風雲児  烈風伝 外伝!
        ・兵庫県(主に西播磨)の蛾の世界(その3)
2021年 9月〜12月
 新型コロナに明け暮れた令和3年の初釣りは3月27日の千種川水系(相生市、赤穂市、上郡町)でのオイカワなどの淡水小物釣り、納竿は3月30日の赤穂市等の川や用水路でのタナゴ釣りでした。つまりたった2回、佐用町昆虫館で展示する魚を釣りに行っただけで、何と磯釣りどころか海釣りすらしていないという前代未聞の一年でした。

 その代わりにず〜っと蛾にのめり込み続けていて、ライトトラップをしたのが76日、外灯巡りをした日が前記と被る日も合わせて223日と、これまた前代未聞のありさまです。こんな人間が釣りサイト「GURE summit」の管理人なんかしてていいのだろうか?という疑問はひとまず置いといて、今回は9月以降に出会えた蛾たちを中心に紹介します。

 さて、前回も書いた通り、8月終盤から9月はとにかく忙しい日々が続きました。休日前はもちろん、夏季休暇などもフル活用して西播磨各地でひたすらライトトラップ。目的はこの時期に発生の最盛期となるはずのオキナワルリチラシでした。
 この蛾は沖縄だけでなく九州や四国南部、紀伊半島、山口県や島根県の隠岐などでも見られるマダラガ科の美麗種で、昼行性とされているもののオスは当たり前のように灯火に誘引され、特に個体数の多い高知県では一晩に50頭以上が飛来することもあるそうです。昨年の秋に高知県まで探しに行って涙を飲んだこの蛾、兵庫県では確認記録が2件(福崎町、2012年9月8日) (安富町(姫路市)、2001年9月22日)ありますし、兵庫県立人と自然の博物館の八木先生から「実は兵庫県にも広く分布しているのではないか?」という話を聞き、県のレッドリスト改訂に向けて広く情報提供を呼びかけたポスターにもリストアップされて掲載されたとあれば本気で探すしかないでしょう!
 兵庫県内での捜索に臨むにあたり、蛾類の同定の際には欠かすことのできないサイト「南四国の蛾」の管理人nabeさんに本種の生息環境などについて教えていただきました。その後に休日と天候、新型コロナワクチン2回目接種の効果のピークが一致したため、グーグルマップをとことん探して見いだした高知県北部のポイントへ急遽、車中泊弾丸単独行を結構。「レギュラー満タン」「弁当ぬくめて」「レジ袋(ゴミ袋)いります」の三言しか発しなかったライトトラップ旅で8♂の飛来を体験した上で地元での調査を行いましたが、結局兵庫県内でオキナワルリチラシを得ることは叶いませんでした。また、県内3例目の生息確認の情報も寄せられることは無かったようです。
 高知県では得られたものの、兵庫県内では結局見つけることができなかったオキナワルリチラシ(マダラガ科)。
本土亜種は地味だ地味だと言われますが、裏面に光を当てるとこの通りの美しさ!(2021.8.27高知県土佐郡)

 あと、前回紹介した、8月21日と22日にたつの市のニワウルシ(神樹=シンジュ)の藪で発見し、持ち帰ってすぐに蛹化した「体は鮮やかなトラ柄で頭にはパンダの顔模様の毛虫」ことシンジュキノカワガの幼虫4頭は、9月6日と7日に3頭が羽化(1頭は羽化せず死亡)しました。
 この蛾が羽化した時期に、幼虫を採集した場所で数回ライトトラップを行いましたがその後も含めて成虫の飛来はありませんでした。幼虫を採り尽くしたわけではないと思うんですけどねえ。中国から飛来する偶産種とされる蛾ですから、その飛翔力で羽化後すぐに移動してしまうんですかねえ?

 前回も紹介したシンジュキノカワガ
の幼虫。蛹化の際は木の皮等を削って
繭にまとわせます。飼育時に硬質発砲
スチロール片を入れるとその粉を被っ
て見事にカムフラージュしました。

 羽化直後のシンジュキノカワガ成虫。
止まっていると地味で何の仲間かすら
分からない感じですが・・・

翅を開くとこのとおり。よく見ると脚も
黄色に黒のドット柄。標本はまた色々と
失敗してます。なかなか上達しないなあ。

 西播磨では上記の2種は見つからなかったもののやはり9月は飛来が凄まじく、特に宍粟市で行った調査では、仲間同士ライトを持ち寄ったこともあり名前の分った蛾だけで165種を確認し、レッドリスト改訂用に情報提供できました。その他の場所でも様々な種を見ることができましたし、夏場には閑散としていた外灯巡りのポイントにも賑やかさが戻ってきました。
 金緑色が美しいアオアカガネヨトウ
(ヤガ科)(2021.9.4宍粟市)
 名前の通り光沢感のある美しい黒!
ビロードナミシャク(シャクガ科)
(2021.9.4宍粟市)
 水玉模様?がかわいい
モントガリバ(カギバガ科)
(2021.9.4宍粟市)
 ウラギンキヨトウ(ヤガ科)。黒い筋と細くて白い十字模様があるだけの
地味な蛾。でも裏側はこんな風に銀ピカ。銀の鱗粉はかなり落ちてしまって
ますが・・・。幼虫はヌマガヤを食べる湿地の蛾のようですね。この日は
一気に5頭飛んできて一人で興奮してました。
(2021.9.20たつの市)
 9月末頃の短期間だけ見られる
ウスバツバメガ(マダラガ科)。
オスは早朝に飛翔しますが、
ライトトラップにもやってきました。
(2021.9.19相生市、9.20たつの市)
 芸術的な木目のコモクメヨトウ
(ヤガ科)(2021.9.13たつの市)
 昆虫館のキッズスタッフが捕まえたベニシタ
ヒトリ(ヒトリガ科)(2021.9.4宍粟市)

 10月に入るとさすがに種類がガクンと減りましたが、その代わりに各種の個体数まで記録に残せるようになりましたし、経験の蓄積ができてきたことと相まって帰宅後の同定の負担が激減したことで、なぜかライトトラップをやる頻度が上がってしまったような・・・。秋から初冬にかけてはぜひ見ておきたいこの時期限定の魅力的な種が次々出てきますからねえ。

 まず秋といえばヤママユガ科でしょう。今年はクスサンが外れ年だったようで、虫とりイベントの時に参加者が採ってきたのを見ただけでしたが、8〜9月はヤママユ、10月中旬から11月中旬まではヒメヤママユが外灯にもライトトラップにもたくさん飛来しました。また、晩秋に現れるはずのウスタビガは全く見られませんでしたが、11月頭にクロウスタビガが1頭ライトトラップに誘引されました。しかも宍粟市や朝来市などの標高が高い所ではなくてずっとずっと南で!全く予想していなかった新産地発見、飛来した時は目を疑いましたよ。
 よく飛来したヒメヤママユ(ヤママユガ科)
トレードマークは馬の横顔!ヤママユガ科は
場所を取るので採集をためらいますが、これは
小さめなので1頭だけキープ。
(2021.10.18上郡町)
 擦れていますが奇跡の1頭。まさかまさかの
クロウスタビガ(ヤママユガ科)
三日月型だったりハートマークだったりする
4つの紋が特徴です。展翅準備中のひとコマ。
(2021.11.4上郡町)

 10月のライトトラップではカレハガ科のヤマダカレハとクヌギカレハが激しく飛び回り、なかなか止まってくれずに大変でした。ヤマダカレハは多くないと聞いていたのですが、今年は当たり年だったのか地域的なものなのか毎日のように外灯に飛来しており、普通種とされるクヌギカレハの方が圧倒的に少ないという状況でした。
 ヤマダカレハ(カレハガ科)。前翅の3つの白い
紋が特徴。外灯にもライトトラップにも当たり前の
ように来ていました。(2021.10.18上郡町)
 クヌギカレハ(カレハガ科)。こちらは白い紋が一つだけ。
両種とも幼虫は毒針毛を持っていて危険ですが、成虫になると
無毒になってくれるのでありがたいです。(2021.11.4上郡町)

 小さいけどよく見ると美しかったり、面白かったりする蛾も色々と見つかります。
 幼虫が水生・半水生の植物を食べて
育つツトガ科ミズメイガ亜科の一種
イネコミズメイガ(2021.9.8相生市)
 小さいながら文句なく美しいコカバスジ
ナミシャク(シャクガ科)。標本にしてみたら
見る影もなく・・・(2021.10.2宍粟市)
 ヒラタマルハキバガ科のタカムクマルハキバガ。
ハートマークがかわいいです。(2021.12.16相生市)

 当然、蛾以外の昆虫も飛んできます。9月を過ぎるとさすがにクワガタなどが来ることはほぼ無くなりましたが、やはりいろんなのが現れます。
 めったにありませんが、トンボが灯りに引き寄せ
られていることもあります。これは夕方に活動する
カトリヤンマ(ヤンマ科)。外灯の所で寝ていた
だけかもしれないけど。(2012.9.14相生市)
 種の保存法で売買や販売目的の採集が
禁止されているタガメ(コオイムシ科)
がまたまた飛来!飛来時は相変わらず
の凄い飛翔音と衝突音でした。撤収時、
水中にリリース。(2012.9西播磨地域)
 ライトトラップや外灯巡りにカメムシは
付き物ですが、カメムシもよく見ると
きれいなものがたくさんいます。この
クヌギカメムシ科の一種も渋い美しさが
あります。脚は普段緑色ですが秋が深ま
ると赤みを帯びるようです。
(2021.12.11上郡町)

 いつの間にか秋が終わり、初冬となりました。寒波がやってきて凍える夜が続くと蛾の活動も終了・・・のはずがありません。いよいよいわゆる「キリガ」(一部の蛾の研究者たちがその価値基準に沿って秋から春に出現するヤガ科の一部を選定したもの。和名に広く使われているキリガとは一致しない。)や「フユシャク類」(年1回、寒期に出現し、♂は普通に翅があって飛ぶが♀は飛翔能力を持たないなどの特徴を持つシャクガ科の一群)の季節が始まります。それ以外にも活動している種は結構多いので、初冬も真冬も夜の世界は意外と賑やか。寒くても外灯巡りやライトトラップは止められません。実際、クリスマスソロライトとかやってましたしねえ。年の瀬ソロライトは天候に恵まれず中止でしたが。
 あと、初冬から早春は外灯以外にも手すりや杭、看板や橋の欄干などをチェックしなきゃいけないので歩く歩く。そういう所にはフユシャクのメスや交尾ペアが歩いているかもしれませんからね。フユシャクにはまると健康的に痩せますよ〜。皆さんもやってみませんか?フユシャクダイエットを(笑)
 擦れてボロボロですが嬉しい一頭。局所的に
分布する小型のキリガ、サヌキキリガ(ヤガ科)
に出会うことができました。
(2021.12.8相生市)
 この時期にしては大きな蛾が外灯の近く
に止まっているなと思ったら、マエモン
オオナミシャク(シャクガ科)でした。
夏に羽化して洞窟などで夏眠し、晩秋に
活動してまた洞窟で冬眠し、春に繁殖行動
をする変わった蛾だそうな。
(2021.12.6相生市)
 赤金(銅)色の光沢が目を引くマエ
グロシラオビアカガネヨトウ(ヤガ科)
夏から秋になり冬になってもまだ見ら
れました。12月29日にも外灯で
確認。もしかして成虫越冬でもするの
だろうか?(2021.12.23相生市)
 糖蜜採集(木の幹や草の葉に甘酸っぱい
アルコール入りの液をスプレーしそれを吸い
に来る蛾を観察します)もやってみました。
色んなキリガやフクラスズメ、ナカオビ
アキナミシャクなどが来ましたが、写真は
どれもこれもピントが合ってなくて壊滅。
唯一まともなヘーネアオハガタヨトウ
(ヤガ科)(2021.12.8)
 晩秋にどうしても会いたかった蛾その1、
ウスズミカレハ(カレハガ科)。
小さくてモコモコです。結構素早く飛び
ますが、止まってしまうとなかなか動かず、
触るとポロリと落下して落ち葉などに
紛れ込みます。(2021.12.10相生市)
 晩秋にどうしても会いたかった蛾その2、
クシヒゲシャチホコ(シャチホコガ科)。
ライトトラップに素早く飛ぶ小さなキリガが来た
と思ってチャック袋で捕まえてみたら本種でした。
ずっと探してたのに見つからず諦めていた所に
この出会い。最高のクリスマスプレゼントでした。
(2021.12.24上郡町)
 平地・低山地のフユシャク類のトップバッター
クロスジフユエダシャクの交尾ペア。
灯りにもよく来ますが昼行性の蛾で、11月
末〜12月初頭にはたくさんのオスが落ち葉の
上をヒラヒラと群れ飛ぶ様を観察できます。
(2021.12.4相生市)
 地味なのが基本のフユシャク類では珍しく
青緑色が美しい人気のイチモジフユナミシャク
の♀。白黒の体で「ホルスタイン」と称される
チャバネフユエダシャクの♀も魅力的なんですが
実は♀はまだ未見です。(2021.12.28相生市)
 シロオビフユシャクの交尾ペア。
普通種で単体ではよく見られるのにもかかわらず
交尾ペアはなかなか見ることができないそうです。
(2021.12.29相生市)

 こんな感じで釣りほぼ無しの一年を過ごしていました。まさかここまでのめり込んでしまうとは自分自身も含めて誰も想像できなかったでしょうがとにかく充実の一年となりました。数えきれない出会いと胸の高鳴りがありましたし、ニホンジカによる環境の荒廃に加えて環境省の主導で大規模な環境破壊が進み、「脱炭素」のために植物や昆虫が野や山から根こそぎ消されていく中、地元に生息する昆虫たちの現状を記録に残しておくことができました。
 
 令和4年は釣りに戻るのだろうか?このまま釣りに行く時間もなく進んでいくのだろうか?今のところ、フユシャク類の定点調査が手薄な1月上中旬の後の予定は決まっていませんが、グレ釣りの夢を見ることも多くなってますし、コロナ次第では遠征を再開するかもしれないなあ。
 魚メインでも虫メインでもまたここで近況を報告しますので、令和4年も引き続きよろしくお願いします。
 
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