・いきなり蛇足なプロローグ
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我が家のシュレーゲルアオガエル。 |
私は今、ペットとしてシュレーゲルアオガエルを飼っています。
シュレーゲル?外国産のカエルか?なんて思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このカエルは日本固有種。本州・四国・九州の田んぼや池などに生息する比較的身近な存在で、我が家のシュレ君も去年の春、近所のため池で「キリリリ、カラララ」と鳴いているのを連れてきたものです。
でも何でそんなカエルに「シュレーゲル」とかいうややこしい名前が付いているのでしょうか?そもそもシュレーゲルって何なんでしょう?
シュレーゲルというのは19世紀のドイツ出身の動物学者で、江戸時代後期に来日したシーボルトが持ち帰った脊椎動物の標本を研究したことで知られており、その功績によって様々な動物の学名に「献名」されています。(学名とはそれぞれの種に一つずつ与えられる世界共通の名称。属名と種小名で構成され、原則としてラテン語、またはラテン語化した言語で書かれる。)
シュレーゲルアオガエル(Rhacophorus schlegelii)はその代表的なものであり、和名もこの学名から取られています。
国産の魚類でも「シュレーゲル氏の」という意味のラテン語「schlegelii」の種小名を持つものは多く、クロソイ、アカイサキ、ハチビキ、スミツキアカタチ、オビブダイ、ヨウジウオ、サカタザメが上げられますが、磯釣り師にとって最も身近な「schlegelii」といえば、何をおいてもAcanthopagrus sclegelii(アカントパグルス シュレーゲリイ)という魚に違いありません。
5月17日、私はこのアカントパグルス シュレーゲリイを裏本命とする釣りを実行するべく、岡山県牛窓に向かいました。
なお、本命魚はパグルス マイヨルという魚です。
・5月17日 前島 ボート岩
Pagrus major(パグルス マイヨル)。和訳すると「鯛/より大きい」となる魚。
今期の牛窓諸島はこの、標準和名ではマダイと呼ばれる魚の60〜70cmクラスが連発していたそうですが、それは私の仕事がめちゃくちゃ忙しかった時期の話。今はそのサイズも食いも見る影もなく、どの磯で食うかも「さっぱり分からん!」というような状況とのことです。しかも前日の夕方まで続いた豪雨&暴風が厳しい状況に輪をかけてくれそうです。
「ボート岩ならまだ確率は高いと思いますけど・・・。狭くても大丈夫ですか?」
「もちろん!」
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西の石切りから見たボート岩。満潮時は狭いけど干潮時なら干出し岩から釣ることも可能。 |
ということで、前島南面、「う石」と「西の石切り」の間にある「ボート岩」に上がってみると、満潮間近ということもあって確かに狭い。マキエのバッカンを置き、船に備え付けのチャランボを刺してロッドケースとクーラーを掛け、クーラーの上にサブバッグを置いたら平らな所は自分の立っている地面しか残りませんでした。
また、バッカンと海の間には頑丈な錆びた鉄の棒が立っています。これは前島に石切り場があった時に使われていた運搬船係留用のボルトの残骸で、このボート岩の語源ともなっているもの(まこと船長曰く、元々ボルト岩だったのがいつの間にかボート岩になったんだそうな。)なのですが、何度これに撒き餌シャクをぶつけて折りかけたことやら・・・。
この日は1.35号相当の竿に道糸ハリス2号、ウキはG2、ウキ下は1本というタックルでスタート。
潮は磯の南に連なった干出し岩に沿うようにゆっくりとワンドに入ってきていますので、船長のアドバイス通りドン深の竿下〜少しだけ先を狙っていきます。
すると10投もしないうちにウキがスルスルと沈んでいったので、少し待ってからアワセを入れると竿が大きく曲がり込みました。手ごたえ抜群!いきなり結構な大物がヒットした模様です。
ところが2号ハリスはあっさりと切れてしまいました。それも中途半端な所からの不自然な切れ方で・・・。フグにでもやられたか??
以降数時間は時折サシエが取られる程度で経過しました。潮が下げに変わり、本流が干出し岩の列の先端をかすめて流れるようになったので3Bのウキを使った沈め釣りでドンドン流していっても、ほとんど潮の動かないワンド側を釣っても同じです。10時ごろにマキエに集まるボラ(Mugil cephalus (ラテン語で)ボラ/(ギリシャ語で)ボラ)が一匹掛ったのが本日の初釣果という有様でした。
よく考えたら納竿時間を聞いていなかったので、まこと船長に確認の電話をしたのが10時半ごろだったかな?その時に南に連なるシモリの際からその先の本流との合流地点までのわずかな距離を狙うように勧められたので、アドバイス通りに仕掛けを止めたり流したりしながら集中的に狙ってみました。
すると10分ほど後にウキが底を掻いたようにシモっていき、25cmの銀色の魚がヒット。難なく上がってきたその魚こそ今回の裏本命、「アカントパグルス シュレーゲリイ」です。
しかし折角のこの魚、クーラーの蓋でサイズを測った直後に暴れると、狭い磯の上を一跳ねしてそのまま海に帰っていってしまいました。おかげで写真の1枚すら撮らせてもらえませんでしたわ(涙)
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ボート岩。バッカンの後ろにボルトの残骸。向かいは黄島。 |
まあ次を狙えばいいか・・・と思ったけど、現実はそんなに甘くない。本流は間もなく力を失い、引かれ潮も無くなってどうにもならない状況に。
それでも一度磯際で根魚らしきものを掛けることができたのですが、これが割と大きくて力も強く、あれよあれよという間に磯際に潜り込まれてその中で大暴れ、一たまりも無くハリスが飛んでしまいました。残念。もしかしたらこれ、最高に旨いアコウ(標準和名キジハタ Epinephelus akaara 曇った/(長崎での地方名)アカアラ)だったかもしれないなあ。
気が付けばもう12時前。迎えまで1時間ちょっとしかありませんがな・・・。
クーラーはこの時点でも空っぽ。ヤバい、このままじゃ今晩のおかずが何もない・・・。こうなりゃ本命・裏本命は諦めて、朝からずっと泳ぎ回っている魚を釣るしかありません。
ということでハリを一番小さいものに替え、ウキ下も50cmほどにしてあとはひたすらおかず釣りです。
狙うは和名が学名にも使われている魚・サヨリ(Hyporhamphus sajori 下にくちばし/サヨリ)。35〜40cmほどのナイスサイズを40分ほどで14本キープして終了です。
おかげで晩御飯はサヨリ三昧になったけど、やはり厳しかったですね。どこの磯も同じように。
・5月24日 黄島 早崎
1週間後、私は懲りずにまた牛窓の磯に立っていました。
「前回よりも悪いですよ。乗っ込みはほぼ終わり、マダイも食ってません。ボウズも覚悟しといた方がいいですよ。」という船長の忠告も聞かずに。
上がったのは黄島の南面にある早崎。潮は中潮で、渡礁1時間足らずで干潮、11時9分満潮となっていますが、どうやらもう転流は済んでいるようで、磯の東のワンドから払い出した潮が先端を経て南西へと流れ去っていました。
まずはワンドの方にマキエを打って、G2ウキ、ウキ下1本弱からの沈め釣りで磯をかすめる流れを狙っていくと、結構な割合でサシエが沖に出る前に取られてしまいます。
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牛窓諸島の夜明け。左から前島、青島、黄島。 |
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アカントパグルス シュレーゲリイ |
エサトリは水面に群がるボラ類の群れと水中のクサフグ(Takifugu niphobles タキフグ/雪に覆われた)。
でもまあクサフグといってもいつぞやの青島のように釣りにならないほど居るわけでもありませんし、ボイルのサシエもあります。それに潮がスピードを上げるにつれて気にならなくなってくれたのもありがたかったです。
しばらくすると先端手前で小さなガシラ(標準和名カサゴ Sebastiscus marmoratus 小さなメバル属/大理石の)がヒット。続いてボラが1本と、この辺ではシクチ(朱口)と呼ばれるメナダ(Chelon haematocheilus ボラの一種/血の口唇)が掛かり、しんどい思いをさせられてしまいました。
沖にゴンゴン流れていく本流では結局何も当たりませんでしたが、近距離では数回、竿一本の誘導で流していたG2のウキが沈みました。
7時半ごろに掛ったのは27cmの銀色の魚。おおっ、これは前回磯の上からの逃走を許したAcanthopagrus sclegelii(アカントパグルス シュレーゲリイ)。和訳すると「棘の鯛/シュレーゲル氏の」。標準和名クロダイ。ここらでチヌやチヌダイと呼ばれている魚ではありませんか♪今回は手早く写真を撮ってから、クーラーの持ち手につないだストリンガーに通して、穏やかな所で泳がせておきましょう。
その直後にも先端付近のガラ藻の際で20cmほどのクジメ(Hexagrammos agrammos 六本の線/線の無い)がヒット。これは私の地元でスゲと呼ばれていて、学名にも記されているとおりアイナメ属のくせに側線が1本しか無いことと、尾鰭後縁が丸いことでアイナメ(Hexagrammos otakii 六本の線/大滝氏の)と区別される魚です。
何か物凄くいい感じになってきた!と思ったのも束の間、一旦緩んだ潮が再びスピードを上げたと同時に海の色が急変してしまったのです。
一週間前の豪雨の水が漂っているのか、田植えの水がやって来たのかは分かりませんが、塩分濃度の低い濁った潮が中崎の方から流れ込んできて、周辺は瞬く間に泥水のようになってしまいました。そして、本日同船したM社長の言うとおり、ボラ以外の魚は全く反応しなくなってしまいました。
こうなれば仕方がありません。東側の出っ張りとは別の潮が流れ込んでいて、まだ泥水には毒されていない西側に引越しして続行。しかし動きの悪い潮と予想外に浅い水深に惑わされ、クジメ2匹とメナダ1匹を掛けるのがやっと。あっ、あと小さなアカエイ(Dasyatis akajei 毛深いガンギエイ属/アカエイ)がなぜかフラフラと水面を泳いでいたので、タモで掬って尻尾を切ってクーラーの中に放り込んでおきましたけど、やっぱり今日の釣りも厳しいなあ。いつ諦めてサヨリ釣りに移ろうか・・・。
ところが、そんなことばかり考えていた11時過ぎ、潮が再び下げに変った直後にとんでもなく強烈な不意打ちが襲ってきたのです。
それは足元から10mほど先に仕掛けを入れて馴染ませてから、追い打ちのマキエを入れようとバッカンの方を向いていた時のこと。右手を駆け抜けた衝撃に視線を戻すと、ロッドが満月のようになって水中に引っ張り込まれそうになっているではありませんか!
すぐさま体勢を立て直しますが底を這うように沖へと疾走する魚は止まらず、ドラグからは糸がドンドン吐き出されていきます。そして高切れ。
どうすることもできませんでした。今回はゼロサムX4タイプV(1.85号)に道糸2.5号、ハリス2号というこの辺のチヌ釣りでは必要のないようなタックルで釣り続けていたというのに・・・。
掛っていたのは70クラスのマダイだったのかもしれないなあ・・・。まあ十中八九はコブダイ(Semicossyphus reticulatus 半分+kossyphosという魚、またはクロウタドリ/網状の)でしょうけど。
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早崎西側から船着きのある東側を見ています。
いつの間にやら潮色は元通りになっていました。 |
悔しいのでハリスを2.5号に上げて続行です。もはや晩御飯のためのサヨリ狙いなんて頭から消え失せてしまってます。
潮はまたドンドン早くなり、朝方の東先端のように足元から沖へと本流が走っていく形となったので、2ヒロほどしかない足元と深い深い沖とのギャップに苦しみながら釣っていきましたが、沖は最後までアタリなし。でも近距離では30cmのチヌを追加することができました。それも最後の一投で。
後で船長に聞いたら、「西側の潮は沖に入れても釣れませんよ。居るとしてもスズキくらいです。」とのこと。ありゃまあ、必死で沖ばかりやってたのに(汗)
ということで前評判通り厳しかった牛窓でしたが、とりあえずチヌの顔が見られてよかったです。なんやかんやおかずは確保できましたしね。
とはいえ、やはり大きなマダイの連発していた時期に来てみたかったです。
まあ、あんなバラシをしているようじゃ、どんな時期でも同じ結果でしょうけどね。シマギンポのような(Salarias luctuosus マスの一種+接尾辞/悲しむべき)ことです。
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5月24日の釣果。チヌは味噌漬け、その他は煮付け。 |
※本稿の魚類の学名とその訳は中坊徹次・平嶋義宏著『日本産魚類全種の学名 語源と解説』(2015年3月刊行)に依りました。中坊博士はさかなクンとともにクニマス(Oncorhynchus kawamurae 鏃、重み、威信+くちばし/川村氏の)の再発見に関わったことでも知られる、魚類学の第一人者です。
なお、学名は研究の進展により結構変更されますので、ご覧になった時点で既に古くなっている可能性もあります。
● 牛 窓 uhimado |
利用渡船 |
まこと渡船 |
出港地 |
岡山県瀬戸内市・牛窓港 |
時間(当日) |
5:00〜13:00
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料金 |
3000円
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駐車場 |
無料 |
弁当 |
無し |
宿/仮眠所 |
無し |
システム |
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磯替わり |
有ったり無かったり |
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*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません) |
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