・沖の島は夏の海??
4月というのに30度に達しようかという暑さ。蒸し暑さ。
ジリジリと照りつける太陽が疲れきった体から判断力と体力を奪い去っていく。
沖の島の黒ハエ、正午前。まとわりつく湿った空気になんとも言えぬ邪悪な気が混じっている。
のしかかってくるようなその気は新しくフローティングベストに縫い付けられた背中のワッペンから発せられているようだ。
不適な笑みを浮かべるワッペン。それは名誉ある称号とともに我が家に強制的に送りつけられてきた。
「第13代目撃沈大魔王」。
過去の釣りにおいて数々の撃沈を繰り返した者に「魔王会」から贈られる称号。今回はこれを襲名しての初めての遠征であった。
身に纏った者に更なる不幸・撃沈を約束するという恐怖のワッペン、その威力はやはり終始この釣行に付き纏っていた。
いつものように朝の5時から夕方まで、頑張り過ぎないように働いて、わずかばかりの休憩の後、いつものように高速を一人駆け抜ける。
目的地は沖の島、二並・三ノ瀬廻り。これまでの長かった沈黙が嘘のように魚の活性が上がり、あちこちの磯で大爆釣の声が響いている。
口太も出るらしい。尾長の大きなのも回っているらしい。しかも天気予報は晴れ、曇りのち晴れ。波も穏かな様子で、長い撃沈からの脱出に期待が膨らむ。
疲労の回復に失敗し、前日の夜も、当日の僅かな睡眠のチャンスも活かせず疲れきった体とは裏腹に・・・。
息も絶え絶えの状態で片島の港に到着し、今回お世話になる初福渡船に潜り込むがここでもほとんど睡眠をとれぬままに沖の島に着いてしまった。
乗客は10人ちょいといったところか。それぞれの夢を乗せてスクモバエから降ろしはじめる。
「潮が満ちる! 荷物掛けろ! 流される! 他の者と代れ! 訳のわからんもんがこんなとこに上がったらあかん!!」
噂どおりいろいろ叫んでいるなぁ・・・。
結局船頭の言葉どおりクーラーを流してしまい、乗客みんなで回収作業にあたることに。はぁ〜〜〜。
船は西のハナレ、ナカバエと回って、僕は黒ハエの南向きに降り立った。
上がって絶句。汚いのなんの。
磯全体に散らばるオキアミ、赤貝、それに弁当がらやウツボ、グレのハリスに石鯛のワイヤー。
ここで一日はたまったものじゃない。
貴重な時間を割いて水を流した。あまりにも貴重すぎる時間を使って。
なんやかんやでずいぶん遅い第1投となったが、前回と違って海の中はかなり賑やかな様子。
オヤビッチャ、シラコダイ、コガネスズメ、ソウシハギと色鮮やかな餌取りどもが闊歩している。
定石の際狙いはすぐに頓挫。際に餌取りを集めて沖狙いに切り替えると数投後にウキが入った!
小気味よい引きをみせて上がってきたのは35cmぐらい、いわゆる「沖の島サイズ」の口太グレ。
やった!実に何ヶ月ぶりの本命だろう。
この日はポイントをあちこち変えながら釣った方がよかったようで、沖でもう一枚追加。潮下の角の際でもウキが勢いよく引き込まれ、かなりの強引。
足場の移動に手間取り、壁に突っ込まれ半ば諦めたが、壁に張り付くこともなくなんとか取り込んだのは尾長!!
30cmオーバーの尾長にはとことん縁のない僕にとって四国遠征を始めて以来2尾目、前回の水島2番からなんと2年4ヶ月ぶりとなる40cmだ。
暫くして25cmの口太を1枚リリースしてから、ナカバエ方向に流れていた潮が反対に換わった。
釣り座では当て潮になった瞬間に40cmの口太をヒットさせたきりアタリは遠のいてしまった。
その後は1ヒロでも竿2本でも、シモリ狙いでも延々と流しても一向にアタリなし。
餌取りも消えてしまって為すすべもない。
疲れた体を休めようにも寝転べる所はなく(あっても臭いゴミだまりになっていた)半ば眠りながら釣りを続けるしかなかった。
そんなときズルズルッという物音で我に返ると、バッカンがない。
あわてて海に浮かぶバッカンを回収したが、残りの餌は全て海の藻屑。
再び上げに換わって、いかにも釣れそうな海を見ながら、迎えの時間までただ暇。
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黒ハエから見た中バエ。
この日、大当たり。1日中竿が曲がってました。 |
・季節限定?野を越え山越え夕釣りへ
今回の泊まりは弘瀬港の丘の上。宿に着くなり風呂に入って眠りの中へ・・・というつもりだったが、淡路島からのお客さんが一緒に釣りに行こうと言う。
疲れた体にも以前楽しく遊べた鴨姫での夕釣りは魅力的。
宿のトラックを借りて、港の集落の南奥まで行き、道を知っている僕が案内をするという形で浜伝いの道を歩いていく。
大きな石の転がる浜を歩き、巨大な岩盤の所々で高巻きをして辿り着いた
広い広い鴨姫に二人、思い思いに釣り座を選んで釣り始める。
以前来たときとは違って至って穏かな海。底の岩も丸見えで初めて来た淡路島の釣り人には全然釣れそうには見えないらしい。
暫くは撒き餌を打って結構流れる潮に乗せて流すだけの時間が続いたが、やがて淡路島の釣り人が竿を曲げた。
大きさこそ沖の島サイズだが、心底嬉しそうな顔をして見せてくれた。
直後にもう1枚釣られ、僕の方もそろそろかな・・・と思っていると、ウキが入ると同時にツインパワーが絞り込まれた。
突っ込みに耐えられず糸を送るが、唸りを上げて制御不能で逆転してしまいヒヤっとしたが魚はまだついている。
竿も立ったのでここから反撃開始!更なる突っ込みも竿を信じて耐える!耐える!
それなのに、フッ。突然竿先が跳ね返ってしまった。
回収してみるとカットグレの7号が見たこともない形に変わっていた。
これは、大尾長!!・・・だったと信じよう・・・。
そのあとはアタリがない。隣はいい調子で釣っているのだが・・・。
大物のバラシを知って1.7号に上げたという隣のハリスと、2.5号のハリスの違いなのか?それとも流し方一つの違いなのか?
夕闇迫るころになってようやく釣り方を掴んだ僕はなんとか口太を3尾釣ってゲームセットとなった。
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鴨姫の夕暮れ。沖は姫島。 |
・出発前の天気予報は確か・・・
いよいよ三ノ瀬廻りの朝。泊まりは4組8人、宿毛からは2組3人。
一人ということもあって、第一希望は三ノ瀬1番だったのだが、「好き好んでそんなところに上がるやつはいない」と誰も相手にしなかった裸島の船着きに贅沢に1人で上がる事になっていた。
数日前に恐ろしいほどの釣果が上がったというポイントにだ。
睡眠は取れたのだが、持病の腰痛、それに昨日トラックに戻ってから偏光グラスを忘れたことに気付いた淡路島の釣り人に代わり、鴨姫までの道をさらに一往復走ったために筋肉痛と体調は悪い。
バッカンを持つとうめいてしまう。
それでも船に乗り込み一路三ノ瀬へ。
しかし、やはりというか今回もうねりが高い。いつのまにか2mのち3mの予報。まさかまさかの北西風の予報である。
他人に気を使いながらの釣りが苦手、いやあまりに他人に気を使ってしまう自分が嫌で、船着きのポイントを遠慮して、トビワタリの向こう側の平らな足場まで移動して釣ることにした。