風雲児  烈風伝
  ・奇跡!ベタ凪の灘 花火大会と流星群の夜 

2017年8月12〜13日(夜釣り) 高知県灘
・千載一遇の釣りへ
 私のホームグラウンドの一つである高知県黒潮町の掛川渡船ではこの時期、灘のイチノハエと伊田のセイダバエの2か所限定で夜釣り(半夜釣り)をやっています。
 しかしこれがなかなかハードルの高い釣りで、両磯とも一日一組限定・・・とはいうものの東や南系の波風に非常に弱く、夜明けまで回収不可となるイチノハエに夏場に上がれることなんて数えるほどしかありませんし、はるかに条件が良く、半夜釣りが基本のセイダバエも磯が低いので波気があったり潮が高かったりするとどうにもなりません。さらに単独行がメインの私にとっては2人以上でなければ予約不可というのが一番のネックです。
 しかし今回、リョータさんとタマメさんという仲間とともにここでの夜釣りに初挑戦できることになりました。

 ところが予約を入れてからもすんなりとはいきませんでした。18日+18時間という長期間にわたって迷走した挙句、和歌山県に上陸した台風5号の動向にヤキモキさせられ、リョータさんは急用で参加できなくなり、10日には船長から「12日は夜9時ごろ満潮で潮位が高くなるし、うねりも残っているのでこのままでは船を出せない。」という電話までありました。
 とりあえずもう1日様子を見てもらえることになったけど、これじゃおそらく無理だろう。そう思って松尾への転進を考えていたところ、前日になって「西の風のち北西の風、海上ではやや強く、波高2m」という季節を間違えたかのような予報と、船長からのGOサインが出ました。

 よっしゃ〜!予定通り出発だ!
 12日は朝に西播磨を出発して瀬戸大橋を渡り、香川県でタマメさんと合流して黒潮町の灘漁港へ。そして16時に出港しました。

・高知・南予でたった一つの
 灘出港ですから、上がる磯は否応なしにイチノハエになります。

 実は当初、夕まずめはグレ、暗くなったらイサギを狙って21〜22時ごろに帰るつもりで伊田のセイダバエを予約していたのですが、タマメさんと2人での釣行になったことでメインターゲットをシブダイ(標準和名フエダイ、学名Lufjanus stellatus(ルチャヌス ステラータス)、四国での地方名アカイセギ、アカイサギ、ナベワリ、アブラウオなど)に変更。前日に船長にそのことを告げると、「アカイセギならイチノハエがええよ。あそこは波が出ても朝まで迎えに行けないけど、この風なら大丈夫!」ということになり、『高知の海釣りのすべて(第3版) 高知・南予空撮228ポイント』でたった1ヶ所、アカイサギという矢印が描かれている磯「イチノハエ」に変更してくれたのです。

 ただし今シーズンの実績はありません。渡礁時に船長が「あなた達が初めて」と言ってましたからね。この磯での夜釣り自体が今シーズン初なのか、本格的なシブダイ釣りが初めてなのかは分からないけど。
 まあ釣れなくて元々、未知の磯での夜釣りを味わうのが目的の釣行です。サッパリダメなら未明に極大を迎えるペルセウス座流星群でも楽しんで帰ればいいだけのこと ☆<
 夏場の夜釣りで上がれるのは数回だけ?灘の名礁イチノハエ。安全のため、チャランボの先に標識灯を掲げて釣ります。

・まずはグレ釣り&ルアー釣り
 黒潮町の前日の最高気温は全国1位の36度、この日も日中は35度を超えていたようですが、最も暑い時間は過ぎているし磯の上は南西の風が波が立たぬ程度に吹き続けていてなかなか快適。夕立も無さそうなので安心です。

 そんなイチノハエでの私の第1投はグレタックルでのゼロスルスルで撒き餌もサシエもオキアミ、タマメさんはルアータックルでのスピンテールジグでした。

 磯際にマキエを撒くと小さなオヤビッチャとシラコダイとベラ類、少し間をおいてコッパグレが見えていました。沖の方には何か茶色い魚もいましたが横着して偏光グラスを掛けていなかったので魚種は何だったのやら。

 で、釣果は手のひらサイズの尾長・口太が10枚程度と同サイズのキツが1枚釣れただけ。タマメさんはノーヒット。船長が言っていたハガツオはどうやら回ってこなかったようですね。

 ハナレ側(北側)で竿を出すタマメさん。
 シブダイの存在を確認!やったぜ!
 タマメさんもシブダイ確保!
・いきなり連発!
 さっさとルアーを諦めたタマメさんはハナレの手前でシブダイタックルを振っています。
 私の方も17時45分をもって中途半端なグレ釣りを終了し、イワシミンチをバッカンに移し、ロッドケースから大島4号とファントムJのコンビを引っ張り出し、道糸8号にハリス10号、3号のウキと丸玉オモリ、14〜15号のヒラマサバリをセットしてキビナゴを刺し、東向きの船着きから近距離に投入して左への緩い潮に乗せて流し込んでいきました。

 スルスルスル・・・
 釣り座のすぐ左にある出っ張り、その沖10mくらいの所を流れていたウキが海中へ滑りこんでいったのは、シブダイ釣り開始から10分ちょっとしか経過していない18時20分ごろのことでした。
 確信を持ってアワセると強烈な引きが襲い掛かってきました。でもこの抵抗は予測済みだし、この程度ならまだまだ余裕。竿尻を下腹に当てて食い止め反撃に転じると、過去数回のこの釣りの記憶が全身に蘇ってくる感覚とともに、赤銅色の魚が夕日に照らされた海面にその姿を現しました。
 タマメさんが差し出してくれたタモに収められたのは42cmのシブダイ。空撮の表記は嘘じゃない!本命魚、やっぱり居ました!!

 それから10分も経たないうちに同じ場所でウキが沈んだけどハリ掛かりせず。しかしその直後にもう一度アタリがあったので、今度は半呼吸置いてからアワセ!掛ったぁ〜!
 これは強い!この魚のパワーはほんの10分前に掛った魚とは桁違いです。しかし今回も万全の心構えでの戦闘突入だったので私の方も負けません。猛然たる突進は竿尻を魚に向けて止め、磯際への逃避は水平にした竿の竿尻を押し当てた体ごと突き出し、膝のクッションも活用して凌ぎ切ると47cmのシブダイが浮上してきました!

 そのさらに10分後、18時40分ごろにはハナレ手前のワンドでタマメさんが42cmを仕留め、そのすぐ後にも連続ヒット。ところがよそ見をしている時にウキを持って行かれたために体勢が整わず、ドラグが緩すぎたことも重なってやり取り開始直後に根に張り付かれてしまいました。少し時間をかけて一旦引き出すことはできたものの、間もなくハリのすっぽ抜けで無念のバラシ。相当な大物だったらしく、タマメさんはずっとこのバラシを悔やみ続けておりました。

・夜の帳と閃光と
 海面を漂う2つのウキに黄緑色の灯がともり、船長に預けられた自動点灯式の標識灯もチャランボの上で点滅し始めました。風もいつの間にやら南西の海風から北西の山風に交替したようです。
 さあ、いよいよお待ちかねの時間だ!明るいうちにこの状態なんだから、一晩やったらいったいどれほどのシブダイが竿を曲げてくれるのだろう。

 ところがどうしたことか、暗くなってからはなかなかアタリが出ませんでした。夜釣りの税金イットウダイ科(マツカサ類)やキントキダイ科の出勤時間になっても餌はあまり盗らません。マツカサ類に関しては一晩で3匹、キントキ類は私はゼロ、タマメさんが1匹キープしているのを見ただけです。他にはイトフエフキが1匹とガシラが2匹釣れただけで本命の追加は二人とも無し。

 20時を過ぎたころ、視界の端の山際の空がビカビカと光ったように見えました。雷か?北朝鮮のミサイルか?それとも地震前の発光現象か?と一瞬恐怖を覚えたけど、どうやら窪川で打ち上げられている花火の閃光だけが見えているようです。さらに後ろを振り向くと、井ノ岬の向こう側からも同じような閃光が激しく明滅しています。こちらはおそらく足摺の花火大会なのでしょう。
 そうか、シブダイもエサトリも当たらないのはこれが原因だ。花火を見に出かけているに違いない!(そんなわけあるかいな)

・釣る人、休む人
 21時前、タマメさんに待望のアタリが出ました。
 大きく弧を描く剛竿、必死で耐える釣り師、息詰まる戦いの末にでっかいシブダイがヘッドライトの灯りの輪の中に現われました。タモ入れを頼まれた私がヒヤヒヤしながら掬い上げたその魚は、タマメさんの自己ベストタイだという53cm!その前後に釣られた47cmのシブダイが随分と小さく感じられてしまうほどの迫力でした。

 「磯際を集中的に狙ったら釣れた。」というタマメさんのアドバイスどおり、私も船着きや小さな出っ張りの磯際を狙ってみますが、この時間帯の船着きは潮当たりが強く、サラシと沖に出る潮に阻まれて思うようにはいきません。
 3枚目のシブダイは遠い。相変わらず外道もハリに掛からず、数投続けてキビナゴが齧られたり、はらわたを啜られたりする時間帯が時折ある程度ですから、休んでいる時間ばかりが長くなるのも仕方ありませんわ。

 一方、タマメさんの方は釣れないからぐうたらするなんてことは無く、気分転換も兼ねて新たなポイントの開拓に挑んでおられました。
 移動先は磯の南向き。シモリが点在しておりその間を釣るグレ釣りでは非常に魅力的なポイントですが、夜にパワーゲームをやるには不安要素の多い場所。当て潮というのもやりづらいけど、魚影は最も濃そうな場所ですからねえ。

 そのタマメさんが本日4枚目、45cmのシブダイを引っさげて帰ってきたのは22時30分頃だったでしょうか。磯から丸見えの国道56号線。いつもは交通量の少ないこの道が花火大会から帰ってくる車で大混雑する様子を眺めている時にウキが入っていて、あわや夕方のバラシの二の舞を演じてしまうところだったそうです。

・やっと私にも
 23時前、船着きの止まっていた潮が少し早くなりました。磯際では反応が無いし、折角なので15mほど沖を北向きに流していくと、30mほど先でウキがチョコンと動いて斜め方向に少し引き込まれました。エサトリかな?と思って様子を見ると、一旦浮いてきてからまた同じような動きをしたのでアワセを入れると予想外に強い引き。エサトリじゃない!シブダイだ!
 大きな写真ではとても
見せられるようなものじゃ
ない・・・。
 沖の魚と自分との間には磯のエッジが横たわっています。このままでは張り付かれる。そこでこちらから距離を詰めつつ、ロッドで引き回しているとすぐに引きが弱まっていきました。取り込んで測ってみると40cm。もう少し大きかったら危なかったかもなあ。

 久々の魚に気をよくして同じように流していくと今度はずっと手前の出っ張りの先端付近でウキが沈みました。この魚もそこそこ力強かったけど暫しのファイトでハリ外れ。

 バラシで魚が散ったのかアタリが無くなったのでまた10分ほどだらけてから再開。すると23時40分過ぎ、先ほどのバラシと同じところでウキが突き刺ささっていきました。
 掛った魚はさっきの40cmとは別物の恐ろしいパワーで引きまくります。だがこちらも4号竿のパワーとそれを活かしきるための角度、そして腕力を総動員してねじ伏せてタモの中に収めました。サイズは50cmジャスト!やった!これでようやく大台に乗せたぞ〜!

 よし、この調子でドンドン行くぞ!とハリを結び直して投入。するとまたしてもアタリがありましたが今度は10号ハリスがバッサリ切られてしまいました。そしてまたアタリが遠のきました。

・疲れは酷いが
 それにしてもタマメさんが撮ってくれた私の写真、何とも酷い顔で写ってますわ〜。
 とにかく暑い!とにかくしんどい!
 陽のあるうちも宵のうちも風によって誤魔化されていた気温の高さが、風が止むと同時に熱帯夜続きで疲弊した体、取れ切っていない疲れに重くのしかかってきて、体力・気力をガンガン削っていますからねえ。
 この時間になると最早、釣っている時間よりも休んでいる時間の方が遥かに長いという情けない状態になっていました。魚を掛けたらアドレナリンが出て一時的に活性化するんですけどねえ。

 そしてその活性化は2時前に起こりました。
 スルリと潜り込んでいくウキを見て竿を煽ると、先ほどと同等の強烈な抵抗ながら先ほどとは何か違う。まるでキツやサンノジのように竿をゴンゴン叩きながら沖へ横へと目まぐるしく方向転換して暴れまくるその動きは、これまで取り込んだ4枚とは全く異質なもの。
 「なんやこれ〜?」と何度も口走りながら浮かせてライトを当てると、浮かんでいたのはシブダイでした。それもまたまた50cmのやつが!
 いや〜、本命魚だったとは最後まで分かりませんでしたよ。道具もハリ掛かりの位置もこれまでと同じだったのに、シブダイの引き方にも個性があるんですかねえ。
 またしても50cm!

・月下の死闘
 その10分後、またまたウキが消し込み、一瞬にして気力・体力がONに切り替わりました。よっしゃ、これも獲ってやるぜぇ〜!
 次の瞬間、波音かすかに月揺らぐ磯に、けたたましい音が響き渡りました。

 「ジイィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜!!」
 これまでシブダイの猛進にも作動しなかったドラグが、至近距離でアブラゼミが鳴き出したような音を立てて8号ラインを吐き出しています。限界まで曲がり込む大島4号の先では、何かとてつもないものが沖へ沖へと底走りしています。
 止まらない!まだ止まらない!このままではやられる!そう思いながらしがみついていた竿がとうとう魚を止めてくれました。私はすかさず下腹から竿尻を外し、それを魚の方向に向けてプレッシャーをかけつつ、リールを巻きにかかりました。
 出された道糸を少し取り返したところで魚が方向転換し、右に向かって猛烈に突っ走っていきます。再び絶叫するドラグ。あかん!そっちのその先はシモリ地帯や!
 しかし魚はあわやというところでブレーキをかけてくれました。やった!だがここで魚を休ませたら元の木阿弥。私は竿を切り返して魚の方向を変え、腕力で締め上げ、糸を取り返します。
 また走る。また絞り上げる。それから何度攻守が入れ替わったことか、数分に渡る力の応酬の果てに白っぽい巨大な魚が海面に横たわりました。
 これで決着だ!とタモを取り、ヘッドライトに照らされた魚に50cmのタモ枠を伸ばしていきます。が、入らない。デカすぎて掬えない。結局どうにもならなかったのでタマメさんに助けを求め、大物使用のタモ枠で掬ってもらいました。が、重すぎてタモの柄が折れそうだったので、低い所へ移動してどうにか捕獲。

 私の体力を限界まで奪ってしまった磯のダンプカー75cm。
 ハマフエフキ。75cm。
 いやあ、凄いパワーでした。勝因は夜半を過ぎて昇ってきた下弦の月に照らされていたこと。竿の角度を的確に保つことができたのは月の光のおかげです。(日の光の下、グレが相手だとできないのにねえ。)

・戦闘不能だ〜。
 素晴らしいファイトに敬意を表し(というかクーラーに入らないし、食べきれないし・・・)、このハマフエフキをリリースしたところで私の体力と気力は限界を迎えました。
 餌も時間もまだ残っているけど、道具を片付けてここでリタイヤ。横にはなれなかったけど、磯の上にへたり込んで燃え尽きておりました。

 一方、タマメさんの方はその後も頑張っておられましたが、オジサン類が一つ掛っただけで終了。明け方のルアーも不発、いや結果が出る前に迎えが来てゲームセットとなってしまいました。

 シブダイ5枚。40cm、42cm、47cm、50cm、50cm。タマメさんは42〜53cm4枚で二人合わせて9枚!釣れなくて元々の釣行だったのにまさかここまで釣れるとは!掛川船長も驚きの釣果でした。
 そういえばペルセウス座流星群は、夜半に昇った月の明るさと流れてきた雲の影響で一等級くらいの赤くて遅い流星一つしか見ることはできなかったけど、なによりもこれほどのstella(星)を見ることができ大満足です。力勝負には熱くなったし、家に帰ってからの料理も最高。
 刺身、塩焼き、ヅケ、それに前回その旨さを知ってしまった「塩焼きをリメイクした潮汁」はもちろん、刻んだ皮の湯引きポン酢の味には悶絶しました。何なんだあの弾力を残しつつとろけていく絶妙な食感は!ポン酢の爽やかさによって引き立てられた抜群の旨みと甘みは!あの料理は危険だ!中毒性が強すぎる!(ちなみにシブダイの刺身とポン酢の相性はもう一つ。)

 単独行では得られない夜釣りへの挑戦権をもたらしてくれたタマメさんと、ひと夏に何度も無いベタ凪の奇跡の一夜に感謝です。来シーズンも少ないチャンスをモノにして、絶対にここでこの釣りをしてみたい!
 そう強く思う私の隣には来シーズンまでなんて待てない人が一人いて、港に戻る船の中で月内の予約を入れておられました。果たしてどんなドラマが繰り広げられるのか、私も戦況報告が楽しみです。
 明け方、再びルアーロッドを振るタマメさんでしたが、
魚を掛ける間もなく迎えの船が来てしまいました。
 2人分の釣果。引きにも味にも大満足!

 ● 灘 nada
利用渡船 掛川渡船 出港地 高知県黒潮町・灘漁港
時間(当日) 16:00〜5:00
(夜釣りは1日1組限定)
料金 3500円
駐車場 無料 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム 磯の予約可
磯替わり 基本的に無し 特記事項 伊田エリアと同一業者
詳細 高知県黒潮町 井ノ岬周辺(灘・伊田)の磯
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

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