風雲児  烈風伝
    ・灼熱の安満地・小才角の夏磯 バテバテ釣行記

2013年7月14〜15日 高知県安満地、古満目港、小才角
・夏磯へ
 気象庁は何日も前に梅雨明けしたと言い、野山のクマゼミは「まだ明けているもんか」と沈黙を続ける不安定な季節。
 森を優しく照らすネムの花や、鮮烈な白に染まったマタタビの葉が、37度だ38度だという連日の暑さに「負けてたまるか」と立ち向かっている日々。
 そんな過酷な7月の連休の、珍しく仕事のなかった土曜の夜に、私は夏磯へと向かっていました。

 早くも取りついた夏バテと、蓄積した疲れという重い荷物を引きずりながら瀬戸大橋を渡った私は、高知ICで一旦高速を降り、SS剛力氏と合流して車を乗り換えてさらに南西へと進みます。

 二人が辿り着いたのは大月町の安満地(あまじ)という集落。
 「カゴバエ」を予約していた小才角が、南岸を通過していった台風のうねりで停船となったので、北西向きのこの場所に逃げてきたというのに、台風の置き土産なのか午前1時半だというのに屋外の気温は27度超と、比較的涼しい高知南西部では破格の高温。しかも風の通らない吉田渡船の仮眠所には熱がこもり、温度計の表示は32度にまで跳ね上がってしまいます。
 でも仕方がありません。安満地は狭い集落なので車のエンジンかけっぱなしは憚られます。蒸し風呂のような仮眠所の中で扇風機と電池式虫除け器を頼りに3時間ほど、寝たのか寝ていないのか分からない、むしろうなされて体力を浪費しただけという時間を過ごすしかありませんでした。

 午前5:00前、エンジンのかかった渡船の周囲には私たち以外に客の姿はありません。いくら時期外れのマイナーエリアとは言えどまさか連休中日に貸切とは。港の小突堤を埋めた車の群れの持ち主はダイバーばかりだったとは。

・安満地湾内のマルバエに渡礁
穏やかな安満地湾。前回でうねり恐怖症に陥った私は、
魚のサイズより安全を最優先に、この渡船区を選択したのですが・・・
 船は安満地湾を出て観音崎を回り、一つ北の岬の先端に接近。「チョボ」と「マワリ」という安満地における別格の名礁はもう目の前です。
 磯の予約はしていないけど渡るのはこれらに違いない!と、私は勇躍して渡礁体勢を整えますが、船はここを素通りしてさらに北へ。しかもその途中で突如Uターンして再びマワリの前を通り過ぎ、結局安満地湾内にある小さな磯、「マルバエ」に舳先を押し付けました。
 何でこんな所に?と思いましたが、船長は過去の実績よりも潮を見て磯を選択してくれたようです。なるほど観音崎から湾内へいい潮がしっかりと流れているではありませんか。

 私は湾奥側、SS剛力氏は湾口側に陣取って準備を始めました。

 GUREsummitのメンバーである醤油屋さんを通じて知り合い、今回が初対面の初釣行となった、この「ストロングスタイル剛力氏」は、東京出身なのに釣りのためだけに高知市に移住してしまうほどの、そして釣りのためには転職も厭わないという釣りバカです。その前ハチャメチャぶりには、この私でさえもまともに見える・・・ような。(えっ?そんなことないって??)

 そんな彼のフカセ釣りは、3号以下の竿・4号以下の糸は一切使わず、ボウズ上等、ゴリ押しで押し切る見事なまでのストロングスタイル。そしてそのスタイルはホームグラウンドの日振島でも、足摺伊佐でも、トーナメントに出場した時でさえも決してぶれないそうです。
 チョボやマワリを除くと30cmクラスの数釣りが中心となり、40cmが混じればラッキーという安満地でも、タックルは当然ながらスーパーインテッサ3号に道糸5号、ハリス4号というものをチョイスされていました。そもそもロッドケースに収められた3本の竿はすべて3号で統一されていたそうですが・・・。
 
 かつては大体そういう釣りで通していた私のこの日のタックルは、1.85号相当のゼロサム磯弾X4タイプVに、道糸2.5号、ハリス1.7〜2号というもの。今日はなんだかフィネススタイルに見えてしまうけど、実は相当オーバースペックなラインナップ(汗)

・食わせない釣り
 ネンブツダイ、ツノダシ、カワハギ、ニシキベラ、トゲチョウチョウウオ、オヤビッチャ、ハタタテダイ、ソラスズメダイ、ムギイワシ・・・さすが夏磯、撒き餌には多種多様な魚たちが群がっています。もちろんコッパグレも大量に居ますが意外と食いが渋い感じ。

 序盤は近距離の浅場狙いに徹しました。少しでも良型のグレを釣るというよりいかにしてコッパグレを食わせないかをテーマにした釣りを展開していき、26〜27cmの尾長グレを数枚拾うことができましたが、暑い時期の二日釣り初日ということでリリース。

  3号竿、4号ハリスという、最も細いタックルで挑むSS剛力氏。
  昔の自分の釣りを見るようです。

 このマルバエは比較的ブレイクラインが近く、磯際から10m足らずの場所で一気に20mまで落ちているそうです。
 時間の経過とともにポイントを沖に移し、光線の加減でウキが見えない時間帯には棒ウキを投入したり、Bの仕掛けで深く釣ってみたり、40mくらい沖を直撃したりして攻めますが潮流の変化がそれを邪魔します。
 湾内に向けて流れていた潮が反転したことで、私のポイントは速い当て潮となってしまい、折角遠投した仕掛けがあっという間にブレイクラインに乗り上げてしまうのです。

 一方でこの潮は湾口向きのポイントにおいては最高の潮となりました。
 ブレイクラインと直撃するには少し遠い観音崎向きのシモリが一本に結ばれ、戦略の幅が大きく広がったSS剛力氏の独擅場・・・と思いきや、釣れてくるのは相も変わらず、3号竿には不釣り合いな20cm前半のコッパグレがポツリポツリ。

 8時ごろ、湾の中央部で発生した潮目が磯の目の前にやってきました。私はその中で29cmの尾長グレをゲットし、キープ。
 やがて潮目は消失し、潮は再び湾内向きに方向を変えました。その代り端に30cmの尾長をゲットし、こちらもキープ。
 あとは25cm前後のものがパラパラと磯に上がっては、再び海に帰っていきました。

・灼熱
 V字型に切れ込んだ湾内にあるマルバエは風に強い磯です。風がほとんど当たらない磯と言い換えることもできます。憤怒の表情を浮かべた真夏の太陽がノーガードで照りつけてくる今日のような日に正常な人間が立っていられるような場所ではありません。
 寄せてくる波の数ほど汗を垂らし、撒き餌を打つのと同じペースで「暑い」という言葉を吐き散らしながら、水を飲み飲み仕掛けを流す馬鹿二人。

 この日は、夕釣りまでやってもいいという剛力氏に対し、1時納竿で勘弁してもらっていました。
 しかし1時までももたず正午にKO。
 出発前ですら気力十分ではなかったことと、寝不足だったことを考慮するまでもなく、リールの足、黒い竿、そして手袋の掌が照りつける太陽の熱をこれでもかと吸収し、持っているのも辛いほどになってしまったら釣りを続行する気力なんて途端に無くなってしまいますよ。ましてや魚の反応もパッとしない中では。

 ● 安満地 amaji
利用渡船 吉田渡船 出港地 高知県大月町・安満地
時間(当日) 5:00〜13:00
(15:00まで可)
料金 3500円
駐車場 無料 弁当 500円
宿/仮眠所 宿泊・仮眠所あり。 システム 磯予約可
磯替わり
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)
 予定通り午後1時に迎えに来た渡船で生還した私の釣果は25〜30cmのグレが6〜7枚とコッパ多数で、2枚をキープ。
 納竿ギリギリまで釣りを続けたSS剛力氏は、40〜50cmのヒブダイを連発させるも、グレはコッパばかりでニセカンランハギ(イチノジ)を1枚キープしたのみでした。

 渡船屋の奥さんによると、安満地では昨シーズン以降、40cmクラスが当たり前のように食った数年前の状況が嘘だったかのように不振に陥っているそうです。秋以降はきっと復活すると固く信じているということでしたが、私ももちろん本当にそうなってくれるように願っております。

・宿敵と対峙
 渡船屋の奥さんとゆっくり雑談し、のんびりと片付けを終えてもまだ午後2時です。宿に行くにはあまりにも早すぎるので、波止釣りで時間を潰すことにします。

 まずはフラフラする頭と体をクールダウンするため、大月の道の駅でかき氷を食べてから古満目港に向かいます。この時期の古満目港ですから狙いは当然、宿敵・ハタタテダイ。
 岸壁を覗き込むと居ました。20cm手前くらいの奴が数匹。
 早速道具を準備し、それまでの疲れも忘れて夢中になって攻めていきますが、やはりハタタテダイの方が一枚も二枚も上手。3時間くらいは頑張ったのに、釣れたものといえばナガサキスズメダイとオキゴンベ、25cm位の口太グレくらい。ハタタテダイにはただただ餌を取られ続けるだけで今回も完敗です。
 
 さて、時間もよくなったので、定宿の幡多郷に入ってウツボのたたき等の美味しい料理を食べ、7時過ぎにはもう眠りに就いていました。

・眠気を押して
 幡多郷にはクーラーはありませんが、渡船屋の仮眠所と違って風がよく通ったため、午前4時の起床時間まで比較的快適に眠ることができました。
 にもかかわらず眠たくて眠たくてたまらず、疲れが取れたとはとても言えないこの感覚こそ、夏磯の厳しさの最たるものなのかもしれません。

 それでも今日は小才角。相変わらず重い体を期待という名の燃料でむりやり動かし、約15km離れた小才角新港へと向かいました。

・小才角 一がハエ
 夏の小才角は面白い!
 尾長の確率が高まった上で人の数が減るのです。台風や熱低による停船のリスクが大きくなるのが辛いところですが、暑さ対策万全なら、楽しい釣りが待っている可能性が高い・・・かも。

 この日も船長の言葉通りに釣り人の数は少なく、カワグチに一組、ツナカケに一組。一がハエに挑戦するのは私とSS剛力氏、それにカゴ釣り師(船長の恩師だとか)の3人のみ。(底物師の方1名が後から参戦)
 磯に上がるや、カゴ釣り師が船着きのポイントを確保。出遅れた、というより元から争う気のない私たちは磯の頂上によじ登って作戦会議です。
 柏原渡船の船長一押しのポイントは、シモリが点在しサラシで真っ白になっている南向きの先端付近と、東向き中央部の「デベソ」の2か所。その二つのポイントを小才角初挑戦のSS剛力氏に伝えると、「シモリだらけの場所では取り込みめそうにないので、できればドン深の場所でやりたい。」とデベソを選択し、3号竿、道糸・ハリス5号通しのタックルで攻めはじめました。

   コンヤ向き(北向き)先端根元のいつものポイント。
 私の方はいつもの場所をどうにかして攻略したいという思いから、いいことが分かっているポイントに敢えて背を向け、北向き先端の根元(東向き)に陣取りました。そこで1.85号相当の竿、道糸・ハリス3号のタックルを組み上げ、コンヤとの間を東向きに流れる潮への合流を目指す”引かれ潮”に軽い仕掛けを流し込んでいきました。

 潮は緩やかな上り潮です。
 撒き餌にはコッパグレが集まり一投目から食ってきました。そのうちに50cmはありそうなキツの編隊が姿を現し、餌をコッパグレやシラコダイ、オジサンと奪い合うようになりました。その魚たちの群れの中には45cmはありそうなグレの姿も確認できます。沖に投げればダツ、撒き餌の上流から仕掛けを流し込めば25cm前後の尾長がポロポロと当たります。27cmくらいの尾長も2枚ばかりゲットすることができました。
 ただ、乱舞しているキツや良型グレは全くハリに掛ってはきません。

・夏磯の申し子
 7時過ぎ、撒き餌の周辺に大魚が現れ、水面を遊弋するようになりました。その魚は鮮やかなヒスイ色を煌めかせ、ブルーに輝く胸鰭を翼のように広げて、浮いたボイルを次々とついばんでいきます。
 これを釣ってやろうと思うのに、時間など要りませんでした。

 水面にいる魚の口元にサシエを置くと何の疑いもなく食ってきました。1度目はハリが立ちませんでしたが、2度目はしっかりフックアップ!そして、次の瞬間、足元からその巨体が消えたのです。
 目にもとまらぬスピードで沖へと疾駆する大型魚を、1.85号程度の竿で止められるわけがありません。ドラグ機構の無いレバーブレーキリールの逆転で凌ごうとしてもハンドルとスプールが見たこともないようなスピードとうなり声を上げて逆転。リールがいつバラバラに砕け散ってもおかしくないように思われました。
 私は猛転するベールを掌で強引に掴み、オープンにすることで最初の疾走を終わらせました。魚がコンヤとの水道を遡れば、あるいはコンヤの裏に回り込めば一巻の終わりでしたが、素直に沖に走ってくれたのがラッキーでした。沖にはシモリが点在していますが、表層を走るこの魚ならどうにかなるかもしれません。

 沖での戦いには滅法強い弾X4の竿尻を腹に当てていると魚はジワリジワリと寄ってきます。すかさずリールを巻いて距離を詰めていくのですが、相手はこれぐらいでへこたれる魚ではありません。ベールオープンと竿のパワーを交互に使った一進一退の攻防が続きます。時には反撃に即応できず、レバーブレーキを暴走させられながら。
 
 やがて、鮮やかな夏色の海に一筋の黄金が浮かび上がりました。
 それは、SS剛力氏がいる「デベソ」の前で何度かジャンプを繰り返した後、私の足元へと引き寄せられてきたのです。
 私は50cm枠のタモ網を掴んで、その魚を迎え入れようとするのですが、まだまだ元気で大暴れを続ける大魚がすんなりと手中に収まるはずがありません。駆けつけてきたSS剛力氏にタモを預け、何度か網に乗せはしたものの、どうしても呼吸が合いません。
 私は再びタモを受け取り、じっくり弱らせてから魚の頭を網の中に突っ込ませました。

 大きいとは言い難いサイズですが、鮮烈で激しいファイトでした。
 トオヒャク。標準和名シイラ。全長80cm。
 網から胴体をあふれさせているその魚は、宝石のような緑、南国の海のような水色、眩い黄金色と目まぐるしく色を変え、縞模様を走らせては消し、また斑点を浮かび上がらせ・・・と線香花火のように輝きます。その明滅の一瞬一瞬こそが命のきらめき。
 そしてそれは、潮だまりの中で朱に染まり、光を失って動きを止めました。
 多くの命を糧として生きるのが人間。その一人である私はこの魚の命を最良の形で引き継ぐことができるよう、しっかりと血を抜いてクーラーにしまい込んだのです。

・風を慕って
 この後、シイラが姿を現すことはありませんでしたが、キツとコッパグレの活性は相変わらず。その中にはやはり45cmくらいのグレが最低一匹は混じっているのですが、これを選んで抜き出すという芸当は私にはできず、万全ではなかった体力を急激に消費したことも祟って徐々に煮詰まりつつありました。

 8時半ごろ、気分転換を兼ねて広い一がハエを散策し、情報を収集してみました。
 「デベソ」に陣取るSS剛力氏。残念ながら不発。
 デベソに入っているSS剛力氏はシイラとコロダイを掛けたそうなのですが、シイラにはハリを伸ばされ、コロダイには5号ハリスを切られて取り逃がしてしまい、取り込めているのはサンノジとコッパグレばかりだとのこと。

 西向き中央のワンドに腰を据えている、遅れて参戦した底物師の方は、小ぶりなイシガキダイを一枚タイドプールに泳がせていました。そして私に、「この一がハエで釣れているのは第一にカゴ釣り師が入っている船着き。次に南端のシモリ地帯。私が入っているポイントは最近全然釣れていないから、そこ(南端付近)に入ってみてはどうか?」というアドバイスをくれました。

 私も分かっていながら敢えて「こだわりのポイント」に入っていたのですが、改めてこう言われ、実際にそのポイントを覗いてみると、私のこだわりは大きく揺らいでしまいました。
 今日の体力の状況を考えるに、大移動が可能なのは1度きり。これからさらに暑くなることも考えれば、今この時しかありません。
 私は移動を決断。この足場の悪い広い磯を重い荷物を抱えて3往復し、東側から磯に乗り上げてくるうねりの及ばない位置に釣り座を設営したのです。

 南端付近西向きのポイントは正面から風が吹き付けてきます。岩陰で風が全く当たらず、暑くて苦しかった先ほどの場所とは雲泥の差の快適さ。そう、本当の所は魚影なんてどうでもよく、この風を慕ってわざわざ移動してきたのです。

・2〜3か月ぶりの潮が来た
 新たなポイントにも、サシエを全く食ってこない大きなキツの姿がありました。もちろん狙いはキツ自体ではなく、周辺に若干数いるグレです。
 ここでも0号や00号などの仕掛けは通用せず、G2のウキを使用し、ウキ止めから半ピロの位置にG2のガン玉を一つ。その下の2ヒロ余りのハリスを潮にたなびかせる作戦が多少の効果を発揮。以降キープするかどうか迷うサイズが釣れるようになり、ハリスを2号に落としたら20台後半の尾長を数枚拾えました。

南端付け根西向きのポイント。うねりの影響を受ける場所が
モザイク状に点在しており、その見極めが重要でした。
 実際にはもっといい方法があったはずですが、私の思考はキープサイズを拾ったところで停止してしまいました。今日もまた蓄積した疲れと夏バテ、さらに眠気にも気力を削り取られているのです。シイラとの格闘による腕の痛みも地味に応えてきています。時間を追うごとに、平らな場所に上がって腰かけ、ボーッと海を見つめる回数が増えていきます。
 当然ながら水分と塩分の準備は万端で、きちんと計画的かつ臨機応変な補給を欠かしていませんが、今回のしんどさは長い釣り人生でも初めて味わうものでした。慢性的な疲れもあるけど、それもまた年齢によるものなんだろうなあ・・・。
 正面から吹き付ける風と、うす雲に覆われた時間のために体感温度は昨日の何倍も低く感じますが、実は小才角のある大月町の隣の宿毛市では37度という最高気温を記録するほど気温が高かったということもまた・・・。

 12時半ごろになると、南端に向けて流れる潮が速くなり、魚たちの動きが目に見えて活性化しました。船長に「2〜3か月ぶりに見た」と言わしめた最高の上り潮が入ってきたのです。
 船着きのカゴ釣り師が竿を曲げ続けます。タナが深いためかサンノジが大多数ですが、何枚ものグレも仕留められているようです。
 私も32cmの尾長など、キープサイズのグレを追加。

 やがて風が強さを増して波が立ち始め、地上と水中との間にブラインドが引かれました。
 今釣れずしていつ釣れるという状況の現出に、バテバテだった私の体も復活。残り少ない撒き餌を一点に集中させ、一発勝負に賭けます!

ワンドに陣取る底物師と、船着き狙いのカゴ釣り師。
向かいのツナカケでは「巨グレがワシャワシャ」していたそうです。
・ラストチャンス
 勝負の一投で思惑通りにウキが引き込まれました。次の瞬間にロッドに襲い掛かってきたのは、30cmそこそこの魚とは一線を画す、二日間釣り続けてきた中で二番目のパワー。
 魚は階段状に伸びる棚にストレートに突っ込むのが難しいと知ると、方向を転じて左の棚に突っ走っていきます。
 「リールをもう少し巻いて、もう一段プレッシャーをかけられれば勝てる!」私は曲がりこむ竿を支えながら、左手をリールにかけました。しかし・・・

 「巻けん!」
 それまで普通に動いていたリールのハンドルが、ロックされたかのように回らなくなっています。魚はそれを見逃さずに大暴れし、私もしばらく抵抗しましたが、程なくロッドが跳ね上がっていきました。

 一つの時代が終焉を迎えました。
 シイラとの勝負での無茶によって、ベールの受けの部分をガタガタにしながらもまだ回り続けてくれたリール。今回が最後の戦いになると分かって使い続けていたリールが限界を示したのです。10年間に亘って酷使してきた初代インパルトよ、瀬戸内・四国・山陰は言うに及ばず、オホーツク海・紋別の波止から東シナ海・薩摩硫黄島の磯にまで、ともに釣り歩いた相棒よ、安らかに眠ってくれ。

 時計を見ると午後1時半近くになっています。迎えをお願いしている時間まであと30分余り。
 素晴らしい潮は流れ続け、カゴ釣り師の入れ食いも止まりません。釣り続ければ結果が出るのは明白であり、納竿時間の延長も問題ない状況です。
 が、撒き餌が無い。

帰りの船中からの一がハエ。今回はいつもとは違う厳しい一日でしたが、
またそれも楽し。
 結局、予定通りの2時に、キープサイズのグレ6枚とシイラ1本が入っても朝よりもいくらか軽くなっているはずのクーラーを抱えて、磯よりも遥かに暑い港に戻りました。そして今日は姫路ナンバーの軽四が港に停まっていないことを訝しがっていた船長とえらく長い時間雑談してから、再戦を誓ってSS剛力氏の運転で高知へ戻り、道中しっかりと休憩を取りながら兵庫へと引き上げました。

・エピローグ 〜マヒマヒのステーキ〜
 さて、今回リールと引き換えという形で手にすることになったシイラ。その魚の料理について書いてみましょう。

 私はこの魚をこれまでに2度釣ったことがあります。数年前に愛媛県御荘で釣ったものは親と似ても似つかぬ形をした12cmの幼魚だったため、そのままリリースするしかありませんでしたが、学生時代に兵庫県沼島(ぬしま)の磯でオセン(スズメダイ)の泳がせで仕留めた93cmのものはフライにして味わっています。

 その時、料理法としてフライを選択したのは、「がまかつ」が主催していた「全日本大学釣り選手権大会(GCUG)」の時に知り合った琉球大学のakio君から、アングリング部の後輩の話を聞いていたからでした。
 その後輩は一人暮らしの生活費を節約するために、沖縄ではいくらでも釣れるシイラを毎日毎日釣りに行き、ひと夏をシイラ料理だけで乗り切ったそうです。必然的にありとあらゆるシイラ料理を試すことになりましたが、その中で一番旨かったのは結局シンプルなフライだったとか。
 沼島のシイラのフライももちろん旨かった。それは、これまでに外食や弁当で何度も食べてきた「白身魚のフライ」そのものの慣れ親しんだ味に、素材と揚げ油の鮮度をプラスした味でした。

 しかし今回のシイラは、タモに収めた瞬間からステーキで食べると決めていました。

 マヒマヒのステーキと言えばハワイを代表する高級料理・・・だそうですが、私はハワイに行ったことも無ければ、この料理を扱っている店に行ったこともありません。料理名を聞けば漠然したイメージは湧きますが、実際にはそれがどんなものなのか私は全然知らない。その事実に初めて気付いたのは、下ごしらえを始める直前。
 
 ネットで調べるとバターと香草で焼いてレモンとか、醤油をかけるとか、ステーキソースをかけるとか、やり方は千差万別人それぞれでした。(まあ想像はしていましたが・・・)で、結局私が参考にしたのは本棚にあった『築地魚河岸三代目』という漫画のおまけコーナーに記載されていたレシピ ―塩コショウを振ってしばらく寝かせたシイラの切り身をニンニクの香りを付けた油で炒め、あらかじめ炒めておいたパプリカとズッキーニの賽の目切りと、マヨネーズとケチャップを合わせた和製オーロラソース(あっ!この時点でハワイ料理じゃなくなってるがな!)を合わせるというもの― でした。

 完成したものを食べてみると・・・むむっ、これは旨い!この料理に使う魚はシイラでなくてはならない!と思えるほど、魚と野菜とソースが絶妙なバランスで味を引き立て合っています。次に釣れた時も間違いなくこれで食べるだろう。そう確信する味でした。

 ステーキにした残りの身は刺身と味噌漬けにし、大きな真子は煮つけで食べました。
 刺身も普通に食べられましたし、味噌漬けは身が引き締まって、安定した「魚の味噌漬けの旨さ」になっていました。シイラで最も旨い部位という話だった真子の煮つけは、ボリュームと全体の大きさからくるもっちり感はありますが、やはり「魚卵の煮つけ」の域を大きく超えてはいませんでした。それぞれ旨いことは旨いのですが、シイラにはやはり、和食よりも洋食の方が似合うようですね。
 ● 小 才 角 kosaitsuno
利用渡船 柏原渡船 出港地 高知県大月町・小才角新港
時間(当日) 5:30〜14:00
(16:00まで可)
料金 3000円
駐車場 無料 弁当 500円
宿/仮眠所 無し システム 磯予約制
磯替わり
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)
 
 釣行記TOPへ