風雲児  烈風伝
・令和元年10月 奄美大島遠征! 雨にも負けず魚種チャレンジ(前編)

釣行記(前編) 釣行記(後編) 魚の写真(前編) 魚の写真(後編)

2019年 10月22日〜25日 鹿児島県奄美大島
・プロローグ
 鹿児島県の屋久島と奄美大島の間にある約200kmの海を越えると生物相は劇的に変化します。そこに引かれた「分布境界線」より南ではチヌが釣れてもクロダイではなく、キスが釣れてもシロギスではなく、ハゼが釣れてもマハゼではありません。
 そんな場所のまだ見ぬ魚たちに出会うために、海だけではなく川もある奄美大島へ遠征してきました。(関西3空港からのLCC直行便は運休中ながら、JALの早割チケットが往復15000円ほどで手に入りました♪)

 奄美大島まで行くのなら当然大物釣りだろ!沖磯のイソマグロ!ショアのGT!世界最大のコウイカ・コブシメ!などと期待された方、申し訳ありませんが期待に添うことはできません。リーフでの釣りも潮の都合で不可能です。
 とにかく多くの魚に会いたいということで今回は徹底的に小物釣り。選択肢の一つとしていくつかルアーも持っていきますが、概ね港や河口でのエサを使った釣りになります。
 
 三吉修理大夫(三好長慶)殿、
 歌連歌ぬるき物ぞといふ人のあづさ弓やを取たるもなし
と、よみ給へるもげにもとおぼゆ(松永貞徳『戴恩記』)

 小物の餌釣りというとぬるい物と思われがちですが、魚種を稼ぐとなると本当に大変。3泊4日で釣りができるのは実質最大2日半。全然時間が足りないはずなので、釣りができないほどの天候でもない限りは観光など一切せずに釣りだけに打ち込むつもりです。
 島内での移動時間ももったいない。島の南部の方が魚影が濃いようですけど、山ばかりの地形による線形の問題もあって片道1時間半以上かかるようなので、釣行エリアを南北2方向の海と砂浜、河川、ハブを恐れずに入れそうな汽水域、エサや道具も売っているスーパーセンター、宅急便の営業所などがコンパクトにまとまった北部の龍郷町付近に絞り込み、2日目終了時に納得の釣りができていれば3日目はボーナスステージで釣ることにしましょうか。
 
 しかし調べていくうちに奄美での餌釣りはけっこうハードルが高いことがわかってきました。
 島ですので入手できるエサの種類が限られてきます。さすがにオキアミはありますが、虫エサの扱いは一切無いし、他の生き餌も無いようです。でもまあこれは最悪スーパーで売っている食品とか、ルアーマンの一部には「ルアー」として扱われるパワーイソメなどの代用餌を活用すればどうにでもなるでしょう。

 本当に困ったのが移動に必須のレンタカー問題。これまで借りる機会がほぼ無かったので知らなかったのですが、約款で「釣り目的での使用は禁止」と定めている業者の何と多いことか。貸してくれるところでも臭いなんて付けたら2万円のノンオペレーションチャージ&清掃料数万円だそうですからねえ。そりゃ釣り情報を検索してもその辺の危険が少ないルアー釣りばかりヒットするはずですわ。
 とりあえず何軒も電話してようやく「釣り対応車あり」という業者を見つけたので予約して、ブルーシート、大判のビニール袋、タオルなど臭いの付いたものを入れておく百均のチャック付き保冷バッグなどや、「釣りんちゅ奄美釣行記」さんが公開してくださっている「奄美釣りポイント紹介〜トイレあり港編〜」の記事に書かれた水道などを頼りにどうにかしていくつもりです。(その甲斐あって問題は起こりませんでしたし、何よりレンタカー業者の方が借りる時から快く対応してくれました。)

 あと、川でも竿を出すのなら特殊な情報収集も重要。奄美大島には独自の進化を遂げた生物が多く、捕獲すると法律や条例で罰せられる種が多く存在します。藻食性のリュウキュウアユ、ルリボウズハゼ、ヨロイボウズハゼはともかく、ルアーマンに人気のタメトモハゼ、タナゴモドキ、キバラヨシノボリなどは掛かってしまう可能性がありますから、釣るためではなく避けるためによく知っておく必要があります。リスト入りしているから、希少だからではなく、あらゆる種が貴重なんですけど、魚と自分の身は守らなくてはいけません。

 他には釣行する10月はハブの活動が非常に活発であることとか、国内有数の多雨地帯であり今回も全日程に傘マークが付いているとか、風邪の前触れらしき喉痛が辛いなど色々心配なこともありますが、こうなればとにかく行ってみるのみ!
 そして10月22日、即位礼正殿の儀の目出度い日の早朝に自宅を出発。姫路からの空港リムジンバスでたどり着いた伊丹空港から奄美大島へと飛び立ちました。
 

10月22日(釣行一日目)
・奄美に到着。いきなりどっぷり。
 乗り込んだ飛行機は台風20号から変わった低気圧の影響で条件付きとなっていましたが、定刻通りの11時5分に奄美空港到着。空港前の「奄美観光レンタカートゥクトゥク」でプロボックスを借り、30度の暑さと、「ジィィィィィー ウィッ! ジィィィィィー ウィッ!」というクロイワツクツク(セミ科)の大合唱の中、20分ほどかけて大島郡龍郷町大勝の「民泊たけの」に直行しました。

クロマダラソテツシジミ
 そこは今回の全日程でお世話になる宿で、あらかじめ送っておいたクーラーボックスや仕掛け、航空機に載せることが難しい電気ウキ用リチウム電池などを受け取るのが目的だったのですが、猟師でもある宿の親父さんから昼を食べていかないかというお誘いがあり、撃ってきたリュウキュウイノシシの澄まし汁を頂くことに。本土のイノシシより臭みが少ないという話でしたが、処理がいいこともあって本当に美味しい!舌にはリュウキュウイノシシ、耳にはクロイワツクツクとオオシマゼミの声、目にはハイビスカスの花とオキナワカラスアゲハ、シロオビアゲハ、クロマダラソテツシジミ、名前すら分からないシロチョウ科の蝶・・・。飛行機を降りて1時間も経ってないのに奄美大島を満喫です!さらに、親父さんから「ハブはこの辺でも出るよ〜。数日前にすぐそこで見つけて、皮が欲しかったから捕ってきた。」という話も聞きましたし、宿を出発してほんの1〜2分後には道路の反対側を歩いていた小学生3人組が上げた「ギャー!」というものすごい悲鳴と、車に轢かれたハブを目にすることに・・・。

 さて、すぐにでも釣りを始めたいところですが、まずは宿から数分の所にあるスーパーセンター「ビッグU」で土産を買って送料無料のサービスで自宅に発送しました。(職場へのバラマキ土産に「奄美の黒うさぎサブレ」というのを買ったんですが、うちの地域ではほとんどの人に特別天然記念物アマミノクロウサギではなく、神話「因幡の白うさぎ」のパロディー商品だと認識されてしまった・・・。)
 その後同じ店で氷一貫、生イキ君2パック、ボイル1パック、練り餌「練り蔵」1袋、オキアミ生1.5kgと飲料水を調達していよいよ釣り場へGO。22日14時10分、奄美大島での釣りのスタートです!

・ポイントはにわか雨
 最初に立ち寄った釣り場は川の下流域。橋の上から覗き込むと35cmくらいのチヌと大小様々なボラの仲間が泳いでいるではありませんか。このチヌとは当然初対面ですし、ボラは慣れ親しんだ種だけではなくタイワンメナダやアンピンボラといったようなものである可能性もあります。
 逸る気持ちを抑えつつロッドケースから5.4mの渓流竿を取り出し、用意してきたシンプルな玉ウキの仕掛けをセット。ところが竿を伸ばす前にザーッと雨が降り注いできました。先ほどまで晴れ間も出ていたというのに・・・。

 車のバックドアの下から出るのをためらう雨脚でしたが、すぐに止んでくれたので竿を伸ばしてスタート。チヌやボラは難しいとしてもまだ見ぬハゼの仲間、特に上皇陛下が研究されたチチブ属のナガノゴリとか掛からないかな〜。
 ところが奄美の川は甘くなかった。いい感じなのに何の魚も掛からずウキにはアタリすらありませんでした。なによりチヌとボラが逃げた後に魚の気配がありません。まあいいや。移動だ、移動。

・釣りがしたいのに!
 そのまま川を下って河口の隣の漁港にやってきました。まずは下見と竿も持たずに外側の波止まで歩いていくと、強い風と共にまたも雨粒。しかも今度の雨は先ほどとはレベルが違う!ダッシュで車に駆け戻り、運転席に避難。波止で竿を出していた中学生くらいの子も大急ぎで駆け戻ってきて、自転車の横の陸揚げされた船の下で耐え忍んでいます。
 強烈な雨は30分ほど降り続き、その間、車から出ることなんて不可能でした。釣り場にいるのに。海の中を覗いてもいないのに・・・。

 で、小降りになった30分後、覗き込んだ港内は釣りをしようという気も起らない状況でした。ただ港はダメでも隣の河口が意外と良さそう。橋の下から竿を出すことも可能だし・・・と、再び渓流竿を手にして、ハブの潜みようのない場所を慎重に選びながら広い護岸に降り立って竿を伸ばしました。

オキフエダイ
スミゾメスズメダイ
大きな画像は
  こちらでどうぞ!
・川を転戦
 水中のゴロタ石の間にはスズメダイの仲間が点在しています。早速ウキ釣りの仕掛けを流し込むと一瞬オキアミに反応するものの、口をつけるまでいきません。どうやらオキアミなんかを食うよりエサに釣られて出てきた他のスズメダイを追い払うことが最優先のようです。そして追い払った後はエサのことを忘れます。結局食ってきたのは別の魚。奄美での初ヒットは高知県などでも普通に釣れる6cmほどのオキフエダイ幼魚でした。
 オキフエダイはよくエサに反応して3匹ヒットしましたが釣りたいのはこれじゃない。オキフエダイのアタックを躱しながら探り歩き、16時10分にようやくやる気のあるスズメダイを発見してヒットに持ち込みました。一見黒いだけの地味なスズメダイは、後半部のヒレ先が黄色っぽく、眼の下にノコギリ状の粗い棘を持つスミゾメスズメダイ。南方の汽水域に多く生息するというこの魚を初めて手にすることができました。

 それから晴れ間の出てきた河口を随分と探り歩きましたがスミゾメスズメダイはもう食わず、ハゼの姿も見られず、ボラには無視され、1匹だけいた尾鰭の黄色い小さなスズメダイはよく反応しましたが、オキアミにはある一定の距離以上は近づかず、匙を投げるしかありませんでした。

 その後は川の中流域まで移動してノーヒットのまま雨に降られて移動、東シナ海側の小河川でもたった一度オキアミを触られただけで強い雨からダッシュで逃亡。なんなんやこの雨!そして川なのにオキアミしか使えない状況は厳しいなあ。ミミズか何かが欲しいなあ・・・。
 想像を絶するほど厳しかった奄美の川

・大苦戦
 龍郷湾西岸の番屋漁港までやってきたのは日没直前の17時半ごろ。また雨が追ってきそうな感じなのでこれまで同様に装備は最低限。着るタックルボックス(浮力材抜きライフジャケット)と生イキ君半パック&ボイルが入ったタッパー1つ。磯竿を出すと撤収が面倒なので、8.6ft(およそ3m)、ルアーウェイト5〜26g(1.5号〜7号)、適合ライン6〜16lb(ナイロン1.5号〜4号)のアレスアニマSBというツーピースのシーバスロッド+レバーブレーキ付きスピニングリール、それにタモ網という陣容です。(以後、雨が降ろうが晴れていようが基本的にはこの装備で釣ってましたけどね。1.85号の磯竿とか、写真撮影用の白バック板とか、100均で仕入れた観察ケース風の入れ物とか、わざわざ持って行ったのに横着して使いもしなかった・・・)

 波止の中ほどにいたフカセでミナミクロダイを狙っていたカップルに釣況を聞いてみると今日は本当によくないとのこと。それでも何とかしなきゃいけないので、とりあえず波止の先端の方に移動して3号の丸玉オモリとサルカン、2.5号10cmのハリスを使った壁際の探り釣りを試みます。瀬戸内海のアブラメ(アイナメ)釣りで慣らしたこの釣りならどうにでもなるだろう!と自信満々でスタートしたのですが、やはり状況は最悪らしく、結構深い先端付近で一度ハリ外れがあった以外はエサすら取られませんでした。
ミスジアカヒレ
 イシモチ

 ようやく魚が食いついたのは、辺りが暗闇に包まれた18時26分でした。上がってきたのは20cm近いミスジアカヒレイシモチ。テンジクダイ科、つまりアカジャコとか金魚とかネンブツダイの類とか呼ばれている魚の仲間ですが、この一群としては大きくなるため、実際に見ると結構な迫力です。この種のヒレは赤くないけど、近縁のアカヒレイシモチのヒレは赤っぽいらしい。
 番屋漁港の波止と漁協の岸壁

・奄美名物、鶏飯!
 やっと結果が出ましたが、そろそろ移動しないと晩御飯にありつけないかもしれません。宿は自炊可能な素泊まり宿。リュウキュウイノシシの肉だけは無料で提供するので庭で焼けばいいとの話でしたが、今は料理よりも釣りがしたいので外食です。なのであまり遅くなっては厳しいし、何より空腹で・・・。

 奄美大島の名物料理として第一に挙げられるのが、裂いた鶏肉、錦糸卵、しいたけの甘辛煮、青パパイヤの漬物やタンカンの皮を白飯に乗せ、丸鶏から取った澄んだスープをかける汁掛け飯「鶏飯(けいはん)」でしょう。奄美に来たなら絶対に食べておきたい料理だし、その2大名店の片方「ひさ倉」が近くにあると聞けば行かないという選択肢はありますまい。
 で、実際に食べた感想は「奄美にいる間にもう一回来よう。」でした。出汁の深み、鶏肉の旨味、御飯2膳半分があっという間でした。鶏飯自体は10年ほど前に四国の豊浜SAのイベントメニューで食べたことがありますが、まあ別物でしたねえ。そして地元ではなかなか食べられない鶏刺しも旨かったし、大根のケンと同じように添えられていたシャキシャキの青パパイヤの千切りも旅人には嬉しかったなあ。

・初日に一つ、目標を達成!
 満腹、満足したところで19時半、夜の部スタートです!
オオスジイシモチ
ミナミクロダイ
スミツキアトヒキ
 テンジクダイ
ハナミノカサゴ
 釣り場は龍郷湾奥の車横付けポイント。その岸壁の外向き5mほど沖に電気ウキの固定仕掛けを放り込んでしばらく待つとアタリがあり、オオスジイシモチがヒット。これは本土でも釣れるテンジクダイ科の魚ですね。

 さらに投入点をもっと地寄りの小さな流れ込みに近い所に変えてみました。ウキ下を変えながら何投かしたところでウキの光がチョコンと動き、一呼吸おいてから斜め方向に引き込まれていきました。アワセを入れると激しい抵抗。やがて水面に姿を現したのは銀色っぽい平たい魚でした。30cmちょいのその魚は一見チヌ(クロダイ)なのですが、背鰭棘条部中央下側線上方横列鱗、つまり背鰭の前半部分の真ん中の、背中から側線までの間の鱗の数が4.5枚しかありません。(クロダイは5.5枚以上。つまり釣れた魚の方が少し鱗が大きい。)これこそ今回必ず釣っておきたかったミナミクロダイです。その生息数から難易度は低いと思っていたけど、初日の2回目の対戦で達成できたのは本当に嬉しい!

 その後、同じポイントと流れ込みの直撃で25〜30cmのミナミクロダイを2枚追加、さらに最初の外側のポイントではやたら透明感の強いスミツキアトヒキテンジクダイという長い名前の魚が1匹釣れました。

・水の塊が落ちる夜
 しばらくすると釣れなくなり、狙うポイントを変えてもサッパリだったので場所移動して番屋漁港に帰ってきました。
 番屋漁港第2部で入ったのは先ほどの波止ではなく、漁協側の最奥の角。外灯と水中の石積みと小さな流れ込みの組み合わせが魅力的です。実際にテンジクダイ科のようなアジ科のような魚影が見えていますし、ミノカサゴの仲間もうろついています。
 そこに電気ウキ仕掛けを投入してみますが・・・全くアタリがありません。浮いている魚影はオキアミに興味は持つけど食おうとはしません。

 結局ここで釣れたのはPterois volitans(翼のある/飛び回っている)という学名のとおり、周辺をフラフラ、ウロウロしていたハナミノカサゴのみという惨状。沖向きで釣っていた地元の方も「今日は本当に悪くてガチュン(メアジ)が一匹だけ。ミノカサゴが釣れるのも潮が悪い証拠。」とぼやいてましたし。

 ということで、初日の釣りは21時15分ごろに終了。宿に戻ってシャワーを浴びて、親父さんと少ししゃべってから布団に入ったのですが、宿到着とともに降り始めた雨がえらいことになっていてなかなか寝付けませんでした。何しろ水の塊が落ちてきているような豪雨が断続的に続いて、やかましくて仕方ありませんでした。

10月23日(釣行二日目)
・雨の時間を有効活用

 7時前に目覚めるとまだ雨が降っていて、相変わらず激しい雨脚になる時間もありました。「川釣りはこれで終わったな。というよりこの天気じゃ釣りをするのも厳しいな。2度寝するという手もあるが・・・。」なんて思いながらピンポイント予報をチェックすると午後早くまでは傘マーク。しかも8時とか9時ごろはかなりの雨量になる予想でした。ただ島の南部の瀬戸内町は止む時間が少し早いと出ていましたから2日目と3日目の予定の入れ替えを決断。強雨の時間もロングドライブに当てることで有効に活用できますからね。
 まあ奄美の天候を正確に予想するのは今の技術では不可能なことは体感済み。なんせ晴れマーク1つ(信頼度A)の予報が翌日には傘マーク1つ(信頼度A)に変わり、1時間天気も少しは当たる占いレベルのようですから、この選択がどう出るかは分かりませんけどね。
 住用川周辺のマングローブ林。
カヤックを借りて釣るつもりでしたが、
大雨の影響で断念。

 9時前、私は瀬戸内町の中心部・古仁屋(こにや)から15分ほど走ったところにいました。ここには屋根付きの浮き桟橋があるので多少の雨でも大丈夫なのですが、すでに竿を出しているグループがあったので、雨が小降りになるまで待機してから周囲の砂礫浜の小さな小さな流れ込みに渓流竿で挑んでみました。
コトヒキ
 足元には色々な魚種が見えているのに、ここでもオキアミを食うのはオキフエダイの幼魚だけ。しかしサシエを練り餌に替えると他の魚も反応するようになり、ミナミクロダイの幼魚やコトヒキが食いついてきました。
 
 これなら行ける!と50mほど移動して、すぐ近くまで深みが入り込んできているポイントを攻めかけたのと息を合わせるように落ち始めた大粒の雨、そして辺りを包んだ鋭い閃光と爆音。今日もまたダッシュで逃げ戻らないといけないとは・・・。
 浮き桟橋のある海岸。
豪雨さえなければ!

・やっと渡れた浮き桟橋で
 豪雨は40〜50分降り続き、運転席から動くことができませんでした。正確には雨脚が一瞬弱まった時に、無人になった屋根付きの浮き桟橋まで移動しかけたのですが、橋を渡り切る前にこの日2発目の雷の警告を受けて逃走。橋を渡り切ることができたのは対岸の加計呂麻島の稜線が見え始めた10時前のことでした。
 
ハタタテダイ
クロリボン
 スズメダイ
オジロトラギス
ニセネッタイ
 スズメダイ
 桟橋に持ち込んだのは昨日と同じシーバスロッドと探り釣りの仕掛け。竿先を屋根に何度もぶつけながら、コロコロと方向が変わる風下の際に落とし込み、底を数cm切ってアタリを待ちました。しかし時折細かなアタリが来るだけで、ほとんどの場合は前触れもなくエサが消えていました。
 そこでグレバリ5号の探り釣りから、太軸ハゲバリ1号、ハリス2.5号、オモリ3号の胴突き2本バリ仕掛けに変更。それでもかなり手こずりましたが、10時50分になって ようやく魚の唇を捉えることができました。上がってきたのは25cmオーバーのハタタテダイ。そりゃ掛からないはずですわ。サシエに素早く反応するこの魚には体から数cmの所にあるエサを消す能力がありますからねえ。

 11時10分ごろになると晴れ間が出てきました。そこで桟橋の先端まで出てみると、水面直下に7〜8cm黒いスズメダイの群れを発見!この尾鰭の形は目標にしていたやつだ!
 早速水面直下に胴突き仕掛けを入れて対戦開始。オキアミの欠片ではダメでしたが、ハゲバリ1号の針先だけに練り餌を付けるとどうにかヒット。クロリボンスズメダイ。長く伸びたヒレと二対の黒斑、それに胸鰭、尻鰭のブルーのラインが大変おしゃれな魚です。

 目標を達成したので再び底狙いに切り替えると小さなアタリが。確信を持てないまま上げてみるとラッキーなことにオジロトラギスが食いついていました。

・チャンスだったのに
 次に入ったポイントは、橋を車で渡って乗り入れ可能な少し沖の埠頭でした。
 周囲は砂地でゴロタが入っているところがあり、その隙間には黒いスズメダイが泳ぎ、沖の砂地にはツノダシ、ヒメジ類とニザダイ類、それにしっかり見分けたいと思って勉強してきたクロサギの仲間(おそらくナガサギとミナミクロサギ)もウロウロしています。
 早速胴突き仕掛けを投入してあの手この手で誘ってみますが何一つ食ってはきませんでした。濁って底が見えない埠頭の内向きでどうにか一匹、くすんだ黄色のニセネッタイスズメダイを釣り上げることはできましたが・・・。
 車乗り入れ可能な埠頭。晴れていたらどれほど美しかったことか。

・深い深い波止にて
 本日の目玉ポイント、古仁屋周辺の波止に着いたのは12時半ごろ。波止の中央部にピトンを打ってヘビータックルで釣っていた方に挨拶をしてから、先端付近まで移動して胴突き仕掛けを投入。おおっ!話には聞いていたけど深い!しかも着底と同時にアタリだ!これまでのスズメダイなどとは違う強い引きで上がってきたのは島でエラブチと呼ばれるブダイの仲間、30cmほどのキビレブダイのメスでした。それにしても波止釣りなのに水圧差で魚の目が飛び出してしまうとは・・・なんという恐ろしい釣り場だろう。

 3号のオモリを5号に換えて再投入。するとまたすぐにアタリがあってナミスズメダイが上がってきました。腹鰭周辺の鮮やかな黄色が目を引きますが、学名Amblyglyphidodon leucogasterの後半部分(種小名)は、「白い腹の」という意味だとか。さらに数投後には今回初のベラ科の魚、クロヘリイトヒキベラもヒットしました。これは体色変化が激しい魚だそうで、この後釣れる数匹の同種に帰宅してから惑わされることになりました。

 13時前にはイットウダイ科のテリエビスが釣れました。南方での夜釣りの定番魚であるこの魚は、標準和名イットウダイが存在するにも関わらずSargocentron ittodaiという学名を持つ魚。先程から引用している中坊徹次・平嶋義宏著『日本産魚類全種の学名 語源と解説』には「この魚を江の島ではイットウダイという。命名者はこの日本語の名称をイットウ(一等)のタイ(鯛)であろうとし、その姿の美しさを著す名前だろうという解釈を記している。」と書かれています。
 ただ、この魚を釣り場でじっくりと観察する暇はありませんでした。またしても落ち始めた雨が急激に大きく強くなっていきます。先ほどまで薄日の中にあった加計呂麻島は白い帳の中に身を沈めています。これは大変だ!私は荷物とハリが付いたままの魚を抱えて車へダッシュ。大物釣りをされていた方も体一つで走っています。
 
 大物釣りの方は傘を持って釣り座に戻られるようですが、私はテリエビスの写真を撮って逃がし、ペットボトルに詰めてきた水で手を洗ってから一旦ポイントを離れました。土砂降りの時間も有効に使わなきゃ損!この間に「せとうち海の駅」まで行って昼食です。駐車場から建物に入るまでにずぶ濡れになったけど、海鮮丼を注文する頃には日が差してきたので窓際で乾燥。有名な海鮮丼はマグロはともかく、ランダムの白身がマダイだったのが非常に残念。
キビレブダイ ナミスズメダイ クロヘリイトヒキベラ テリエビス

モンツキスズメダイ
キツネウオ
イスズミ
・深い深い波止にて 第2部
 「いや〜、えらい雨でしたね。」
 先ほどの波止で釣り続けられていた大物釣りの方に再び挨拶してまた波止の先端へ。するとまた1投目からアタリがあって、胸鰭の付け根の大きな黒い斑紋がトレードマークのモンツキスズメダイが早速ヒット。後半戦はこの魚がよく釣れました。続いてクロヘリイトヒキベラとナミスズメダイを2枚ずつ追加、14時18分にはイトヨリダイ科のキツネウオがヒットしました。17cmのこの魚はイトヨリダイ科の名と姿に恥じずかなり美味しい魚のようですが、今キープしても家に着くころには・・・と思い、大物釣りの方に生餌として提供しました。
 この大物釣りの方は奄美の魅力にはまって宮崎県から移住してこられたそうで、南国最高のご馳走・ハージン(スジアラ)を仕留めておられました。

 15時に水面付近にいたイスズミをヒットさせ、リリースしていると大物釣りの方から声が掛かりました。おおっ、先程のキツネウオに大物が食いついているではありませんか!糸抜きでの格闘の末、波止の上に抜き上げられたのは巨大なウツボ。鰓蓋の大きな斑紋に一瞬ドクウツボかなとも思ったけど、ヒレの最後端がケミカルな黄色で縁取られたゴマウツボでした。
キツネウオで
ゴマウツボがヒット。
対岸は加計呂麻島。
フェリーで20分。

 その後はモンツキスズメダイくらいしか釣れず、波止の付け根の浅い砂地でも魚を掛けることができなかったので、後ろ髪を引かれながら15時半ごろ撤収。古仁屋市街の釣具屋でボイルを買い足してから、国道58号線を北上しました。

・夕まづめの汽水域
 南部遠征の際には住用川周辺に立ち寄り、カヤックを借りて日本で2番目の規模のマングローブ林を攻める予定でしたが、昨夜の豪雨の影響で今回は断念。その代わりに汽水環境である内海の夕まづめを釣ってみることにして、16時半ごろ、道端のポイントに着陣しました。ただ、ここも当然ながら増水泥濁りで、本当に大丈夫なのか半信半疑のままとりあえずフローティングミノーで探りを入れてみたけど反応なし。
 続いてG2の円錐ウキを通し、1ヒロちょっとの位置になるほどウキ止めを取り付けて石積み護岸の先に投入。竿をガードレールに預けて準備を続けていると、ウキが沈んでラインが走っているではありませんか!アワセを入れるとガンガンと首を振りながら激しく抵抗。静かな内海に派手な水音を響かせながら上がってきたのは35cmくらいのチヌ・・・いや、違う魚だ!
ホシミゾイサキ
 抜き上げたその魚は予想外のホシミゾイサキ。沖縄などではガクガクと呼ばれているイサキ科の魚です。その存在はよく知っていたけど、出会える日が来るなんて!
 
 2投目。またウキが横走りして少し小ぶりなホシミゾイサキが上がってきました。さらに3投目は潮受けウキゴムがスルスルーと走っていって30cmくらいのミナミクロダイがヒット。それからしばらくいい感じにウキが走り続け、25cmから35cmのミナミクロダイを7〜8枚とオキフエダイ3枚を仕留めることができました。ひそかに期待していたゴマフエダイこそ掛からなかったものの、想定外の入れ食いに大満足です。さあ、そろそろ晩御飯と夜釣りのために帰るとするか。
夕闇迫る内海の風景。ここでは濁りが吉と出たのかも。

・豆腐と野菜と「みき」
 2日目の晩御飯は龍郷町の「島とうふ屋」に行ってみました。島豆腐というと沖縄の硬い豆腐を想像しますが、奄美の文化は沖縄とは全く違い、豆腐も本土のものとそれほど変わらないようです。
 私が注文したのは伝統食材、豚の三枚肉の塩漬けを野菜と炊き合わせた塩豚の煮物定食。リーズナブルに腹いっぱいです。旅先では摂り辛い野菜がサッパリといただけますし、ピーナツ豆腐、湯葉、小鉢など盛りだくさんですし、汲み上げ豆腐は取り放題。さらに奄美大島の伝統飲料「みき」も飲むことができました。これは米、砂糖、芋を発酵させた甘いドロッとした飲み物で栄養満点なんだとか。アルコールも入っていないし、夜釣りのための充電にはピッタリかも。
 また、駐車場に遊びに来ていたリュウキュウカジカガエルに耳のデザートを振舞ってもらいました。カジカガエルの鳴き始めの声を濁らせた感じの歌声は初めて耳にしてもすぐそれだと分かるものでした。

・今日の夜釣りは昨日と違う!
 本日の夜釣りは太平洋側の戸口漁港の予定でした。一応行って竿は出したものの、昨夜の雨と外海の時化の影響か濁りが酷くて釣れる気がしませんし、先ほどまでの内海と違って実際にアタリの気配すらありませんでした。
 仕方が無いので東シナ海側に方向を転じて、結局昨日と同じ番屋漁港で竿を出すことになりました。

リュウキュウ
 ヤライイシモチ
ヒラテンジクダイ
ニジエビス
ウケグチ
 イットウダイ
 静かな静かな暗い湾を取り巻く山々で鳴き交わすリュウキュウコノハズクのホホッ、ホホッという声が幻想的な波止まで歩いて、その先端に電気ウキを投入・・・。アタリなし。続いて波止の曲がり角の外側・・・。アタリなし。その内側の船影は・・・。おっ、やっとウキが動いた!しばらく待つとウキの光がスーッと引き込まれていって、15cmほどの細長いテンジクダイ科の魚が釣れました。その口には犬歯状の鋭い歯が並び、学名Cheilodipterus macrodonの種小名も「大きな歯」を意味するこの魚の和名はリュウキュウヤライイシモチ。このポイントではこの魚が連発しました。

 同じ魚種ばっかり釣っても仕方ないので、昨夜はダメだった漁協側の奥の角に入ってみると、船影ではリュウキュウヤライイシモチ、外灯の当たっているところではヒラテンジクダイ、外側に近い所や深い所ではミスジアカヒレイシモチが連続ヒットしました。ネンブツダイ科の魚は結構混泳しているようなイメージでしたが棲み分けが行われているような感じなのには驚きでした。さらにライトを当てた時に青く輝くヒラテンジクダイの眼や緑色に輝くミスジアカヒレイシモチの背中の美しさにも心底驚かされました。

 とまあ、テンジクダイ科の魚は色々釣ったけど、夜釣りでとことん悩ませられると思って勉強してきたキンメダイ目イットウダイ科の一群、アカマツカサの仲間が全然掛かっていませんがな!
 そこで電気ウキを外して3号の中通しオモリ使用の1本バリの探り釣りに変更し、底近くを重点的に探ってみると、ミスジアカヒレイシモチの猛攻の合間に、昼間も釣ったテリエビス、背鰭の模様で見分けられるニジエビス、さらには細身のウケグチイットウダイが食いついてくれました。あれっ?赤い悪魔たち(マツカサ類)は??

 この調子だとまだまだ掘り起こせそうな気もしたけど、もう9時半で疲れが限界、明日もありますので根掛かりして高切れしたのを機に竿をたたみ、宿に戻ってシャワーを浴びて、雨音ではなくリュウキュウコノハズクの声を子守歌にして眠りに落ちていきました。

 ここまでで出会えた魚は24種。新着は16種。さあ明日はどこまで伸ばすことができるかな?

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