・切られに行こう!!
毎年恒例となった正月釣行。今年は昨年に引き続き鵜来島のカメ・グンカン廻りで夢を見ようとしたけれども、結局両日ともに不本意な結果に終わってしまった。
そして巨グレの代わりに悩みや迷いを抱えて帰路についた。
距離のハンデ、時間のハンデ、機動性のハンデ、それに金銭のハンデを背負ってまで、全てをつぎ込み注ぎ込んでまで四国に通う価値はあるのだろうか。
いつでも磯に立てる人間と釣りをしても結局圧倒的な技術と経験の差の前に、まともに太刀打ちもできずに釣り負けてしまうほかないのだから。
四国に通い始めたきっかけを思い返してみた。
家から5分の海に満足できず、わざわざ海を渡って四国の海に行くのは瀬戸内では見ることすら叶わない様々な魚たちと、ひとつでも多く出逢いたいという気持ちが発端であったのだ。グレなどその中の1種にすぎなかったのだ。
そうだ、一番やりやすいグレ釣りというスタイルを使っていろんな魚に逢いに行こう
!怪魚・珍魚にぶち切られに行こう!!
そんな釣りに最適な場所といえばやはり鵜来・沖ノ島海域をおいて他にない。どっち行きの渡船に乗るか迷いに迷ったが、結局沖ノ島のノコバエ→大小島廻りを選択するしかなかった。
・魅惑のヌクモリバエ
仕事を終えてほんの少しだけまどろんだ後、雨の上がった相生を出発した。そこには一刻も早く瀬戸大橋を渡らねばという焦りがあった。
今回の釣行と日を同じくして大寒波が到来、高知ですらマイナス3度の予報という状況の雨上がり。とんでもない風が吹くことが考えられた。
幸い通行止めになることなく四国に上陸することができたが、瀬戸大橋の上は風速22メートル。車は容赦なく前後左右に振り回され、涙目でハンドルにしがみつきながらの運転であった。
暫く通らないうちにビックリするほど走りやすくなった高知廻りのルートを経て宿毛片島港に停泊する島一渡船に乗り込み、5時30分の出港を待った。
船内の乗客は高知の2人を除いて知った顔。というのも残りの5人組は隣町の行きつけの釣具屋の店員と常連客だったからである。
しかし馬鹿話をしながら島まで楽しく1時間の航海・・・とはならなかった。疲れた体と4メートルの波涛が泥酔を誘ってしまったのである。ア、アネロンが効かん・・・
8つの磯割を8件の渡船屋が順番に巡っていく沖ノ島には隣の鵜来島が全船欠航というこんな荒天にでも風裏となる所がある。
標高400メートルの妹背山から連なる断崖を背にしたノコバエ廻りはまさにそれ。その中でも特に北西風に強い「ヌクモリバエ」に僕は一人降り立った。
ヌクモリバエは荷物を船付きから高場に持って上がるのには少々てこずるが上がってしまえば足場は非常によく、できる釣りの幅も広そうだ。
西側の少し高いところに陣取り、まずは3号の尾長タックルで磯際を舐めるように流し、さらにそのままサラシに流れ込ませてみる。
マキエを磯際にパラパラと撒いていくとハコフグの登場。
しばらくして口太の乱舞が始まった。
尾長の気配が全くしなかったのでこれ狙いに作戦変更、しかしこれがなかなか釣れない。
グレの動きが神出鬼没のうえ、足元の流れはかなり複雑、さらに風裏とはいえ回り込みの風があってうまく仕掛けがコントロールできない・・・
そのうちグレも姿を消し、さらなる作戦変更を迫られた。
足元から大きなサラシが沖に向かって伸びているのでそれを釣っていくことにする。が、吹き荒れる横風に阻まれ苦しい釣りを強いられるし、何よりアタリがない。
またしても風か!なんで毎回毎回風にばかり釣りを邪魔されなくてはあかんのや!!
このごろ特に不運続きだった僕は冷静さを欠いて自暴自棄になりかけたので、お茶でも飲んで一息いれてみた。
腰をおろして潮の引いてきた海を眺めていると、カガリバ方向にシモリが二つ並んで見えた。
しかもそこは風下!これなら普段は飛ばないボイル単品のマキエが届くではないか!!
即座にプロ山元ウキ0号にG5を二つ打ってシブシブにした仕掛けを投入し、すかさずマキエをウキの頭に一杯かぶせる。
ウキはシモリのすぐ手前にできた潮目にジワジワ吸い込まれていく。軽く張ってアタリを聞きながら吸わせていくと、コツーン!
まずまずの引きで上がってきたのは37センチの口太。
狙いどおりでのヒットに気分が弾む。
そしてその数投目、あわせた瞬間に竿が大きく絞り込まれた。魚はでかいが竿先をコ
ンコン叩くむちゃくちゃ久しぶりの感触。
数度の突込みをかわして浮かせたのはやっぱり50センチ近いサンノジだった。
このときのタックルは制覇1.5号にハリス2.5号であったが、とにかくバラシが続発した。特に瞬殺が多かった。
これではたまらんと朝一に使ったBBX3号を再び引っ張り出してきて、道糸5号、ハリスを4号、針も尾長針に交換してみた。
真昼間にこの仕掛けである。それでも口太は食ってきた。キツも食ってきた。ウキを吸い込ませるたびにコツーンである!
しかしこの仕掛けに変えて以来正体不明の大魚のアタリは霧消してしまったのが残念でならない。
順調に釣果は伸びていったのだが、時間と共に南回りのうねりが酷くなってきた。釣り座は平穏無事なのだが船付きへと至る道まで駆け上がってくる。おっと、水汲みバケツと食糧の袋が危機一髪・・・
結局一日目は37〜38cmクラスの口太が7枚という釣果で納竿となったがぶちきられも続発したし、何より思い通りの釣りで食わせることができたことが嬉しく、久々の納得のいく釣りとなった。
普段なら沖ノ島にある各渡船屋の経営する宿に泊まって翌日に備えるのだが今回は他に泊り客が居ないため再び泥酔しながら宿毛に戻り、近くの健康ランドで明らかに釣り人狙いの料金体系にムカッとしながら夜を明かした。
・降り続く白い雪は心模様
翌日の天気予報は雪。相生への帰り道に大きな不安を感じつつ片島港へ向かう。
風は昨日よりはるかに強く、駐車場の車も絶えず揺さぶられつづけている状態。当然海上は昨日以上の大時化で大小島廻り以外は釣りにならないだろう。
割り込みの渡船の客が予想通り殺到する中、優先権のある我々は大小の船付き・タテバエを確保し、僕はセリワリの前(セリワリの沖)への上礁を選択した。小さく低い足場のいい磯である。
まずは朝一の尾長狙いの3号竿をセットしたが、果たして釣りになるのだろうかというほどの風である。
右からと思えば左、前からかと思えば後ろというように目まぐるしく風向きが変わり、空高く巻き上げられた飛沫が降り注いでくる。鉄柱(チャランボ)も風を受けてくるくる回り、また時折駆け上がってくる波にさらされ、掛けてあるロッドケースが実に危うく見えた。
これはたまらんとこれさえあれば一日余裕で釣りができるという磯バッグの代用のようなロッドケースを小高く平らな所へ移動。これが失敗だった。
きちっと置いて海のほうに向き直った刹那、「ゴトッ」という音とともにロッドケースは空中、そして海上へ!!
制覇が!一徹が!山元ウキが!山元シャクが!呆然と見ている場合ではない。このままでは立ち直れないほどのダメージを受けてしまう。
幸い手の内には尾長用の竿があった。浮きつ沈みつしながらどんどん流され、向かい
のセリワリの磯の角を回って消えていく瞬間、狙いあやまたず尾長針が上部のハンドルを貫いた!
水を充分に吸い込んでサラシの中を走り回るロッドケースの引きは強烈である。しかしハリスは5号。何とか無事に回収に成功!
割り込みの時間待ちをしている渡船の乗客が拍手している。長い間釣りをしてきたけ
どこれは一番嬉しい獲物かもしれない。
釣りの方は足元のサラシの中から35センチのブチススキベラが顔を出しただけで沈黙。終盤に大物が一度掛かったものの、あと少しで浮くという所で張り出した根に突っ込まれ、正体不明に終わった。
それにしても凄い天気である。あらゆる方向から吹き付ける風はますます烈しく、鉄柱に掛かった道具やバッカンを必死で抑えながらでとても釣りにならない。柏島に空から黒いカーテンが降りてきたと思うや暫し、釣り座は白い霞に包まれた。
南海の弧礁に滔々と降る雪は釣り師の闘志を挫く。
今日宿毛に帰る客は1人だけなので時間はいつでもええよと言ってくれたので1時で撤収することにした。
宿毛に戻ったのが2時。明日の仕事の事があるので大急ぎで片付けをし、帰路を急ぐ。
峠ひとつ越えて中村に入るとやっぱり雪が積もっている。
四万十川のほとりでタイヤチェーンを購入し、「チェーン携行」の標示が待ち受ける
窪川に向かうが、途中片坂というところで雪の餌食に・・・。
大きな牡丹雪がみるみる道路をうずめ、前を走る車がどんどん止まっていく。
今こそチェーンを使うとき!しかし初体験のチェーンは複雑に絡まりあい容易に装着させてくれなかった。
説明書を片手に何度も試みるが、その説明書が雪にぬれて破れて溶けていく・・・。
居合わせた救急隊の方の手助けによってなんとか成功し、道路に復帰するが、渋滞で全く動かない。
この調子では今日中の帰宅はとうてい無理と観念して会社に連絡を入れ、翌日の出勤を勘弁してもらうことにしてもらった。
これで余裕ができたので高知のhayatoさんに電話でこの先の状況を聞いてみると高知市内は全然積もってなくて高知道も通行止めにはなっておらず、あと一つ峠を越えたら雪は消えるだろうとのこと。ホッと一安心でのろのろと歩みを進めていく。
実はこの車、買ってから半年も経ってないのにいろんなことが起こりすぎた。この正月明けには家の庭で車上荒らしに遭い、デッキからCDから現金からGLAYのツアーグッズのバッグから柿の種から・・・ 磯釣りスペシャルと月刊釣り情報の2冊のみを残して全て何者かに持ち去られるということまで起こり、その後も不運に付きまとわれていたので今回の釣行の2日前には神社でお祓いを受けてきていたのである。
そして雪が少なくなってきてからも油断無くチェーンを巻いたまま安全運転で走りつづけていた。
しかし、しかし!!
これを越えればもう雪は無いという七子峠を登りきり、中土佐町久礼に向けてゆっくり下っていたところ、カーブの向こうからスリップした対向車が飛んできて・・・
ガン!!
なんでやねん!!
幸いミラーをかすっただけで済んだけど、ちょうど通りかかったパトカーの立会いのもと相手のカップルと氷の中で話し合い。また時間が過ぎてゆく。
その先の道は情報どおり雪は無かったものの途中のSAで体力の限界がきてしまい、結局家に帰り着いたのは日の昇ったあとであった。
長い長い旅だった。いろんな事のありすぎる旅だった。
正体不明の魚も掛かりグレも釣れ、久々の納得のいく釣りができたのは大きかった。
しかし、悪天候をついて強行したがために犯した家に戻れないという大失態のために会社から連休がなかなかもらえなくなり、それから長い冬眠の日々が続くことになってしまった。 |