風雲児  烈風伝
   ・年末の僥倖! 2つの離島をハシゴ釣り!

2015年 12月27日〜28日 鹿児島県竹島、黒島
(三島村)
・プロローグ

 「竹島」「硫黄島」「黒島」。鹿児島県三島村に属する三つの有人島の名前はややこしい。
 竹島は名を上げるのも腹立たしい連中に不法占拠されている島根県隠岐の島町の竹島と、硫黄島は太平洋戦争の激戦地となった小笠原南方の硫黄島と混同されてしまいますし、黒島なんて全国各地にゴマンとあるので説明するだけでもなかなか大変です。

 とはいえ、この3つの島は三者三様の特徴を持つ魅惑の離島であるだけではなく、グレ釣りの実績においても申し分ない島々です。
 しかしながら、ややこしい名前のこともあってネットで釣行記を検索するのに結構骨が折れますし、磯釣りともなれば「かまちゃん」のホームグラウンドである硫黄島を除くとその数自体僅かなもの。

 今回はこの島々の中でも飛びぬけて情報の少ない竹島の磯に悲願の初上陸!あわよくば黒島にも初上陸して薩南三島コンプリート!というのが目的の旅。釣果なんてはっきり言って二の次でした。

・いつの間にやら火山マニア?に  神戸港〜宮崎港〜枕崎  12月25日夜〜26日

 例によって代休の溜まりまくっている釣りマニア歴史マニア火山マニア(初級)の年末年始は世間より少し早い25日の金曜日にスタート。神戸からのフェリーで宮崎に上陸しました。

 そして加治木で合流したKICHIROWさんご夫妻の案内でシラス(姶良カルデラの巨大噴火で噴出した火砕流堆積物)に穿たれた戦前の手掘りトンネルや、活火山の火口の上に田んぼや民家、温泉がある米丸マール(マールとはマグマ水蒸気爆発で生じた火口に少量の噴出物が堆積したもの)、住吉池マール、青敷火山を見学した後、ご夫妻と別れて江口浜のシラス崖を見ながら枕崎を目指し、いつもの園田釣具店で餌を仕入れたら後は宿で眠るだけ!

 目的地・竹島はいよいよ目の前です。しかも明日の種子島・屋久島地方の波は1mのち1.5m!いやぁ、実に楽しみですわぁ〜。

 予備知識が無いとなんのことやら解らない活火山・米丸。  江口浜のシラス崖(入戸火砕流)。美しさと恐ろしさを感じる風景。

(ちなみに帰りは開聞岳や姶良カルデラ、近ごろ挙動不審な霧島の硫黄山、加久藤・小林カルデラ等を堪能!ついでにシラスを削って作られた中世の山城・知覧城跡や日向伊東氏の本拠・都於郡城なんかも堪能してきましたよ♪)

・鬼界カルデラ・竹島へ!  竹島 西のがけ下、コモリの平瀬   12月27日

 ああ、今年もまたこのパターンか。工事現場のようなイビキが響き渡る初日のフェリーで30分、静かで快適な今夜の宿でもほぼ一睡もできずに渡船に乗るしかないのか・・・。

 眠れなくてもずっと転んでいたことでそれなりに回復している体力と、不眠の元凶でもある昂る魂を引き連れて枕崎港おさかなセンター横の岸壁に向かったのは深夜1時前。
 そこで私を待っていたのは、竹島や草垣群島、2日前に住民の帰島が叶った口永良部島への瀬渡しの他、トカラ列島の灯台や標識の見回り等を海上保安庁から請け負うことで結果的に国土防衛の一翼をも担っている「武岡フィッシング」の第八美和丸です。

 挨拶かたがた船長に竹島の状況を聞いてみると、島の水温は著しく高くてワカナ(尾長グレ)の確率はまだまだ低いそうです。それにヒラマサ、カンパチ、シマアジ、カッポレ、ツムブリ、ハガツオなどの回遊魚が幅を利かしているのも尾長が釣れない一因だろうとのことで、この前なんて「止めれば10号ハリスが一瞬で切れ、出せば糸が全部無くなる」状態でどうすることもできなかったとか・・・。それはそれで物凄く楽しみじゃないか!
 また、昼間の地グロ(口太グレ)に関しては浮きグレが凄いことになっており、40cm級、時によっては50cm級のものが入れ食いになることもあるとのことですのでテンションは出航前から上がりまくりです!

 この日は満月で夜釣りがし易いことや、潮波が立つ時間を避ける狙いもあって午前2時出航の予定でしたが、メンバーが揃ったので1時20分ごろに枕崎を出航しました。尾長の確率は低いとはいっても乗客3人は全員上物狙いですから、夢の時間が多くなるこの予定変更は大歓迎!

 ・・・って、離島便で乗客が3人??
 そうなんです。この日は急なキャンセルが出てこんな人数になってしまっているのです。
 この人数で竹島まで走ったら赤字なので普通だったら欠航になるはずなんですが、「折角遠方から来てくれているのだから出さないわけにはいかない」という船長の熱い想いで出航できることになったのです。船長には感謝しても感謝しつくせません。
武岡フィッシングの第八美和丸と、
竹島、硫黄島。

海上保安庁によって明らかにされた
竹島周辺の凄まじい地形。
「火山噴火予知連絡会会報 第103号
鬼界カルデラの海底地形・地磁気・重力について」
より。
 天気は雲の多い晴れ、時折細かい雨。気温はカッパの下に薄い防寒着を着たら脱ぎたくなるくらい。北西の風まあまあ強く、波は予報を軽くオーバーしていますが、それを全く感じさせない船長の操船で90分ほどで竹島に到着。私は島の西側に突き出したオンボ崎の南岸中間付近にある「西のがけ下」に渡礁させてもらいました。

 私はすぐにオキアミ生2Lの原型と赤アミを混ぜたマキエを惜しげもなく打ち込みながら、大島HR4号、道糸8号、ハリス10号の仕掛けに2Bのドングリ型電気ウキをセットして釣りをはじめますが、勝手がわからないこともあって根掛かりに苦しめられていました。
 やはり浅いのか・・・。

 周囲を断崖に囲まれた台地状の島・竹島。その断崖の直下にある磯の周辺を航空写真で見てみると、私が上がった西のがけ下を含めて海底がハッキリ見えるような所がほとんどです。
 しかし、その僅か1kmちょっと先の水深は何と500mにまで達しているのです!

 そう、ここと隣の硫黄島は、約7300年前、縄文時代に破局噴火を引き起こした22×17kmに及ぶ巨大海底カルデラ「鬼界カルデラ」の外壁なのです。ということは、磯の周りの浅場というのはつまり、海蝕と崩落で後退したカルデラ壁の7300年分の歴史そのものだということなのだろうか。

 さて、ウキに反応が出たのは開始から15分くらい経った3時52分のことでした。獲物は40cmくらいのテンジクイサキ(イスズミ科)。
 その次の一投でもアタリがあり、何やら細長いものが上がってきました。ダツかな?と思いましたが近寄ってみるとメータークラスのアオヤガラ。ハリを外したら独特の粘液で手がいつまでもベトベトだぁ・・・。この魚、生きた魚だけじゃなくオキアミも食うものなんですね。

 その後は60cmクラスを含むイスズミやテンジクイサキが連発するばかりで、あとはホウライヒメジが1匹だけ。恐れていた赤い悪魔ナミマツカサも1匹だけという釣果でした。
 ハリ外れも多かったのですが、竿を叩く引きばかりだったしなあ。ただ、朝ぼらけの海面でバラした魚は尾長のような色をしていたけど、まあ痛恨のバラシというようなサイズではなかったのが救いかな。

 で、夜釣りは予想通りの尾長ゼロで7時半前に終了。ここからは撒き餌に粉を混ぜ、竿も心もベストの中身も昼用の物に入れ替えて再挑戦ですが、日が昇ってからというもの魚の反応は無くなったまま。撒き餌に魚は見えず、イスズミのアタリも消えました。
 船長からの電話がかかってきた7時43分の時点でもオヤビッチャが辛うじて一匹釣れただけでしたから、迷うことなく道具を片付けて瀬替わりに備えます。
 不発だった西のがけ下から東を望む。  オンボ崎先端方向。長崎と硫黄岳。

 昼釣りの舞台はコモリの平瀬。
 「これは波高1.5mどころじゃないなあ。帰りは辛いかもよ。明日の黒島は大丈夫かなあ?」
 船長がぼやくように、オンボ崎の向こうの海は波と風が踊っています。
 「地グロ狙いなら風の当たらないところの方がいいでしょ?」
 船長がそう言って渡してくれたのは、オンボ崎南岸の付け根にある大きな磯、「コモリの平瀬」でした。

 コモリの平瀬の東半分は広く平らな快適な磯、西半分は人の侵入を許さない屹立した岩峰になっています。この岩峰の際に仕掛けを入れて裏側から出てくる魚を狙えばいいという船長のアドバイスに従って行ける部分の一番西に釣り座を構え、水中のテラスとその沖のシモリとの間の溝を狙ってみます。
 仕掛けは始めは0号の沈め釣り、後にBの誘導仕掛け。タックルは瀬替わり前にも使っていた道糸3号、ハリス3.5号、速攻X8号、ロッドは四国・柏島の海中から釣れたインテッサG3の2号です。

 マキエを入れると最初に現れたのは長さ60cmくらいの海蛇!マダラウミヘビなのかクロガシラウミヘビなのか、いずれにしろコブラ科(ウミヘビ科)の猛毒を持つ蛇でした。もっともこれは呼吸をするために水面に出てきただけのようでマキエとは多分関係ないと思いますが、とにかく南海ならではの光景にビックリ。

 海蛇が消えるやそれと入れ替わるように現れたのは40cmクラスの口太グレ!7〜8匹が水面まで出てマキエを拾い始めたのです。
 そして程なく仕掛けにもHIT!ロッドがロッドなので軽々と取り込んで今回の初キープ・・・と思いきや、ハリを外した時にポロリと落として海にポチャン。なんちゅうこっちゃ・・・。
 しかも泣きっ面に蜂、さっきまでマキエに群れていたグレの姿はすでに無く、イスズミやイチモンジブダイまでもが一瞬にして消えてしまったではありませんか。

 満潮の潮止まりに差しかかったコモリの平瀬は、船長の言う夏の海ではなく春の海のようになってしまいました。
 ハリスを2.5号に落とすと時々アタリが出るのですが、ウキはほんの少し沈んで停止するだけで、何もしないとオキアミの頭だけが無くなってしまいます。アタリが出ている間に竿先で何度が誘いをかけたらやっと30cmほどのイスズミが掛かってくるというような状況で、とてもこの時期の離島とは思えませんがな。もしかしたら噂の青物が・・・なんて考えも頭をよぎったので沖に狙いを変えますが、いざやってみるとその気配すらもありませんでした。

 9時過ぎ、これでダメなら竿もハリスももっと落とそうと思いながらウキ下1本強で足元の壁ギリギリを探っていると、一気に竿まで来るアタリが襲ってきました。
 魚は少し沖のシモリ方向へ突進していきます。ロッドは胴を大きく曲げて受け止め、ドラグがそれをサポートしています。そして何度かの突進で体力を消耗した魚は浮上を始め、怪力魚と寝不足釣り師の対決は道具の助けで寝不足釣り師に軍配、カンムリベラの太い体が磯の上へ。あ〜しんどかった。

 相変わらずの渋さが続く10時ごろ、気分転換と体力回復を兼ねて昼食のパンを食べながら磯を探索していた私は、磯の東端近くからふと後ろを振り向くと同時に強烈な白い光に包まれてしまいました。
 それは場違いなほどに眩い純白の絶壁、純白の砂浜、輝く海。そこには絶景がありました。砂浜には小さな突堤。断崖には急峻な400段の階段が刻まれています。

 パワフルだったカンムリベラ。
 ここは知る人ぞ知る竹島のビュースポット・籠港(こもりこう)。今は崩落によって陸からの進入はできないようですが、かつては北側にある島のメインの港が使えない時の避難港として使われ、艀(はしけ)とこの階段によって荷揚げが行われていた場所、今はダイビングスポットとして人気の場所だそうです。
 崖の上には島全体を覆う大名竹の林。それと壁との間には地層がくっきりと浮かび上がっています。ああ、これが竹島籠港テフラ群、南九州を破滅に導いたアカホヤ噴火の記録かあ・・・。


 平瀬からの籠港と、籠港テフラ群。
 この破局噴火の際に噴出した鬼界アカホヤ火山灰は
日本各地に堆積しており、考古学の重要な手がかりにも
なっています。
 籠港、画像ではきらめきが伝わらないなあ・・・。

 おっと、感動ばかりもしていられません。残された時間は実質2時間ちょっとなのにクーラーは未だ空ですがな。
 探索中に磯の中央部に良さそうなポイントを見つけていたのでバッカンを持って移動してみると、射程範囲に浮きグレの集団が居るではないですか!
 これはチャンス!早速マキエとタナを縮めた仕掛けを投入してみると、水面が爆発したかのような水しぶきを立てて全部いなくなってしまいました。

 おおっ、浮きグレの一部が押し寄せてきたぞ!
 残念ですがここは地道にいきましょう。
 まずはワンド状の浅い棚の上にマキエを打って、そこを洗っているサラシを利用して拡散。何とも手ごろなサイズのサラシで、マキエが広がりすぎずにいい感じで棚の下に入っていってくれますから、イスズミやらブダイ類が適度に集まってきて何とも期待の持てそうな雰囲気です。

 10時50分ごろになると周囲の様子が大きく変貌しました。20〜30m沖に無数の浮きグレが再度現れ、大きな干出し岩ができたかのごとく、水面直下でひしめき合い始めたのです。サイズは一様に40cmくらいか。
 
 今度は焦って沖を直撃するようなことはせずにサラシ越しのマキエを続けていると、浮きグレの島から多くのグレがワラワラと寄ってきてマキエを食ってはUターンするという、マキエに対する上下運動を横倒しにしたような行動を取り始めたではありませんか!
 マキエを続けながら魚のターン点と思しき辺りにBの仕掛けを静かに送り込むと、すぐにウキが横走りして38cmの口太グレをゲット!今度は慎重にクーラーに収めてようやくボウズ脱出!

 それからは竹島の実力を嫌というほど思い知る時間となりました。マキエを入れるや沖からグレが大挙して押し寄せてくるようになり、次から次へとヒットしてきます。
 浮きグレなので腹回りがへこんだ魚が多いものの、どれもこれもビックリするほどスピードがあり、ヒットするやあっという間に足元のオーバーハングに突入してきます。寝不足で頭が回らないことと、喪明けで釣りの勘が無くなっていたこととで幾度も不覚を取ってしまいましたが、足場の変更とハリスのアップで対処。1時間ちょっとの間に35〜40cmを15枚ほどヒットさせることに成功し、サイズよりも旨そうかどうかを最重視して合計7枚をキープ。
 その間、ハリに掛かった小型のイスズミがでっかいカンパチに襲われるというハプニングもありましたし、ド派手なモンガラカワハギのヒットもありました。何よりも嬉しかったのは念願だったハタタテダイをようやくヒットさせてキープすることができたこと。持って帰って煮付けにしたけど、やっぱり旨い魚だった♪

 ようやく仕留めた本命魚。
 一番嬉しかった獲物は間違いなく
この一枚!
何年越しだったかな。
 この入れ食いタイムの終焉は突然でした。
 3mクラスのサメが背鰭を出して泳ぎ始めた瞬間に、すべてのグレが姿を消してしまったのです。
 とはいえその時すでに12時15分。12時40分には迎えの渡船に乗っていたことを考えるとこれ以上ないタイミングでの終了だったともいえますな。

 竹島からの帰路は船長の予想通りに波があり、多方向からの三角波も発生してなかなか大変な航海だったようですが、見事な操船で波を抜けていく船のキャビンで寝転ぶ私たちは、時化ていることすら気づくことなく枕崎港に到着することができました。

 第八美和丸の枕崎入港と時を同じくしてすぐ隣の岸壁に接岸した渡船があります。今日は枕崎沖磯、明日は黒島に渡す荒磯フィッシングです。
 「明日は尾長の出る磯に乗せてあげてよ!」
 今日の乗客の去った岸壁で2人の船長とウニ屋の方とワイワイと話し込んだり、渡船屋の裏話を聞いたりして楽しい時間を過ごしてから釣具屋経由で宿へ帰り、心地よい疲労の中、久しぶりの落ち着いた眠りへと落ちていきました。

 明日は珍しく体力万全で離島の釣りに挑めるかも!?
 コモリの平瀬からの「ほら穴」、「クツ瀬」など。  崖の上は起伏の少ない竹島の風景。

 ● 竹 島 takeshima
利用渡船 武岡フィッシング
出港地 鹿児島県枕崎市 枕崎漁港
時間(当日) 1:20(枕崎発。航程約90分)
〜12:40(回収)
料金 13000円
 (夜釣り 16000円
 一泊釣り 21000円)
駐車場 無料 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム
磯替わり
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

・離島をハシゴ!黒島へ!  黒島 丸瀬   12月28日

 硫黄島の西に位置する三島村最大の島「黒島」。海岸から500〜600mの山々がせり上がり、群れ集まって平地がほとんど無い地形を作り上げています。荒々しい山肌のその上は島名通りの黒々とした森に覆われ、水にも恵まれたその様子から「ミニ屋久島」とも称されているようです。
 このワンドの最奥が私のポイント。
 南西諸島ではマキエを駆使して積極的に攻めていくよりも、
こういった地形を利用して大量のイスズミを躱しつつグレを
拾っていくのが基本とのこと。
 左から、昨日竿を出した竹島、昭和9年の海底噴火で
出現した昭和硫黄島、噴煙を上げ続ける硫黄島。
 沖には住民の帰島がようやく叶った口永良部の島影。
 また、この島を扱った文学作品に、有吉佐和子の小説『私は忘れない』があります。
 高度成長期から取り残されたこの島で僻地教育に奮闘する教員たちや、島の人々の厳しい生活、風水害との過酷な戦いなどを、東京で味わった挫折を忘れようとしてやって来た女優の卵・万里子の快活さと行動力を通して明るく描いた名作。私がこの島に行きたいと強烈に願うようになったのも、この作品を時間を忘れて一気読みしてしまったことが一因となっています。

 そんな黒島へいざなってくれる荒磯フィッシングに集まった釣り師は10人ほど。離島組は私ともう一人を除いてみんな底物釣りだということもあって、皆さん急がず焦らずのんびりとした集合となりました。そして予定通りの午前3時半に岸壁を離れると、まずは枕崎の立神とその周辺に数人を降ろしてからスピードを上げて黒島へと突っ走ります。

 私は船内で寝転びながら意気投合した常連の上物師の方と釣り談義をしていたのですが、すぐに眠りに落ちてしまったらしく、気付いた時にはスローになったエンジンが目的地への到着を告げていました。
 さっと身支度して飛び出した先にあったのは島の南東部に浮かぶ巨大な独立磯「丸瀬」。枕崎出航前に船長から上がるように勧められた磯です。

 予定通りこの磯に渡礁した私は、常連さんと船長に教えてもらった上物ポイントである、南向きに口を開けたV字型のワンドの一番奥にせっせと道具を運び込みました。一緒に渡礁した底物の二人組は西端の船着きで竿を出されるようです。

 船の中で教えてもらった攻略法は、「夜釣りをする時間はほとんどないから明るくなるまで待って、竿を出さずに30分ほどマキエをしていると40cmクラスのクロが水面で乱舞しだすから、それを矢引きで狙えばいい。イスズミがワンドの奥まで入ってくるまでが勝負。」というもの。
 でも時間は短くても、確率は低くても、実際にポイントに立ってみるとやはり欲望を押さえきれずに引っ張り出してしまいました。大島HR4号とファントムJ4500、そして2号の電気ウキを!
 船着きから見た黒島。急峻な山肌が続き、細い滝が
あちこちから流れ落ちています。

 何ということでしょう。ナミマツカサ2匹と、明るくなってからのオヤビッチャ1匹で夜釣りが終わってしまうなんて。
 こればかりは仕方がありません。マキエを打ちつつ道具を片付けて、昼用タックルを組み立てるしかありませんな。

 しばらく撒いているとグレらしきものが見え始めたので昼釣りスタート。波気のあるワンドですので念のため試したゼロウキは2投で断念、Bのウキに切り替えて矢引き〜1ヒロを狙ってみることにします。
 すると程なくウキが引き込まれ、この日の最初の尾長グレ38cmが手中に。7時41分のことでした。



尾鰭がやたらとデカいのやら、
体高のあるのやら、
ペラペラのものやら・・・
黒島の尾長は個性豊か。
 メガネハギとモンガラカワハギ(後者は以前の写真)
 ソロイモンガラ。食べてみようかとも思ったけど、パリトキシンの報告が
あるクロモンガラと同属とのことなので、リリースして正解だったのかも。
 丸瀬頂上部からの東の立神。
 通称「チヌマン」、テングハギもヒット。
 これを皮切りに、足元から張り出した棚の少し沖で次々とウキが沈んでいき、かなりのペースで尾長グレが当たってくれました。サイズはどれも37〜39cmとサイズはバッチリ揃っているのですが、体高も厚みも充実したものからペラペラのものまでかなりのばらつきがありますから、この日もやっぱり旨そうな魚だけを厳選した上でのキープです。何でもかんでも持って帰ったって美味しく食べられなきゃ意味がないですからね〜。

 尾長グレの合間には何度かのハリス切れもありましたし、イスズミやらテンジクイサキの他、今日のサイズの尾長よりもパワーがあるかもしれないモンガラカワハギ類も当たってきました。重量感ある引きに耐えて取り込んでみると四国南西部でもよく見るメガネハギだったり、本家本元のモンガラカワハギだったり、さらには35cmくらいの謎のモンガラも混じってきてくれました。

 いやあ、数日遅れのクリスマスイルミネーションでも釣り上げたのかと思いましたよ。何せスカイブルーから藤色にグラデーションするエレクトリックで前衛的な模様がチョコレート色の地を覆い、所によってはドット柄。頬はオレンジ色に染まっているし、第2背鰭と尻鰭の付け根なんてパステルブルーの強い金属光沢をギラギラ放っていますからねえ。
 このイルミネーションモンガラの正体がソロイモンガラであることは枕崎の宿に帰って持参している『釣魚1400種図鑑』を見ても分からず、二日後帰宅してからようやく知ることとなります。
 本命魚だけじゃ満足できないゲテモノ五目釣り師にとってはこの展開は本当にたまらないもの。はるばる南の離島に来た甲斐があったというものです!

 もちろん離島の風景を堪能することも忘れていません。
 9時前には釣りを中断して登山家に転職。釣り座の後ろの険しい斜面を登って、広くて足場のいい頂上部をウロウロしながら、背後の黒島の豪快な岩肌やテフラの露頭に息を呑んだり、沖に浮かぶ竹島、昭和硫黄島、硫黄島、デン島(湯瀬)という三島村のすべての「島」や、更なる沖の口永良部島を眺めたり、船着きでの底物釣りを真上から見学するなどしながら、この地に来ることができた幸せを噛みしめておりました。
 火山好きにはたまらない風景。

 潮は9時すぎに満潮を迎え、やがて下げへと移っていきました。同時にワンドに入ってくる波が荒くなってきたので、ウキを3Bに変更してこれまで同様、棚の際や複数のサラシのぶつかりなどを狙い続けます。

 尾長はどうしても40cmは超えないけど、10時を過ぎても38、39cmくらいのものが1ヒロのタナで頻繁に食ってきました。38cmの口太も釣れたし、力持ちのテングハギもタモに収まりました。でもこの時、それどころではない状況になっていました。それは正体不明の怪物たちのアタックが物凄いことになっていたから。
 掛っても掛っても止まらない魚たち。その大部分は底へシモリへとグイグイと突っ込んでいって、竿下の棚やワンドのエッジで仕掛けをぶった切っていきます。一のしをどうにか凌いでも、二のし、三のしと容赦なく畳みかけてきます。ハリをぐにゃりと曲げていったり、ハリ先を潰していく魚もいますし、中には相当きつく締めているドラグを引き出し続ながら沖へ沖へと疾走、一度は無理やり止めたかとも思ったけど結局止まらずに泳ぎ去っていった魚もいました。

 3.5号だろうが4号だろうが、その程度のハリスではどうすることもできません。仕掛けを作っては切られ、作っては切られ、ウキを回収しては切られ・・・と、1投ごとに仕掛けを作る羽目になるので、ハリもガン玉もハリスもウキゴムも底をついてきました。
 11時半ごろには最終手段としてロッドケースから大島HR4号とファントムJを引っ張り出し、道糸8号、ハリス6号で勝負!するとすぐにアタリがあって、数秒後には半分になってひらひらと宙を舞うハリス6号。思わず「嘘やろ!!」と叫んでしまいましたよ。
 いやはや、離島ならではの面白すぎる展開です。

 結局この夜釣りタックル+6号ハリスには、昨日に続いて大暴れしたカンムリベラと40cm手前の尾長グレが食ってきただけ。さすがにこの太さじゃ魚はなかなか食いませんわ・・・というよりも、潮が悪くなったのがブチブチタイムが急速に終息した原因のように感じています。

 結局尾長グレは何枚釣ったかなあ??とりあえず旨そうなのだけ6枚と、口太グレ1枚をキープして、離島での夢の時間は13時に終了。
 私たちを拾った荒磯フィッシングの船は、荒々しい黒島を横目に長瀬や東の立神に上がっていた最後の底物師を回収していきます。穏やかだった風裏はここまで。長瀬の向こうは飛沫舞飛ぶ白い海。水平線はハッキリ大きくギザギザです。明日はどの船も欠航でしょう。

 船長から受け取った緊急用のビニール袋を横に置きながら見る風景。右に左に激しく傾きながら小さくなっていく黒島、そして竹島。
 楽しくて楽しくて夢中で過ごした時間。思い返すたびに爽やかな悔しさが湧き上がってくる時間。数々の感動。仲間たち、船長たちのおかげで得られたこの僥倖。これらの島で過ごした時間を私は忘れない。いや、忘れられるはずがありません。

 あしたよなァ、黒島!あしたよなァ、竹島!
 いつか戻ってくるその日まで!
                荒磯フィッシングの渡船と黒島南東部の風景。豪快の一言。
 長瀬の南端と、東の立神。  長瀬の向こう、マンジュウや赤瀬はすでに時化の中。
 帰路はこの状態。寝転んだら確実にダウン
ですが、立って帰ればまるで湖上を行くがごとし。
(危険なうえしんどいので真似をしないように^^)
 厳選してキープした2日間の釣果。(道中で何匹かプレゼント済み)
 釣ってから時間は経っていますが、両船長からいただいた氷などの
おかげで美味しく味わえました。

 ● 黒 島 kuroshima
利用渡船 荒磯フィッシング
出港地 鹿児島県枕崎市 枕崎漁港
時間(当日) 3:30(枕崎発。航程約100分)
〜13:00(回収)
料金 13000円
 (夜釣り 16000円
 一泊釣り 21000円)
駐車場 無料 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム
磯替わり
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

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