風雲児  烈風伝
  ・リベンジマッチ! 初釣りはグレ最盛期の硫黄島。 

2013年 2月10日 鹿児島県 硫黄島 
・リベンジ釣行。
 「明日の船が出なくなってしまいました。日曜日の日帰り釣行になりますが、いいですか?」
 「かまちゃん」からの電話でそう告げられたのは金曜日の13時半過ぎ。山口市の手前の佐波川サービスエリアに停車していた時のことでした。
 
 昨年末の負傷退場の悪夢から40日余り、ホラー映画のような状態だった左肘の怪我がすっかり癒えた私は、代休と連休を使った南九州リベンジ釣行を企画し、金曜日午前6時に兵庫県相生市を出発。それなのに13時半の時点で未だ佐波川までしか進んでいないのには、2つの理由が挙げられます。

 一つは寒波、一つは体の異常。
 突如襲来した強烈な寒波はよりによって北九州を中心とした雪をもたらし、福岡県の門司IC〜古賀IC間は通行止め。迂回路の国道も大渋滞しているというので、様子を見ざるを得なかったこと。
 また、年々酷くなる「釣りの前夜限定の不眠症」対策にと、前夜に初めて半量だけ飲んだ薬局で売っているレベルの睡眠導入剤が大問題でした。
 その薬の副作用なのか、それを飲んだことに起因する精神的な問題なのかは分かりませんが、運転するたびに強烈な眠気、酷い時には両手両足の先端部と下顎の謎のしびれというこれまで経験したことのない症状にまで襲われるのにもかかわらず、駐車したらしたで全く眠れないというあまりにも苦しすぎる状況を招いており、約30kmずつ休み休み、ジワジワと前進する事しかできないのです。

 通行止めの門司港ICから先は、10号線・大分道・鳥栖というルートに迂回するしかないのか・・・。どちらにせよ、こんな状況ではかまちゃんの待つ熊本県人吉周辺へ21時までに到着するのはとうてい無理だ・・・。
 そう考えている時にかまちゃんからかかってきた電話ですから、時化とキャンセルによる客不足で渡船が欠航し1泊2日釣りが日帰り釣行になってしまったことに胸を撫で下ろすという、釣り師としては異常な反応を示すことになったのです。

 九州自動車道は幸い15時ごろには開通となりました。が、結局この日は佐賀県鳥栖市で前進を諦めて一泊。翌日土曜日は日田や久留米に少しだけ寄り道してから南下して、ようやく熊本県相良村に到着することができました。

 前夜の鳥栖のホテルでも眠れなかったので相良村の温泉施設「茶湯里(さゆり)」に入り込んで、休憩室の畳でゴロゴロすること実に5時間半。
 寝転んで眼を閉じている時、大阪とも京都とも違う耳慣れたアクセントといわゆる「トッテヤ敬語」が私の耳に飛び込んで来ました。私はムクッと起き上がるや、「あんた・・・、東播磨から神戸辺りの兵庫県民、だね!」「ええっ!何で分かったん!?」と、相良村の友人を頼って兵庫県西脇市から遊びに来ていた見ず知らずの兄ちゃんと話を弾ませる・・・なんてことをしながら、ゆっくりくつろいでおりました。

 そして土曜日21時、やっとの思いで「かまちゃん」と合流。もう一人の参加者である「M中さん」とも合流を果たしました。かまちゃんは、いつも私の九州釣行を支えてくれる、硫黄島釣行のエキスパート。一方のM中さんは磯釣りは今回で3回目ですが、そのすべてが硫黄島という恐るべき釣り師です。
 その3人分の荷物を使ったテトリス大会を開催してからかまちゃんの運転で出発!目的地はやはり枕崎港、そしてその先にある硫黄島です。(実は今回は、秘境・草垣群島や、普段は1.5号クラスの竿を使った口太釣りがメインながら、南九州では珍しくロクマル尾長が昼間に出る可能性が高い宇治群島に挑戦する案もありましたが、釣行前に伝わってきた情報は、硫黄島の「尾長・ヒラマサ好調」に対し、宇治群島は「水温が14度台に急降下」というものでしたからねえ・・・)

 長かった一人旅とは対照的に、にぎやかな時間はあっという間。人吉〜枕崎ってこんなに近かったっけ?と思うほどの体感時間で枕崎港へ到着すると、上物・底者・アラ釣りなど、合計18人の釣り師たちがスタンバイしていました。その中には小学校低学年と高学年くらいの兄弟も交じっており、慣れた手つきでライフジャケットを着込んでは、出航を待ちきれないといった風情ではしゃぎまわっていました。
 無論はしゃぎまわっているのは子どもだけではありません。ここに居るのは草木も眠る丑三つ時に枕崎港の渡船乗り場に駆けつけるような人間ばかり。体全体で表現することはなくても、心はみんな同じです。

 日曜日午前2時半過ぎに黒潮丸が出航するとすべての釣り師の浮き立つ心は一旦眠りに落ちますが、その約90分後には最高潮に達することになりました。ずっと単調だったエンジン音の変化が、硫黄島へ到着が告げたからに他ありません。

・「1番瀬」に渡礁。
 うねりによって右に左に大きく振り回される黒潮丸。枕崎近海の穏やかさが嘘のように消えた海で瀬着けが始まりました。
 
 順番はまだ先だと知りながらも、やはり逸る心を抑えきれずに船室を飛び出してしまった私の眼に、すでに渡礁を済ませた釣り人たちのヘッドライトの光が飛び込んできました。そのいくつもの小さな点は強風と波が逆巻く闇の中に磯の輪郭を浮かび上がらせています。
 「ああ、ここは平瀬だな。」
 たったこれだけの情報で磯名が分かってしまったことに驚く私は、再び走り始めた黒潮丸によって運ばれていきます。

 次は新島か永良部岬か。どちらにせよすぐに減速するだろうという予測に反して船は随分と長い距離を走っています。右も左も漆黒の闇。すぐそばにあるはずの硫黄島の島影も見えず、どこに向かっているのかもどの方角に走っているのかも全く見当もつかない・・・。そんな折でした。船尾の通路に「ゴン!」という大きな鈍い音が響いたのは。
 反射的に顔を向けると魚が転がっていました。横に居たおじさんによって拾い上げられたそれは、着地の衝撃によって頭を粉砕された35cmほどのトビウオです。
 無惨な光景ではありますが船に魚が飛び込んでくるというのはきっと吉兆。カツオに飛び込まれた北条氏綱、コノシロに飛び込まれた太田道灌、スズキに飛び込まれた平清盛の逸話はどれも、武運が開かれるという結末になっています。今日は尾長、もらったかもしれませんね!ただ、飛び込んできたトビウオは隣に居たおじさんのクーラーに速やかに収められてしまったというのが少々気になりますが・・・。

 ようやく船が減速しました。かまちゃんとM中さんもドアの向こうから姿を現しました。医師のM中さん、船尾の通路を染める血痕を気にしていましたが、それがトビウオのものだと知ってホッとした様子。

 サーチライトの中に高い高い断崖を背負った大きな丸い地磯が浮かび上がっています。かまちゃんによると硫黄島西部に位置する「2番瀬」とのこと。この磯に、小学生二人とその両親が渡っていきました。
 次いで「中の瀬」に2人の上物師が上がり、直後に私たちの名前が呼ばれました。
 
 硫黄島西磯のランドマーク・立神の隣に浮かぶ「ミジメ瀬」という磯。2011年に夏の夜釣りで上がったこの磯に乗せてもらうことになっていました。
 しかしながら、しばらくうねりの様子を観察していた船長は満潮を控えたこの時間帯の渡礁は無理と判断し、かまちゃんにこう問いかけました。
 「尾長だけ釣りたい?」
 かまちゃんがうなずくと、船は「1番瀬」へ向かいます。
 南九州の離島で尾長グレが釣れるのは、基本的には夜に限られているようで、夜が明けきるとともに40cmクラスまでのクロ(口太グレ)狙いに移行するのですが、1番瀬という場所は、尾長もクロも両方狙えるミジメ瀬や2番瀬、中の瀬とは違って、昼のクロ釣りには厳しい場所だそうです。
 と言っても、夜が明ければちゃんと瀬替わりをさせてくれますから問題ありませんけどね。

 こうして午前5時前、私たち3人はうねりと早い潮に抗う黒潮丸から1番瀬へ無事渡礁。
 さあ、2013年初めての釣りだ!私は大急ぎで準備を開始します。

・尾長は光で寄せろ!?
船着き隣の高い所に三人並んで竿出し。
うっすら見える島は、いつかは行きたい
口永良部島。
 私が最初船着きの釣り場を選択しましたが、潮位上昇で危険ということが分かってすぐ移動したので船着き横の高いところに私の遠投4号竿、M中さんのタマン竿、かまちゃんの5号竿がズラリと並ぶことになりました。それぞれ道糸10号程度、ハリス12号程度の硫黄島では主流の仕掛けで勝負!

 3人で沖アミ生と赤アミの撒き餌をせっせと打ち込みますが、ポイントとなる磯際はサラシでもみくちゃになっているので、効いているやらいないやら。
 しばらく沈黙が続きました。ごく稀にサシエが取られはしますが私の2号のウキは全くアタリを表現してくれません。隣のM中さんもまた同じような状態。しかし波止釣りでよく使われる形状の電気ウキを沈めて使っているかまちゃんだけは多くの反応を得ており、時にはイスズミなどを引き抜いています。

 M中さんもこれを見て白く輝く「釣研シャイニング」5Bにオモリを追加して沈め釣りを始めました。ところがこのウキは普通に流しているだけでも磯際が眩しくて仕方なくなるほどの明るい光を煌々と放つウキ。これをそのまま沈めるのだからたまったものではありません。スルメイカ釣りでも始まったのか?波止の太刀魚釣りでも始まったのか?ウキは水中を真昼のように照らしながら潜行していきます。

 辺りの風景がようやく白み始めた6時半前、一本の竿が弧を描きました。
 これまで経験したことのない強烈な引きに面喰いながらただ夢中でリールを巻いているのはM中さんです。
 やがて、眩く輝く電気ウキの下の海面に茶色い魚が横たわりました。それは50cmを軽く超えています。
 尾長だ!!
 私とかまちゃんの興奮を気にも留めず、タマン竿のパワーに物を言わせて高い足場へと一気に引き抜こうとするM中さん。その挙動と、私が「タモ!タモ!」と叫ぶのが同時でした。魚は上手く持ち上がらない・・・。そこにかまちゃんがすかさず差し出すタモが伸びていきます。そして、磯釣り歴3回のM中さんの腕の中で、54cmのワカナ(大型の尾長グレ)が踊ったのです。

かまちゃんが釣ったコバンザメ。この魚の
味については、当HP「おさかな拾い食い」を
どうぞ。
 M中さん、おめでとう!さあ次は私の番だ!と気合を入れて撒き餌をし、M中さんの情報を元にウキ止めの位置を頻繁に変えながら探っていきますが、私のハリに掛ってきたのは40cmクラスのテンジクイサキ(イスズミ科)のみ。一方かまちゃんは6時58分に35cm程のクロをゲット。

 やがて夜が明けてしまいました。が、まだチャンスは残っているどころか、撒き餌も効いてきて一発大物の期待が最も高まる時間帯。
 とんでもないアタリに襲われたのはやはりM中さんでした。が、どうすることもできずに、太ハリスが真っ二つです。
 続いてかまちゃんの5号竿が一気に伸されるほどの勢いで引っ張り込まれますが、一瞬で軽くなりバラシ・・・と思いきや、ハリにはまだ魚が付いていました。それも50cmほどのコバンザメが。
 私はコバンザメというのは美味しい魚だという話を以前から聞いていたので、かまちゃんに頼んで貰い受けました。それを血抜きし、クーラーにしまっていた時、釣り座の方で悲鳴のような声が上がったのです。

 「うわぁ〜!」「出た〜っ!」
 M中さんの掛けたイスズミに、3mはありそうなサメが襲いかかってきたのです。
 それは最後にして絶好の尾長のチャンスが最悪の形で終わりを告げたことを意味していました。
 
 案の定アタリは遠のいてしまい、あとはもう小さなイスズミ類が食ってくるばかり。
 唯一の例外は、沖の潮目を直撃した私のウキがビックリするほど勢いよく消し込んで、35cmのコバンザメがヒラヒラヒラと水面を滑ってきたことくらい。つまりは、クーラーの中にコバンザメが2匹だけ入っている状態で、第一ラウンド終了となってしまいました。

 敗因は2号という普段使うことのない号数のウキを過信してズボラな釣りをしてしまったことでしょう。後で聞くと、かまちゃんは1号ウキに10号オモリを付けた宙釣りで仕掛けを落ち着けていたそうですし、M中さんは磯釣り3回目とは思えない恐るべき柔軟さを発揮したからこそ、この日の黒潮丸でたった1尾しか上がらなかったワカナを手にすることができたのです。

 「勉強し直してからまたおいで。」
 8時半に瀬替わりのためにやってきた渡船に飛び乗るとき、私は1番瀬の声を聞いたような気がしました。
(左)
瀬替わり前の1番瀬の様子。
左から大瀬、立神、ミジメ瀬、2番瀬(地磯)が見えます。

(右)
この日の黒潮丸で唯一のワカナを仕留めたM中さんと、
コバンザメしか釣れなかった管理人。
・魚よりも欲しいものがある。
カルデラ壁・永良部岬先端の向こうには、稲村岳と硫黄岳。
 さて、第2ラウンドはどうしたものか?
 潮が下げに転じているため、夜釣りでは上がることのできなかったミジメ瀬で3人揃って竿を出すことも可能です。
 ミジメ瀬に近い2番瀬では親子4人によって既に10枚のクロが上げられており、ミジメ瀬もまた期待が持てそうですし、この瀬では何故か最近昼間に尾長が見えることがあるという噂も聞いていましたから、昼に尾長を狙う四国南西部をホームグラウンドとする者の意地を見せたいという野望もありました。
 一方で往路の車内でかまちゃんが言っていた硫黄島南方海上にある名礁「浅瀬のハナレ」へのアタックも魅力的・・・。

 しかし、私の口は船長や仲間たちにこう問いかけてしまいました。「タジロはどうですか?」と。
 この一言をきっかけとして、硫黄島最西端のこのエリアからから直線距離でも4km離れた南岸中央部にあるタジロへの移動が決定したのです。

 クロの釣果が約束されたも同然の磯たちを振り切って、最近釣れていないという磯、クロの実績自体がほとんど無い磯に行く・・・。かまちゃんやM中さんには悪いことをしてしまいましたが、私にはどうしても果たしておきたいことがあったのです。

 走り出した船は風とうねりを切り裂いていきます。「みゆき」や「ひれ瀬」といった数々の磯。長々と横たわる永良部岬とギザギザ頭の矢筈山。それらに姿を借りたカルデラ壁は約7300年前に破局噴火を起こして火砕流で南九州の縄文人を焼き払い、東北地方や隣国にまで「アカホヤ」と呼ばれる火山灰の地層を作り上げた巨大な鬼界カルデラの残像。岬を回ればそこには俊寛の伝説を生んだ硫黄島港と人々の息づく建物の群れ。豪快な風景の多い硫黄島には似つかわしくないような優しげな曲線を持つスコリア丘・稲村岳。大きく口を開けた裂け目のみならず、その山体のあちこちから噴煙を上げ続ける硫黄岳。その荒々しい山麓に見えている温泉マニア垂涎の秘湯・東温泉・・・。ひと時も目を離すことを許さない、素晴らしい景観をこれでもか!と言わんばかりに見せつけながら。

噴煙を上げ続ける硫黄岳(703m)。
秘湯・東温泉は写真中央の海岸沿いにあります。
 東温泉の隣の小さな岬・天狗鼻を過ぎたところで船の速度が落ちました。どうやら目的地に着いたようです。

・夢にまで見た場所。
 そこはまさに異界でした。

 硫黄岳の荒々しい山肌に突如として現れる断ち割られたかのような垂直の壁は、眼を疑うような鮮やかな黄色の絵の具を塗りたくられたかのよう。舷(ふなばた)から続く紺色の海は、その壁にぶつかると宝石のように光り輝く青白い帯に姿を変えます。

 上陸し、背後の壁を見上げると雨が降るような音を立てて温泉と湯気が滴り落ちています。しかしそれ以上に、壁を彩る白と黄色の硫黄の結晶そのものが直接滝となって激しく降り注いできているかのような錯覚を覚えすにはいられません。
 硫黄の結晶は海面にも鮮やかな黄色い湯の花として浮かんでいます。そして、薄黄色、乳白色、薄緑、黄緑、ターコイズブルー、浅葱色、青緑色・・・といった色が幾重にも混じりあう、見たこともない色の海となって、無数の大小様々な火山礫、土石流がそのまま凝結したかのような礫岩の広い磯の周辺を取り囲んでいます。

 驚きと感動で足の震えを止められない磯。写真や文章などをいくら見ていたとしても、知ったつもりでいたとしても、それが実際に眼と肌で感じる光景とはあまりにもかけ離れたものであることに愕然とするしかない磯。それがタジロでした。
硫黄の壁と、海中から湧出する温泉が織りなす
驚異の風景。火山活動の低下に伴って縮小している
とはいえ、こんな釣り場は他にないでしょう。
 尾長グレなら四国南西部に行けば狙えます。口太グレなら四国まで行かずとも播磨灘で釣ることができます。しかし、こんな場所での磯釣りというのは日本全国どこを探してもまず不可能でしょう。
 これだ!これが見たかった!これを体験したいがために陸路825km、海路43kmも離れたこんな所まで通っているのだ!もう思い残すことはありません。あとは幾許(いくばく)かのお土産を釣るだけで十分です。

・当て潮のタジロにて。
 前述のとおりこのタジロはクロの実績をほとんど聞かない磯だそうです。その代りシマアジ釣りでは島屈指のポイントで、数釣りが可能。サイズも30〜40cmくらいのものからとても手におえないようなものまでが掛ってくる上、その他の青物が回遊してくる確率もかなり高いとのことで、パワータックルの使用を勧めるかまちゃんの言葉に従って3号竿に4号の道糸をチョイス。ハリスはとりあえず3.5号でいってみるかな。
 このポイントに精通したかまちゃんによると、ウキ下は2ヒロくらいということですし、潮流も穏やかですのでG5のウキを使用。1ヒロ矢引きくらいの所にウキ止めを付けた沈め探り釣りで様子を見てみることにします。

 午前9時前、撒き餌をしっかり打ち込んでから、竿2本ほど先に仕掛けを投入。青緑に濁った海ということもあり魚の姿は魚の姿はまったく目視できません。そもそもこんな色の海で本当に魚なんて釣れるのか?その疑問に対する答えは、一投目で早くも明らかになりました。

 緩やかな当て潮に乗って竿下まで流されてきたウキがスルスルと沈んでいきます。ヒットしたのはこれまでに見たこともないほど白みがかった体色をした25cm程のイスズミでした。以降、タジロは硫黄島の中でも特にイスズミの多い場所であるというかまちゃんの解説を裏付けるように、このサイズから35cmくらいのイスズミが3本の竿を代わる代わる曲げ続けました。

 最盛期ならばイスズミ3〜4枚に対して1枚程度の割合でヒットしてくるというシマアジは未だ気配すら感じられません。この島では好調だという青物も然り。そうは言っても焦らず、じっくりと惜しみなく撒き餌を打ち続けておびき寄せ、引き留めるしか方法はありません。

  絶好調のM中さん、ヒラマサも手中に。
   型はともかく、待望のシマアジがHIT^^
 事態が動いたのは10時27分。一人の釣り師が悶絶しました。
 容赦なく疾走し、暴れまくる魚を2回連続でバラして、3度目の正直。驚きと、歓喜と、羨望の入り混じった視線が彼に降り注ぎます。魚を掛けたのはM中さん、私が差し出したタモに収まった魚は60cmオーバーの磯の弾丸・ヒラマサです。
 やられた!またしても!しかし待ち焦がれたチャンスだ!取り残された2人の釣り師が、ここぞとばかりに気合を入れたのは言うまでもありません。

 開始以来ずっと当てていた潮は、この時横流れに変わっていました。磯の奥のワンドの中を漂っていた、黄色を帯びた青白い温泉成分も勢力を拡大し、私やかまちゃんのウキの周囲を侵食していきます。普通ならば「釣りにならない」と竿を投げ出してしまってもおかしくない状況にも思えますが、タジロではこれこそが最高の状態。かまちゃんはそれを「魚が温泉に入りに来る」と表現しています。

 10時55分、ゆっくりと沈めていた私のウキがスピードを増しました。
 ヒットした魚は大きくはありませんが、水中で黄色く見えています。すっかり見飽きたイスズミの白とは明らかに違う・・・。これは待ち焦がれたシマアジではありませんか!
 興奮していたせいでしょうか、普段ならシマアジとイサギは小さくてもタモ入れする私がどうしたことか一気に取り込もうと引き抜いてしまいました。案の定空中でポロリと外れてタジロの斜面を滑り落ちていくシマアジ。逃がすものかと必死の形相で追いかけてどうにか回収。サイズは27cmと小さいとはいえこの磯の本命魚です。やっと手にすることができた、本年初の主役級の魚種でもあります。

 潮はすぐに当て潮に戻ってしまいました。
 確かに当て潮は釣りにくく回遊魚の確率も下がってしまいますが、磯の形状によっては存外やれることも多いものです。
 このタジロは広い磯なので斜めに投げて磯際に流し込めばシモリ攻略と変わりません。しかし、今回は足元に当たった潮が磯際に沿って誰もいない右方向にスライドしていくパターンですから、単純に足元から攻めていけばいいだけのこと。しかもよく見たら足元がオーバーハング気味になっているし、潮下には小さなワレまであるじゃないですか〜!これはすぐに攻めてみなくては。

 撒き餌は沖へ何発も派手に打ち込んでおき、足元の磯際ギリギリへチヌの落とし込み釣りでもするかのように静かに仕掛けを投入。足元への撒き餌は打たずに勝負。
 11時3分、結果はいきなり現れました。ゆっくり消えていくウキに合わせを入れるとストレートな気持ちのいい引きが伝わって、35.5cmの口太グレが私の手中に。
 「ここでクロを釣ってしまうとは!」と、かまちゃんが隣で驚いた顔をしています。

場所も仲間も最高!これほどまでに楽しくて楽しくて
仕方のない釣りというのは、なかなか経験できないなあ。
 パターンは分かりました。
 その15分後にも、ワレの潮下の磯際ギリギリでチョコレートブラウンの衣をまとった33cmの美しい尾長グレをゲット。
 そのまた18分後には鮮やかなブルーの鰭が目を奪う37cmのナンヨウカイワリが水面を割りました。この魚はそれほど美味くはないけれど、何となく釣れると嬉しくなるようなフォルムを持っています。

 イスズミは磯際狙いの作戦でも食ってきました。それも格段にサイズアップして50cm近いサイズも混じってくるようになり、力対力の豪快な勝負を楽しませてくれましたし、渡礁の際に船長から課された「イスズミ好きの常連さんのために大きなのを釣ってキープする」というミッションもコンプリートすることができました。

 残念だったのは45cmクラスをバラシたこと。ナイスサイズが掛ればラインを巻き取りながら素早く前に出て、オーバーハングに持ち込まれないように竿を突き出す必要があるというのに、その動作が遅れ、3.5号のハリスも一たまりもなく飛びました。水中で一瞬見えた魚の色はイスズミのそれとは違っていたというのに・・・。

 かまちゃんと、その向こうのM中さんもこの磯際パターンでクロをゲット。特にM中さんがヒットさせたクロは40cmを軽く超えていましたし、納竿近くには40cmを超えるイシダイ(三番叟)までも仕留めてしまいました。おかげでタモ係の私は大忙し^^

 13時5分、黒潮丸が迎えにやってきました。非日常的というにも程があるフィールドでの釣り、3人並んで肩の力を抜き、和気藹々と楽しんだ釣り、風裏の楽園での釣りはひとまず終了です。

浅瀬での回収を終え、黒潮丸は枕崎に帰ります。
硫黄岳とはひとまずこれでお別れ。チャンスが
あればまた来てみたいなあ。
 風と波によって上下左右にせわしなく揺り動かされる船の、ぎゅうぎゅう詰めの船倉で約2時間耐え抜いてから枕崎港で見た釣り人たちのクーラーの中身は、離島の最盛期のものとしては寂しいものでした。中にはクロを20枚以上という方もいましたが、やはりこの日の殊勲賞は船で唯一のワカナ(大型の尾長グレ)54cmをはじめ、クロ、ヒラマサ、イシダイという磯釣りの主役たちを独り占めしてしまった、磯釣り3回目の釣り師・M中さんに他なりません。
 いったいどれほどの達人になってしまうのだろう。凄まじいばかりの洞察力、対処能力を持つこの釣り師が、今後磯釣りの経験を積み重ねたら・・・。

 一方、私のクーラーは35cmの口太、33cmの尾長、27cmのシマアジとナンヨウカイワリが1枚ずつ、それにコバンザメが2本と、とても離島遠征とは思えないような内容でした。まさに「隣の人に武運が開ける」という結果になってしまったわけですね。

 クーラーの重さと帰り道の遠さは反比例すると思っていましたが、例外もあるようですね。
 この日は相良村まで連れて帰ってもらって人吉市内で一泊、翌日に12時間ほどかけて帰宅したのですが、その体感時間も「あっという間」でした。
 硫黄島で仲間と過ごした時間はそれほどまでに素晴らしいものだったのです。

 ● 硫黄島 ioujima
利用渡船 黒潮丸 出港地 鹿児島県枕崎市・枕崎漁港
時間(当日) 2:30(枕崎発。航程約90分)
 〜13:00(回収)
料金 13000円
(夜釣り16000円
1泊2日釣り21000円)

餌代別
駐車場 無料 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム 磯割りあり
磯替わり 可能 餌の用意可
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)
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