「この天気図なら気象予報士なんか要りません。かなりの期間晴れが続くでしょう。延々と高気圧が連なっていて天気を崩す要因がどこにもありません。」
そんな天気予報を見たほんの数日後、私は柏島の磯に立っていました。
雨は深夜から降り続き、海面は押し寄せるうねりで激しく上下しています。そして唸りを上げる風。
やはり「幸島のナダレ」は、そんな有様でした。
事前情報では柏島にはいい話なんてほとんど無かったんです。
足摺や安満地(あまじ)といった場所、また、日振や蒋淵(こもぶち)、由良半島など宇和海一帯では40cm超を筆頭に20枚とか30枚とか釣れているということや、沖の島・鵜来島で60cm近い尾長が出ていることは知っていました。
「近年にない素晴らしい潮がついている!」
カルロス・ガ〜ンさんから頂いたこの情報に心を躍らせ、「悲願が叶うかもしれない!!」という期待に背中を押されて、私はいつもお世話になっている井上渡船に乗り込んだのです。
2002年1月の58cm、2004年4月の40cm・・・。それ以来四国ではどうしても釣ることができずにいる40cmオーバーの尾長グレ。
そしてどうしても塗り替えることのできない口太グレの自己記録42cm。
他人にはちっぽけな事かもしれませんが、私にとってはこの二つの目標は身悶えるほどの悲願であり、眼前に聳え立つあまりにも高い壁になってしまっています。
(40cmオーバーの尾長は九州でも釣ったし、尾鷲でもあと0.5cmに迫ったし、特に学生時代に行った伊豆諸島では非常に簡単に釣れてたのですが、なぜか四国ではどうやっても釣れないんです。)
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幸島のナダレから、トビワタリを見る。 |
今、40cm、いや、45cmに一番近いのは、まだ情報の出ていない柏島に違いない!
そう信じて幸島のナダレで釣りを続ける私の竿は、朝一番から絶えることなく曲がり続けていました。
それも全て45cmオーバーです!
一般的に回遊性のグレというのは体高が低くて体色も青みがかるといいますが、今日のは体高数センチ、体どころか骨まで青くて、長い口吻にはビッシリと鋭い歯が生えています。
お察しの通り、朝から爆釣しているのはダツ。ハリスと針の消費されるスピードの何とも速いこと・・・。
さらにはサメが5〜6匹周辺をうろついて、やり辛いことこの上なし。
そんな中、やっとの思いで平たい魚を掛けてみても、磯際の斜面を数メートルも駆け上がり駆け下るうねりが魚とタモに襲い掛かってくるのです。
タモを折られるか、魚を諦めるかの二択を迫られた私が選んだのは魚の放棄。そりゃ、毒ハギ(ソウシハギ)よりタモを選びますよ〜。
何とも厳しい状況も11:00頃には多少は落ち着いてきていました。
相変わらず横風はあるものの、雨が止み、うねりも多少は小さくなりました。
ちょうどその頃、40cmほどのサンノジや、45cmのツムブリを取り込むことに成功し、高切れも一発ありました。
釣れ続くダツを沖に集め、足元にジンタン5号を打った00ウキを投入している私に、待ちわびた尾長グレからの反応があったのは午後1時半のことです。
追いすがるサメをかわし、どうにか取り込んだのは27cm。
その後31cm、27cm、30cmがあまり間をおかずにヒットしてくれましたが、それだけで終了となってしまいました。
45〜60cmのダツならおそらく80匹ぐらいは釣ったのですが・・・
この日は井上渡船の他のお客さんにもいい釣果は無かった模様。やはりダメなのか・・・と思いきや、続いて港に戻ってきた大黒屋渡船のお客さんたちの釣果に目を見張ることになったのです。
赤バエ(グンカン)の高場や蒲葵島(びろうじま)の高バエに上がっていたグループが引っさげてきたのは何枚もの尾長グレ!40cmや45cmはもちろん、最大のは47cmあります!!
その他にも40cm級のイサギ3枚や、55cmのスマ、70cmのヒラスズキ!
港で待っていた女性によってすぐに始められた「月刊釣り画報」の取材。
私もちゃっかりそれに混じって、ポイント、仕掛け、タナ・・・ それらを聞き取り、頭に叩き込みました。
今回はこの地での2日釣りです!
しかも日曜ですらまだ人の少ない柏島なのに、明日は代休・月曜日!!
渡船の磯割りは「本島」ですけど、ぜひともグンカンか蒲葵島に乗せてもらわねば!
翌日の「井上渡船」(弟)には私以外に客は居ませんでした。
私はやってきた船長(弟)から隣に停泊している船に乗り込むように指示を受け、「いのうえ渡船」(兄)に乗船。
おおっ、この船には漁具が散乱していない!普通の渡船だ!(笑)
午前6時。4組5名を乗せて、いのうえ渡船出港。
穏やかな海を進む渡船の後ろで、フライでヒラスズキを狙っているという神戸の方との会話を楽しんでいました。
しかし柏島本島を離れた瞬間、船に襲い掛かる高波と吹き荒れる強風。
蒲葵島から沖の島にいたる海域は、竜巻のような飛沫が駆け巡っています。
そんな中、高バエと、その横の磯にはいのうえ渡船のお客さんが上がり、私はその隣の池田バエに渡礁。
今日もし釣れなかったら、今後10年、四国で40cm尾長なんて私には釣れるまい!
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蒲葵島・池田バエの船着き付近 |
池田バエの前面、沖向きは波を被っていました。
飛沫を被る程度なら構わず竿を出そうとしたのですが、波そのものが駆け上がってきて足元を何度も洗ったので断念。
「こっちも釣れるき、沖向きがいかんかったらやってみて」という西向き奥の船着き付近で、下げ潮に入る8時ごろまで竿を出すことにしました。
回り込みの風は、足元に置いたタモが浮き上がるほどに吹き付けてきます。
隣接する磯を乗り越えてきた潮は、蒲葵島との水道を通ってゆっくり東へと抜けていきます。
そこにマキエを打ち続けても魚は目視できず、サシエが盗られるようになるまでにはかなりの時間を要しました。
強風とサラシ対策の3Bのウキが蒲葵島との水道でスッと消しこんだのは、8時を少し回った頃だったでしょうか。
2日間待ちわびたパワーが、底へ、棚へと向かっていきます。
それを2号の竿と、3号のハリスでねじ伏せてますが、何か変。コンコンという嫌な挙動が竿に伝わってくるではありませんか。
目標の40cmこそ超えたものの、顔付きの悪い尾長(キツ)ではどうしようもありません。
まあこのキツが火付けの一枚になるかもしれないし、もう少し待って沖向きに出られるようになれば一気に展開が変わるかも知れない、そう思っていた私の心は20分もしないうちに揺らいでしまいました。
弁当を運んできてくれた船長の「グンカンに行ってみますか?」というアナウンス。
よし、行こう!
替わった先は「グンカンの船着き」。
ここでは、最初のマキエからエサトリたちが集まってきました。
小キツ、ハコフグ、ハナアイゴ・・・
セオリーどおり足元にそれらを集めて沖を狙うと、一投目からキツがヒット。
魚種はともかく、この活性の高さはすぐ近くの池田バエではみられなかったもの。 これは、いけるかも!?
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クロモンガラ |
3投目にはモンガラカワハギの仲間がヒット。
周囲を黒く縁取られた背ビレ・尻ビレと、ネムの花のような彩りの尾ビレがおしゃれなクロモンガラ。
ゲテモノ五目釣り師の私にとってこれは非常に嬉しい獲物です。
この魚の危険性なんてまだ何も知りませんでしたから、迷うことなくキープしました。
それから数投後には35cmほどのツムブリがヒットと、池田バエとは打って変わって連発です。
これなら尾長グレの登場、それも夢のサイズの登場も時間の問題か!?と心がドンドン高揚していきます。
何度も何度も体をよろめかされる程の強烈な風の唸り声も、もはや夢への勇壮な前奏曲にしか聞こえませんでした。
ドカーン!!
そんな時でした。釣り座の40〜50mほど沖で、大音響とともに海面が大きく盛り上がったのは!
数mのサメが水面近くの獲物に疾風の如く食らい付いて反転したのか? 否、盛り上がった海面を切り裂き、波の上に鋭く突き出されたものは長い棒のような物体!
か、カジキだ・・・
呆然。私は口を半開きにしたまま、しばらく身動きすらすることもできませんでした。
「近年にない素晴らしい潮がついている・・・」脳裏に蘇るカルロス・ガ〜ンさんの声。
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グンカン(赤バエ)の船着き。まさかの結果。 |
この日は35cmまでのキツがよく食いましたが、それも正午頃までのこと。
納竿の時間が迫る頃になると、水面まで上がってきてマキエを拾っている木っ端ギツすら、なぜか針に掛からなくなってしまったのです。
尾長の40cmオーバー?口太の自己記録??
結局この日はグレなんてもの、コッパ一枚食わなかったし、その姿を目にすることもありませんでした。
いのうえ渡船は、フライマンを含めて全滅だったようです。
大堂方面に替わっていった方のクーラーに、アブラダイ(フエダイ。九州で言うシブダイ)が収まっていたのが羨ましかったくらい。
私のクーラーの中身なんて10時前に釣った35cmのハナアイゴとクロモンガラだけ。
そのクロモンガラも帰宅後に処分することになりました。
クロモンガラには「パリトキシン様中毒の例がある」そうなのです。
パリトキシンという毒は、生物が持つ毒の中でも屈指の強さを誇るもの。
特にアオブダイによるパリトキシン様中毒では何人もの命が奪われており、さらにハコフグでも死者が出ています。また、ソウシハギからも消化管や内臓から検出されています。
その中毒症状は「厚生労働省:自然毒プロファイル」によると、『潜伏時間は概ね12〜24時間と長い。主症状は横紋筋融解症(激しい筋肉痛)やミオグロビン尿症で、呼吸困難、歩行困難、胸部の圧迫、麻痺、痙攣などを呈することもある。初期症状の発症から数日で血清クレアチンホスホキナーゼ(CPK)値の急激な上昇がみられ、重篤な場合には十数時間から数日で死に至る。回復には数日から数週間を要する。』とのこと。
内臓を綺麗に除去したら大丈夫・・・そんな気もしましたが、アオブダイで筋肉部分を食べて中毒した例もあるとのことですので、止めておくのが無難かなと。
遂に手を掛けたかと思われた悲願は、またもするりと逃げていってしまいました。
やはり今後10年、私には叶えることができないのでしょうか。
この釣行から2週間、宇和海方面ではグレの釣果は絶好調の様相を見せています。
しかし、それは私には関係のない話。
柏島釣行の時から不調を感じていた愛車・ワゴンRが「クラッチ、チェンジ、エンジン、いずれも故障、然れども既に修理する価値なし」との宣告を受け、最早四国への道のりにはとうてい絶えられぬ体になってしまったのです。
(年末に予定している大遠征の直前じゃなかったのが不幸中の幸いですが)
来春の四国では、35cmが釣れれば良しとしよう。
● 柏 島 kashiwajima |
利用渡船 |
井上渡船(弟) |
出港地 |
高知県大月町・柏島 |
時間 |
6時頃〜15:00
(11月)
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料金 |
5000円
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駐車場 |
港:500円 |
弁当 |
700円 |
宿/仮眠所 |
民宿を経営 |
システム |
磯割り制(5交替)
泊まり優先 |
磯替わり |
数回 |
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*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません) |
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