私もここの磯に出ようという思考は無くなっていましたし、船長もそんなことを考えようとはしませんでした。
 今の藻津はたまに40〜50cmのグレも混ざる好調ぶりとのことで、私の釣行を楽しみにしていてくれたと話す船長も目の前に風裏のポイントが見えているのに渡すことができないということに歯噛みしていました。

・周防形に転進
 さて、これからどうしたものか。

 そもそも今回は小グレの数釣りが目標ですから、御荘湾とか由良半島のこじんまりとした漁港でコッパグレを手堅く釣っていけば目標は達せられるのですが、今日は風向きが西進を躊躇させます。
 一方、南進すれば風の影響から逃れられる可能性が高まるのは海上保安部の情報からも明らかですが、グレの魚影は圧倒的に薄くなってしまいます。

 でもここまで来たのだからやはり磯に上がりたいものです。

 宿毛から近く、風には抜群に強く、時間に融通の効く場所となると・・・ そうだ周防形(すおうがた/そーがた)があるじゃないか!
 早速谷口渡船に電話を入れてみるとOKということで国道321号線を南下、7時50分頃に船に乗り込みました。

 藻津なら風裏なのに何で出なかったのかと首をかしげる船長が、「風が強いけん、限られた磯にしか上がれんけど」と言いながら渡してくれたのは西磯の奥まったところ。空撮にヨコバエとヨコマエという名前で載っている磯の後方にある「ハナレ」という場所でした。

 この「ハナレ」では自動的に右前方の「ヨコマエ」との水道か、左前方の「ヨコバエ」との水道、あるいはその合流点を釣ることになりますが、船長の言う本命ポイントは右の方。確かにこちらの方が潮も少しは動いているのですが、水面のトウゴロウイワシ以外に魚の姿がありません。ゼロスルスル、G5の沈め釣り、3Bでの深釣りと、手を変え品を変えて釣っても水面さえ突っ切ってしまえばサシエは全く落ちません。

          滝の下のある地磯と、ハナレ、ヨコバエ、ヨコマエなどの沖磯。
 結局、見回りの船が来るまでに竿が曲がった回数は2回で、どちらも本命ではない左側の磯際でした。
 そのうち1回は周防形名物の手のひらサンノジ、もう1回は深く入れいる時に当たってきた魚で、かなり強烈な引きを見せましたが体が反応しきれずにあっという間に高切れ。まあ本命ではなさそうな・・・。

 まだまだ水温が高い時期にも関わらず、まるで厳寒期のような状況なのは前夜に三陸沖で発生したM7.4津波付きの地震のせいなんでしょうか?
 ともかく、私は磯替わりの誘惑に負けて見回り船に飛び乗ってしまったのです。

・磯替わりという選択
 船上で、若船長は二つの選択肢を提示しました。
 「風は当たらないが、最近人を乗せておらず、状況が全く分からない地磯・滝の下」「風が当たるがエサ取りの姿が確認されている独立磯・滝の下の大バエ」のどちらに上がるかというものです。
 静かすぎる釣りに辟易していた私、珍しくサイズより数を最重視していた今回の私が選んだのは「滝の下の大バエ」の方。

 この磯のメインポイントは沖向きの低いところであるため、若船長の言葉通りに風が吹き付けてきます。
 しかしその風は体感10mを少々超える程度に過ぎませんし、ポイントに入れば風を背負うことになるのでタモなどの道具が飛ばされないようにさえ気を付ければ釣りに支障はありません。

 足元に撒き餌を入れながら釣っていると10分ほどで魚影が見えました。
 その魚は青黒く、尾鰭は白!私は「ヒャッハー!グレだ!グレだ〜!!」と奇声を張り上げたい気分(あんたは森長可か?)でコッパグレに目の色を変えて襲い掛かります。そして風対策で使っていたG2の仕掛けを浅いところに張り付け、20cmに届くか届かないかの本日初の尾長グレをゲットすると、今日ばかりはこれも本命ということで船着きのタイドプールに泳がせて、とりあえずキープしておきます。
 
 それから立て続けに同サイズのコッパ尾長を2匹をキープしたところで海の様子が変わり、撒き餌の周辺が青白くキラキラと輝きはじめました。
 そうか・・・。エサ取りとはこれだったのか・・・。一度は燃え上がった私の心が、厭戦気分に染まっていきます。

オヤビッチャ(スズメダイ科)
 足元から沖までを塗りつぶし、水面に体を乗り出して撒き餌を追う20cmほどのオヤビッチャの大群。ただでさえグレの魚影が薄い所に大挙してこの魚が押し寄せるということは、グレ釣りが不可能になったということを意味します。
 この状況では遠投も、大オモリでの深釣りも何の意味も持ちません。実際オヤビッチャの登場以降、フカセ釣りで釣ることができたグレは20cmの尾長1枚のみ。沖に撒き餌を大盤振る舞いした上でひっそりと磯際スレスレに仕掛けを入れてのヒットですが、それが通用したのも1投だけ。しかもタイドプールに投げた貴重な獲物は折からの強風に煽られ、どんな名投手にも投げられないような大きなカーブを描いて風下の海へと消えていってしまいました。

 悪いことは続くもので、船着きのタイドプールの魚を締めるために伸ばした右手によって腰にぶら下げていたナイフケースがバラバラになって落下したことを知り、足元で聞こえた「ジャラリン」という音によってこの1年で3回目となるピンオンリールのロープ切れを知り、釣り座に戻ることによって歴戦の撒き餌杓 ― 既に廃盤となっている手になじんだ撒き餌杓が風によって舞い上がり、遥か沖へと旅立っていったことを知りました。

滝の下の大バエ先端の釣り座。
天然のライブウェルがあるので便利。沖は古満目の磯。
 でも打ちひしがれているのは時間の無駄ですね。こうなったからには開き直ってオヤビッチャ釣りです。
 沖の島のソトガシラ周辺に居るような特大オヤビッチャならばどんな仕掛けにも掛ってきて、場合によっては分速3〜4匹ペースで釣り上げるのも容易いことですが、20cmに満たないオヤビッチャはエサばかり取って、なかなか針に掛ってくれません。
 そこで針を4号に落とし、撒き餌を遠投して沖に走らせ、さらに沖に投入していた仕掛けを止めずにゆっくり引き続けることで針掛かりさせていきます。こうして釣れた魚はタイドプール、そしてクーラーの中へ。あんな色だし骨も非常に硬いけど、オヤビッチャってかなり旨い魚ですからねえ。

 午後2時。3時に来るはずの迎えの船がやって来ました。
 状況によっては5時ぐらいまでできる釣り場なんですが、それもこれも他のお客さん次第のこと。単独行の私は磯の上の撒き餌を片付ける暇もなく船に飛び乗らざるを得ませんでした。(実は、船長から電話が入っていたのですが、風の音で全く気付いていませんでした)
 
 松バエに上がっていた常連さんは、40cm近い口太を頭に5枚ほど、ヨコバエでも、私が磯替わりした後に潮が変わったそうで、30cm超を数枚ゲットされていました。
 しかし私のクーラーに収まっているのは大量のオヤビッチャと18〜21cmというグレが4枚のみ(1枚はズボ釣りで追加)。船長はエサ取りがいない時こそチャンスなのにと呆れ、常連さんは「遠くから来たのに可哀そうだ」と30cmの口太グレを1枚分けてくれました。
 でもまあ今回ばかりは質より量が命題でしたし、干物の材料も一応は獲得できましたので、磯替わりは大成功だったと思っています。

・今回もまた残業
 とはいえこれでは日帰りで片道約400km走って帰れません。
 藻津でエサ取り相手に5時までみっちりやるつもりで用意してきた撒き餌もドッサリありますので、土佐清水市内に移動してとある港で残業です。

 そこは外海に面した防波堤ではなく、奥まった所にある穏やかな港。底は基本的に砂地ですが磯魚の魚種・魚影が濃く、グレ、チヌ、時には40cm級のイシダイまでもが壁に着いた餌を狙って遊弋する姿を確認している、とっておきの場所。(たまたま浅くて、透明度が高いから見えるだけであって、このエリアの港ならどこでも同様だとは思いますけど。)
 帰宅後の片付けを無精するために、オーバースペックだとは思いながら磯で使っていたままの1.65号のロッドと、2,5号の道糸を巻いたリールを引っ張り出し、バランスは悪そうですがハリス1.5号、0ウキ+G5オモリのスルスル仕掛けをセットして、午後3時過ぎに第1投です。

 このポイントでの最初のアタリは約10分後に出ました。
 潮に馴染んでゆっくりゆっくりとシモっていくウキが、一度スピードを上げた後、水中で停止しました。
 アワセを入れると予想もしていなかったリアクション。強烈なパワーで竿はひん曲がり、右に左に快速を生かしたダッシュが繰り返されます。
↑ヒブダイ(オス)52cm
ちなみに、よく見かける↓の魚は同じヒブダイのメスです。
「キバンドウ」の標準和名がなぜ「ヒブダイ」(緋舞鯛)なのか?
という答えはここにあります。
 
(参考画像)
 しかし底は砂地ですので、左足元のゴロタ石や右に停泊している船の下への逃走さえ防げば恐れるものは何もありません。私は珍しく落ち着き払って竿を曲げ、1.5号のハリスをいたわりながらゆっくりとファイトして、魚を浮かせることに成功、その後何度かにわたって繰り返された突進を凌いでタモに収めたのは、ブルーとピンクの衣をまとった52cmのぶっといヒブダイ(緋舞鯛)のオス、つまり、黄色と水色のストライプの「キバンドウ」と呼ばれる魚のオスでした。

 このヒブダイのオスは鮮やかなブルーの色彩からアオブダイ(筋肉の融解などの壮絶な症状を引き起こす「パリトキシン」という猛毒を蓄積している恐れがあり、実際、多数の死者を出しています。)と混同されがちですが、もちろん全く別の魚。捌く面倒くささと内臓の強烈な臭さが難点ですが、特に沖縄では高く評価されているほどの旨い魚ですので鍋物用に有難くキープさせていただきます♪

 で、この魚の血抜きの作業をしている途中に深く沈んでいくウキが目に留まりました。私はナイフを放り出してベールオープンで放置していた竿に駆け寄ります。リールのハンドルを急いで回すと心地よい鋭さを持った引きが伝わってきました。
 上がってきたのは口太グレ、しかも31cmと磯での状況を考えれば小躍りしたくなるようなサイズではありませんか!

 ふと気づくと左足元のゴロタから数匹の尾長グレが現れては沈降する撒き餌にワラワラとまとわりついていました。時合はあっという間でしたが、その間、立て続けにヒットします。サイズこそ20〜23cmではありますが、それでも先ほどまで居た磯よりもましなサイズが7枚。
 それにしても約6時間半の沖磯での釣りより奥まった港でのわずか1時間ばかりの釣りの方が余程いい釣果が出てしまうとは・・・。嬉しいというべきか、悲しいというべきか、どうにも複雑な気分ですなあ。

 上記のとおり4時過ぎには食いが完全に止まってしまったのでバッカンと岸壁を洗い浄めてから港を後にしました。そして釣り仲間「カルロス・ガ〜ンさん」の店にお邪魔してしばらくワイワイ言った後、中村の「平和な湯」の畳スペースで暫しの睡眠を取り、日曜日の夜明け前に相生に帰還したのです。

・さて、味の方は・・・
 日曜の晩は鍋でした。メイン食材はもちろんヒブダイ!
 いつも書いていますがブダイとか中大型のベラ類は身と皮の間に旨みが集中していますので皮を取ってはいけません。
 今回は少し厚めに切った派手な「しゃぶしゃぶ」にしてみましたが、ポン酢をつけて口に放り込むと、「鱗取りの大変さも、この味のためなら仕方ない。」と思えてしまいました。また、ダシを取り終えた後のアラも、ポン酢をつけながら食べれば素晴らしいものですよ。
※しゃぶしゃぶにする際は皮に切れ目を入れておいてくださいね。4分の1の短冊の時に柳刃包丁を使って、それぞれ3〜4筋ほど入れておけばいいかと思います。

 翌日はいよいよグレとオヤビッチャの干物が出来上がりました。
 これらは職場の皆さんからの評判は概ねよかったものの、作り手としては30cmクラスの口太を除いてあまり納得のいく代物ではありませんでした。
 オヤビッチャは独特の粘りのある身質が干物に合うとは言い難く、干すよりは生のままで塩焼きにした方がかえって美味しいような気がしましたし、20cmクラスの尾長グレも旨いのは旨いのですが、やはり30cmクラスのものに比べると旨みというかその深みがまだまだ乗り切っておらず(尾長同士で比較)、両種ともに「風雲児謹製・風星マーク」の干物には程遠い出来に甘んじてしまいました。やはりこのサイズはリリースするべきですなあ・・・。
 ともかくこれは次回四国釣行時に挽回するより他にありません。


 そうそう、今回も帰宅してからショックなことがありました。
 港から出られずに欠航になり涙を飲んだ藻津エリアですが、隣の港から出ている渡船は出港可能で、風裏の磯に渡して31cmまでのグレ沢山と40cmまでのチヌ3枚を釣って帰ってきていたんだそうな。わたしゃ一日這いずり回って何をしていたんだろう・・・。(今もまた何をしているんだろう。こんな釣果でここまで長々と書いてしまうなんて・・・(笑))
 どうやら冬磯開幕に合わせて「風雲児まじっく」がカムバックしてきた模様です。
 果たして年末はどうなることやら。
 ● 周 防 形 suougata(sohgata)
利用渡船 谷口渡船 出港地 高知県大月町・周防形港
時間(当日) 7:40〜14:00
(融通ききます)
料金 3500円
駐車場 無料 弁当 600円
宿/仮眠所 民宿を経営 システム 磯予約制
磯替わり あり
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)
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