風雲児  烈風伝
   ・荒天の選択、雨の泊浦 シーズン最後のグレに挑む 
2018年 3月19日 高知県泊浦
・消去法で決定
 今年二回目の釣りは3月後半、気の早い高知の記録的なスピードで満開となった日でした。
 初釣りから2か月半近くも空いてしまった理由は単純に休みを取る暇が無かったからです。隙を見て地元の海で釣ろうにも水温1ケタの瀬戸内ですからねえ。全く行く気になりませんでした。

 ただ釣りをしていない間に実は色々とありまして、「ものや思ふと人の問ふまで」「風をいたみ岩うつ波のおのれのみ」「わが袖は潮干にみえぬ沖の石の」なんてことに・・・。
 まあ身の程知らずに似合いもせんことやっての当然の結果ですから、落ち込んでいてもしょうがない。私の居場所は潮が引いても見えないシモリではなく、激浪に耐え浸食に耐える磯にこそあるはずだし。

 そんなこんなの気晴らしも兼ねた今回の釣行でしたが、行く前からボウズを覚悟していました。
 天気は連日雨・雨・雨。代休をどう使おうが雨からは逃れられないという状況でした。それでも波1.5のち2m予報の月曜はまだましなように見えますが、南系の風だし、その波高はどう考えてもおかしい。(出発後に見たら波高3mに変ってました。)となると東南東〜南の風波にとにかく強いあのエリアしかないか。

 また、口太グレは軒並み産卵期で、特に高知南西部は相当厳しいという噂です。さらに尾長グレの出るようなところにはそもそも時化で行くことすらできない。となると保険として使えるのはチヌか。食わない可能性の高い口太を狙いつつ、いざとなったらチヌ狙いに切り替え可能な場所こそが今回のベストということか。

 と、消去法で目的地を決定。18日夕方に兵庫を出発し、南国市に入ったところで降りはじめた雨の中を走り抜けて大月町西海岸の「泊浦」にやってきました。

・ハイシーズンなのに貸切!
 10月にも上がったアカサキの船着き。対岸は弦場の鼻や橘浦。
 車内で仮眠していると白々と夜が明けはじめました。それは幾つになっても心が浮き立つ時間帯。例え一時的に上がっている雨が間もなく再度降りはじめ、やがて強雨になることが分かっていてもそれは変わりません。そんな私ですから、「なほうらめしき朝ぼらけかな」とか「あかつきばかり憂きものはなし」とかいうような感情を今まで一度として抱いたことがありませんし、寂しいことにこの先もずっと無縁であり続けることでしょうね。少なくとも釣りを続けることができなくなる日が来るまでは。

 起きだして準備していると船長がやってきましたが、他には誰も現れませんでした。
 巨チヌの宝庫として認知度が高まったハイシーズンの泊浦。ところが他のお客さんは雨予報を見てキャンセルしてしまったとのこと。雨はめんどくさいけど大チャンスなのになあ・・・。まあそのチャンスは私がいただくことにして、予定通り6時に港の浮き桟橋を離れました。

 ポイントは現在水没中の特級磯「小島のハナレ」以外は選び放題ですので、「グレがメインでチヌも狙える磯がいい」と船長に希望を言ってみたら、「どっちもというのは無理。今年はチヌが釣れる磯とグレが釣れる磯がはっきり分かれている。」と言われてしまいました。ただグレなら地磯、特にアカサキがよく、産休どころか昨日も42cmを頭に3枚上がっていたとのことでしたので、今回はそこに渡礁させてもらいました。

・怒涛の展開
 7時半ごろ満潮、13時半ごろ干潮という潮回りなので前半戦は船着きに釣り座を構え、やがて広大な足場に変貌していくシモリの左端周辺を中心に狙っていきましょう。
 シモリから引きはがさなきゃいけない場所だし、まだ地の方には入っていないといってもロクマルどころかナナマルのチヌがいつ不意打ちで掛っても何の不思議もないエリアですから、竿は1.85号相当、道糸2.5号、ハリスはとりあえず2号を選択し(結局いつも通りですがな・・・)、G5のウキ+潮受けウキゴム+ジンタン7号、ウキ下2ヒロ半の仕掛けを組んでスタート。

 まず殺到したのはエサトリではなく、蚊でした。あの東郷平八郎に献名されたという海の蚊、トウゴウヤブカの群れが私のバッカンやウェアにたかってきてうっとおしいことこの上なし。重ね着する時期なので体中噛まれるようなことはないものの、油断していると指先の一番痒いところを容赦なく狙ってきますから、竿を置き、マキエを打ちつつ片っ端から叩き潰していきました。

 さすがに30〜40匹も潰すと攻撃が止んだので釣りを再開。その間にサシエが触られるようになっており、マキエの周辺にはトウゴロウイワシ類と思われる小さな魚の波紋ができるようになっていました。その小魚に何らかのフィッシュイーターが突入して小魚を蹴散らすという一幕もありましたが、ルアーを持っているわけでもないので気にせずに釣っていました。

 なかなかヒットに持ち込めない状況に「何かが違う」と感じていた私は、7時前に投じたウキが馴染みきる前に反応したのを見てウキ止めを半ピロ動かして2ヒロの位置にして、横に長く伸びたシモリの沖に再投入。すると、その一投目からウキがジワジワと沈み始めたではありませんか!

 いきなり大台、40cm!
 先手必勝!一呼吸置いてから大きくスイープフッキングしてシモリの奥から一気に引きはがすと、重量感抜群の魚がゴンゴンと首を振って抵抗してきました。
 なんや、おるやないか、チヌ!
 最初はそう思ってやり取りしていましたがどうも様子が変です。いつの間にか首振りは止んでいるし、何度も磯際に突っ込んでいくスピードとパワーはどう考えてもチヌじゃない!竿を突き出して何度も止めていく中で姿を見せたのはグレでした。それも良型だ!しばらく後にタモに収まった今回のファーストフィッシュはずっしりと重い40cmの口太グレ!

 足場を移動して写真を撮り、〆て血抜きし、クーラーに納めてから釣り座に戻って次の一投を投じると、追い打ちのマキエをかぶせた直後にウキがジワジワと消えていきました。先ほどと同じように横薙ぎのアワセを入れると30cmの口太グレが浮上!

 まさかのキープサイズが連発です!こんなにいい調子で釣れるということは取りにくいシモリの向こう側からグレを引きずり出せるんじゃないか?そう目論んでシモリの左端にマキエとウキを投入し、待つことしばし、何とウキ下をいじってから3連続のウキ入れです!しかも、この重量感!
 その魚は掛った瞬間から磯際に突進してきました。大きく曲がり込む竿。さらなる突進。浮かぶ汗。ジリジリと移動しながら踏ん張る足。まだ続く突進・・・。
 1枚目の40cmとは比べ物にならないしつこく激しい抵抗の先に口太グレの姿が見えました。やがてタモに収められたその魚にメジャーを当てると尾鰭の先端は46cmの位置にありました。やったぞ!ここでこのサイズに出会えるなんて!

 直後の検寸で46cm。嬉しすぎる一枚。
 このグレによってウキ止めが潮受けゴムまで落とされたことを見落とすポカをやってしまったこともあってさすがに4連続ヒットとはなりませんでしたが、コッパやフグなどを挟んで30分ほど後にも38cmの口太を追加できました。絶好調だ!!

・泳がせずんば、いかにせん
 8時ちょうど、マキエの周辺で波紋を作っていたトウゴロウイワシ科の魚がスレ掛かりしてきました。この魚は図鑑などでは「食用としない」などと書かれていることが多いものの、ここ大月町では鱗を付けたまま揚げて塩を振った「トンゴロの素揚げ」という料理があってこれがまた旨いんです。ただトンゴロといっても数種類あり、同定の手段として肛門の位置が鍵になることが多いので写真を数枚パチリ。写真はボケボケでしたがこれは多分ギンイソイワシかな。

 種名が何であったにしろ、この魚でやらないわけにはいかんでしょう!夢が広がる泳がせ釣りを!!
 ということでハリを外すことなく海に戻したギンイソイワシは、水面に頭を出したりチョコンと潜ったりという、あっという間に食われてしまいそうな動きをしています。今度ルアーのペンシルベイトを使う時にはこれを絶対に再現してみたいと思わせる動きです。
 ところが右に投げても左に投げてもカモメ以外が襲ってくる気配はありません。こうなったらガシラかオオモンハタでも食い付かないかなと磯際まで引き戻してみるとウキに反応!ハリを抱いたギンイソイワシが大慌てで水面を逃げていくではありませんか!

 バコッ!!

 その直後のことでした。薄茶色に見えた大きな魚の頭部が大音響と水柱を上げて水面に躍り出たのは!
 一瞬にして大きく引き絞られた竿が指し示す海中では銀色に輝く魚が激しく抵抗し、右へ左へ、さらには水面に急浮上、激しく頭を振って荒れ狂っています。しかし力の割りには問答無用に走り回ることもせず、根に突っ込むこともないので、竿の弾力を活かせる角度を使って力を受け止め、水面に出たなら切り返して抑え込みます。動きは派手ですが切られる気なんて全くしませんから無理をせずに時間をかけて制圧し、タモに収めて引き上げました。

 やはり居ましたヒラスズキ。宿毛湾はこの魚の魚影が非常に濃く、特に生餌だとサラシが有ろうが無かろうが関係ありません。食べごろサイズ67cmのカッコいい魚はありがたくキープさせてもらいましょう。でも伊田漁港で買ってきたバラ氷を大分捨てなきゃ27リットルクーラーには入りきらんぞ。まだ8時を過ぎたばかりだというのに。



↑ before and after → 

 その後はすぐに通常の釣りに戻し、降り出した雨の中、グレの追加を狙いますが、さすがにあんなのが暴れたとあってはすぐに食ってくるはずもなく、8時50分に28cmの尾長(リリース)が深めのタナで食った他は特筆するようなものは掛かりませんでした。やがてシモリが水面に頭を出すようになってきてポイントの魅力が落ちるとともにやり難くもなってきたし、ウスバハギの群れが回遊してきてしまったし。

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・前へ前へと
 でもこれからだ。これから本命ポイントへの道が開く。
 まずは磯本体の西端まで移動して、釣り座とまだバッカンを置ける状態ではない足場に囲まれたワンドで釣りながら待機し、陸地の拡大に合わせてジワジワと前進していきました。新しい足場の中央沖向きのワンド、もう少し西側の内向きと沖向きの両方、その先のサラシに安全地帯からマキエを投入して体だけ近づけて釣ってみたりとか。でもこの間に掛ったのはカワハギとオトメベラが1つずつとコッパ尾長が数枚。仕掛けを重くしてみてもダメだし・・・。

 悩んでいるうちにさらに潮が引いて、とうとう先端でやれるようになりました。その先には大きなシモリ。船長が「大きいグレはシモリ際で当たってくる。シモリの方に潮が流れたら釣れる!」と言っていたのはあのシモリなのかな?ただ今日の撒き餌は微妙に届かないし、潮の向きはシモリとは逆だ。
 とりあえず低い磯に雨、偏光グラスも使えないというコンボで円錐ウキがほとんど見えないので、太めの棒ウキに替えてできるだけ沖に投げ、そのトップを凝視することに徹底的に集中していると・・・。

 「釣れますか?」

 突然横から人の声がしたのでビックリ仰天。ほんま心臓が止まるかと思いました。
 動揺しながら振り向くと、貝を獲るためにはるばる山を下りてきたおっちゃんの姿がありました。その方は磯釣りもされており、このアカサキでも何度となく竿を出されたことがあるそうで、「そのシモリは浅くてよくない。この磯の本命はここ。両側から流れてきた潮がこの辺でぶつかって橘浦方向に出ることが多いから、その潮が来たらドンドン流していけばいい。」というアドバイスをくれたので、どっちみち潮の無い西端を素直に捨てて、少し戻った所の沖向きに釣り座を固定。マキエを集中的に入れて攻めていきました。

 しばらく棒ウキで続けていると12時25分に10mほど沖でアタリがあり、30cmの尾長グレが登場。キープできる魚が出たのは本当に久々です。一応名物の小ぶりなキバンドウがヒットしたり、何度もハリス切れしたりしてたんですが、ハリス切れといってもアタリなしの噛み切られで、元凶はウスバハギとショウサイフグでしたからねえ。沖は特にダメだ。

・ようやく結果が
 8時過ぎに振りはじめた雨は暖かく、基本的には穏やかに降り続いていました。グレはさておき、乗っ込みチヌはこの天気で釣れなきゃいつ釣れるの?という最高の天候なんですけどね・・・。その雨も12時半ごろには一段と弱まって、止みこそしないものの薄日まで差すようになっていました。
 そんな折、水面直下を遊弋するウスバハギの中に同じくらいの大きさの別の魚が一枚混じっているように見えました。もっとも、偏光グラスを使えないのでハッキリとは見えず、何だったのかはよく分からないのですが。
 まあ折角だから浅ダナも含めて狙えるようにしてみよう。そうと思って棒ウキを0号の円錐ウキに付け替え、フカセウキゴムとジンタン7号1個、ウキ下2ヒロ半という設定でゆっくり落としてみることにしました。

 すると13時、10mほど沖を左へゆっくり流れていたウキがジワジワと沈んでいきましたので、沈みきるまで待ってからアワセを入れると重い!掛っているのは明らかに魚ですが相当に重い!この感じ、間違いなくチヌだ。
 竿を背中側に倒して弾力をフル活用すると魚は底を離れ、中層を動きはじめました。しかし問答無用に突っ走るようなことはしなかったので焦らずに矯めていると、短時間のうちに浮いてきたのでネットイン。引き上げてメジャーを当ててみると50cmジャストでした。“ハッスルチヌ”(この魚の常識を超える馬力で強烈に引きまくるチヌだということで宿毛市観光協会が名付けた“マッスルチヌ”の大月町バージョン)という呼称で売り出しているチヌにしては拍子抜けの引きでしたが、まあ抱卵チヌですし、竿も強いのを使っているし、個体差も大きいはずですからやむを得ないでしょう。
 この魚はとりあえずタイドプールに入れておいて最後にリリース。船長は持って帰って来なかったことを残念がってましたが、キープするならチヌよりもグレとヒラスズキでしょ^^(チヌも時期や料理次第でかなり旨いんですけどね〜)

 さあ、チャンス到来か!とマキエを固め打ちして続行していると、ちょうど30分後に同じような場所で同じようなアタリが出ました。今度はロクマルか!?と勇んでアワセると先ほどとは比べ物にならないくらい軽い。けどスピードははるかに上でシャープな引きが素晴らしい。上げてみると案の定口太グレ。脂の乗った35cmのキープサイズでした。

・急変
 それまで穏やかだった天候は14時前に姿を替えました。薄日さえ差す瞬間もあった空は暗く淀み、雨は嘘のように激しくなって、吹きはじめた強風とともに叩き付けてくるようになりました。暖かかった気温も急降下。温暖前線が去った泊浦に寒冷前線が到来したのです。
 せっかく掴みかけた攻略法はこれでぶち壊しになりました。まあ強風といっても南東の泊浦湾方向からのものなのですぐに大時化になる危険は無いですし、釣り自体は非常にやり難いけど、釣れる釣れないは別にしてやれないことはありません。ただこれから潮が上がってくるし、こう荒れてきては16時にお願いしている迎えが早まることも考えられるので、荷物をまとめて船着きに戻ることにしました。朝のうち絶好調だった船着きをもう一度試してみたい気持ちも強かったですしね。

 0号の円錐ウキは風に対して無力だったので、ウキの大部分が水中にあるG2の棒ウキで釣っていくと14時58分に28cmの尾長グレが釣れました。しかしこれ以外には何も釣れず、15時20分をもって納竿。マキエを洗い流し、バッカンを洗ってから、風をしのげる船着きの岩の陰で雨傘を差して渡船を待ちました。いや〜、傘ってこんなにも快適なものだったんですね〜。ロッドケースの中の予備竿を追い出してまで持ち込んだだけのことはありました。

 そして15時50分ごろにやって来た渡船に乗って帰還。あとは5分ほど走った所にある幡多郷に泊まって、翌日は下川口のネット仲間のところに寄り道してから帰るだけです。さらなる天候悪化でやれそうなところなんてどこにも無いという想定だったので、二日目の釣りなんて出発前から存在していませんでしたから。

・今期もやっぱり・・・
 初日の釣果と、翌日の大月町南海岸・朴崎の海。
 今期も絶品のグレの白子を食べることはできませんでした。
 キープした30〜46cmの口太5枚は全部メス。ヒラスズキもメス(卵巣発達中)。リリースしたチヌももちろんメス。魚ではないけど序盤にたかってきたトウゴウヤブカの集団も当然のようにメスです。(蚊はメスしか吸血しない。)結局のところ性別不詳の30cm尾長以外は全部メスですわ〜。私は人間以外の生物のメスにはモテてモテて仕方ないですからね。

 出発前には期待していなかった今回の釣りは予想外の結果となりました。食い盛った時間は意外と短かく、終盤の寒冷前線は辛く、雨に濡れまくった道具の片付けは面倒だったけどとにかく大満足の釣りでした。また、ウキの浮き沈み、道糸の挙動に一喜一憂するのはその苦しみも含めて心から楽しいひと時なのだと改めて痛感した釣行でもありました。冷たい返信を知らせるにすぎない着信ランプの点滅に一喜一憂するのは苦しくて疲れるだけなのにねえ。それなのに、このまま磯釣りを封印してしまっても構わないとさえ思っていた日々もあったなんて・・・。

 昔はものを思わざりけり。

 ● 泊 浦 tomariura
利用渡船 大月遊漁センター 出港地 高知県大月町・泊浦の浮き桟橋
時間(当日) 6:00〜15:50
17:00まで可
料金 3000円
駐車場 無料(道端) 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム 磯予約制
磯替わり 基本的に無し
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)
 
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