・今年は小旅行
仕事で疲れ切った体で迎えた今年のゴールデンウィークは四国釣行どころではありませんでした。それでも唯一のチャンスを逃さず磯釣りへ。
目的地は今回も岡山県牛窓。ようやくマダイが接岸し、色々な磯で釣れ始めたという情報に誘惑されてしまいました。
5月4日の午前3時過ぎに家を出て、古典『太平記』に「山陽道第一の難所なり。両方は峰峨々(がが)として、中に一つの細道あり。谷深く石滑らかにして、路、羊腸(ようちょう)を踏んで上る事二十余町、雲霧窈溟(うんむようめい※)たり。もし一夫怒って関(かん)に臨めば、万侶(ばんりょ)も透(とお)ることをえがたし。」と描写されている船坂峠で県境をまたぎます。
そして儒学者・熊沢蕃山ゆかりの蕃山(しげやま)ICからブルーラインを走って、竹久夢二の生家近くの邑久(おく)ICで下車、午前4時過ぎに渡船乗り場に到着です。
※雲は山をめぐり、霧は谷を閉ざす、昼なお暗い・・・。あの名曲『箱根八里』の元ネタって、太平記巻十六「新田左中将赤松を攻めらるる事」のこの部分じゃないかな。
・西の石切りの仇を西の石切りの西で討つ?
さすがにゴールデンウィークです。私が利用する「まこと渡船」も、少し離れた場所から出る「渡船いわつばめ」も人だかり車だかり。それでもどうにか駐車スペースを見つけて船の前にやってきました。
この日の「まこと渡船」は小豆島便と牛窓便2隻そろっての出船です。圧倒的に魚影が濃いという小豆島に行くか、格段に魚の味がいい牛窓諸島に行くかという2択を迫られましたが、今、マダイの確率が高いのは牛窓の方と聞いた私は、迷うまでもなく小さい方の船に飛び乗りました。
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4月19日、「西の石切り」でツリキチオーさんと一緒に泣きました。
今回は赤矢印の場所で単騎、リベンジマッチです。 |
午前5時に出航、前島の「小崎」と「西の石切り」の間の地磯に渡礁。
実はこの左隣の「西の石切り」には先月19日に上がっています。「岡山のお手軽波止釣り」の管理人ツリキチオーさんと一緒にマダイに挑んだのですが、終始当て潮に悩み続け、23cmまでのミニチヌが2人で3枚、藻絡みバラシ一発の「何じゃこりゃ?」という釣果に終わっています。
さあ、リベンジの時は今!
・チャンスは一瞬
チヌはひとまず置いといて、マダイしか考慮していない道具で勝負です。
マダイといっても40cm前後のサイズがメインになるようですが、不意の一発もあるということで、ゼロサム磯弾X4のタイプVに道糸&ハリス2.5号、ハリも閂マダイ7号という本気(場違い?)タックルをセット。過負荷にした3Bのウキを遠投し、竿一本半からシモらせていく作戦でいってみようか。
ところが前回同様、釣り座の正面から押し付けてくる速い当て潮が左右に分かれ、ウキを浅い方へ浅い方へと押し流していってしまいます。
それから3時間余り、釣りにならない時間が続きました。いつもながらウキが右に行ったり左に行ったり、流していたウキがUターンして戻ってきたり・・・。この前島という所は潮が沖に流れることは無いのだろうか?そんなことを思い始めた8時ごろ、突如、右沖に走る速い潮がやってきました。
潮は複雑に絡み合いながら流れていきます。その懐へと吸い込んでいく流れも数多く発生しています。
3Bのウキではかえって対処しづらい状況になってきたので、ウキ止めはそのままに、G5のウキにジンタン5号を2つ打った仕掛けにチェンジ。
8時20分ごろ、狙っていたポイントに大きな鏡(湧昇流)が形成されました。
浮き上がった潮は再び海底へと潜り込んでいきます。その位置を察した私はすかさず仕掛けと撒き餌を配置し、沈み込む潮の中でサシエと撒き餌を合わせていきます。
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マダイ42cm。磯ではこれまで25cmくらいのものしか
釣ったことがなかったので、感無量の1枚です。 |
潮に合わせてパラパラとラインを送っていくと、竿がズキューン!と一気に曲がっていきました。このアタリ!この疾走のスピード!これは明らかにチヌではない!ついにやったか!と大興奮でやりとりに没頭していると、水中でゴンゴンと首を振る魚が浮上を始めました。
その瞬間、ウキの下の海中にきらびやかな桜の花が咲きました。念願の瀬戸内天然マダイ42cm!桜満開のころから狙い続けた夢が、きらめく新緑の季節になって花開いたのです。
実は船釣りも含めての自己記録タイであるこのマダイを大切にクーラーに収め、記録更新を狙っていきますが、ベストの潮はこれ一回だけでした。
チャンスはほんの一瞬。それを準備を怠らずに待ち続け、見逃すことなく仕掛けを入れられるか。どんな釣りでも言えることですが、特に今の牛窓ではこれだけで1日の運命が決してしまうようですね。
・さかさまの虹?
「西の石切りの西」は再び、チャンスをつかむための準備期間に入り、特筆することも無い時間が2時間半ほど続きました。
ところが、11時過ぎになって何気なく空を見上げると、そこにあったのは見慣れぬ光景。
黄島の上空の青空の中に無数の細かい鱗雲が集った一角があり、上向きに反り返った鮮やかな虹が出て島に寄り添っているではありませんか!これが30分ほど続きました。
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黄島上空にかかる環水平アーク。 |
もちろんこれは虹でもなく、彩雲でもない「環水平アーク」という大気光学現象で、薄雲を作っている無数の氷の粒によって太陽光が屈折して七色の帯ができる現象で、初夏から晩夏にかけて薄雲が広がった時、お昼前後に見られることがあるそうです。
今年は初釣りで蜃気楼の一種「浮島現象」を見たし、今回は「環水平アーク」です。しかもこれが岡山、兵庫は言うに及ばず、高知、徳島、大阪、岐阜、東京、千葉など、日本列島の広い範囲で見られたという珍しい1日にぶつかるなんて・・・。今年の私が呼べるのは時化だけじゃないようです。次はいったい何が見られるのやら・・・。
・ラストチャンスに・・・
時刻はすでに12時20分。今日の迎えは午後1時ですから、残された時間はほんの僅か。
8時34分の干潮から12時55分の満潮までの、たった25cmしか動かない込みの潮が終わり、満潮に先駆けてやってくる転流を迎えた今が最後のチャンス。
当て潮による根掛かり、藻掛かりが多発するようになったので沈め釣りやスルスル釣りを諦め、4Bのウキを浮かせ、竿一本のタナを攻める仕掛けに作り替えた時、左方向に綺麗に流れる潮が走っていました。
これは期待できそうだ!とウキを凝視していると、突然、背後で人の声がしてビックリ仰天。
声の主は前島行きの「フェリーからこと」で上陸し、小崎の山道を下ってきた二人組の釣り師でした。
「隣で釣らせてもらっていいですか?」という問いに「いいですよ。1時で終わりですし。」と答え、「釣れますか?」という問いに「マダイが1枚」と答えていたその時、流し込んでいたウキがスルスルと海中に消えていきました。
一呼吸おいてアワセを入れると、強烈な力でロッドが絞り込まれます。
ガラ藻を縫うように底走りする魚。これはデカいという言葉を絞り出しながら必死で止めようとする私。固唾を飲んで見守っているであろう背後の釣り師。緊迫した時間が磯の上を支配します。
しかし勝負は短時間で決しました。せっかく強力な竿を手にしていたにもかかわらず、結局私は何もできませんでした。
ドラグの設定ミスで糸がズルズル出続け、止めたいところで止められず制御不能となったことが敗因です。このことが高切れを招き、正体不明の大物と、先月みんなに回収してもらったウキを失うことになったのです。
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この日のポイントと、隣の小崎。沖は黒島や、宇喜多直家のデビュー戦の相手
「犬島海賊」の本拠地・犬島、そして豊島(てしま)など。 |
残り時間は実質15分。私は大慌てで仕掛けを組み直し、2号に落としていたハリスを2.5号に戻して勝負しますが、根掛かりばかりでタイムアップ。
そりゃダメですわ。慌てすぎてシモリ玉を入れ忘れており、3Bウキのスルスル釣りのようなことになってたことに、仕掛けを切る段になってやっと気づくようじゃ・・・。
小早川隆景曰く、「火急の書状はゆっくり書け」だそうです。はい。
浜の方の磯で釣っているフェリー組をポイントに呼び寄せ、予定通り1時の船で撤収です。
散々撒き餌を打ち込んだこのポイント、潮が大きく動きはじめるこれからの時間は間違いなく釣れるはず!後は任せた!バラした大物の正体がマダイなのかコブなのか、ぜひ確かめてくだされ!
・クルージング&講習会
ボウズの人も割と見られましたが、牛窓沖のチヌはそこそこ食っていました。中には50cmオーバーを手にしている方も!
マダイも何枚かは釣れており、50cmオーバーを浮かせたものの、最後の最後にハリが外れてしまった常連さんもおられました。
そしてその常連さん達3人は、小豆島便が帰ってくるまで車が動かせず、帰りたくても帰れない状況になっていました。
私は車を動かせるのですが、小豆島の情報を仕入れたかったし、早く帰らなきゃいけない理由もないので、港で皆さんの話を聞きながらのんびりすることにしました。
すると船長から「黒島まで行ってみませんか?」という声がかかり、常連さん達と一緒に2度目の出航。黒島の波止周辺で野外活動をしていた岡山の空手道場の大勢の子どもたちと、引率者の方々の回収を手伝ってきました。
疾走する船の上の子どもたちの楽しそうなこと!テンションの高いこと!しまいにはタイタニックの真似事までし始めるし^^(未だに定番だったんですね。)落ちそうになった時には飛び付ける構えだけは崩さずに、楽しくはしゃぐ子どもたちを見守りつつ、私たちも賑やかなクルージングを楽しんできました。
この午後2度目の喧騒が岸壁から消えると、入れ替わるようにして次の喧騒がやってきました。小豆島に渡っていた釣り師たちが帰ってきたのです。
牛窓組もそうでしたが、小豆島組も「チヌのアタリは大きいが今年はとにかく浮かない。深く深く入れていかないと当たらない。掛けても藻に絡んだり、底走りされてのバラシが多発する。」といったボヤキが多く聞かれました。ん?底走りって、私の掛けた最後の魚ももしかして・・・
この小豆島便からチヌのフカセ釣り第一人者の一人が降りてきました。G杯チヌを何度も制したあの南康史さんです。
自然に南さんや常連の岡山士道会の皆さんの輪ができ、楽しい反省会&情報交換会が始まりました。さながらミニ講習会です!私もその輪の中にちゃっかりと加わって、実戦で使える話をたんまり聞いてきましたよ。
いや〜、今回もまたオマケたっぷりの素晴らしい1日になりました♪
・その夜、釣果が一発で吹っ飛んだ!
念願のマダイを持ってウキウキで帰宅した私は、それを薄造りとアラの塩焼きで堪能し、道具を片付けて、官兵衛観てからしばらくウトウトしていましたが、深夜0時ごろになって親に叩き起こされました。男女群島に遠征していた近所の従弟がえらいもんを釣ってきたから、ちょっと行って捌いて来いというのです。
眠い目をこすりながら駆けつけた私ですが、クーラーの蓋を開けた瞬間に眠気なんか吹っ飛びました。
中にいたのは80cm近いサイズのヒラマサ2本と、90cm、約15kgのクエ(それも本クエ!)!
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時期によってはキロ1万円? 90cm、15kgのクエと、
いつもと違って影の薄かったヒラマサ。 |
かつてはグレのトーナメンターだった従弟は、男女群島にマグロブームが到来する2〜3年前からショアからのマグロハンティングにのめり込み、大物つながりなのか、今回からはとうとうクエ釣りにまで手を出してしまいました。そしてファーストチャレンジの5投目でこんなのを仕留めてしまったのです。
さらに昼間のルアーの方でもキハダは不発ながら、ヒラマサを何本もキャッチし、とりあえず2本だけキープしてきたとのこと。
しかしこのクエ、どうやって捌けばいいのやら・・・。
その夜はとりあえず、簡単に捌けるヒラマサだけを片付けて解散。一眠りした後、私は料理人が解説しながら12.6Kgのクエを捌いていくネット動画で手順の確認、伯父はまな板にするベニヤ板を買いに行き、5月の休日はもう1日も無いというブラック企業勤務の従弟は職場へ向かいました。そしてこどもの日の昼ごろ、作業開始です。
・クエの捌き方
クエの解体は小出刃、柳刃、調理バサミ、ノコギリ、それにスプーンがあれば何とかなるものですね。あと布巾と軍手は必須。金属製の鱗落としも使えます。
手始めに包丁を体に沿って動かして、体やヒレの強烈なヌルを落とし、鱗落としで大まかに、細かいところは包丁で鱗を取り去ります。(一般的には包丁で鱗を漉き取るのですが、散らかしてもいい環境なら鱗落としを使うのが手っ取り早いかも。鱗を水で洗い流す回数が増え、体力を消耗するのが難点かな。)
クエというのは案外包丁の入る場所の多い魚で、エラを取るのも腹を開くのも意外と簡単。エラの上側を切り離すのだけは一人では大変だったけど・・・。
エラと、美味しい内臓を取り除いてとりあえずクーラーボックスの中にでも入れておき、背骨の下に切り込みを入れて血合いをスプーンでこそげ取ったら、魚とまな板をしっかり洗っていよいよ三枚おろしの行程へ。
首の骨の切断だけは片手ノコギリを用いましたが、あとは普通に小出刃でOK。腹側と背側から背骨の際まで包丁を入れて、最後は鉈(なた)で枝を払うかのように包丁の根元を叩き付けて、背骨・腹骨と身を切り離していきました。
あとは身を4分1の短冊にして、用途によっては皮を引けばひとまず完成。ただ、腹骨の構造が理解できず、普通の魚のように柳刃で削ぐことができなかったので、骨付きのまま利用しました。
問題はアラの処理です。鍋の出汁には欠かせない中骨はまあ、調理バサミで上下のヒレ部と背骨に切り分けた上で、ノコギリとハサミで切っていけばいいのですが、素晴らしく旨い頭や鎌を一口大に切り分けていくのが本当に大変。包丁、ハサミ、ノコギリの脂を落としながらのしんどい作業です。包丁の入る場所は多いので、それを把握できれば楽になると思いますが・・・。
最後に珍味である肝や胃や腸などをきれいに処理して終了。ベニヤ板を切ったり、脂の巻いた包丁を研ぎ直したりする時間も含めて約3時間。私も伯父もフラフラです。
でも苦労は一口食べただけで消え失せてしまいました。刺身、クエ鍋、皮の湯引きポン酢、ダシ殻の中骨にこびりついた身、極めつけの雑炊・・・。幸せだなあ〜〜。
・・・って、途中から完全に「クエの捌き方講座」になってしまいましたね。最初の方のマダイ釣りの話なんて、頭から吹っ飛んでしまった方もおられるのではないでしょうか?
我が家でも同じように、私の釣果なんてものは家族の頭からあっという間に吹っ飛んでしまったのです。
嬉しいような、悲しいような・・・。
● 牛 窓 沖(牛窓諸島) uhimado-oki |
利用渡船 |
まこと渡船 |
出港地 |
岡山県瀬戸内市・牛窓港 |
時間(当日) |
5:00〜13:00
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料金 |
3000円
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駐車場 |
無料 |
弁当 |
無し |
宿/仮眠所 |
無し |
システム |
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磯替わり |
有ったり無かったり |
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*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません) |
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