風雲児  烈風伝
   ・幡多の汽水域&沖磯フカセ釣り
                 「おかず付き30目釣り」再始動!

2017年 9月3〜4日 高知県南西部の汽水域、泊浦の沖磯
・小さい頃から時々、変なものを見た。他の人には見えないらしいそれらは・・・
 最近、たまたま動画視聴した『夏目友人帳』という作品にはまってしまいました。
 熊本県人吉市周辺をモデルにした懐かしい風景の中で繰り広げられるその物語は、妖(あやかし)が「見える」という、ただそれだけのことで人々に気味悪がられ、嘘つき呼ばわりされ、親戚中をたらい回しにされてきた主人公が、高校生になってようやく手に入れることのできた大切な人たちや妖たちとの交流を通じて心を解放していくというもの。その瑞々しく、厳しくも優しい世界観にはほっこりさせられるし、何度観ても涙が溢れてしまって止まらなくなる話もありました。

 現実世界の、それも足元を実際に泳ぎ回っている魚たち。これにも「見える人」、「見えない人」の両方がいます。しかしこれらは好奇心と知識、少しばかりの技術があれば簡単に「見える」ようになり、そして経験を積めば積むだけよりはっきりと像を結ぶようになります。

 私は根っからの「ゲテモノ五目釣り師」であり、「高知南西部一泊二日30目釣り」「同50目釣り」「播磨国赤穂郡47目釣り」といったマニアックなことに挑戦してきた変人ですからそれなりの「見える目」は持っているはずです。それなのに何年かかっても辿り着けないのがいつも書いているユゴイという汽水の魚。幡多エリアでは普通種だというし、水中写真なんかも簡単に見られるのだから、これはもうタイミングなどの問題ではなくこの魚が「見える目」を私はまだ持てていないとしか言えないのではないでしょうか。

 今回はその目を手に入れるため、そして見えているのに、肉薄しているのに跳ね返され続けているゴマフエダイとの決着を付けるために旧土佐国幡多郡各所の汽水域を一日かけて走り回ります。さらに二日目は沖磯へ出て、“普通”のフカセ釣りでの魚種トライアルに挑戦。目標は30種!
 そう、体力ばかり異常に消耗するのに小物ばかりでクーラーも空、もう二度とやるまいと決めていた「一泊二日30目釣り」、今回は「普通」「おかず確保」という新要素を加えて(そもそもこれが本来の形だったか・・・。)4年ぶりに再始動です!

・薄明の中、スタート
 兵庫県を出たのが深夜0時前。道中、餌や兵糧の補充などをして4時半ごろに四万十川の支流に到着しました。
 周囲はかなり明るくなっているので休む間もなく渓流竿と玉ウキ仕掛けを車から取り出し、階段に陣取って投入。生のオキアミと砂ゴカイ(石ゴカイ)を切り替えながら何投かしていると5時3分に初めてのアタリがあり、クロダイ(チヌ)の新子が姿を現しました。

 それにしても静かです。時折ボラの子が跳ねる以外は海の魚も川の魚も全然見えず、ウキがゆっくりと上流に行ったり下流に行ったりする汽水特有の動きを繰り返すだけ。去年は何だかんだと色々回ってきて、ゴマフエダイも見られた場所だったのになあ。
 階段が一段また一段と干上がっていく中で頑張ってみたけど、5時45分にシマイサキ、6時3分にヒラスズキのミニセイゴが釣れただけで終了。正直粘りすぎです。去年の経験が足を引っ張ったなあ。
1 クロダイ(タイ科)幼魚 2 シマイサキ(シマイサキ科) 3 ヒラスズキ(スズキ科)幼魚

・コトヒキ地獄
 次はほとんど流れの無いポイントにやってきました。
 まずは下見ということで周囲を歩き回ってみると、多少水が動いているところには無数のコトヒキが屯し、流れの無い石積みの先を10〜20cmのキチヌ(キビレ)がいくつかの小さな群れで徘徊しています。おっと、こっちの石積みの先にも15cmくらいのキビレが2匹・・・、いや違う!これはゴマフエダイだ!!
 私は大急ぎで渓流竿を伸ばしにかかりました。するとどうでしょう、それまで平然と餌を探していたゴマフエダイが、水際近くから覗き込んでも興味深そうにこちらを観察するだけだったゴマフエダイが、伸びる竿を見ただけで姿を消し、それっきり私の前に現われることはなくなってしまいました。
 さらにキビレの方も餌には全く興味なし、近くを通りかかっても横目で見ながらスルーしていくのみでした。

 ただしコトヒキだけは異常に貪欲で、まあ面白いようにというか、うっとおしいほどに釣れまくりました。それに伴ってハリがドンドン無くなっていきました。私は今回も汽水の釣りで問題になるフグに対応するため軸の長いキス針をメインに使っていましたが、それでも多くのコトヒキが鰓の奥まで飲み込んでしまい、ハリスの細さも相まってほぼ回収不可能でした。

 なのにゴマフエダイの存在が私の足をこのポイントに引き留めてしまい、いつの間にやら時刻は9時過ぎ。ああ、釣果は大量のコトヒキと、ルアー(ジグヘッド&パワーしらす)で掛った10cmほどのギンガメアジ1匹だけだというのに・・・。

 ここでようやく諦めて移動を始めましたが、その途中の小河川で井桁状のブロックが並んだ面白そうな場所を見つけてしまいました。ちょうどいい所に階段があったので降りてみるとまたしても15cm弱のゴマフエダイが1匹泳いでいるではありませんか!
 私は急いで車に戻り、渓流竿を伸ばしてからそっと階段を降りていきました。しめしめ、まだ居るぞ!とそっと石ゴカイを投入すると、魚はそれを見るものの全く食い気なし。そうこうしているうちに近くの井桁からコトヒキがやってきてしまい、餌に飛びつくその勢いにゴマフエダイ逃走!ああ、またしても邪魔された・・・。
4 コトヒキ(シマイサキ科)  5 ギンガメアジ(アジ科)

・干潮の川で
 今回の本命ポイントの一つだった土佐清水市内の川に辿り着いたのは11時前のことでした。
 昨年、ゴマフエダイにあと一歩まで迫った場所なので期待が高まります。まあユゴイの方は厳しいでしょうけどね。いたとしても想像を絶するほどのクサフグ&コトヒキの猛攻が待っているはずですから。
6 チチブ(ハゼ科) ピンボケ・・・

 ありゃ、水が無い。
 それもそのはず、ちょうど干潮で水はチョロチョロとしか流れていません。去年あれほど居たコトヒキは避難中、クサフグが少し泳いでいるだけです。諦めようかとも思ったけど、足元のコンクリートのオーバーハングに何かがいるのを発見したので試してみることにしました。
 水深40cmほどなので、全長80cmほどの脈釣り仕掛けを穂先から3本だけを伸ばした渓流竿にくくりつけ、それでゴカイを落としてみます。
 道行く人に珍奇の目で見られながら仕留めた魚は4種類。チチブマハゼクサフグ、そしてオーバーハングの下をチョロチョロしていた魚、クロダイの幼魚です。

 一通り釣ったし、腹も減ってきたので移動しよう。そう思って擁壁を上りかけたところで、ふと上流の方を見ていないことを思い出してUターン。そして私は次の瞬間には興奮しながら竿を伸ばしていました。

 クサフグ、チチブ、マハゼ、コイ、それらと一緒にいたのはゴマフエダイ。5cm程度から15cm超まで、7〜8匹が入れ代わり立ち代わり現われて、泳いでは止まり泳いでは止まりしていたのです。おお!去年のゴマフエダイの反応の良さ、今のライバルの少なさを思うと、これは王手ということではないのか!?さあ私と勝負しない?私が勝ったら太字で名前を書かせてね!

 そっと仕掛けを投入してみてもここのゴマフエダイはそれだけで逃げてしまうことはありませんでした。色々な個体が石ゴカイ、オキアミの周囲を通り過ぎていきます。しかしどれもこれも餌をくわえるようなことは絶対にしないようです。ほんの1回だけチュッと軽く唇を触れさせた個体が1匹だけいましたが、それだけで去っていってしまいました。
 う〜ん、このゴマフエダイという魚はゴカイやオキアミを食うという習性は無いのだろうか。何があっても昼間に餌を摂ることは無いのだろうか・・・。去年も結局サシエに口はつけなかったもんなあ。

 とまあ、今回もゴマフエダイには跳ね返されてしまたものの、このポイントでは嬉しい副産物がありました。
 それは向こう岸の護岸に空いた穴から飛び出してきた大きなハゼのような魚(ただしハゼ科ではない)カワアナゴ。ヒットすると同時に住処に逃げ込んで大暴れするこの魚が3回掛って2匹を捕獲。どちらも24cmありましたのでキープし、家で甘辛く煮つけてみたらかなりの美味!肉量も多くて素晴らしかったです。そのうち一匹は大きな卵を持っていて、ちょっと硬めの噛みごたえはなかなかのものでした。(今が繁殖期だということが分かったから、今後はこの時期のキープは避けるとするか。)
7 マハゼ(ハゼ科)

8 クサフグ(フグ科)





9 カワアナゴ
 (カワアナゴ科)
 

11 オキフエダイ(フエダイ科) 幼魚
・サギ「俺の名前を言ってみろ!」
 予定よりちょっと遅くなった昼食を済ませ、13時半前、土佐清水市内の別の小河川に移動して釣りを再開。
 この川は川幅の割りには奥行きのある川で、河口域にはいかにも魚が潜みそうな石積みがあり、最初はその上から、次いで隣のスロープ状の所から渓流竿を振りました。

 アタリはしばらく出なかったけど、ひたひたと急速に潮が上がってきて、淡水と海水の境界を示して揺らめくハロクラインが辺りを取り囲むや否や玉ウキがハイペースで引き込まれるようになり、次から次へと魚がヒットしました。
 やはりここでも主役はコトヒキとクサフグでしたが、このポイントではお馴染みのオキフエダイの幼魚も釣れましたし、何より印象深かったのは大きなエバ(メッキ)でも掛ったかのように糸鳴りさせながら走り回った20cmくらいの魚たち。高知でアマギ、紀州でムギメシと総称されるクロサギ科の魚たちでした。
 このクロサギ科の魚たちは飛躍的に研究が進んでいるらしいのですが、この時点では見分け方、写真で残しておくべきポイントを理解していなかったため正しい同定なんてできません。そんなわけで自信はゼロですけど写真からの推測で、13時40分に釣れた斑点のある体高の高いものをイトヒキサギ、14時2分と6分に釣れたものをとりあえずクロサギとしておきます。
10 イトヒキサギ(クロサギ科) あるいはヤマトイトヒキサギ 12 クロサギ?(クロサギ科)

・最後の場所で
 面白い釣りができているので粘ってみたいところですが、すでに時刻は14時半。メインディッシュにたどり着く前にタイムアップになりかねませんから泣く泣く移動。宗呂川も覗くだけ覗いて竿を出さずに再移動。そして本日の最終スポットにして本命ポイント、大月町の貝ノ川川(誤字ではない)にやってきました。

14 ヌマチチブ(ハゼ科) チチブとの
違いは・・・この写真じゃどうしようもないな。
 地元の写真家によって頻繁にユゴイの水中写真が撮られているこの川の汽水域は、この夏の猛暑と降水不足(東日本の人たちは知らない人も多いでしょうけど)のせいか以前に覗いた時とは違って水が痛んでいるかのように見えますし、魚の姿もほとんど見えません。
 これでは釣りをする気にもなれないのでもう少しだけ上流に移動し、汽水域と淡水域を分けているらしい浅瀬から渡河して中州に上がり、深くなっている汽水側で竿を出したものの、クサフグのヒットとボラの子の群れによる餌&糸つつきの他に反応はありませんでした。

 途方に暮れて振り返ると風景が変わっていました。汽水域がさっき渡ってきた瀬を乗り越えてその上流まで流れ込んでいます。瀬の上の浅場には身を躍らせる魚たちと驟雨のような波紋が水面をかき乱しています。
 私は中州を遡り、裸足になって慎重に対岸まで渡河。護岸の下の低いコンクリートに上陸し、そこから流心にウキを飛ばしました。するとすぐに竿ごと引っ手繰られるアタリがあってウグイが登場。足元の礫底に群がるゴクラクハゼヌマチチブも先を争うようにゴカイに喰らいついてきました。

 釣りながら遡っていくと音を立てて流れる瀬が現われました。瀬尻を覗き込むと5〜6cmの銀色の魚が20〜30匹の群れとなって速い流れの中を俊敏に泳ぎ回っています。
 「これは!」
 私はその魚影を見た瞬間に直感しました。すかさずコンクリートの上に腹ばいになって目を凝らすと一匹の魚が目の前でヒラを打ちました。それが私の「ユゴイが見える目」獲得の瞬間でした。

 なるほど、こういう場所にいたのか。サイズも予想よりも小さかったか。
 まあ、口の大きさにもよるけど魚は3〜4cmもあれば釣りの対象になると思っているし、こういう事態を想定してタナゴの脈釣り仕掛け(道糸にトンボと呼ばれる目印をいくつも取り付け、タナゴバリ「極小」を結んだ短仕掛け)を持ってきていますから、迷うことなく結び直して投入。
 このユゴイ、沖縄では30cmくらいの成魚をルアーで釣るそうで、高知県でも時折記録されるオオクチユゴイなんかははジャングルパーチなどと呼び変えられているようです。そんな魚の幼魚ですから仕掛けを流し切って浮き上がってきたときの不自然な動きや誘いに対して好反応。これならば釣るのは容易きこと!と思ったのですが、ゴカイの尻尾もオキアミのむき身の細切れもあと一歩の所で食い込んでくれません。
 数年がかりで訪れたチャンスを逃すまいと、随分早くなった日没が迫る中、必死で食わせようと足掻いた私でしたが、結局どうにもならないままタイムアップ。これはきっと餌を工夫しない限りはダメでしょうね。それかもう少し遅い時期に再訪するか・・・。

 というわけで、日の出から日没まで汽水域ばかりを走り回った一日目は、釣った魚の和名を綴った「変人帳」に15種の和名を書き連ねた状態で終了。私はその夜、妖たちに名を返した「夏目」のように疲れ果て、大月町の幡多郷で死んだように眠っていたようです。
13 ウグイ(コイ科) 15 ゴクラクハゼ(ハゼ科)

・二日目は大月町泊浦での磯釣り
 二日目は長い夏休みを終えて9月1日から渡船を再開する予定だった下川口のまつした渡船にお世話になるつもりでした。
 ところが関東〜東北の沖を北上する大型台風のうねりがまだ残っており、昨夕の電話で「出られないことはないと思うけど、今回はパスするのが無難」という事になったため、こういう時の強い味方、大月町西海岸・泊浦の大月遊漁センターに行ってみることにしました。

 ただこちらも昨夕の電話は「最近、全然お客さんがいないので天気予報すら見てなかった。すぐに調べて折り返し電話します。」という頼りなさで、折り返しの結果、出港は問題無しとなったものの、「多分釣れんと思うけど・・・」と船長は全く自身無し。大丈夫!この時期のフカセ釣りも結構面白く、意外にいい型が出る可能性も高いことは十二分に知っていますから。
 序盤の釣り座。この写真の大部分はまだ波に洗われていました。
 なお、行きつけの安満地ではなく泊浦を選んだのは全くの勘・・・というか、初日の釣りの疲れが宿から5分のこの釣り場を選ばせたのでしょうね^^

・ゲンバ1番
 渡船乗り場に到着するとマキエを作る間もなく5時半ごろに出港。前日の予約のとおり泊浦の湾の南側、弦場の鼻(げんばのはな)周辺の独立磯、ゲンバ1番に渡礁しました。ここは泊浦では珍しく潮によっては尾長グレや青物が狙える磯だとのこと。水温が最高となるこの時期には潮通しの良い磯は非常にリスキーですが、こういう奥まった渡船区なら多分ベストな選択・・・だと思います。
 まあ何にせよ魚種豊富な時期ですから、フカセ、胴突き、ルアー、落とし込みと何でもありでやれば残りの15目なんて簡単でしょうけど、今回の釣り方はフカセのみ、サシエはオキアミの生とボイルのみ、しかも真面目にグレを狙いながら何種釣れるかということにこだわります。ゲテモノ五目釣り師はひとまず封印。余程ことが無い限り外道、エサトリを積極的に狙うことはせんぞ〜!

 さて、マキエや仕掛けを作っている間にもドンドン潮が引いていって、磯が沖へ沖へと広がっていきます。
 最初こそ北向きの船着きから釣るしかなかったけど、数投後には北西側の小さなコブのようなところにバッカンを置き直して本格始動しました。

 北隣のゲンバ2番の方に流れる緩い潮が東西に伸びた細長いシモリを越える時に作り出す小さな渦や、ゲンバ2番方向にできた潮目をG5ウキ+2ヒロちょっとのウキ下で狙っていると、10分くらいでちらほらとエサトリが見え始め、6時36分にイトフエフキがヒット。これは釣り上げてしばらくするとトレードマークの大きな黒色斑が浮かび上がってくる、四国では最もポピュラーなフエフキダイ科の魚です。

 続いてコッパ尾長こと手のひらサイズのクロメジナと同サイズのコッパ口太(メジナ)が一枚ずつと、イトフエフキがもう一枚釣れました。
 さらには仕掛けを00のウキにジンタン7号を打ったスルスル仕掛けに変更して沖にドンドン入れ込んでいくと、7時1分には一際強いファーストランでいわゆるオジサン、オキナヒメジが久々に登場、7分には茶色い魚が上がってきたのでまたもやイトフエフキかと思ったけど、こちらは25cmのハマフエフキでした。
 その後、コッパ尾長を挟んでアカササノハベラにハリを飲まれた7時24分を最後にこのポイントを後にすることになりました。潮がさらに引いたことで道が開き、ずっと待ちかねていた沖向き最先端の本命ポイントへ入れるようになりましたからね。
16 イトフエフキ(フエフキダイ科) 17 クロメジナ(メジナ科) 19 オキナヒメジ(ヒメジ科)
20 ハマフエフキ(フエフキダイ科) 21 アカササノハベラ(ベラ科)

 干潮時限定、南西端の本命ポイント。納竿前には水位が
みるみる上がり、下手すりゃ取り残されるところでした。
・初秋の○○祭り
 引っ越し先のポイントは、南向きはドン深の壁、沖向きは最浅部で1ヒロくらいの大きなシモリが点在するという地形で、潮はドン深からシモリへとゆっくり流れていました。
 南向きの壁近くにマキエを入れてみるとカワハギ(丸ハギ)とチョウチョウウオとハコフグ類各少々が見えはじめ、その周囲には薄茶色の魚の姿も見えました。

 マキエの少し沖に00ウキ&オモリ無しのスルスル仕掛けを入れてみると、ファーストヒットはやはり薄茶色の魚、イトフエフキ。これが立て続けに2枚釣れ、20cmちょっとのハマフエフキと30cmほどのヒブダイ(キバンドウ)を挟んでさらに2枚。むむむ、これは秋のイトフエフキ祭り絶賛開催中なのか??

 釣りはじめてしばらく経つと、開催されているのが「秋のイトフエ祭り」ではなく、「秋の黄バン祭り」であることがはっきりしてきました。
 まあ釣れるわ釣れるわ。沖を狙っても磯際でもシモリ狙いでも。カワハギやミニオヤビッチャに餌さえ取られなければどこででも掛ってくる30〜40cmちょいの小〜中型キバンドウ。なにしろこの後13時ごろまでの5時間ちょっとの間に30匹以上釣れるほどですから、いったいこのポイントにはどれほど居るのかと・・・。

 そんな黄バン祭り真っ最中の9時半前、南向きの沖で沈んでいったウキにアワセを入れると今回最高の強烈なパワーに1.85号相当の竿が曲がり込み、これまでは全く動かなかったドラグが一気に糸を吐き出していきました。
 これはおそらく60cm級のキバンドウだろう。そう思って2号ハリスが飛ぶ瞬間を待っていましたが、不意にスピードを落としたので反撃開始!ジワジワとプレッシャーをかけながらゆっくりとリールを巻いていくと、何度かの小抵抗のあと先端のシモリ地帯に猛ダッシュしてそのままシモリを突っ切っていきました。しかしこれでもハリスは健在。キバンドウじゃないことは反撃開始の時にはわかったけど、じゃあいったい何なんだ?と思いながらドン深エリアまで引き戻してくると水中から銀色の鋭い光が!MT(ミディアムトレバリー)ことロウニンアジの若魚か?それともシマアジか?いや、背鰭と尻鰭が極端に伸長するこれはイトヒキアジだ!

 こうして無事に仕留めたイトヒキアジは尾鰭後端までの長さ45cm。薄皮が非常に剥きにくくて苦労させられたけど、刺身にするともっちりした独特の食感と濃すぎない程よい脂の乗り、天然ハマチに酸味と旨みをプラスしたような味で、翌日にそのまま食べても翌々日に宇和島鯛めし風にしても過去の記憶以上に旨かったし、アラを甘辛く煮つけたものも想像を超える旨さに加えて意外なほど肉量も多くて大満足。
 釣った直後はシマアジでなかったことに少しがっかりしたけど、後になって身に染みました。本当にいいものを釣ったものだと。

22 ヒブダイ(ブダイ科)↑


23 イトヒキアジ(アジ科)→
まるでおっちゃんがため息をついているかのような横顔。


・(一部の人が)興奮する状況に!
 干潮を迎えた11時過ぎ、潮が反転してドン深の方にゆっくり入ってくるようになりました。その動きはじめにはグレかキツの大きなやつも見えましたが、直後に高切れバラシをやらかしてしまったせいか一瞬で姿を消してしまいました。
 しかしバラシは他の魚には影響なく、目視できる種類はかえって増えるという大興奮の事態になりました。
 マキエの周辺やシモリには初めからいたカワハギ、ハコフグ類、チョウチョウウオに加えてオヤビッチャ、コッパグレ、ミツボシクロスズメダイ、ナガサキスズメダイ、コガネスズメダイ、ソラスズメダイなどが色とりどりの群れをなし、大きなトゲチョウチョウウオやツノダシ、キンチャクダイなども1〜2匹でうろついています。磯際に出て覗き込んでみると赤銅色の魚体に一対の白い星(Stella)を輝かせる魚までもが泳いでいるのが見えました。

 11時半、磯際から7〜8m先を流していたウキが海中に突き刺さり、竿が大きく曲がりました。その引きはこれまでの魚よりもさらに粘り強いもので、走ることはない代わりになかなか浮いてきませんでした。それでもプレッシャーをかけ続けていると浮上を開始。円を描くようにして上がってきたのは薄紫色に小さな小さな白斑を無数に散りばめた38cmのアイゴ
 言うまでもなく背鰭・腹鰭・尾鰭の棘(きょく)に強烈な毒を忍ばせており、中でも背鰭の第1棘(一番前のやつ)はいわゆる「隠しトゲ」として半ば体に埋もれる形で前向きに配備されているという剣呑な魚ですから初日のクーラーにはあまり入れたくないけど、今日は帰るだけだから鰓にナイフを入れてタイドプールで血抜きしときましょう。好みが分かれる味だと思うけど、以前試したガーリックソテーは気に入りましたからなあ。

 さて、血抜きしている間に何か釣れないかな?と釣り座に戻ってマキエと仕掛けを投入すると竿下でアタリ!ウキが一気に引き込まれた勢いそのままに猛スピードで竿を絞り込んでいきました。磯際への突入を止め、そのまま矯めているとほどなく浮いてきた魚は、なんと先ほど目視したフエダイ(シブダイ、アカイサギ)。サイズは25cmですが、こうしてグレなどと一緒に釣ってみるとその引きの強さを再確認できますなあ。
 少し小さいけど、この魚はもちろんキープです。このサイズでも腹にはオレンジ色の内臓脂肪がありましたが、さすがに刺身だとあっさりしており、おかげでいつも強烈な脂に隠されてしまっている本来の旨みを楽しむことができました。
24 アイゴ(アイゴ科) 38cm。血抜き後。 25 フエダイ(フエダイ科) 25cm。

・ファイティングドリー2
 地の方に入ってきていた潮は30分ほどで再び反転しました。でもそれによって色とりどりの魚たちが消えてしまうようなことはなく、かえって新しい魚がマキエ周辺に姿を見せました。

 それはたった1匹でしたがとにかく目立つ魚でした。時折落ちてくる細かい雨の中でも強烈に煌びやかな深い青に黒と黄を配した唯一無二の魚・アニメでおなじみのドリーこと、ニザダイ科のナンヨウハギです。昨年の安満地で取り逃がしたこの魚ともう一度勝負できるとは!
 先ほど「余程ことが無い限り外道、エサトリを積極的に狙うことはせんぞ〜!」なんて書いたけど、私にとってこれは余程のことですからグレからこの魚に狙いを変更しました。まあ変更したといってもこのポイントに入ってからずっと使い続けている00スルスルの仕掛けをナンヨウハギの動きに合わせて投入するようにしたことと、浅ダナを集中的に狙えるようにラインを操作したこと、ハリを5号に落としたことくらいしか変えてませんけどね。あとはサイズは20cmちょっとでもサンノジの仲間ですから掛った時の一撃は強いだろうなという心構えをしておいたくらいかな。
 で、コッパグレを躱し、カワハギを躱し、ナンヨウハギと同時期に現われた70cmくらいのボラの小集団を躱してサシエを食わせようとしたけど、あと一歩の所でコッパグレがヒットしたり、他魚にサシエを盗られたりと大苦戦。何しろ相手はたった1匹ですのでなかなか厳しいですなあ。

 そうこうしているうちに潮が少しスピードを上げました。すると明らかにキープサイズを超えているグレが出現し、マキエに向かって上下運動を始めました。
 私はナンヨウハギ狙いを一時中断、いや、狙いを元に戻すと、見えていたグレの中では一番大きいのがヒット!しかしなまじ見えていたのが悪かったのか充分に乗っておらず、ハリが外れてしまいました。
 それでも数投後の12時12分には31cmの口太グレがヒットしたのでキープ。この時期でもコンディションのいい南隣の安満地と違って痩せてますけどね。

26 ニセカンランハギ(ニザダイ科)
・いつもと違って
 この磯のキープサイズのグレは時々しか出てこないのか、またコッパばかりになったので、標的をナンヨウハギに絞りましたが結局サシエを届けることはできませんでした。
 Web魚図鑑のナンヨウハギの解説文によると「水槽では植物質の餌も与えるとよく、水族館ではレタスなどの野菜も与えている。」とのことですので、今度このエリアに来る時にはクーラーにレタス入りのサンドイッチを忍ばせておこうかな。ナンヨウハギがいなかった場合でも他の餌と違って食べれば無駄にはならないし。

 ナンヨウハギはダメだったけど副産物として、13時2分には同じニザダイ科のニセカンランハギ、14分にはここや安満地、沖の島など宿毛湾ではよく見かける魚・ミツボシクロスズメダイがヒットしてきました。

 さらに13時29分には潮下、つまり沖向きのシモリからチヌが登場。この泊浦の磯は70cm級のチヌ(が釣れるかもしれない)釣り場として売り出しているところで、宿毛湾奥の「マッスルチヌ」をもじった「ハッスルチヌ」と称しているそれは、一般的には泊浦のメインターゲットです。
 でも掛ったのは30cmだし、昨日いの一番に釣れてカウント済みでしたから、10分後に釣れてきたカサゴ(ガシラ)の方が今日はよっぽど嬉しかったです。

 そういえば何種釣れているかとデジカメの画像をチェックしてみると、この時点でトータル28種、目標まで残り2種。残り時間は実質40分、マキエには始めからずっと居るカワハギ、ハコフグ類、チョウチョウウオのはか、コガネスズメダイやいつも苦労させられるオヤビッチャといった未カウントの魚がいっぱい集っていますからどうにでもなると思ったけど、甘かった。
 釣れてくるのはコッパグレばかりで、32cmという今回最長寸の口太グレもキープできたけど、14時25分の納竿までに魚種を増やすことはできませんでした。
 正直これは予想外の展開です。いつも同様、狙わなくても掛ってくるはずだった上記の魚がまさか1匹も釣れないとは・・・。いつも邪魔するオトメベラやニシキベラ、ダツ、ハマダツ、オキザヨリ、それにイスズミ科(キツ類)の面々やニザダイ(サンノジ)に至っては姿さえも見せないとは・・・。

 とはいえ、今日の釣りはとにかく楽しかった。やはりこの時期の磯も最高に面白い!
 しかしこのままでは帰れない。残り2種を仕留めるまでは帰れない。それに昨日買った石ゴカイは車中のバラ氷入りのイグローの中の木製餌箱の中で生きいる!
 私は港へ上がると同時に降り出した雨の中、急いで車に道具を積み込み、昨日ゴマフエダイにふられたあの川へ急ぐのでした。
27 ミツボシクロスズメダイ
(スズメダイ科)
28 カサゴ(フサカサゴ科) 18 メジナ(メジナ科)順番は前後したけど
これが今回の最長寸32cm。
 南隣の地磯、弦場の鼻(げんばのはな)と橘浦集落  北隣の独立磯、ゲンバ2番
 ● 泊 浦 tomariura
利用渡船 大月遊漁センター 出港地 高知県大月町・泊浦の浮き桟橋
時間(当日) 5:30〜15:00
料金 3000円
駐車場 無料 弁当 無し
宿/仮眠所 無し システム 磯予約制
磯替わり 不明
*データは釣行日のものです。間違いや営業内容の変更があるかもしれませんので、
必ず渡船店にご確認ください。(内容については一切責任を負いません)

・汽水域で延長戦
 途中、宿毛の山越えでかなりの強雨に遭ったけど、たどり着いた汽水のポイントにはまだ雨雲は届いていません。でもこれは時間との戦いだぞ・・・。

 ゴマフエダイも気になるところですが、まずは確実に2種を獲るため、魚種の多い護岸の石積みから。
 タックルは昨日ジグヘッドでの釣りに使ったライトシーバスロッドによる探り釣り。短いハリスに3Bのガン玉を一つ打っただけのシンプルな仕掛けに生き残りの石ゴカイを付けて石の間を上げ下げしたり、時には沖に投げたりして足で釣っていきました。

 すると開始5分もしない16時30分に手のひらサイズのキチヌ(キビレ)がヒット。今日はこのキビレの活性が高く、以後の釣りはこれを避けながら最後の魚を狙っていくことになりました。

 残りあと1種!でもこれがなかなか釣れません。何か魚の種類が少ないし、見えていても食いません。これはゴカイで誘うよりワームで反射食いを狙う方がよっぽど簡単かも。
 それでも16時46分にクロサギと思しき魚が釣れ、17時3分にはようやく発見したクロホシフエダイの幼魚の前にゴカイを落とすことができ、30種目の魚として手にすることができました。
29 キチヌ(タイ科) 30 クロホシフエダイ(フエダイ科)

・持たざる者
 やれやれ、これで安心してゴマフエダイと向き合える!そう思って流れのほとんど無いポイントの方に移動してきましたが、目的の魚はどこに行ってしまったのか、見つけることも釣ることもできませんでした。
 代わりに猛威を振るったのがコトヒキとキビレ。特にキビレの方は、これがあれほど餌を嫌っていた魚なのかと首を傾げるほど、大きいのも小さいのもアグレッシブに次から次へとハリ掛かりしてきました。

 最後の最後に入った釣り座ではクロサギ科の魚たちも元気でした。
 クロサギかそれに近縁の体高の低いものが1枚、イトヒキサギかそれに近縁の背鰭の棘が伸びた体高の高いものが2枚。
 特に前者は16時46分に釣ったものとは体型が違って見え、頭前面の鱗の有無も違ったようにも思えます。しかしその時の私、今の私にこれらを正確に見分けられる目も、クロサギ科に関する充分な知識もありません。写真を見てもやはり中途半端でよく分かりません。ですので今回はこれらの魚を新たなる1種としてカウントすることはしません。その「目」を持たない報いとして。その「目」を持つための励みとして。

 返す返すも昨日とは打って変ったような魚の反応でした。まあ昨日は朝、晴れ、干潮近く。今日は夕方、小雨、満潮。これだけ条件が違うと魚の動きも違って当然ですわなあ。
 どうしても釣りたい魚がいて、居る場所が分かっているのなら、汽水の場合あちこち動き回って食い気のある魚を探すよりも腰を据えて状況の変化を待つほうが正解に近いのでしょうなあ。次の時には今回のように欲張らず、対象魚をどちらかに決めて対策を練って長期戦を仕掛けてみるとしましょうか。ユゴイが見えたという今回の最大の成果を武器に。

 奇妙な三十目釣り師はそんな決意をしながら、降り出した雨に追われるように夕闇迫る幡多を後にしたのです。
 最後に釣れたサギたち。

 
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