日本海の春チヌには夢があります。
確率は非常に低いながら、この時期限定の素晴らしいゲストが混じる可能性・・・
海に降りて大きく育ち、いよいよ故郷の川へと遡らんと意気軒昂たるサクラマス(ヤマメの降海型)のヒットがありえるからです!
精悍さと美しさ、パワーと美味を持ち合わせたこの魚の前には、チヌなんてどうでもいいとまで思えてしまうのですが(私の個人的な思いです。文句は受け付けませんのであしからず(笑))、広大な海にいる遡上前のサクラマスなんて多分、狙って釣れるはずもない雲をつかむような話だと思いますので、やはりチヌ狙いという体裁での釣行です。
4月9日、円山川の河口に位置する豊岡市・津居山の磯でチヌを釣っていた「頑張れ!日本海」管理人・うめっちさんが55cmのサクラマスをゲット。
記事を読んだ私は、「行くなら今だ!」と11日の津居山釣行を狙ったのですが、生憎その日は「大会が入っていて、磯が空いてない」とのことで断念。
諦めきれない私は、渡船エリア内に岸田川が口を開ける「浜坂(兵庫県新温泉町)」の藤岡渡船に予約を入れたのです。
兵庫県の瀬戸内側・相生から、同じ兵庫県でも日本海側の浜坂までは、岡山県・鳥取県を経由してちょうど2時間。元々無料の高速道路が伸びて本当に行きやすくなりました。
ですが、その道中は佐用から先はずっと雨の中。この日の兵庫県北部は一日雨、翌日は大雨、波は0.5のち1.5mという予報が発表されていたのです。
6時に港を離れた渡船は、矢城(やじょう)岬周辺や小振島などの西磯から磯付けを開始しました。
やがて船は東磯に到着し、一級磯・グンカンには4人のキャスターが渡礁。
そのキャスターに船長は、磯からの方向ごとの底の形状から水深まで、詳細な解説を贈ります。
そういえばこの浜坂は、ナイスサイズのアイナメが狙える磯からの投げ釣りの人気釣り場だと、今は亡き週刊釣りサンデーで読んだことがあったなあ。
「岸田川の河口近くの磯」を希望していた私は、「荒磯大島」(違うかも?)という磯へ。
ここでもポイント攻略についての詳しい解説をしてくれた船長に、私はむしろ戸惑いを感じていました。
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浜坂東磯・鬼門岬方向。
グンカンはこの向う。 |
船長によると船着きから右へ出る潮が本命ということでしたが、撒き餌を打ってみると逆の潮が流れているのがわかります。
とりあえず奥の平らな場所に釣り座を構えて、挨拶代わりの撒き餌の乱れ打ちをしてから仕掛けを準備。
1,5号のロッドに道糸2号、ハリスは1.5号、チヌ針3号。問題はウキですが、落ち込みで宙も狙いたいのでG2をチョイスしました。
潮が白緑色に濁っているので水深がよく分かりません。
ウキ止めを4ヒロにセットして、地の方から船着きへ、磯際を舐めるようにゆっくり動いている潮に乗せて流し込んでいくと、針が海藻に掛かってしまいました。
そこから少しずつウキ下を詰めながら探っていくと、3ヒロちょっとでガシラがヒット!仕掛けもたまにもたれる、いい感じです。
餌は時々取られますが、これはきっとフグの仕業だな・・・と思っていると案の定、但馬名物ヒガンフグ20cmオーバーの登場。
構わず釣っていると8時過ぎ、障害物に仕掛けがもたれて沈っていくよりほんの少し早いスピードでウキが水中へ入っていくではありませんか。
むむっ!これは!
逸る気持ちを抑えて少し待ってから、ビシッ!とアワセを入れると、竿にしっかりとした重みが乗ってきました。
魚はその場からほとんど動くでもなく、ゴッゴッゴッと首を振っています。
何かブダイでもかけたかのような引きの弱さ・・・と思っていたら水面近くに上がってきてようやく激しい抵抗を始めました。
と言っても竿を立てているだけで簡単にタモの中へ収まってしまった魚は、本日の表の本命魚、チヌでした。
おっ、上げてみると、なかなかデカイぞ・・・
後で計ってみると48cm。腹には大きな真子を抱えていますが、体色は居付きと言っている魚のそれでした。
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雨に霞む矢城岬と、牙を剥き始めた日本海。 |
私は当然この一匹に鼻息を荒げますが、直後にお約束の天候悪化。
風向きが予報どおりに北東向き、つまり釣り座の真正面からのものに変わり、風に乗った冷たい雨が真横から吹きつけ、無防備な顔面を直撃し続けます。
さらに波もみるみる高くなり、それまで釣っていた低い釣り座にも時折駆け上がってくるようになったので、私は少し高くなっている船着きの釣り座への移動を余儀なくされました。
私は荒れる海に対応すべくウキとオモリを重くしてポイントを攻めますが、小さなクジメ1匹と、なぜか赤ナマコしか掛かってはくれません。
そして波は更に大きくなり、11時ごろ、回収の渡船がやってきたのです。
高波に暴れまわる渡船のホースヘッド。
危うく私は足を磯との間に挟まれそうになりながらも、どうにか無事に生還することができました。
さて、普通の釣り場ならこれで釣りは終了となりますが、ここ浜坂には2本の一文字波止がありますので、乗客はそれらに移って第二ラウンド開始です。
私は二人の投げ釣り師と一緒に「沖一文字」の東側の一文字に上がり、内向きの東端テトラ際で釣りを続けることとなりました。
地続きの波止の向こうには浜坂サンビーチが見え、その先には岸田川の河口がこちらに向かって開いています。
ここでも挨拶代わりの撒き餌を入れると、深めのウキ下からタナ探し。何度か根掛かりをさせながらウキ止めの位置を調整していきます。
そんな最中にテトラ際へ投じたウキが、馴染む間もなく海中へ!
あれっ?と思った瞬間にはもう、竿先は沖へと引っ手繰られていました。
針を仕込んだオキアミを飲み込んだ魚はさして大きくないようで、重さこそありませんがスピード感が素晴らしい!
右へ左へ、鋭い切り返しで竿をキュンキュンと心地よく竿を曲げてくれます。
良型のアジ?否、この引きの感じは・・・
激しく抵抗する魚が水面下に姿を見せた瞬間、その推測は確信に変わりました。
どんな魚よりも輝いて見える魚体、鋭い白銀の光がキラッ!キラッ!と目を刺します!
足元で水を打つこの魚を慎重にタモに納めてわが手の中へ。
26cm、小さなサクラマス・・・いや、違う! 銀色の鱗の所々には朱点が散りばめられています。
あっ、サツキマスだ!
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サツキマスというか、降海アマゴ。次は播州で釣れればいいな! |
アマゴが降海したものが「サツキマス」、ヤマメが降海したものが「サクラマス」。
神奈川県の酒匂川から西、東海・山陽・四国・大分県の一部までの範囲に分布するのがアマゴ、それ以外の関東と九州、北日本、北陸、山陰に分布するのがヤマメです。(他に琵琶湖とその周辺に分布するビワマスがあります)
ここは山陰の浜坂。サツキマスなど本来釣れてはいけない海域。
漁協が入漁料を取るためには魚を放流しなければいけないという法律があるのですが、儲けしか考えず、養殖しやすいアマゴを本来の分布など無視して大量に放流したことによって、気の遠くなるほどの時間をかけて分化した両種(両亜種)のアイデンティティーは一瞬にして破壊されてしまったのです。
これが瀬戸内で釣れていたら心の底から喜べていたのになあ・・・。
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浜坂港の一文字。磯の側には岸田川の河口があります。 |
事情はどうあれ、格別の旨さを誇るのがこの魚です。
アマゴの持つ素晴らしい味に加え、あふれんばかりの、しかも上質の脂を獲得した身。手にするまでの長く険しい道のりが更に旨味を引き立ててくれます。
地元河川でこの魚のヒットという僥倖を得た時は一旦冷凍し、ルイベにして味わっていますが、今回は海サツキ!寄生虫の心配をすることなく、刺身で堪能できる!
胸のうちとは裏腹に、ついつい鼻歌がこぼれてしまいます(笑)
それから10分、20分、30分・・・鼻歌なんてもはや出ません。
一向に取られないサシエ、凍りつくような雨と風。
寒い・・・竿を持ってじっとしていることなんてできない・・・帰りたい・・・港はすぐそこ・・・でも、帰れない・・・
フカセも、体を温めようと試みたルアーでも、その後魚信を捉えることはできませんでした。
一文字の西端に陣取った二人のキャスターの針にも、底棲のサメとマイクロガシラが1匹ずつ食いついただけ。
3時、迎えの渡船で目の前の港へ帰還。
船長には「マスを本当に釣ってしまうとは!」と感心され、それから小屋で随分と話し込んでから家路につきました。
7年ぶりに訪れた浜坂の磯。
別人のように穏やか、気さくになっていた船長がこの日一番の衝撃であったことは、もちろん本人には内緒である。
● 浜 坂 hamasaka |
利用渡船 |
藤岡渡船 |
出港地 |
兵庫県新温泉町・浜坂港 |
時間(当日) |
6:00〜15:00
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料金 |
3500円(場所により変動)
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駐車場 |
無料 |
弁当 |
無し |
宿/仮眠所 |
無し |
システム |
船長にお任せ |
磯替わり |
普段は不明 |
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*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません) |
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