風雲児  烈風伝 九州縦断!釣りと歴史の旅
       2008 
             第三章 (3/4)
10月12日〜13日 甑島(2)〜阿久根

・薄氷の渡船探し。
片っ端から次々と渡船業者に電話を入れるかまちゃん。しかしどこも返事は落胆をもたらすものばかりです。
困った・・・。いっそのこと明日は阿久根市のすぐ沖に浮かぶ「阿久根大島」で釣ろうかと話をしていたのですが、その阿久根の港から甑島・里に向かう藤丸が船を出してくれることが分かりました。ふぅ、やれやれ。

それにしても今回の釣行でもし、かまちゃんの存在が無かったとしたら・・・。
抱えきれないオキアミを手に、東シナ海にぼんやりと浮かぶ甑島の島影を見ながら呆然と立ち尽くしているほか無かっただろうと空恐ろしくなってしまいます。本当に助かりました。
二人の胸中には全く同じ渡船区に行くのならやはり泊まりでやりたかったという思いは残りはしますが、こうなった以上明日は心機一転頑張りましょう!
             黒神島(左の3つ)の沖より上甑島を望む。ヨダレの出るような名礁がズラリ!
・残念会の悲劇。
明日に備えて、まずは串木野の海鮮料理屋で本日の残念会です。実はこの店には昨夜私一人で食事に来たんですけどね。
残念といえば夕マズメのゴールデンタイムを釣れなかったのは勿論ですが、それ以上にキビナゴ料理で有名な甑島の民宿に泊まれなかったことが悔やまれます。
というのも私が出発前から楽しみにしていたのが鹿児島名物キビナゴ料理。
昨夜この店のメニューに「甑島産・キビナゴの刺身」があるのを見て、迷ったけど注文を見送っていたのです。明日は甑島だし、宿の名物だし・・・と。
こうなっては迷っていられません。店に入るや、すかさず注文です。
すると返ってきた答えは「今日は日曜日で市場が休みですので刺身はできません」ですと(涙) 何ということだ、曜日を忘れてた。

・双子島のハナレ。
    双子島のハナレの船着きのポイント。ここも素晴らしい流れ。

翌13日は前夜と同じ串木野の旅館に宿泊、翌日は1時半に起床して、約1時間の道のりを阿久根港を目指しました。
蝶栄丸より一回り小さい藤丸にはお客さんは6人。
この日は海も穏やかで、甑島までは40分の航海でした。
藤丸も黒神島から渡礁を開始し、私たちは双子島のハナレという名礁に上がらせてもらったのです。

今日は休養充分のため元気そのもの。早速電気ウキを点灯させて漆黒の磯際に投入してみます。
このポイントの沖には左右二隻のイカ釣り漁船。両側から明々と照らされる漁火が視界に入って釣りにくいこと釣りにくいこと。
激流に乗ってあっという間に沖へと流れ去っていくウキ、その潮流より早く、道糸がスプールの縁にかけた指を弾き飛ばすことは・・・ありませんでした。

夜明けと共に全貌が明らかになった双子のハナレは、やはりコッパ尾長とキツの海。時折沖でダツも飛んでいます。
私はサラシの中でコッパを、かまちゃんは沖でキツを連発。

その後、双子島本島向きに移動。
幅10mほどの水道を駆け抜ける潮流に撒き餌を入れてみると、50cmオーバーを頭に大小さまざまなキツ、掛けてもまず取れないようなヒブダイ、そして尾長の姿も見えます。
撒き餌を上流の前後3箇所に打ち込んで、真ん中の撒き餌に合わしてスルスル仕掛けを流していきますが反応なし。
ならばと、釣り座を後ろに下げて身を隠しながら、より磯際を同じように流していくと思い通りヒット!
身幅の厚い、丸々として重量感のある尾長グレ。とても25cmとは思えません。
双子島のハナレで私が入ったポイント。この狭い水道で大物が乱舞!
ここのグレ、もし40cmでも越えたならば、どれほどのパワーで釣り人たちを魅了してくれることでしょうか。

そんな尾長を数枚追加した頃、磯は突然大騒ぎになりました。
ジグザグにフルスピードで水面近くを逃げ惑う、一匹の魚。
それを必死に追い回す50cmクラスの茶色い魚。スジアラだ!!
水面に出るか出ないかのシモリの上を背ビレを水面上に出しながら乗り越えて辺り一面を走り回り、稲妻のようにかまちゃんの釣り座のほうへ走りこむ2尾の魚。
あまりの事態に何も出来ませんでした。猛スピードに手の出しようも無かったですが。
さすが、東シナ海の離島だ・・・。

・また、ここですか・・・。
今日も瀬替わり。
沖磯は相変わらずのこんな状況。ここは秋磯初期のセオリーどおり地磯に渡してもらいたいなとかまちゃんと話していたのですが、船長によると地磯は更に釣れなかったとのこと。
気が付けば船の正面に近付いてきた島影は、昨日撃沈した近島。しかも全く同じ平瀬に上がれってかいっ!

 最後に底力を見せ付けてくれた近島の平瀬。とにかく広い!
どうせ昨日と同じだろうと諦め半分で上がったのですが、海の様子は少々違っていました。
前日と比べてグレもキツも居るのに反応が微妙に鈍く、あんまり掛からない上に針外れも多かったのです。
昨日物量作戦でかわそうとした影響かな?
退屈な時間が過ぎていきます。ポイントを移動してもキツの小さいのがポツリポツリと釣れるだけです。

それでもやがて潮が変わったのか、少しはマシなサイズのグレ(と言っても30cmほどですが)がチラチラと見え始めました。
撒き餌を足元に数発入れておいて20mほど沖に、左手の撒き餌と右手の仕掛けを同時撃ち!
バシバシッ!珍しく狙ったスポットでドンピシャで合いました。
いち、にぃ、さん!で00のプロ山元ウキがスパッと消しこみ、一呼吸置いてアワセ!
おおっ!この二日間で間違いなく最強の突っ込み!!
竿の胴に乗せてためようとしたその刹那、竿先がパーンと一気に跳ね上がってしまいました。
回収するとハリスが見事にスッパリと切り裂かれています。一瞬待ったのが失敗だったのか!?悔しい!

・そして事件が!
平瀬の左端に陣取ったかまちゃんも引き続き苦戦中。
私もぶち切られ以降、元の退屈な時間に引き戻されていました。
波打ち際には先ほど針掛かりし、海へと放り込もうとして投げそこない、カメノテの巣食う割れ目に引っかかったままになってしまった30cmほどのキツ。
それが不意の強い波にさらわれて、半死半生の状態でパタパタとヒレをもがかせながら水面上を左手へ漂っていきました。
ちらりと一瞬目を走らせた後は別段気にも留めず、視線をウキの注視に戻したその瞬間、
ドカーン!!! 
私の耳を大音響が包みました。
反射的に振り向いた左手の海面で、とてつもなく大きな水柱が消えていきつつあります。
先ほどまで漂っていたキツの姿、どこを探しても見当たりません。
波紋の大きさからキツを襲った魚のデカさが半端でないことが推測できました。
サメという感じではありませんでした。かまちゃんに話を聞いてみるときっとスジアラなど、ハタの類だろうと。
こんな何の変哲も無い磯際からそんなものが飛び出してくるとは思いも寄らないことでした。

次の瞬間から、私は必死でキツ狙い。
しかし狙うと全く釣れません。
ふと船着きの方の大きなタイドプールの中に、昨日釣った25cmほどのキツが泳いでいた事を思い出し、タモを持って急行。
さすがに一日半、海鳥の攻撃を避けて生き延びてきたキツです。なかなか捕まりません。
大汗かいて捕まえて、焼けた磯の上で弱らせつつ、3号竿に道糸5号直結の仕掛けを準備。そしてキツの腹あたりに針を掛けて、先ほどと同じようにパタパタさせながら漂わせていきました。
しかしヤツは先ほどのキツ1匹で満腹してしまったのか、再び海面にその姿を現すことはありませんでいた。
まあ仮に食いついてきたとしても、仕掛けは確実に瞬きするより早く分断されていたんですけどね。

諦めてフカセに戻すこと数投、時計を見ると納竿時間の12時半が迫っていました。
残念ですがコッパ以上のクロは釣れることの無いまま、竿を畳み、バッカンを洗い、渡船へ。
そして、どこまでも続くような島々の隊列を回りながら全ての釣り人の撃沈のため息を拾い集めて、ベタ凪ぎに変わった蒼海を越えて阿久根港へと辿り着いたのです。

めぐり合わせ、仕方ないとはいえ、上物には早すぎました。あまりにも。
ここの所、シーズンオフ専門釣り師のようになっている私でも、あるいは九州まで行けば!と淡い期待を抱いたのですが甘くはなかったですね。35cmオーバーに再会するまでにあと何年かかることなんでしょう・・・。
とはいえ甑島の迫力は充分に味わえましたし、それだけでも訪れた価値はあったというものです。
帰りの渡船から目に焼き付けたあの素晴らしい磯の数々、高波・暴風であってもベストシーズンにいつか、もう一度竿を出してみたいなあ。

港でかまちゃんとの楽しく談笑し、磯の上での再会を固く誓い合って、また次の目的地へと出発です。
果たして風雲児、この撃沈の流れを見事止めることができるのでしょうか?

第四章へ続く)

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