風雲児  烈風伝
   ・湿気と雨のTHE梅雨グレ。 よくぞ命があったものだ・・・。

2016年 6月18〜19日 高知県 松尾
・引き続き蛇足なプロローグ
 今回もまた、前回ごく一部で好評だった学名の話から始まります。マニア以外の方は本文まで読み飛ばしてもらっても結構ですよ。(笑)
 
 いわゆる口太グレ、牛グレ、尾長グレは、学名ではそれぞれ何と言うでしょう?
 この問いに「メジナ、オキナメジナ、クロメジナでしょ!」と答えた方、そのことを得意げに話したりしないでくださいね。何だったか古い歌に出てくる「距離の単位である「光年」を時間の単位だと思い込んで彼女に教えてしまった元彼」みたいなことになってしまいますぞ。

 口太グレ、牛グレ、尾長グレの学名はそれぞれGirella punctataGirella mezinaGirella leoninaとなります。
 属名であるGirella(ギレラ)は、中坊徹次・平嶋義宏『日本産魚類全種の学名 語源と解説』では「円い+縮小辞」、荒賀忠一『釣りが一時的に下手になる本』では「丸い板」と訳されています。体型を見れば納得ですね。
 メジナ(口太グレ)の種小名punctata(プンクタータ)は「斑点のある」で、これは調理の際に飛び散った鱗を見たら一目瞭然です。
 オキナメジナ(牛グレ)mezinaはそのままメジナなのですが、『日本産魚類〜』ではなぜこれがオキナメジナの学名に使われているのかという疑問が呈されています。
 私個人がもっと疑問に思うのがクロメジナ(尾長グレ)leonina(レオニナ)です。これは「ライオンの」という意味らしいのですが、何がどういうふうにライオンなんだろうか?昔の種小名melanichthys(メラニクチス)の「黒い魚」なら疑問は無かったんだけどなあ・・・。この魚を釣り続けていくうちにいつか分かる瞬間が・・・あるのかなあ??

 隣接する独立磯ウス2番とハナレの底物場。
蛇足に補足:例えばメジナ(口太グレ)の場合、学名をさらに正確に書くとGirella punctata Gray,1835となります。Grayはグレでも灰色でも柔らかな風が吹くこの〜場所で〜♪でもなく、グレイ氏が1835年にこの学名を提唱したという意味で、動物の学名にはこの命名者名を入れても入れなくてもいいそうです。

・またも1船のみ。でも状況が・・・。
 レオニナの謎を解明すべく向かったのは足摺岬の西、ここの所お気に入りの松尾の磯。熊本地震以来の挑戦です。しかし今回も出発前日に函館で6弱の地震が・・・。

 初日は梅雨の晴れ間の凪の土曜日ですが、まつき渡船が結婚式出席のため不在で客は正丸の5名のみ。したがって「オオヒラの高バイ」「沖ウス」「ホンカゲ高場」「ハナレの底物場」に底物師各1名という贅沢な布陣です。まあいくら贅沢でも肝心の上り潮が全然流れてないのでは仕方がないのですが・・・。

 唯一の上物狙いである私に船長は告げました。「上物は全然食ってない。イサギもおらん。」と。
 で、私が上がったのは松尾渡船区最北端の奥まった場所にある「ウス1番」。現在の状況では一番グレの確率の高そうな場所とのことで、近く10枚ほど上がったこともあったんだとか。

・ビッチャ祭りinウス1番
 磯の先端部に釣り座を構え、マキエを一切せずに道具を組み立てます。
 そしてハリスを2ヒロほど取ったG5の仕掛けだけを左側のサラシ脇に投入。ところが1投目から餌は残らず、ウキの頭にマキエを1杯だけかぶせてみても状況は同じ。数投目で手のひらコッパが食ってきて、立ち上がりの一発狙いは終了となりました。

 本格的にマキエを入れ始めると、エサトリがわんさか集まってきました。
 コッパグレ、シラコダイChaetodon nippon  剛毛の歯の/日本)チョウチョウウオChaetodon auripes  剛毛の歯の/金色の足の)アイゴSiganus fuscescens Siganという魚/暗色の)などなど。足元には大小のキバンドウ(和名:ヒブダイ Scarus ghobban  魚の一種/アラビアでのこの種の名称)がうろついています。またキビナゴSpratelloides gracilis  ニシン科Spratella属の形の/細長い、痩せた)の小さな群れもやってきて、ヘラヤガラAulostomus chinensis 管、笛+口/中国の)アオヤガラFistularia commersonii 牧者の笛、導管+接尾辞/コメルソン氏の)に時折襲われています。

 しかしこれらのエサトリ達が主役を張っていたのは1時間足らずの間でした。やがてハリ掛かりしない程度のサイズのオヤビッチャAbudefduf vaigiensis  この魚のアラビアでの名称/ワイゲオ島の)の大群が押し寄せてきて縦横無尽に走り回るようになり、手が付けられない状況に陥ってしまいました。
 7時半ごろ、温存しておいた沖にウキ下1本半の3Bの仕掛けを入れて放置することで、どうにか31cmと27cmの尾長を釣って前者をキープしたけど、目だった釣果はこの2つだけ。あとはたまにコッパグレが釣れるくらいで、サシエはほぼオヤビッチャの餌食になってしまいました。「凶暴な、恐ろしい」という意味を持つLabrus属の偽物、アカササノハベラPseudolabrus eoethinus  偽のLabrus/夜明け、朝+習性+接尾辞)すら1匹しか釣れないという事態です。
 まあこれだけ潮が動かないとどうにもなりませんわ。

 ウス1番の先端部と、引きも食味も良い松尾の尾長グレ。
 こりゃダメだ。弁当船で磯替わりするか・・・。
 でも船長が今はどこに行っても一緒だと言うので、ここで続けることになりました。
 あ〜、思考力がもうゼロやわあ。何なんや!このオヤビッチャ!暑さ!湿気!風の無さ!水分と塩分は充分あるんで熱中症の心配は不要やけど、この蒸し暑さには寝不足の疲れがほんまに応えるわあ。

・潮さえ動けば
 この日の土佐清水の干潮は11時3分。その30〜40分に沖の潮が動き始め、やがて手前の潮もゆっくりとした右の流れはじめました。と同時にマキエに大きな白い影が2つ3つ。
 ウスバハギAluterus monoceros 洗っていない、汚い+接尾辞、行為者+接尾辞/一つの角の)。ミドルサイズの尾長にサシエを届けるために激しい攻防戦を繰り広げるはずだった魚がようやく姿を現したのです。
 また、オヤビッチャに押されて勢いを無くしていたコッパグレが少しサイズを上げて復活し、さらにはでっかいキツ(おそらく普通のイスズミKyphosus vaigiensis 腰の曲がった/ワイゲオ島の)でしょう。)の群れまでもがマキエを奪い合うようになったではありませんか!

 これはチャンスです!00のウキを2ヒロのハリスの中に入れ、ハリから矢引きの所でフカセウキゴムを固定して投入すると、11時44分の28cmを皮切りに尾長グレが連続ヒット。
 しばらくは27cmをなかなか超えなかったけど、マキエとのタイミングや位置関係を微調整してサイズアップを狙っていた12時20分には32cm、27分には30cm、39分には33cmをそれぞれキープ。27cm〜29cmの魚はもはやリリースサイズとなりました。
 ここの尾長は丸々としていて、このサイズでもちょっとビックリするような一のしを仕掛けてくるので堪りません。脂の乗りも味も良くて帰ってからの楽しみが普段以上というのも最高ですね。さあ、あと7cm・・・いや、2cmだけでも大きいものを手にできるよう、一層奮励努力しようではありませんか!

 ところが潮が動いたのは短時間でした。1時前にはもう止まってしまってウスバハギは姿を消し、再びオヤビッチャが周辺の支配者となりました。グレも消えました。マキエに踊りかかっていた大きなキツ達もいなくなり、数匹のサンノジ(和名:ニザダイ Prionurus scalprum  のこぎり+尾/彫刻用小刀、突き錐)に置き換わってしまいました。そして疲労が戻ってきました。

 それでも、悪い悪いと言っていても、13時間も釣っていると何回かは時合がやってきます。
 短時間ながら再び潮が動いた14時26分には30cmの尾長、49分にはこの日唯一の口太33cmを追加。ノンキーパーもパラパラと食いました。

 初日は体力切れのため15時15分に竿を置いて寝転がって渡船を待ち、16時に撤収。今回も松尾トンネル出口付近の「ペンションつりの里」でゆっくり休んで、明日のサイズアップに備えることとしましょうか。
 鱗雲が出たら雨が近いといいますが・・・。

・雨迫るホンカゲへ
 日本の一地方でしかない東京、その水がめとなるダムの水位が低いせいで日本全国水不足とでもいうかのような報道がされていましたが、今年の梅雨前半は雨が多いし激しいし、天気のサイクルがやたらと速いので大変です。
 午前5時の松尾漁港。初日の青空はすでに無く、背後の山の頂は白く煙って今にも雨粒が落ちてきそうです。
 ピンポイント予報では9時ごろに3mmの雨、その他の時間も降ったり止んだりで、色々とめんどくさい釣りを強いられることが多くなりそうです。ただ波予報は1.5mのち2mというのが救いです。
 実際、渡船乗り場は多くの人で賑わっていました。まあそれはまつき渡船が復帰したのが一番の理由であり、正丸の乗客は底物の方と私の二人だけでしたけど。

 さて、出航です。
 港や船内で親しく話し合っていた底物の方を、港を出てすぐにある「カシラゴ」に降ろしたあと、昨日と同じく潮の無い海を渡って前回と同じ「ホンカゲ低場」へ。確実に釣るなら昨日の場所なんでしょうが、やはり夢のあるこの場所で一瞬の潮を待ち受けるべきでしょう。

 「ホンカゲ低場の船着き」と「水たまり」そして「ハナレ」。
 黄金の翼を持った邪魔者  斑点のある丸い板

 この色は外れかも?
と思ったとおり、あまり
美味しくなかった裏本命。
・最初から正攻法で
 ホンカゲ低場は1人で釣りにはあまりに広い磯なのでどこに入るか大いに迷うところですが、まずは船着きで様子を見るとしますか。
 やはりこの日もサシエ1個で先頭打者ホームラン狙い・・・と思いきや、仕掛けを入れる前から海面はシラコダイで黄色く染まっておりますがな。それも私が歩けば大挙して追いかけてくるなんて。

 これではどうにもならないので、今日は最初から分離作戦でいきましょう。
 足元のマキエに集まった面々は大量のシラコダイの他にキバンドウ、アイゴ、サンノジ、オヤビッチャ少々ですか。他には大きなホウライヒメジParupeneus ciliatus ヒメジ属(口ひげの意)に近い/細毛のある)ネズミフグDiodon hystrix 二歯/ヤマアラシ)ツノダシZanclus cornutus 鎌/角のある)などなど。おっと、「邪魔者/黄金の翼を持った」という無駄にカッコいい名前のツマジロモンガラSufflamen chrysopterum も見えますね。一方でグレやキツの姿は見当たりませんなあ。

 とりあえず00のスルスル、ハリス2ヒロ、ガン玉7号の仕掛けを沖に投入。しばらくは潮も動かずに反応無しでしたが、そのうち仕掛けに吸い込みの力が加わり始めたのでガン玉を外して釣ると、6時5分に32cmの尾長グレがヒットしました。サイズに似合わない強い引きに多少泡を食ったけど問題なく確保。
 さらに6時12分には33cmの口太を追加する幸先よいスタートです。姿は見えなくても本命はしっかりと泳いでいるようですなあ。

 その後、潮が当て気味になって餌が取られたり、リリースサイズが食ったりする場面が多くなっていましたが、7時前には緩やかな、されどしっかりした左流れに戻ってくれまので、その潮に乗せて潮下へ、底へと仕掛けをドンドン送り込んでいきます。
 そのまま随分放置していたら手元までガツン!ときて、32cmの銀鼠色の細身の魚が上がってきました。色が全然違うので一瞬何の魚か分からなかったけど、どうやら裏本命のイサギ(和名:イサキ Parapristipoma trilineatum フエダイ科pristipoma属に近いもの/三つの線条のある)のようです(笑)

・竿を畳んで待機
 イサギが居るならタナを取って釣った方がいいかも!と思って仕掛けを作り直していると、ポツリポツリと雨粒が落ちてきました。
 その雨はすぐに勢いを増し、天空から打ちつけてくるだけではなく、切り立った背後の崖からもいく筋の流れになって足元を洗うようになりました。
 
 魚は釣れているけど、これではしばし休憩するしかありませんな。
 雨だけならもう少し強くなっても釣りの続行に躊躇は無いのですが、海鳴りのような雷鳴が轟いていてはどうにもなりません。
 しかもそれがドンドン近づいてきて崖の上で暴れまわっているのですから、わざわざこんな所に落ちたりしないだろうとは思ってもやはり竿を畳んで身をかがめて雷雲が過ぎ去るのを待つしかありませんでした。

 まあ何もせずに待っているのも暇なので、後半分の餌を前倒しで作ったり、気になっていた高場側のサラシポイントへの引っ越し作業をしたりしていると、9時前になってようやく空が明るくなってきました。
 さあ、いよいよ再開か!と思いきや、突如南西からの強烈な風が磯を駆け抜けました。
 風は一陣。すぐに収まってくれました。しかしその後ろには頭の白い波の大群が連なっていたのです。

・時化男の本能
 ああ、これはヤバいな。時間の問題だな。
 いつでも竿を出せる状態にあったサラシポイントでは結局一度も竿を振ることもなく、全ての荷物を船着き周辺に再集結させていつでも撤収できる体勢を整えていると、ほどなく弁当船がやってきました。

 船長は撤収とは言いませんでした。でも、時化男としての経験と本能が自主的な退避を決めさせました。

 「何も釣れんかもしれんけど、カシラゴに上がってみる?港からも近いし、1人より2人のほうが安心だし。」

・私は死んだのか?
 ホンカゲからカシラゴへ退避中。波が高くなってきています。
 ということでカシラゴに移動。南向きのポイントに入っておられた底物の方に挨拶すると、港側の船着きでの竿出しを快く承諾してくださいました。

 磯のタイドプールには早い時間帯に釣れたという50cmオーバーのイシダイOplegnathus fasciatus  蹄または武器+顎/帯状斑紋のある)が泳いでいました。ただ今は南からの波と風もあって厳しい状況とのこと。

 再び強まった雨、戻ってきた雷鳴が時折轟く中、いつでも竿を出せるように準備だけはしておこうと竿立てを打ち込み、それにロッドを刺して仕掛けを作っていきました。
 5.0mのロッドは伸ばして高く掲げるようなことはせず、117cmの仕舞寸法のままウキを通し、ゴムを通し、ウキ止めをセットし、風波でもみくちゃになった海面に対抗するための過負荷のオモリを噛み付けます。

 そして最後にハリの結び目をグッ引き締めた、その時でした。鼓膜を破らんばかりの大音響と、紫がかった強烈な閃光。その2つが同時に降り注ぎ、うつむいてハリを見ていた私の耳と視界の全てを染め上げたのは!

 私は、意味の解らぬ叫び声を発しながら、跳ね飛ばされるかのようにして逃れようとし、そして腰を抜かしました。
 もしや死んだのか?という考えが一瞬頭をよぎりました。しかしどうやら足はあるようです。そして全てが無事のようです。

 「目の前に落ちた・・・。」
 底物の方が震える声で言っています。

 その直後に船長から底物の方に電話。「もう止めて帰る」という言葉を聞いて、私も「一緒に帰る」と船長に伝えてもらいました。

 「こんな怖い目に遭うたのは初めてや。」
 「死んだかと思ったし、ここにおったらいずれ死ぬ。帰りましょう。この波ならどっちにしろ撤収でしょうけど。」
 「この波もただの雨の波じゃない。まあ命さえあれば魚なんてまた釣れるし。」

 私たちが駆けつけてきた正丸に飛び乗って港に戻ったのは午前9時半。パンツまでびしょ濡れの状態でバッカンを洗っていると、まつき渡船も全てのお客さんを回収して港に駆けこんできました。
 帰路の高台から見た海は、早朝には想像もできなかった荒れ狂う海。まさに危機一髪の撤収でした。

 今回も35cmの尾長は出ず。2日目の竿出しは実質2時間。時化になったのは松尾付近だけで、大岐の浜は池のようだし、車窓から見たホームグラウンド・伊田のセイダバエや灘の一のハエでは普通に釣りが楽しめている。
 でも、そんなことは大したことではありません。なにせ命があるんだから。
 獅子(レオニナ)を狙ったことによって突き落とされた千尋の谷から這い上がって再挑戦することも可能なんだから。
2日間の釣果。
口太33cm2枚、
尾長28cm1枚と
30〜33cm6枚。
イサギが1枚。

※今回も学名とその訳は中坊徹次・平嶋義宏著『日本産魚類全種の学名 語源と解説』(2015年3月刊行)に依りました。基本的に全種の学名とその和訳を淡々と載せていくだけなんですが、辛口のコメントが書き添えてあったり、献名の場合はその人物についての簡単な解説まで載っていたりと、マニアにとっては大変面白い本です。
 なお、学名は研究の進展により結構変更されますので、ご覧になった時点で既に古くなっている可能性もあります。

 ● 松尾 matsuo
利用渡船 正丸 出港地 高知県土佐清水市・松尾漁港
時間(当日) 5:00〜16:00
5:00〜9:30撤収
料金 3500円
駐車場 無料 弁当 500円
宿/仮眠所 近隣に民宿あり システム 一部の磯は磯割り制
磯替わり 可能 特記事項
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

釣行記TOPへ